EverLearning!

モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

育児中のiPhoneユーザーに便利なApple Watchの使い方4つ

 先日のiPad Proを用いた試験勉強の記事はNewsPicsやはてなブログ/ブックマーク などで広く取り上げられ、本ブログ開始以来最大となる1日5万アクセスを記録しました。やはりApple製品の購入検討にあたり、背中を押して欲しかった人が一定数いるんだなぁ、ということを感じずにはいられません。

it-education.hatenablog.com

 

 ということで、今回は iPad Pro と同様にApple製品として気になっている人が多いであろう「Apple Watch」について書いてみます。ただ製品のレビューを書いても面白くないので、iPad Pro が「試験勉強」を掛け合わせたのに対し、Apple Watchは「育児」を掛け合わせてみようと思います。

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 当方には執筆時点でまもなく1歳になる子供がいます。が、当初は父親も育児参画の時代だ!とか張り切っておきながら、結局想定していたことの3割もできておらず妻にはゴメンナサイし続けている日々なので、正直言って育児に関係する記事を書いて良いのやら、というところもあります。

 が、できない・慣れないながら育児をしている中で、Apple Watchに助けられたことが何度かあります。日々、育児に奮闘されている方から見ると正直言って「浅い!」とお叱りを受ける部分もあろうかと思いますが、せっかくなので育児中に気づいたApple Watchの意外な便利さについて記録を残しておきたいと思います。紹介する機能の多くは標準アプリでできますが、一部の機能は「本来の使い道」ではないものも含んでおります。

 なお、当方は初代のApple Watchからのユーザーで、昨年秋に2台目となるApple Watch Serise 3 (セルラーモデル)を買い足しました。2本とも現役で使っています。(なぜ2本なのかは後述)

www.apple.com

 

目次

  • 常時、身につけていることの価値
  • 水中モードの意外な活用方法
  • iPhone探索機能を応用する
  • 睡眠記録が活動記録になる

  

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試験勉強に iPad Pro が最強だった件 - iPad Pro 活用方法記事第三弾-

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。前回のエントリーでも宣言した通り、今年は出来るだけブログを頻繁に更新していこうと思います。(今年の目標宣言)

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 さて、今回の記事は、毎回好評をいただいている「iPad Pro」に関するものです。実は、このブログは最近、記事を更新していない間にも勝手にアクセス数が増え続けておりまして、1日500View、月間に15000Viewを恒常的に超えるようになりました。その最大のアクセスが、GoogleやYahooから「iPad Pro 使い方」とか「iPad Pro 活用方法」といったオーガニック検索でここにたどり着く方でして、過去2回のiPad Proの活用方法記事がこれらの検索キーワードで日本のApple 公式サイトの次にヒットするようになってしまいました。おそらく日本におけるiPad Proの販売にそれなりに貢献していると思うのでAppleは当方に何らかのインセンティブをくれるべき。

最初の記事

it-education.hatenablog.com

2本目の記事

it-education.hatenablog.com

 

 しかも、ボーナスの時期やAppleによるiPadの価格改定が行われるとにわかにアクセス数が増えます。今年もAppleの初売り の開催日である1/2に急にアクセス数が増えました。

ふふふ。訪問者のみなさん。わかっているんですよ。

皆さん、購入にあたって、背中を押して欲しいんですよね?

家庭内稟議を通すための、もっともらしい理由が欲しいんですよね?

決して安くない買い物をするにあたって、自分が納得したいのですよね??

 

オーケー分かりました。ということで3本目のiPad Pro記事として今回は「試験勉強」に特化した内容をご紹介しましょう。しかも、前回までの記事からさらに1段、自身の経験をもとに掘り下げた内容です。

 ただ、私は社会人なので試験勉強といっても技術系資格の勉強について書きます。が、内容によってはTOEICなどの英語学習は勿論、学校の試験勉強にも使えるかもしれません。どうせiPadを買うなら、普通のものよりProが良い、という方(場合によっては、中高生や大学生の方)、ぜひ参考にしてください。

 

目次

  • 今回、(再)チャレンジした技術系試験とは
  • iPad Pro × 学習 を考えている人なら是非入れたい「Liquid Text」
  • WebページやPDFから「学びのログ」を集約する
  • 本気で学ぶなら12.9インチを買うべし

 

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企業として教育分野に働きかけて得た5つの反省点 -KDDI退職にあたっての振り返り-

 突然ですが、2017年430日を以って、KDDIを退職する事になりました。本エントリーはKDDI所属として書く最後の記事という事になります。

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 今後については追って報告しようと思いますが、”KDDIの野本”として、教育をICTで拡張するためのチャレンジはここで一旦終了となります。そこで、良い機会なので会社を通して教育分野に対して動いてきた事を踏まえ、書ける範囲でこれまでの”振り返り”をしてみようと思っています。あくまで本記事は「私個人の考え方」にすぎませんが、企業目線で教育分野の”ICT化の推進”を考え、動く中で自身の課題と感じた反省点を5つにまとめました。同じように企業としてこの分野に挑む方や、参入を検討している方に何らかの形で参考になれば幸いです。

 なお、本エントリーはそれなりに長いです。また、いわゆる「退職エントリー」ではなく、いくら読み進めても「KDDIの何が不満で辞めたのか」とか、そういう内容は一切出てきません。あらかじめご容赦ください(笑)。

 

今回、強い自戒の意味で書き残しておきたい「5つの反省点」は、以下の通りです。

1. 自身の教育×ICT分野における”軸”が明確ではなかった

2. 教育を”事業”として成り立たせるための勉強が足りなかった

3. フロー情報に惑わされすぎた

4. ”ICT”が教育を変えると誤解していた

5. ”教育”そのものの理解が圧倒的に不足していた

 

順番に記載していきます。

 

1. 自身の教育×ICT分野における”軸”が明確ではなかった

 私が「教育×ICT」に強い関心を持ったのは、自身が大学受験(特に数学IIIC)の学習で非常に苦労する中、浪人中に触れた「海外の動く数学解説動画」で理解できなかった数学の疑問が一瞬で氷解した経験からです。なぜこれを学校では使わないのか。こうしたツールがある事で救われる人はたくさんいるのではないか。そうした思いから、教育の可能性をICTで”拡張”したい、と考えるようになりました。この想いから、大学・大学院では情報工学の立場から教育へのアプローチを考える活動を続け、卒業後はKDDIICT側の立場から教育をどうしていくかを考え続けていきました。

 ただ、実際に仕事で教育分野に携わる事になってからも、”教育”という広い領域のどこにアプローチするかが、明確にならないままでした。ひと口に教育といっても、学校で言えば幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、社会人学校までありますし、学校の設立母体で言えば国立・公立、私立、株式会社立といろいろあります。さらには学校以外にも塾や家庭教師・家庭学習の領域もあれば、そもそも教える内容が学習指導要領の範疇か、それ以外の領域か、と非常に細分化できます。その中で、自身がどこのどの課題に対して働きかけるかが、ハッキリと絞り込めないままでいたのです。

 ある時は貧困対策が気になり、ある時は公立学校・教育委員会へのアピールに傾倒したり、ある時は個人向け事業を検討したりして、”教育をICTで拡張する”という当初の目標だけは持ちながらも、各種領域をフラフラとして「どの部分をICTにより”拡張”させ、課題の解決につなげるのか」が曖昧なままだったのです。

 これは、KDDIが教育分野から見ればニュートラルな立ち位置に居たことも遠因かもしれません(会社が悪いわけではなく、会社の立ち位置に甘えていた自分が悪い)。様々な業界・領域の方と接点が持てるメリットは非常に大きかったのですが、結果として課題を絞り込み、そこにコミットする勇気や、何かを取ることで何かを捨てたり敵に回す覚悟を持てず、八方美人的な振る舞いに終始した私の心の弱さの表れだったと反省しています。

 

2. 教育を”事業”として成り立たせるための勉強が足りなかった

 企業として教育分野にアプローチするには、それを通じてお金を稼げる事、そして利益が出てそれを源泉に次のアクションに繋げていく事が不可欠になります。いくら教育分野に対する情熱があっても、その活動が組織の掲げる目標(売上・利益・顧客接点・顧客数・継続率などのKPI)に貢献出来ないならば、それはボランティア活動とか個人の時間でやってください、という話になるのは当然のことです。

 一方で、教育分野ではボランタリー精神で個人の時間が費やされることで動く仕組みが随所にあったり、本来なら有償であるべき品質の高いサービスが無償もしくは圧倒的なディスカウント価格で提供されたりするケースが多いのです。しかも教育現場もそうした”支援”に慣れている所があります。特にICT関係は、SEなどの技術力が必要なケースが多い一方で、技術力やノウハウ、保守運用といった無形のものにもお金が必要なことは中々理解されていません。利益が殆ど出ないにも関わらず「買ったのだからサービスしてもらって当然」という言われ方をする事も少なくないのです。

 ただ、自治体・学校・医療・介護といったアナログの割合が多い業界は、ICT化の市場がまだ残っている領域です。IT企業にとってはまさに「フロンティア」なのですが、今までの企業の営業スタイル(いわゆる一般的なBtoBの商習慣)が通用しにくく、ICT化が進んでいないゆえに机上調査で出てくる情報も限定的、さらにそれぞれの領域に独特の文化があって、それに触れるには実際に現場の人と接点や交遊範囲を持たないと難しい、といった高い参入障壁もあります。参入しても、当然その領域で長く活躍している既存のプレーヤーが強く、安売りによって売上は多少上がっても利益が付いてこない可能性が高い。利益が上がらなければ人もモノも投資できないため、継続的な事業活動が出来ない。結局、大抵の企業は「技術料対価をきちんと払ってくれる=利益が出しやすい」業界を優先する。おそらく、教育分野に参入を試みても撤退する企業が多い一つの理由は、ここにあるのだと思います。

 しかも、これらの残された領域はいずれも一度導入した仕組みが途中で無くなると影響が極めて大きいと言えます。しかし、教育分野では「実証実験」と称して一時的にICT環境が整備され、それをマスコミが取材し情報だけは拡散されたものの、事業が継続できる仕組みが確立できず、後に機材が撤収され生徒児童も教職員も困惑する、ということが全国の各所で起きています。(その事実は殆ど報道されたり、大きく指摘されることもないように感じています…。)

