EverLearning!

モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

教育ICT推進の背景7:社会人編(最終回)

前回の投稿からだいぶ時間が空いてしまったのですが、意外な所から最終回についてのご期待の声を頂きましたので投稿させて頂きます。


2009年4月、私はKDDIに入社しました。実は私は、入社前の段階で(周りの同期とは)ちょっと変わったものの考え方をしていました。それは「最初から行きたい部署を希望せず、まずは別部署で経験を積みたい」という考え方です。その”別部署”は「保守・運用」でした。

当然、私のやりたい事は「教育系事業の推進」であり、それは面接でも一貫して主張してきましたが、「最初の希望配属先」を聞かれた時には「保守・運用」と答えていました。これには理由があります。

それは「よいシステムや仕組みを作るには、それを支えたり、使ったりする人の事を理解することが大切」だという事を、研究室での生活を通して実感していたことです。
前回紹介したようなマインドマップベースの教育システムの実証実験では、被験者との意見交換や、発展研究をする後輩とのやり取りの中で「他の人が使うことによる様々な”想定外”」に触れました。この部分を意識するかしないかで、成果物の作り方やUIはかなり大きく変わるという経験をしたのです。

ここから転じて、誰かが作った仕組みやサービスを「守る」という経験を最初にする事が、後々に開発や企画には絶対に活きるであろう、という考えが就職活動の段階から既にあったのです。

また、英語については幼少時の海外居住経験もあって、(得意ではないですが)これから必要なスキルとして伸ばしたい、という考えも持っていました。

そうした自分の考えを汲み取ってくれたのか、運用部門の中から「グローバルサービス運用センター」という現在の所属部署をアサインしてもらいました。個人的には最高の辞令で、配属発表の時には思わず小さくガッツポーズを取った事を覚えています。

実際の職場に配属されてからは、主に海外に向けて企業用の国際通信回線を新たに作ったり、その作った回線が切れてしまったら早急に直したり、それらの作業に関連する業務システムの開発や改善に関与したりと、配属から約4年の間で本当に色んな経験をさせて頂きました。特に運用部門に居ながらにして、開発の実経験を積ませて頂いた事は大変有り難い経験でした。
さらに、4年間で海外にも5回ほど出張させていただいたり、逆に海外からゲストをおもてなしする機会にも多々恵まれ、最近はゲスト向けの業務紹介プレゼンも担当させてもらっています。英語力が伸びていることを「実感」を伴って感じられるのが嬉しい。
ただ、仕事はかなりハード。時差がある相手と業務を行うこともあって、時期によっては連日かなり遅い時間まで業務に奔走することもあります。とはいえ、トータルで見ると非常に充実した会社生活を送れていると思っています。

そんな感じで、しばらくは会社の業務を覚えて、次に業務の改善や推進を行って、という具合に仕事を一生懸命やってきました。が、所属部署の年数が長くなってくるにつれ、自身の余暇を「会社に関する勉強」から「教育分野の動向追跡」にシフトしていきました。

大きなきっかけとなったのは「iPad」の登場です。特に米国の教育分野での活用事例を知れば知るほど期待感が高まり、それはiPad2が登場した頃に”実感”へと変わります。

ある日、いつものようにwebでニュースチェックしていた際に、千葉県の袖ヶ浦高校の事例に触れました。日本の公立高校に一人1台のiPadが入って、日常的に授業へ活用している。iPadを使って、相互に意見交換しながら授業を行ったり、iPadそのもので授業内にスライドや資料を作って「プレゼン」をしている。
「これこそが、自分が実現したいと思っていた世界だ…」

と、本当に嬉しくなりました。同時に、この世界に自分が関与して、通信事業者の一員として何か出来る事をしていかなければ、という使命感も感じるようになってきました。まずは、出来る事から、少しずつやらねば…と。

そこで、まずはこうした良い事例を周囲に紹介することにしました。TwitterFacebookを活用し、記事をシェアしたり、自身の考えを添えて投稿するといったシンプルな活動から始めました。勿論、人によっては奇異な目で見たり、明らかに否定をしてくる人も居ましたが、そこは一つずつ、丁寧にコメントを返すようにしながら、自身の考えも少しずつ深化させていきました。この中で、少しずつ「教育系」の人脈が出来始めました。

次に、自分自身で良い事例を見に行こう、ということで、公開授業を行っている学校を訪問しました。それが「広尾学園」です。昨年11月に実施された「広尾学園×iPad×ICT教育カンファレンス」でiPadを活用した授業とその説明を聞き、本当に感動しました。

そこで、忘れないうちに記録を残しておこうと、連日夜中の2時頃までPCに向かって、Evernoteに写真とともに記事を書きました。そして、試しに「公開」してみたところ、自分でも驚くほどの大反響が。結果、広尾学園の先生の目にとまり、学園の公式HPから記事へリンクされたり、Facebookであちこちでシェアされることとなりました。
ここから、私の教育活動が大きく変わります。

様々なイベントにおもむき、その取材結果をEvernoteの公開ノート機能を使って発信する。これを繰り返すうちに、いつの間にか多くの「教育」という共通項を持つ人たちと多数のつながりが出来てきました。

これを繰り返すうちに、記事がかなりの分量溜まってきたので、今度はそれを「電子書籍」として纏め、無償で公開しました。こちらもかなり話題にして頂いた結果、殆ど自身ではプロモーションを行っていないにも関わらず、現時点で約1300ダウンロードを数えています。個人の意見がここまで広く発信できるという「時代」に驚くばかりです。

そして、こうした「成果物」が出ると色々と物事が変わってくるもので、書籍をリリースした頃から次々に「講演」の依頼が舞い込むようになりました。講演に行くと、そこで出会った人から新たな人脈や、次のコラボが生まれるというポジティブサイクルが回りだしました。結果、学校の先生、教育系企業の方、教育系ベンチャー企業NPOの社長や代表など、これまででは考えられなかった様々な人脈が形成されていきました。この仲間の輪が、点と点だった様々な要素を「線」にし、「教育ICT推進」という一つの流れに繋がったと感じるようになったのです。そしてようやく
「自身が教育ICTの推進に貢献できることがある」と実感するに至りました。

しかし、まだまだ困難や、解決すべき課題は盛りだくさんです。ようやくスタートラインに立つための要件がそろい始めたと言える状況にすぎないでしょう。それにまだ、最後のピースとして、「自身がKDDIの中で教育系事業に携わるポジションを得る」という重要なミッションも残っています。ここは是が非でも頑張っていきたいと思います。

スタートラインに立ったら、あとはひたすら「教育は、人が作っていくもの」をキーワードに、教育ICTを推進していきたいと思っています。

以上、当方の教育ICT推進の背景でした。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。