 そうした課題を認識し、打ち破ることが重要なのですが、当方の場合はそれを認識していながら、「継続的に利益を確保しながら現場に貢献し続けられる”ビジネスモデル”」が構築できなかったのです。言い換えれば、制約条件を踏まえた上でビジネスモデルを立案できるだけの勉強が足りなかった。せっかく、教育分野に仕事として関われる機会をいただきながら、1.で述べた”軸”が明確でなかったことも一因となり、課題に対する解決策を熟考できなかったのが二つ目の反省点です。

 

3. フロー情報に惑わされすぎた

 教育業界に関わっていると、FacebookTwitterなどのSNSで日々流れてくる業界の情報(フロー情報、参考:https://www.idia.jp/report/stock-and-flow-information/)がどうしても気になってきます。業界の著名人や、強いポリシーで教育×ICTを推進し実践されている先生方、それを同じくらい強い想いで支えている企業や自治体・学者の方、場合によっては中央省庁の方などの声も入ってきます。それ自体は私が人脈に恵まれたこともあり、ありがたいことなのですが、問題はそうした方々の発言内容と、発言者の「立場」や「実践内容」・「経験の長さ」といったステータスが分離できず、「誰の発言か」によって自身の解釈が多少なりとも振り回されることがあったことです。

 具体的には、学習指導要領の改訂であったり、プログラミングや道徳、英語の義務教育への取り入れであったり、部活動や校務のあり方であったり、通学や学校周辺の安全性であったりと、教育を取り巻く話題は幅広く、時にセンセーショナルに取り上げられます。そうした情報に対する意見が誰の発言かを見てしまう部分が少なからずありました。それ自体はある程度仕方ないのかもしれませんが、悪い事に自身の「人に影響されやすい性格」も相まって、いつのまにかそうした「発言力がある人」「業界の重鎮」と言われる人や、統計データなどを用いて「もっともらしく主張をしている」人の論に流されてしまっていました。

 常々、私は「人と論を分けて考える」ことを意識しようとしているつもりです(人間として微妙な人でも、その人の特定の論や意見が正しい時には支持する、逆も然り)。特に教育のステークホルダーとしては教職員などの教育従事者だけでなく、保護者の目線、そして何よりも学習者(児童生徒学生)の目線、そして2.でも述べた「売上・利益などの経済的な目線」などを包含しバランス良く考えるべきで、だからこそ「教育に詳しくない普通の人」が一見微妙に見える発言をしていても、その中には重要な示唆が多く含まれると考えています。

 しかし、どうしても発言の多い「教育に携わる業界人」の情報が周囲に多くなってくると、それらの声に影響されてしまいます。更に言えば、そうした業界人の中には○○/△△派といったような、複数の思想の系統が並存し、それぞれが独自の実践や試行錯誤に立脚した強い想いで主張が飛び交っています。本来、自身の主義主張や想いが明確になっていれば、そうした意見の自身に合う部分とそうでない部分を見極めた上で検討ができるのですが、それがない自分は、それぞれの主張の中庸を取り、誰とも対立しないように無難な意見に落ち着かせようとしていました。本来ならば、本や過去の研究・論文などの「ストック情報」を丁寧に読み解き、事実と感情を切り離し、教育を多方面から立体的に考えることが必要だったのです。

 原因は明確で、1.の”軸”がきちんと定まっていないこと、そして進むべき道とも言える2.のビジネスモデルが固まっていないこと、そして後述の4,5も影響したのだと思っています。これが3つ目の反省点です。

 

4. ICT”が教育を変えると誤解していた

 よくiPadが学校・授業・教育を変える」とか「ICTによる教育イノベーション」とか、そういった表現がメディアの見出しに踊っています。何を隠そう、私自身もブログや一部のwebメディアに寄稿するにあたり、そうした”ICT万能論”風の論調に加勢し、業界を扇動しようとしていた部分があったことを素直に認め、反省しています。これが4つ目の反省点です。ちなみに、この事に気づいて以来、私はwebメディアに記事を寄稿することを原則やめ、主に「自身が学習者の立場でICTを活用した実践報告」や「ICTの導入を技術的にサポートする人のための情報発信」に絞って発信をするようにしました。

 正直に言って、ICTのインフラやタブレットなどのデバイス、その上で動作するアプリは「名脇役」ではあれど、「人」の介在が全くないところで勝手に浸透するものではありません。学校であれば教職員、自宅であれば保護者、塾であれば講師、toC向け学習アプリならば「一緒に学ぶ友人」や「おすすめしてくれる信頼できる人」など、教育とその周辺価値を動かしているのは実質的に「人」だからです。もちろん、友人や大人の介在を最小限にして独力で走れる学習者も中にはいますが、それは全体から見たらほんの一握りの人であり、真に浸透させて教育分野に山積する”課題”を具体的に解決させたいのであれば、”人の力”なしには成し得ないと私は考えます。

 一方で、人の力だけで課題を乗り切ろうとすれば、それは多くの場合「根性論」的なものに帰結し”労働搾取”のような方向性になってしまいかねません。よって、人の力でより良い教育を追い求めることと、ICTで教育の課題解決を追い求めることは、両輪として進めていくべきことと考えています。(結果、私は後者の「ICTで教育の課題解決を追い求めている人」にフォーカスし、その人に役立つ情報で自身が出せるものに絞って記事を書くようにしました。この点だけは、自身の中で絞り込みができました。)

 ちなみに、私は”ICTが”教育を変えるわけではないことを、学生時代の塾講師のアルバイトで一度認識しています。しかし、企業の中で生きているうちに、どこかでICT中心マインドに戻ってしまい、締め切りに追われてきちんとした考察をしないまま脱稿した記事で「ICT万能論」の拡散に加担し、さらにそうした論調を教育関係の方に言ってしまって反感を買っていた部分も多々あったと猛省しています。

 正直に言うと、ICTによる「イノベーション」とか「パラダイムシフト」といった言葉って、なんだかカッコいいし、体裁の良さそうな見せ方をするにはとても都合の良い言葉なんです。なので文字数に制限のある原稿やプレゼンを作ろうとすると、どうしてもこうした耳障りの良い用語を使ってしまうことが多々ありました。でも、それを一歩引いた目で見直して、それがどのように教育の関係者に解釈されるものなのか、大した実体もないものを言葉で不必要に大きく見せようとしているのではないか、そのための出汁としてICTのメリットだけを過大に誇張していたのではないか、それにより一旦は人や仕事や案件を動かすことができても、その先の最も重要な「持続性」という部分に貢献できない状況を自ら作り出していたのではないかこうした反省がだんだんと、強くなっていきました。この点は、次の5.に挙げる課題に真摯に向き合うことで、解決に向かわせたいと思います。

 

5. ”教育”そのものの理解が圧倒的に不足していた

 最後にして最も大きな課題がこれです。教育は、自身が児童生徒・学生である期間を大抵の人が経験していることもあり、ある意味「1億総評論家」になりうる領域とも言えます。自身も、冒頭に述べた通り浪人時代に触れたICTの可能性が行動の原動力になった他、小学校1年生の時にアメリカから帰国した際の日米の教育習慣やクラスメートの雰囲気の違いで少なからず”嫌な思い”もしています。そうした直接経験がその後の教育観点の基準になっている部分が多分にあります。

 だからといって、自身の経験・体験がすべてのケースに適用できるわけでは、当然、ありません。私が”既存の教育”の内容を理解していたか、学校教育に関する法規や意思決定構造や、中央省庁やその諮問機関がどのような検討をし、複数の施策や検討体の議論と方向性がどう結びついているか、それらの文献や情報・それを取り巻く議論にどの程度触れたのかというと、間違いなく自身は”勉強不足”でしたし、時には”誤解”もありました。しかも、私は教育学部の出身でもありませんし、教育実習の経験も教職課程の受講歴もありません。教育の現場に関わった経験はせいぜい、3年間の塾講師経験くらいで、それを”教育経験”と称してみても、現場で実践を日々積まれている方から見ればゼロに毛が生えた程度のものにすぎません。

 そのくせ、両親が教育関係者で、幼少期からこの分野の話を聞いて育ってきたこと、自身でも教育とICTという領域に対して長く主体的に考えてきたこともあり「この分野には一定の経験値がある」というプライドが先行してしまいました。そうした私がブログやwebの記事で、さも「教育をわかっている風」に文言を並び立てる様子は、この業界に長く真剣に取り組まれている方にとっては非常に不快に写ったことと思います。事実厳しい指摘も何度も頂きました。この点は本当に猛省しています。申し訳有りません。

 この状況を打破すべく四苦八苦していたわけですが、最後まで私を悩ませたのが「絶対的な時間の不足」でした。といってもそれは自身が原因なのですが…。それは、これまで記載してきた通り、注力分野とそこへのアプローチ手段が曖昧であり、広い分野の情報を無理にインプットしようとしたという失敗に尽きます。”教育とICT”を標榜する様々なセミナーやイベントに足を運んだり、中途半端にいろんな文献や情報を仕入れて耳年増のようになったり、それらの情報が消化不良になってアウトプットが全て中途半端になっていたり、という状況でした。

 結果、準備や計画が明らかに不足している中で見切りで動こうとし、自身の教育の知見そのものが足りないこと、そして課題やビジネスモデルが絞れていないが故に解決に向けた時間が足りないことから、物事が動かせずに終わっていった例は枚挙にいとまがありません。よく言われる”走りながら考える”を意識したこともあるのですが、それは少なくとも走る方向と手段が決まっていて、それを推進するために出てきた種々の課題に対して使う言葉であって、私のように何も決まっていないのにとりあえず走る時に意識するものではありません。時にその無謀なランニングに他の人を巻き込んでしまい、結果としてその人の期待を裏切ったり、がっかりさせるケースを積み重ねてしまいました。

 ただ、これだけの反省点を抱えながらも、私は教育の分野から離脱することは当面、考えていません。教育という領域を通して社会に横たわる多くの課題を一つでも解決・改善したいというのが私の人生の至上命題だと本気で思っていますので、まだまだ足りませんが、これからも”教育”を理解するための努力を重ねていきます。自身が学ぶことをやめたら教育という業界に関わっている人間としては実質的に死んでいるのと同じだと考えていますので、5.が私にとっての1番の重要課題でです。

 

 

ということで、5つの反省点について書いてみました。

 多くの方が口を揃えておっしゃることではありますが、ICT化されずに残っている領域には、それなりの理由があり、そこに挑むのであれば充分な計画と準備、そしてその領域の勉強が必要であることは、本当にその通りです。同じことは、ICT化の次の段階として考えられるIoTAIの導入でも言えるかもしれません。

 

 以上が私の約8年間のKDDIでの社会人生活を通じて学んだ反省点です。多くの反省は残ったのですが、後悔はしていません。こうした経験をさせてくれたKDDIには本当に感謝していますし、KDDIという会社は、今までもこれからも、私の大好きな会社であり続けることは間違いないと思います。というのも、今回の退職は個人や家庭の事情によるもので、KDDIが嫌になったわけでも、KDDIとして動くことが嫌になったわけでもないからです。

 KDDIは私にとって最初から最後まで「いい会社」でした。当方のように2浪して決して有名・有力とも言えない大学出身者をきちんと受け入れてくれたこと、配属直後の若手の意見を立場のある方がきちんと聞いてくれたこと、その結果として若手のうちから課題に働きかける機会を与えてくれたこと、学歴ではなく人と仕事を見てくれたこと、故にこんな自分でも管理職登用のチャンスを与えてくれて、実際に登用してくれたこと、など。社員の皆さんも総じて物腰が柔らかい「いい人」が多くて、手堅いけれどチャレンジする風土があり、ベンチャー企業に対する理解もある、などなど。いろんな意味で、良い会社でした。
(あと完全に余談ですが、毎朝本社ビルの1Fで掃除をしながら一人一人に気持ちの良い挨拶をしてくれるおばちゃんは本気でレスペクトしてます)

 

 次のステップでも、教育には関わり続けます。が、嬉しい事にこの1月に第一子に恵まれ、家庭での役割もより重要になりました。そうした事情から、仕事を通して1-5の反省点に向き合い、家庭では家庭としての役割もしっかりとつとめながら、前に進むべく、心機一転、頑張っていきたいと思います。

 

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。そして、KDDIを通じてお世話になったすべての方に、この場を借りて御礼申し上げます。

1年の独学でTOEICを115点上げた話

教育ICTの話題を扱う本ブログらしく、今日は学生から社会人まで関心が高いとされている「TOEIC」について書いてみます。

当方は幼稚園から小学校1年生の2年弱アメリカに住んでいたり、高校で2週間のホームステイを経験したり、入社から約5年間仕事で英語を使う部門にいたりと、幼少期から英語に触れる機会が多い方だった割にはTOEICの点数が低かったのです。それは、仕事で英語を使う相手はノンネイティブなアジア圏向けが多く、「中3レベルで良いから簡単な表現で正確に伝わること」を重要視した故、表現の幅が広がらなかったせいだと思います(一方で、とにかく”相手を動かす”ために多少の文法やスペルミスは臆せず書く・話すこと、わからなければ何度でも聞き返す・確認するといった”度胸”は随分身につきましたが)。

入社から5年経過した後は、英語を全く使わない部門に異動になったので、このままだと英語力が落ちてしまうし、今後英語で仕事をするときに不味いよなぁ、と思い、昨年は「1年かけてTOEICのスコアを伸ばす!」という目標を定めていました。

 

いきなり結論、でどうなったの?

1年間、独学かつ自分の時間で色々やってみたのですが、結果としてスコアは115点上がり、直近のTOEICでは855になりました。

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2015年12月13日の結果(740)が年明け早々に出てから1年ちょっと勉強し、今年の1月29日に受験した回(一番上)で855になった、という状況です。ちなみに、真ん中のスコアは、後述する”ある教材”を「使用する前」、上段はそれを「使用した後」のスコアでもあります。

 

で、なにやったの?

740->835 までスコアを持ち上げるために11ヶ月でやったことは主に以下の通り。
ちなみにこの期間、お金がかかるサービスは一切使ってません。

TOEIC English Upgrader をひたすら聞く

TOEIC presents English Upgrader

TOEIC presents English Upgrader

  • The Institute for International Business Communication
  • 教育
  • 無料

 TOEIC対策のド定番とも言える無料アプリです。iOSAndroid両対応(リンクはiOS向け)。1stシリーズから5thシリーズまで63のエピソードが収録されています。しかも、すべての台本について日本語訳と英文スクリプトが付いており、下手な参考書を買うよりもよっぽど勉強になります。ちなみにPodcastも同様のコンテンツがあり、こちらの方が1エピソードあたりの時間が長め。運転中や通勤中のリスニング教材として最適です。

 

Appleの発表会を欠かさず見る

www.apple.com

Appleの新商品発表会のプレゼン(Keynote)は、比較的ゆっくりはっきりとした英語で話してくれるし、平易な単語が中心なのでリスニング教材として良いと感じています。かつ「今回は何が出るかな…?」と楽しみながら視聴できます。(リアルタイムに視聴するには夜中の2時とかに起きないといけないので大変ではありますが)
また、以前も紹介したWWDCのアプリにはこうしたKeynote動画がたくさん格納されていて、ネタには事欠きません。
ただ、これらのムービーには基本的に字幕がないので、ある程度内容がわからないと辛くなってくるかもしれません。

 

・mikan や zuknow で単語力を鍛える

 

英単語アプリ mikan

英単語アプリ mikan

  • mikan Co.,Ltd.
  • 教育
  • 無料

どちらも無料(一部利用方法によっては無料)の英単語学習アプリです。zuknowは紙の「単語カード」を置き換えるような使い方をするアプリで、自分でわからなかった単語を記録して自分で復習したい時にとても便利。mikanはTOEICの目標スコアに応じてあらかじめセットされた単語が次々に出題されるので、新規で単語を覚えたい時に便利です。どちらもプレミアムコンテンツ利用時や一定以上の学習量の時には課金されますが、無料の範囲でもかなり使えます。

 

・興味のある分野の英語記事を読む

知りたい情報は英語でも多少は頑張って知ろうとするものです。私は、教育関係(OECDのレポート)とか、Apple製品に関連する内容の記事を「なるべく単語の意味を調べず、早く読む」ということを意識し、分量を多めに読んでみました。これは時間との戦いであるTOEICのリーディングパートに対応できる「速読力」を身につける目的です。どうしてもわからない、頻出のキーワード単語などはその場で意味を調べて、Zuknowに放り込むことで後から振り返りやすいようにしました。結果、昨年12/11に受けたTOEICではほぼ最後までリーディングパートを解くことができるスピードになりました。

 

こうした結果、リスニングが435->450に15点UP、リーディングは305->385と80点の大幅UPを達成しました。一方で、ある課題に気づきます。

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他の項目はだいたい伸びているのですが、文法だけは完全に横ばいだったのです。そりゃ、リスニングやリーディングの勉強ばかりしてても文法力はなかなか伸びないよなぁ、と一人で勝手に納得して、ここで「ある教材」を特定の目的で使うことにしました。

 

Z会キャリアアップコースの「Adaptie」投入

文法ばかりは、きちんと勉強しないと定着しない。高校生の受験英語で痛感していたものの、高校の分厚い参考書を引っ張り出してきて携行するのもカバン重くなるし、勉強のハードル高いよなぁ、仕事しながらだと日々の疲れに負けそう…という思いがあり、これまでよい方法が見出せませんでした。

そこに、本職の仕事繋がりから表題の「Adaptie」という教材を試させていただけることになったので、有り難くその機会を活用することに。ということで、ここからは使わせてもらった御礼もかねてちょっと宣伝色が入りますが、良いところ課題があるところ含め、なるべく素直な目線でAdaptieを紹介します。


Adaptieの詳細は以下の公式HPに掲載されています。決して安い教材ではないですが、TOEICのスコアアップに悩む人が以下の記事を見たら「使って見たいな」と思えると思います。

www.zkai.co.jp

Adaptieは一言でいうと「スマホ・PC・タブレットのマルチ環境でTOEIC対策ができるweb教材」なのですが、その人の英語習熟度レベルに合わせた問題を出し分けるという「アダプティブ・ラーニング」のエンジンが搭載されているのが最大の特徴。このエンジンを最大限活用するためか、利用開始時には本番のTOEICの半分の時間で半分の量の「Pre Test」を解く必要があります。これが心理的なハードルではあるものの、ここを乗り切るとあとは快適です。

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こんな感じで、TOEIC本番の受験予定日と学習日、そして目標スコアを最初に登録します。ここにPre Testの結果をもとにその人の弱点をシステムが把握し、その人のレベルにあった問題を出題してくるようになる、という仕組みです。感覚的には解き進めていくとだんだん問題が難しくなる、就活のSPI(玉手箱など)に近い感じですが、ある程度連続して間違えると解説ページや解説動画が出てくるのが親切です。

Adaptieの良かったところは、各パートがさらにcan-doリストで細分化されていて、自分の苦手な部分だけをピンポイントで学習できたところ。

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例えばリスニングの「Part1」ならこんな感じ。Part1は写真と合致する英文を答える問題ですが、ブラウザ上で本番さながらの音声が再生されるのでとっても手軽でヨイです。
画面上で▼でマークされているところが自分の目標得点を狙うために必要なレベル。正解を重ねると黄土色のバーが伸びていき、間違えると短くなります。1問正解してもちょっとしかバーが伸びない割に、1問間違えると一気にバーの長さが戻るというなかなかドSな仕様になっております。

今回はこのAdaptieを「Part5」の文法問題対策を中心に使ったのですが、これがとても良かった。何が良いかは、以下の4つに尽きます。
・1問1答形式なので、文法問題を1つ解くとすぐ詳しい解説が見られる
スマホを使って隙間時間に文法問題に取り組める
・必要な時だけ解説動画が出てくるので時間が節約できる
・大量の問題が格納されており、ほとんど同じ問題に出くわすことがない

TOEIC本番は問題が回収され、解説解答も一切公表されません。そのため、ひたすら2時間、問題を解いても「やりっぱなし」になってしまう。一方Adaptieは1問1答形式で、紙の参考書のようにちょっと下や横を見ると答が見えてしまう、ということもない。この辺はICTの良さが明確に出るところです。
4つ目の問題数の多さも、紙の参考書ではなかなか真似できないところでしょう。ちなみに、間違えた問題は「ブックマーク」機能により、間違えた問題だけを後から復習できるようになっています。

またAdaptieでは受講前に行うPre Testの他に、受講期間の中間効果測定として「Half Test」という本番の半分の分量のテストを、仕上げには本番と同量の「Target Test」を受講できます(本番さながらの紙の問題冊子が届けられ、マークシートで解く)。3回のテストを通じて「自分のスコアが伸びている」ことが実感できます。自分の場合は、こんな感じに段階的に点数が上がって行きました。

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試験当日の朝に受験した「Target Test」ではAdaptie上で目標として入力した800点にちょうどミートできたので、心理的にも気持ちよく本番に臨めました。

 

結果どうなったのか

このAdaptieを使って約1ヶ月強、詰め込み学習で文法対策をやった結果はどうだったかというと…。

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ご覧の通り、文法のスコアが平均レベルから平均+13点まで伸び、また語彙も結果として伸びたおかげで、リーディングパートのスコアのバランスがだいぶよくなりました。(一部対策優先度を下げた項目はスコアが下がりましたが…)結果として835 → 855 に20点スコアアップした要因は、リーディングパートの得点が385 → 410 と25点伸びたことが大きかったとわかります。

その前は独学で11ヶ月かけて95点上げたのですが、Adaptieを使った1ヶ月少々でさらに20点上積みできた(しかもピンポイント対策の結果がしっかり出た)というのは、結構すごいことだと思います。しかも、根詰めて1日集中して勉強したとかではなく、基本は隙間時間、長くても連続1時間くらいの学習でこの結果ですから、忙しい社会人にはなかなか良い教材かもしれません。

 

ただ、改善してほしいところもけっこうある

ここまで書くと超ステマ感満載なので、実際に使って見て感じた課題もいかに列挙しておきます。

1. やっぱりネイティブアプリがほしい
 Adaptieの良さは「OSを選ばずブラウザがあれば学べること」なのですが、これは換言すれば「毎回ID/Passでログインが必要」ということでもあります。正直、これがめんどくさい。個人的には、自動ログイン機能が付いて、あとはApp内ブラウザでいいので、スマホタブレット向けにはネイティブアプリがほしいところです。ネイティブアプリならば「最近サボってるだろ勉強せんかーい」的な学習アプリでは当たり前の「通知」も使えますので、この辺は早期にサポートしてほしいところ。

2. 単語帳アプリと連携してほしい
 Adaptieは1問1答形式で、都度けっこう詳しい解説が出てきます。そこには、問題ごとにキーとなる単語もたくさん載っているので、これらの単語をzuknowなり、同じZ会の「速単教室」のフラッシュカードといった「単語帳アプリ」に送り込みたいなぁ、と何度も感じました。画面内のチェックボックスにチェックを入れると、アプリにその単語が送られる、とか。

3. PreTest、Half Test、Target Test の解説がPDFなのが面倒

 せっかくのWeb型なので解説をPDFファイルでどーんと渡すのではなく、正誤情報をもとに自動的に間違えた問題がブックマークに登録されるとか、復習コンテンツが勝手に生成されるとか、そっちの方にアダプティブエンジンを使ってほしいなぁとも感じます。ICTにより英語学習が効率化されているのに、ここだけ紙に近い環境に逆戻りした体験が強いられるのは勿体無い。

4. 質問機能や問題に対するフィードバックを各設問の解説画面内においてほしい

 Adaptieには質問用フォームがあるのですが、画面としては完全独立した別の場所にあるため、わざわざそこに行って質問する心理的ハードルが(特にスマホだと)高いです。単純に「この問題のこの解説は納得がいかん!」というシーンに即「質問!」がしたいところ。また、絶対数は少ないですが、問題に不備があるのでは?と感じる場面が1-2回あったので、修正要望も同じ画面からできるといいなーと思いました。

5. Terget Test(本番直前の仕上げテスト)の結果入力がめんどくさい

 Terget Testは本番さながらのマークシートに答えを記入するのですが、それゆえに解いた後に答えをブラウザ内に1問ずつポチポチと入力するのがひじょーにめんどくさい。ここは、スマホとかのカメラでマークシートを撮影したら回答が自動登録されるとか、そういう機能がほしい。本番直前に登録に時間を使うくらいなら、1問でも多く演習したいのが本音なので。

 

上記のように、テクノロジーを活用した学習の効率化がやりきれていない、惜しいポイントが散見されます。とはいえ、プロダクトとしてはまだ若いので、今後改善が進むことを期待したいです。

今回はお試し受講だったので1ヶ月強に詰め込みましたが、本来は半年〜1年くらいの長期スパンで使うことが前提の教材だと思います。が、短期で結果が出たので、継続的に学習すればスコアは伸びると思います。当たり前の話なのですが、英語はきちんと勉強すれば結果がついてきます。特にTOEICは860くらいまでなら勉強すれば誰でも到達できる、と自分よりはるかに英語ができる友人・知人からもよく聞きます。ただ、勉強の仕方は結構重要だと感じていて、スマホから1問1答形式でTOEICの本番とほぼ同一フォーマットの問題に手軽に取り組めるのは効率的な勉強方法だと感じます。どーしてもTOEICのスコアが伸びない、という方は、Adaptieを使ってみると良いかもしれませんね。

社会人が iPad Pro を1年間 勉強に使ったら色々捗った話

約半年前に書いた以下の記事がけっこうロングランで読まれています。

it-education.hatenablog.com

 どうも最近、キーワード「iPad Pro」で検索してここに辿り着く方が増えている(そして1日のPV数も伸びている)ようですので、続編を書いてみようかなと。テーマは「社会人の勉強」で、昨年12月にiPad Proを購入した時「学習者の目線で最大限、活用してみよう」と決めて、実際に1年使って見た結論が「大満足」だったということを書いて見ます。

 なお、今回の記事で触れている”勉強”とは、「個人学習用途」限定である点を先にお断りしておきます。「学校や組織のメンバーとの共同学習」というテーマだったら全く違った内容やアプリが並ぶと思いますが、個人学習用途なので基本的に使ったのはほぼ「ノート」、調べ物をする「スマホ」や「PC」の不便を解消するツール類ばかりでした。 

 

 先にざっくり伝えたいことを書いてしまうと

・社会人をやりながら年間で7つの試験にトライした

iPad Pro は最高の「紙とペンの価値を拡張するデバイス

・勉強に使うアプリは3つ程度でいい

・手書きは知識の定着に効果がある気がする

 という4点に集約されると思います。

以下、順番に解説していきたいと思います。



  

社会人をやりながら年間で7つの試験にトライした

iPad Proを購入してから挑んだのは以下の7つの試験です。

Versant (英語のスピーキング・ライティング能力を測る試験)
TOEIC
CompTIA Security+ (ITのセキュリティ関係試験)
教育情報化コーディネーター試験(ITCE) 3級
 (教育IT化の提案力やICT支援員スキルを認定する入門的な試験)
会社の管理職登用試験
教育情報化コーディネーター試験(ITCE) 2級 1次試験
教育情報化コーディネーター試験(ITCE) 2級 2次試験
 (2級は1次が筆記+論述、2次が模擬提案+面接 という応用的なスキル判定試験で
  1次のみ通過すると準2級認定、2次を通過すると2級認定されます)

会社の管理職登用試験の内容については書けないので(笑)、それ以外の各種試験の対策に必要になった学習は大きく大別すると
 ・知識のインプット
 ・思考のアウトプット(ラフなもの)
 ・文書などのきちんとした形での情報アウトプット
の3つになるかな、と思います。最後の「文書などのきちんとした形での情報アウトプット」については、今の所PC(Mac)の方が使いやすいという結論に至ったのですが、「知識のインプット」と「思考のアウトプット(ラフなもの)は、iPad Proがおおいに活躍しました。

 

iPad Pro は最高の「紙とペンの価値を拡張するデバイス

 資格試験には「覚える」という単純作業が付きもの。どうせなら効率的に学びたいですよね。そこで私はこの1年間、紙のノートを使うのはほぼやめて、徹底的に iPad Proを「ノート代わり」として使ってみました。結論は、「全く問題なし」です。

 例えばTOEIC対策。
 リスニングについては、「興味のあるテーマの動画を見る」のが一番と考えて、以下のアプリを使いました。

WWDC

WWDC

  • Apple
  • 辞書/辞典/その他
  • 無料

このアプリは米国で毎年開催される同名イベントの公式アプリ。Appleの様々な新技術・新機能などを解説する動画が見られます。TOEICの試験前には、この中から見たい動画をいくつか再生しながら、適当にメモを取るようにしてみました。
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左がWWDCのアプリ(分かりにくいですが動画を再生中)、右は前回も紹介した「Notablity」です。

Notability

Notability

  • Ginger Labs
  • 仕事効率化
  • ¥1,200

 動画を見ながらメモを取ることで、動画の内容を自分なりに噛み砕く(ただ聞くだけよりも一段深く集中する)ようにして見ました。また、よく分からない表現はメモして残して後で振り返る、ということもやってみました。
 動画や英語の音声を再生するなら他のアプリでも勿論良いのですが、WWDCアプリは無料なこと、画面2分割の「Split View」、他アプリ起動中でも小窓で動画を再生しつづけられる「Picture in Picture表示」に対応していること、扱っている内容が個人的に面白いことから、選定しただけです。特にAppleKeynoteの英語は比較的聞き取りやすい表現が多く、リスニング対策には結構オススメ(ただ、登場する単語に偏りがあるので語彙を強化したい人にはちょっと不向きかな)。


 Notabiltyはホントによくできているノートアプリなので、そこそこの価格はしますがProユーザーは「紙のノート的な使い方をするアプリ」として購入して置いて損はありません。作成した手書きメモは iCloudGoogle Drive に同期できますし、Mac用のクライアントアプリも合わせて導入すれば iCloud 上のデータをMacでも活用できます。
(※私はMacで手書きメモを編集することはないので購入はしてません。手書きのメモは必要ならPDFに出力ができるので、AirDropMacに送って対応)

Notability

Notability

  • Ginger Labs
  • Productivity
  • $9.99


 リーディング対策もリスニング同様「関心のあるテーマの長文を読む」ことで対応しました。標準ブラウザの「Safari」で適当な文献PDFを探し、それを「Good Notes」に送り、アノテーションをしながら読むというのが好きなスタイルです。写真はOECDの教育とICTの関連性についての報告書(全編英語でかなりの分量)ですが、Apple Pencil だとこうしたアンダーライン引きや手書きでのメモ書きを紙と同じ感覚で行えるのが便利です。分からない or 自信のない単語は指先で範囲指定して「辞書」をタップすれば意味もすぐ引けますし、効率良く読み進められます。

※ただ、TOEIC本番は問題用紙にアンダーラインを引いたり書き込むのが禁止されているので、これで練習しすぎて本番も同じようなことをやらないように注意

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Good Notes にもMac用のアプリがあり、iCloudで書き込んだ内容がほぼリアルタイムで反映されます。前回の記事でも書いたように、私はNotabilityを「書く」ツール、GoodNotesを「読む」ツールとして活用しており、NotabilityについてはMacでも書き込んだ内容を閲覧する機会があるのでMac用のアプリを購入しています。

GoodNotes

GoodNotes

  • Time Base Technology Limited
  • Productivity
  • $7.99

 
 それ以外の知識習得時にも、基本的に iPad Pro と Apple Pencil をノートとペンの機能拡張版として使いました。iPad Proの12.9インチモデルは画面がA4の紙とほぼ同等のサイズなので、左右分割しても細かい文字がそれなりに読めます。なので、基本は2分割してこんな感じで使っています。

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 Sprit Viewで画面を二つに分割し、左半分に「Good Notes」、右半分に「Notability」、これが個人的に最高に使いやすい。左画面をSafariにして、Webで調べ物をしながらメモを作ることも多々。ちなみに、左画面の文字を指先で範囲指定して「コピー」し、右画面のNotabilityにテキストでペーストすることも可能、丸ごと写経しなくても必要な部分だけ抜き出せるのは紙と教科書には絶対にできない芸当なので、学習効率が非常に良いです。

 さらに、Notabilityが紙のノートに勝る最強のポイントがこれです。

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 ちょっとわかりにくいですが、写真の下部の筆跡が一部半透明になっています。これは、録音した音声の再生に合わせて、自分の筆跡が再現されていく様子をキャプチャした画像です。講義や研修などを録音しながらApple Pencil での手書きをしたり、キーボードで文字を入力したり、他のアプリからテキストをコピペすると、それらの操作が録音の「どのタイミング」で行われたかが裏で時系列に沿って記録されているのです。録音した音声をiPad上で再生すると、録音に合わせて少しずつこの半透明の文字が黒くなっていくので、後から講義や研修を振り返る時に非常に効果的。特に「この辺のメモを取っている時の音声を聞き返したい」という時にとても便利で、録音した音声の振り返り学習頻度が格段に増えました(今まで録音して全く聞き返さなかった講義・研修音声がたくさんあったんですが…)。再生速度は0.7x、1.0x、1.5x、2.0x から選べます。この機能だけで iPad Pro が欲しい人もいるのでは。

 

勉強に使うアプリは3つ程度でいい

 ここまでの話はひたすら「知識をインプットする」ような場面で iPad Pro を使って見た話ですが、成果物を作って提出するような実技系の対策を行う時にもiPad Pro は結構いい仕事をしてくれました。というのも、いきなり最終成果物に着手するよりも、はじめにブレストやアイデアを書き出し、何を重点的に伝え、どのような順序でそれを記していくかがけっこう重要だからです。私はこうした作業をよくホワイトボードやノートでやっていたのですが、今回はITCE 2級2次試験 の実技課題攻略の構想を iPad Pro でやってみました。
 試験問題を外に出して良いか分からないので、ITCEのメモではないもので恐縮ですが、例えば以下のようなマインドマップ的なものを書くときにも、iPad Pro と Apple Pencil は非常に重宝します。

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 iPadマインドマップを書くアプリはたくさんあるのですが、私はなんとなくその操作方法に馴染めず、結局紙とペンに戻るということが幾度となく続いていました。しかし、マインドマップは書き込むほどに修正がめんどくさくなります。その点、iPad Pro と Apple Pencil の組み合わせだと、書いた後に文字や図形を移動できたり、線をストローク単位で消せるので、紙とペンと比べると幾分か作業が楽になります。この図はまたもやNotabilityを使って書いていますが、同じような機能はたいていのノートアプリがサポートしていますので、気に入った手書きアプリを使うと良いでしょう。
 こうしたラフを作って、大体の構想が固まったらパワーポイントやKeynoteなどで正式な成果物を作るのですが、その時はPCやMacを使いました。まだ iPad 用のMicrosoft Power Point は(閲覧や修正ならほぼ完璧にできますが)ゼロから文書を作るには少々、機能不足だからです。ただ、PCやMacで作業をする際にもiPad Proは傍に置いてあって、適宜手書きのメモを参照しながら成果物の作り込みをしてみました。

 結局、こうした「ノートとペンの拡張」的な使い方で勉強をする分には、使っているアプリはせいぜい「Notabiltiy」と「Good Notes」と、あとは写真などを撮影したり管理するアプリがあれば充分という感じで、3つくらいあれば個人の勉強に使う分にはほとんど事足りた感じです。ちなみに写真については、 iPad Pro は スピーカーが4つ搭載されていてシャッター音が大音量で鳴り響くため、こちらのアプリを最近は愛用しています。

Microsoft Pix カメラ

Microsoft Pix カメラ

  • Microsoft Corporation
  • 写真/ビデオ
  • 無料


 

 手書きは知識の定着に効果がある気がする

  ここまで記してきたように、1年間 iPad Pro で勉強をして見て思ったのは、改めて「書くこと」が知識の定着に大きく寄与するんだな、という感覚です。定量的に測ったわけではないので断言はできないのですが、やはり「動画を手書きメモを取りながら見る」「長文をアノテーションをしながら読む」という「手書き」が介在する学び方をすると、自分の感覚としては知識定着率が良いように感じた次第です。そういう意味では、これまでのタブレットやノートPCでは実現し得なかったことが実現できている感じがします。

 ちなみに、以下の本では学習者をタブレットやノートPC、紙を使った集団に分けて学習定着度を測定するという研究が紹介されています。

https://www.amazon.co.jp/タブレットは紙に勝てるのか-タブレット時代の教育-赤堀侃司/dp/4906768245

  サンプル数が少ないという点に注意が必要ではありますが、この本で指摘されている「タブレットと紙を比較した時の一つの弱点」とされている「アノテーション」や「メモをしながらの学習」については、iPad Proであればほぼ克服できているような気がします。同様の研究を iPad Pro を利用した集団を加えて実施したら、どんな結果が出るのかな? とか、ちょっと気になります。

 


 さて、ここまで見てきましたように、iPad Pro は他のどのタブレットと比較しても「紙とペンにかなり近い感覚」が味わえるデバイスだと思っています。紙とペンを代替できる可能性がある(※代替して良い、とは断言しない)のですが、単なる代替ではなく、以下のような付加価値が得られる点も見逃せません。

・書いた情報を後から編集したり、別のアプリで利用できる
 (PDFに出力、コピーして再利用、など)
・書いた情報を常時持ち歩ける
 (ノートだと”一冊前のノートを今日に限って持ってない! ということが起きる)
・ノートのように途中で紙が切れたり、色ペンのように途中でインクが切れることがない
・色ペンでどれだけマークしても、後から何事もなかったように消せる
 (フリクションペンを使っても多少は跡は残ってしまう)
・元の文書をどれだけ書き込んだとしても、オリジナル文書はそのまま残る
・紙とペンでは扱えない音声情報(録音)と同期したメモが残せる
・特に新しいことを覚えなくても容易に紙とノートから移行できる
 (これ重要)

 つまり、これまで勉強に「紙のノートとペン」を多用してきた人ならば、導入によってメリットが得られる可能性は高いと思われます。

 惜しいのが、iPad Proは(最近の価格&レート改定を考慮しても)まだ値段が比較的高いと言う点です。率直に言ってこれと同等の書き味のタブレットが学校に入っていけば、今までのタブレットよりもだいぶ文房具的な活用が進みそうな気がするのですが、まだそこまでいくには時間がかかるでしょう。今、このデバイスが最適なのは、たぶん時間のない中で早期に資格取得を求められている社会人の方や、大学受験など何らかの受験勉強に挑んでいる方だと思います。 時間対効率を追求したい人は、 iPad Pro と Apple Pencil を購入してみるのも良いのではないか、というのが当方が1年間、iPad Pro を使って勉強して見て感じた感想です。

 

 最後に、当方のこの1年に挑んだ7つの試験の結果についてですが、最後のITCE2級2次試験だけは残念ながら通過できず、翌年にリベンジということになりましたが。準2級の資格は取れました!それ以外は普通に社会人をやりながら全て合格もしくは過去最高得点を更新できた、という事実も申し添えておきます。

 

追記(2018.1.9) この記事のさらに続編を書きました。このとき、クリアできなかったITCE2級についてもリベンジを果たしたのですが、この時の反省を踏まえて新たな学習ツールを導入した、という記事です。

it-education.hatenablog.com

MacBook Pro 13" (Late 2016) Touch Bar無しモデルを購入

手持ちの12" MacBook をリリースして、新型のMacBook Proを購入しました。

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購入したのはMacBook Pro Late 2016 (Touch Bar無しモデル)で、以下のスペックです。 

• 2.0GHzデュアルコアIntel Core i5プロセッサ(Turbo Boost使用時最大3.1GHz)
• 8GB 1,866MHzメモリ
• 512GB PCIeベースSSD
• バックライトキーボード (JIS)

購入はAppleオンラインストアで行いました。思ったよりオーダーから時間がかかったのですが、本日到着し、一通りの環境移行も終わったので、教育関連ブログであることは完全に忘れて(?)、簡単なレビューを書いてみようと思います。

 

<なぜこのモデルを購入したのか?>

一言で言えば「サイズ・価格・パフォーマンスのバランスが良かったから」です。

当方のMacBook歴は 初代MacBook Pro 13" Retina(2012) → 初代MacBook 12" Retina(2015) → 今回の MacBook Pro 13"なので3代目ということになります。その前はずーっとVAIOノートを使ってました。

これまでノートブックの選定基準は一貫していて、画面解像度が高く、できるだけ軽いものを選んで来ました。相応しいモデルは初代から購入して来たのですが、今回も例に漏れずモデルチェンジ直後のモデルを選ぶことになりました。

MacBookについては、本体の重さより解像度を重視しているので最初からAirは検討外。カメラが趣味なことから、画面解像度はPCにしてもケータイにしても、なるべく高品質なものを選びたかったのです。初代MacBook Pro 13” Retina を選んだのは、ほとんど使わない光学ドライブが無くなって軽量化し、画面の品質が向上したから。とはいえ、モバイルノートとしては重い部類で、結果的にMacの利用用途がブログの更新、写真の管理、記事の執筆、iBooks Authorによる電子書籍の作成、Keynoteの作成といった軽作業が多く、解像度以外のProの性能を持て余している感がありました。

そこに、Retinaディスプレイは残しつつ他をバッサリと削ぎ落とした超軽量な12" MacBook が登場したので、これぞ自分が求めていたもの!と発売直後に購入、それまで使っていたProは友人に譲り、これまでメインマシンとして使ってきました。

しかし、軽さと薄さは非常に気に入りつつも、最近はパフォーマンスに不足を感じることが増えてきました。特に、macOS Sierra になってから 4K 外部モニタ の解像度コントロールが快適なったこともあり、多数のウィンドウを同時に開いて作業したり、Parallels Desktopを使ってWindowsを並行利用するケースが増えました。そうなると、グラフィックスやCPUの処理が追いついていないようで、動作が引っかかるケースが目立ってきたのです。

 

そこで、今回は

Retina Display
・それなりのパフォーマンス
・持ち運べるレベルの重さとサイズ

という要件から、新型のMacBook Pro 13” に乗り換えることにしました。

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Touch Bar搭載の上位モデルも気になったのですが、当方はキー入力の変換の際にファンクションキーを多用すること、Touch IDによる指紋認証ログインについてはmac OS Sierraで実現したApple Watchによるログインが結構快適かつセキュアなので別に無くてもいいと感じたこと、Escキーがハード実装でないことに対する一抹の不安、搭載モデルの値段の高さなどから、Touch Bar搭載モデルは手頃な値段になって、アプリが増えてきてからでも良いのでは?と自分を言い聞かせました(笑)。

MacBookはリセールバリューか高く、購入1-2年後でも購入価格の6割くらいでも普通に買い手がつくので、次期モデル(Kaby Lake搭載?)がいい感じなら乗り換えればいいかな、くらいの感覚で今やりたいことをやるのに最適なコスパのモデルとしてこれを選んだ感じです。(1-2年後にやりたい事が変わっていればその時に考え直せば良いと)

 

<割り切ったインターフェースってどうなの?>

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前述の通り、当方はUSB-C端子が一つしかない12" MacBookをこれまで使ってきました。結論から言って、問題より利便性を多く感じていたので、新型Proでも問題ありません。USB-C端子が二つに増えただけで充分、利便性が向上しています。上位モデルはUSB-C端子が4つあるようですが、多分自分の使い方では4つも要らないでしょう。

USB-C端子の最大のメリットは、普通のUSBアダプタからの給電・充電ができることです。高価なMagSafe用のACアダプタを購入しなくても出先のiPad用の充電器から(ゆっくりではありますが)充電できますし、モバイルバッテリーでも稼働時間の延命ができるのには何度も助けられました。とはいえMagSafeの安全性と利便性がUSB給電と両立できるとしたらベストなので、現在KickStarterなどで出資を募っているUSB-C端子をMagSafe化するソリューションは使ってみたいところです。

また、SDカードスロット無いのって不便じゃ無いの?という声もネットではよく見られますが、これも当方にとっては問題になりませんでした。SDカードの用途がほぼ写真に絞られており、写真はα7sというソニーWiFi対応デジカメからPlayMemories Mobileというアプリを経由し、全て撮影後にiPhoneに転送しています。一見手間なようですが、iPhoneに一度写真が入れば、帰宅したときやWiFiが使えるときに勝手にiCloud経由でMacに同期されるので、アダプタの必要性をあまり感じないのです。どうしても急ぐ時には、iPhoneにSDカードアダプターを指して写真データを移動させるようにしています。

間にiPhoneを入れるメリットは結構多くて、SNSへの投稿はもちろん、iCloud以外のAmazon Prime Photo や Google Photos など別のクラウドへのデータアップロードや、AirDropによる他のiOSユーザーへの写真の瞬時の共有ができるなど、自分としては欠かせないステップです。イベントの写真をその日中に渡すのも簡単なので、重宝しています。

こうした事情から滅多にSDカードを直接Macに指したいことがないのですが、どうしてもという時には、USBケーブルでカメラを接続しマスストレージモードで読み書きする(つまりデジカメ本体をSDリーダーライターにする)ことで対応しています。とはいえ、12"MacBook利用時にそれをやったのは数える程でした。

こうしたUSBケーブル、USB周辺機器、そしてiPhoneの接続には通常サイズのUSBへの変換アダプタが必要なのも事実です。が、iPhoneについてもMacと接続するのは月に1回程度のフルバックアップくらいなので、一応USB-Cと通常のUSB端子を変換するアダプタは持っていルものの、ほとんど使うこと無く過ごせています。ある意味、Appleが推し進めるワイヤレス化の世界観にどっぷり浸かってしまったともいえますが(笑

とはいえ、全くアダプタがないのは不安でしょうから、ちょうど年内期限でやっているUSB-C アクセサリーのセールをうまく活用するのが良いと思います(特にUSB-C から 通常USB 変換アダプタが激安)。

www.apple.com

 

<で、新型Proはどうなのよ?>

オマエがProを選んだ理由や薀蓄はどうでもいいからProのレビューを早くしろや、という方、お待たせいたしました。ここからが新型Proのレビューです。

 

・外観

外観は12” MacBookと共通要素が多く感じますが、旧Pro 13" や Air と比べると、液晶周りの空白領域が小さくなり、高さ、幅が抑えられたのが好印象です。重さは12" を使っていた人間からすると「まだ重いな」と感じるのが正直なところですが、旧Proよりは軽く感じます。本体が小型化した分「中身が詰まっている感」があり、見た目よりは重く感じますが、それが逆に高級感にも感じられます。

なお、使ってみて感じた薄型化の最大の恩恵として「手首が痛くない」というメリットを挙げておきたいと思います。MacBook Pro シリーズはくさび形の MacBook Air や 12" MacBook と違いフラット形状なので、長時間テキスト入力をするときには「手首に本体前面の角が当たって痛い」という問題があったんです。ただ、新型Pro13" はしばらくブログ書きに使ってみた限りでは、この問題がほぼ解消されたように感じます。 


・スピーカー

音質はなかなか良いです。実は、音質については(特にウリにしているわけでも無い)12” MacBook がかなり善戦していたので、新型Pro どんなもんだろうと思っていたところですが、スピーカーを大々的にPRしているのは伊達ではなく、ノートPCとしては意外なほど低音域も頑張っていてベース音もそこそこ聞こえます。同じくスピーカーの品質をウリにしているiPad Proと同じ音楽で聞き比べてみたところ、4スピーカーだけあって音の広がりはiPad Pro に軍配が上がるものの、中低音は Macbook Pro の方が厚みがあり、全体の安定感は明らかに MacBook Pro の方が良いです。

 

 

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ちなみに、重ねて見てわかったのですが、今回の MacBook ProiPad Pro は横幅がほぼ同じなんですね。ベゼルの色が黒だったら、一見わからないかも。

 

 

・キーボード

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一方、今回ちょっと期待はずれだったのがキーボードです。タッチは明確に、12" MacBookより良くなっていて、同等のキーストロークのはずなのに新型Proの方が押し下げ感があり、底打ち感が薄れた気がします。各所でのレビューでも示されているとおり、キーの打ち心地という意味では非常に大きな進化を感じます。
ただね…、いかんせん「打鍵音がうるさい」んですよ…。購入予定の人は、店頭で実際に確かめた方がいいです。自分はタイピングスピードがそれなりに早くうるさくなりがちなのですが、従来のProや12" MacBook では入力の工夫次第で打鍵音をある程度抑えられました。しかし、新型13" Pro(15インチモデルや Touch Bar モデルが同じかどうかはまだわかりませんが)は、キーのどこをどのように押してもそれなりに「パチッ」とした高めの音がするんです。それなりのスピードで入力すると、パチパチパチツッターン!みたいに、なかなか周囲に迷惑がかかりそうな音がします。これはなんとかならんかったんだろうか…。

 

・画面

画面は確かに綺麗です。特に赤系統の色が深く、標準のmac OS Sierraの壁紙では、山脈の夕日の質感がなかなかいい感じ。ただ、12" MacBookRetina の画面に見慣れていることもあり、すごく感動するというほどではありませんでした。(Airからの移行だとたぶん感動すると思います)

12" MacBookからの移行だと、画面が大きさやデスクトップの解像度ゆえ作業領域が広いなーという感覚のほうが先に来るでしょう。また、画面の視野角は広く、使い方によっては覗き見が気になるかもしれません。

 

・パフォーマンス

いわゆるベンチマークソフトなどを使って測定したわけではありませんが、ローエンドでありながらこの新MacBook Pro のパフォーマンスは明確に良くなっています。少なくとも、当方が使っていた12" MacBook(2015) とは段違い。なぜ断言できるかというと、当方はMacを買い換える時、基本的に前の端末の環境をTime Machineを使ってまるっと引き継ぐからです。入っているアプリも、Parallels Desktop の仮想環境も全てそのまんま。なので、旧端末との動作のサクサク感の違いがすぐに実感できます。

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現在この記事は、写真のように4K外部モニタを接続し、Parallels Desktop 上の Windows Defender でフルスキャンを行い、mac OS上では写真ライブラリの初回起動時のデータ修復も並行して行い、iTunes では音楽も再生しながら書いてますが、特に動作速度が低下する様子もなく動き続けています。12" MacBook ではこういうことを長時間やっていると、CPUリソースが足りなくなるのか、明らかにパフォーマンス低下を起こし、文字入力すらもたつくようなケースが時折見られました。が、それも今の所ありません。ファンの動作音は一応聞こえますが、音楽を妨げるほどの五月蝿いレベルではないです。

 

<総論>

使用を始めてごく短時間ではありますが、触った感覚、使った感覚、トータルでよくできているMacBookだと思います。キーボードのうるさいのだけは、なんとかしたいですが…。

さて、このMacBook Proは、従来のProユーザーの間で物議を醸しています。Proと言う割にはメモリが16GBまでしか積めなかったり、拡張端子をUSB-Cだけにしちゃったからアダプタ地獄に陥りそうであったり、CPU が 第7世代の Kaby Lake ではなく1年以上前にリリースされた Sky Lake であったり(そもそもMacBook Proクラス向けの Kaby Lake はまだ出てないから仕方ないんだけど)、Touch Barは面白いけど開発者目線では面倒が一個増えそうな気がしたり、サーバーで vi 弄る人はEscが物理キーでないのが不安であったり、挙げていくとキリがないです。その辺の不満はだんだん、先行ユーザーや周辺機器メーカーが解消していくんでしょう。今までのMacもそうだったようなので、よく訓練されたAppleユーザーは「しかるべきタイミング」が来るまで「待つ」のも賢い選択だと思いますし、値段が下がった従来機やストアの整備済品を狙うのもアリだと思います。

ただ、私が使ってるローエンドの新型Proは、スペックから見ても従来の Pro ユーザー よりも、MacBook Air や 12" MacBook から「アップグレード」したいユーザーをターゲットにしているように思います。価格設定や10/28 の AppleKeynote を見てもそう言うメッセージを感じるなと。なので、今これらの機種を使っていて、 そろそろ SSD の容量やパフォーマンスに限界を感じ始めている方は、多少の追加出費にはなりますがこのローエンドのMacBook Pro 13" を検討候補に入れる価値は充分にアリだと思います。

これは私見ですが、最近のAppleは、iPad の傾向もそうであるように「Pro」ブランドをよりコンシューマにとって身近な存在にしようとしているように見えます。これはAppleが重視する「UX」が、他社の追従やコモディティ化によりだんだん一般ラインの製品では差別化しにくくなっているからなのかな、とか勝手に感じてます。人によっては、「Pro」と言う名前から「自分はそこまで求めてないっす」と感じるかもしれませんが、別にProだからと言って自分は特にプロっぽい用途にこのMacBookを使う気は無いです(笑) なので、予算が許せば MacBook Air ユーザーの方もこちらに移行しちゃっていいんじゃ無いでしょうか。
※ただし、Appleの初物には何かが潜んでいる、と言うジンクスもあるので、その「何か」を引き当ててしまっても当方は責任を取れませんが(笑)

 

と言うことで、この記事がTouch Bar モデルをオーダーして到着を首を長くして待っている方や、世の中のユーザーの感想が揃うのを待っている方、同じモデルを買うかどうか検討中という方にとって、少しでも役に立てば幸いです。

 

「IoT」「プログラミング教育」と「第四次産業革命」の関連性を書いてみる

久しぶりの更新となる今回は、よく聞く割には実態がよく分からない「IoT」「プログラミング教育」と、政府系の文書によく登場する第四次産業革命」の関連性について書いてみたいと思います。

当方は現在、本職(KDDI)でIoTに関連する部署に在籍しているのですが、今日の内容はあくまで本職とは関係なく、一般的に入手できる情報を元に個人として思考・意見を述べるもので、会社や組織を代表するものではありません。

想定する読者としては
「IoTってそもそも何?泣いてる人の顔にしか見えないんだけど」
「第4次産業革命とかIndustry4.0って最近よくみるけど何が変わるの?」
「これと小学校でプログラミング教育が義務化するのに何の関係があるの?」
という率直な疑問を持っている人です。

なお、本エントリーは私なりの考えを伝えるもので、動きの早い業界ということもあり、私自身の理解や考えが追いついていない可能性もあります。ですのでこの内容が必ずしも正しいとは捉えず、ご自身の思考や批判の材料に使ってもらえれば幸いです。

 

 

さて、昨今教育現場では「小学校からのプログラミング教育必修化」が話題になっています。この方針は2016/4/19に開催された「第26回 産業競争力会議にて文部科学大臣から示されたものです。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai26/siryou2.pdf

出典:第26回 産業競争力会議 資料2http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai26/siryou2.pdf)


この方針は、国の様々な課題に対する具体的対応策を示す「日本再興戦略」の2016年版を考えるにあたり文科省が提言したもので、実際その「日本再興戦略2016」に盛り込まれ、2016/6/2 に閣議決定されました。閣議決定は「国としてこれをやる」という宣言でもあります。

この日本再興戦略では国全体の共通目標として「名目GDP600兆円」を目指すことが掲げられていて、そのために

 1 600兆円に向けた、新たな有望成⻑市場の創出・拡大
 2 人口減少社会、人手不足を克服するための生産性の抜本的向上
 3 新たな産業構造への転換を支える人材強化

という3つのアクションが規定されました。プログラミング教育や進行中の大学受験改革を含む「高大接続改革」はこれらを支える重要施策として規定されていて、

- 初等中等教育でのプログラミング教育の必修化(2020年~)
- IT活用による習熟度別学習 (筆者注:いわゆるアダプティブ・ラーニング)
- 高等教育での数理・情報教育の強化
- トップレベル情報人材の育成
-「第四次産業革命 人材育成閣僚会議(仮称)」の設置

といった形で以下のように表現されています。(右下の3.の部分に記載あり)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai26/siryou1.pdf

(出典:第26回 産業競争力会議 資料1 名目GDP600兆円に向けた成長戦略 次期「日本再興戦略」【案】http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai26/siryou1.pdf)

 

この中の「プログラミング教育必修化」という内容を各種メディアが広く報じたことから、プログラミング教育に関する話題が当方の周囲でも急速に増えたこと実感しています。

 

さてここで、国が目指していることを改めて整理しておきたいと思います。詳しくは閣議決定された日本再興戦略の原本(長いよ→http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/2016_zentaihombun.pdf)を読み解くと、国は

・これから、少子化が進み、生産労働人口はどんどん減っていく
・一方で高齢化も進み、放っておくと年金や福祉などに必要な財源が枯渇する
・よって「一人ひとりの生産性を向上させること」は重要な解決策の一つ
・その生産性の指標として名目GDP600兆円という目標を掲げている
・それを実現できる人財を早くから育成することも重要
・さらに並外れたパフォーマンスを発揮する人財が国内で活躍できる素地も整えたい
 (そのために必要な規制改革・緩和も進めたい)

と考えていることがわかります。

つまり、プログラミング教育は(無理を承知でものすごくシンプル化してしまえば)最終的に「生産性向上」、すなわち一人の人間からより多くの”価値”を生み出せるようにするための施策の一つ、と言えます。
(実際にはもっと多くのことが考慮されているので少々乱暴な纏め方であることはお断りしておきます)

 

 

ちなみに、日本の労働生産性は先進7カ国中最下位、OECDでも34カ国中20位(平均以下)となっていて、その一員が昨今の電通報道で話題になっている「長時間労働」であるという内容がこの原本の後半にも登場し、具体的な削減目標も登場します。
(統計データはこちらで色々と設定を変えながら見ることができます)

 

で、そこで気になるのが「早期からプログラミング教育を行うことが、本当に”生産性向上”に繋がるのか?」という点です。そこに登場する一つの根拠が、上記にもチラっと登場する「第四次産業革命」です。

 

第四次産業革命については、多用される割にはハッキリした定義は無いのですが、先にあげた「日本再興戦略2016」の中には以下のような記載があります。

(第4次産業革命と有望成長市場の創出)
今後の生産性革命を主導する最大の鍵は、IoT(Internet of Things)、 ビッグデータ人工知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第4次産業革命」である。

 

なんというか、パソコンを学ぶ時に、専門用語を調べたら専門用語で説明してあって絶望する的な雰囲気漂う引用なので、それぞれ用語を説明したいと思います。


IoT(Internet of Things)

最近新聞やネットニュースで見ない日はないくらいよく見かける泣いている人の顔のように見えるこの単語ですが、「モノのインターネット」と訳される言葉の略称です。
今まで、インターネットにつながっているものと言えばスマホやパソコンなど人間が常にそばにいて、明確に操作や指示を与えるものが大半でしたが、IoTは基本、人から離れて存在している様々な「モノ」に通信機能をつけて、インターネットに情報を送り出したり、逆に人が遠隔から制御するイメージです。もっともわかり易い例で言えば家庭用のDVDレコーダー(インターネットに繋がっていて、最新の番組表をネットから取得したり、スマホから録画予約ができる)は広義でのIoT機器と言えます。

IoTはセンサーやロボットと密接な関係があり、

 温度センサー(数分に1回、温度を測定してインターネットに送る)
 水センサー(植木鉢の水分とか、川の水位を数分おきに送る)
 赤外線センサー(人やモノが通過・接近した時に信号を送る)
 加速度センサー(物体が動いたり、落ちたりした時に反応して情報を送る)
 GPS(衛星から取得した位置情報を送る)

といった身の回りの様々な「情報」をインターネットを通してサーバーなどに送る役割を果たします。

さらに、サーバーでそうした情報を分析し、一定のレベル(例えば温度が40度を超えた、など)を超えたら、そのセンサーを管理している人に警告通知を送るとか、先ほどの温度センサーの近くにいる散水ロボットに自動的に命令を出し、水を撒かせて温度を下げさせる、といったことも可能になります(ロボットというとPepperのようなものをイメージするかもしれませんが、センサーからの情報を元に動作するものもある意味、ロボットです)。

 

ビッグデータ

上記のセンサーやIoT機器を各地に大量に配置すると、人が到底全部を見きれないような膨大な情報が集まってきます。さらに、人の行動履歴(SNSの投稿やwebの閲覧履歴やオンラインショッピングでの商品閲覧・購入履歴など)もここに加えることができれば、凄まじい情報量になります(実際にはプライバシーの問題から難しい例の方が多いかと思いますが…)。
ただし、情報はただそこにあるだけではゴミ同然です。これらを上手に分析して特定の事実を突き止めると、その価値は大きく変わってきます。

例えば、
「このエリアでは長時間雨が降っていない -> 気温がずっと高く、川の水位も下がっている → 熱中症渇水対策グッズが売れている」といった傾向が導き出せれば、企業はそのエリアに集中して在庫を動かし、生産を効率化できる -> 売り上げや生産性が向上する という”価値”が生まれるわけです。こうした様々なデータから価値のある仮説や事実を見つけ出せる、データ収集・分析・加工・統計の技術を持った人のことを「データサイエンティスト」といい、現時点では引く手数多な職業と言われています。

 

人工知能(AI)

人工知能は、先のような方法で集められたビッグデータを一定の法則性に則って自ら「学習」し、「分析」をして人間のように「判断」ができるようになったものと言えます。ある意味では、データサイエンティストの機能をコンピューターが取り込み始めたのが現在の段階と言えるのではないでしょうか。
今のところ、マトリックスの世界で語られているような「人間を超えて支配するようなもの」ではありませんが、コンピューターの進化がこのままの速度で行くと2045年くらいには人間の判断力を超える、いわゆる「シンギュラリティ」が訪れると言われています(実際には、コンピューターの進化=チップの集積度向上に依存し、その集積度向上には近々技術的な限界が訪れるという説もあり、シンギュラリティが起こるにはいくつかの技術的なハードルを超える必要があると考えられます)。

なお、人工知能には最低限の「学び方」、すなわち大量のデータを読み解くためのお作法を人間が最初に与えてあげる必要があるとされています。それがだんだん、機械やコンピューターが自分で勝手に学ぶ、いわゆる「機械学習」や「ディープラーニング」と呼ばれる手法により、これらがAIの進化を加速度的に早める可能性があるとも言われています。


参考:

blogs.nvidia.co.jp

 

説明が長くなりましたが、第四次産業革命は、IoT機器とセンサーを使って人間がこれまであまり意識したりきちんと記録してこなかった情報をインターネットに送り出し、そうして得られたビッグデータ人工知能によって処理・判断させ、その結果をロボットに返し、これまで人間がやらなければならなかった一部の仕事を肩代わりしてもらう。手の空いた人間は、その余力を使ってより高度なことや、機械がまだできない領域の仕事に注力する。その結果、生産性が上がる。そんな世界を目指していると言えます。(こうしたデータの活用には実際には様々なハードルがあるのですが、そうした規制への対応も明文化されています)

 

さらに、先ほど引用した、日本再興戦略2016の第四次産業革命の説明には以下のような続きがあります。

 

「第4次産業革命」は、社会的課題を解決し、消費者の潜在的ニーズを呼び起こす、新たなビジネスを創出する。一方で、既存の社会システム、産業構造、就業構造を一変させる可能性がある。既存の枠組みを果敢に転換して、世界に先駆けて社会課題を解決するビジネスを生み出すのか。それとも、これまでの延長線上で、海外のプラットフォームの下請けとなるのか。第4次産業革命は、人口減少問題に打ち勝つチャンスである一方で、中間層が崩壊するピンチにもなり得るものである。

 

なかなか迫力のある文章ですが、最後の「中間層が崩壊するピンチ」については少し補足しておきます。

例えば、誰かがロボットやセンサー、IoT、人工知能などをフル活用し、機械によってある仕事を「自動化」できるようにしてしまったとしたら、その「単純作業」をする”人”は不要になる可能性がある、ということを示しています。

機械は何度でも同じ単純・単調な作業を「めげずに」続けられ、火花や有毒ガスが飛び交う危険な場所で働かせても文句を言いません。しかも休憩も睡眠もいらない。生産性で人間は敵うはずがありません。例えば、ある工場が30人でこれらの仕事を手分けして進めていたのが、自動化によってロボットの動作や作業結果を確認する3人だけで回るようになったとしたら、「労働生産性は10倍」と言えます。少々大げさかつ乱暴な例えですが、第四次産業革命はこうした観点で生産性向上に期待されているわけです。

 

つまり、「生産性向上」が実現できる人、つまり「誰かが作った仕組みを単純に使うだけではなく、今の仕事のやり方から生産性をさらに向上できる人」が必要とされており、逆に言えばそれができない人がだんだん「要らなくなるかもしれない」ことを暗示しています。

そして、ここまでで述べたセンサー・IoT・ビッグデータ分析・人工知能・ロボットに共通していることが、「大小の差はあるものの、コンピューターによって動いており、その制御は人間がプログラミングを通して行なっている」という点です。(ここでのプログラミングは「コンピューターに対して(コマンド、画面上での指示の別は問わず)人間が一連の命令を与えることを示しています)。

 

つまり、「第四次産業革命の時代を生き残る」には、センサー、ロボット、IoT、人工知能などに対して

 ・それぞれの要素がどう繋がっているかを理解し
 ・それぞれの要素がどのような機能を持っているか理解し
 ・その上で、そのコンピューターが理解できるように指示を出し
 ・結果がおかしいことになったら、どこが間違いなのかを探し出せ
 ・想定通りに動作しているかを時々確認できる

といった対応ができる必要がある、というのが、国の主張をもう少し細かく噛み砕いた内容であると筆者は考えます。その基本的なリテラシーが、プログラミングであり、コンピューターやネットワークの理解であり、従来で言えば「情報教育」と呼ばれる領域をより深化させた世界、と言えるかもしれません。

 

そして、こうしたスキルセットを育むために重要なのが、「人財育成」計画、つまり、IoTやAIの周辺領域や、それらが拡張した世界で戦っていけるスキルセットを持っている人をどう育て、増やすか、という戦略です。そのために、日本再興戦略2016は以下のような内容も示しています。(※個人的に”人材”という言葉は好きではないのですが、引用部分はそのままとします)

 

(イノベーションと人材の強化)

第4次産業革命を実現する鍵は、オープンイノベーションと人材である。技術の予見が難しい中、もはや「自前主義」に限界があることは明白である。既存の産学官の枠やシステムを超え、世界からトップレベルの人材、技術、資本を引き付ける魅力ある国となれるのか、が勝敗を分けるポイントである。
第4次産業革命が進行する中で、産業構造や就業構造は変革していかざるを得ない。企業と個人との関係も変らざるを得ない。技術や産業の変革に合わせて、人材育成や労働市場、働き方を積極的に変革していかなけば、雇用機会は失われ、雇用所得は減少し、中間層が崩壊して二極化が極端に進んでしまう。
第4次産業革命の波は、若者に「社会を変え、世界で活躍する」チャンスを与えるものである。日本の若者が第4次産業革命時代を生き抜き、主導できるよう、プログラミング教育を必修化するとともに、ITを活用して理解度に応じた個別化学習を導入する。大学改革、国立研究開発法人改革を実現し、産学共同研究を大幅に拡大する。

 

ということで、「生産性向上」を一つの大きな目標としつつ、その手段である「第四次産業革命」を最大限押し進めることが、国の方針。それを牽引できる人財を、初等中等教育のプログラミング教育はもちろん、大学(論文や先進的な研究)、企業内人材育成、各種研究機関など全体で増やしていこう、というのが国の考え方で、そのために様々な施策が工程表とともに公表されています。
例えば初等中等教育については、こんな感じ。ここに学習指導要領の改定や教育クラウド化、デジタル教科書などもマッピングされています。

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日本再興戦略2016 工程表 139ページより抜粋http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/2016_kouteihyo.pdf

 

ついつい、教育行政の方向性としては文科省、教育とICTに関する方向性としては総務省、といった見方をしてしまいがちなのですが、国の施策はさらにその大上段があり、その目標(ここでは、生産性向上による名目GDP 600兆円の達成)に向かって動いており、その中に各省庁の施策が位置付けられているということは、意識しておいて損はないでしょう。

 

もちろん、こうした考え方や目標設定のあり方が自体が本当に正しいのか、この項目とこの項目が本当に連動・関連しているのか、と、個々の内容を批判的に見ると疑問や疑念は多々あります。これらはあくまで「総論」であり、実際には各論でそう簡単にいかない部分は多々あることと思います。
例えばプログラミングを小学校から教えるとなると、その手法の是非やコスト、教える人はどうするのか、など課題は山積みです。「本当に必要なのか?」という議論も出てくるでしょうし、「産業界が求めているものを実現するのが学校ではない!」という考えもあることと思います。

また、報道されている電通問題よりも、教職員の時間外労働・実質的なサービス残業の方が大問題だと思っている私としては、本当の意味での「生産性向上」(※単に授業を効率化するとかそういう話ではない) を学校現場でこそ実施していかなければ、こうしたプログラミング教育の推進施策は実質、骨抜きになってしまうんではないか、という懸念も持っているのですが、今日のエントリーでは国の大上段である目標と実現手段とプログラミングの位置付けを紹介するのが目的ですので、そうした現場レベルでの課題・問題には踏み込まないでおきます。


ただ、こうした資料を読み解いていくと、国はワーストケースのシナリオを想定し、その対策のために必要な施策をアクションとして盛り込んでいるようにも見えます。
こうした情報は探せば誰でもネット経由で得ることができ、各種会議や検討会の議事録の多くは公表されているので、「なぜこのような施策が現場に降りてきているのか」という疑問の答えはある程度、解消できるかもしれません。

分量が多いので読み切るのは大変ではあるのですが、こうした国レベルでの関心のある領域について動向を追いかけることも、いち国民として必要なアクションなのかもしれません。