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野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

広尾学園×iPad×ICT教育カンファレンス 2013冬 レポート

2013/12/21(土)、広尾学園で半年に一回の公開授業が開催されました。今回は土曜日の開催ということもあり、企業よりも学校関係者の見学者の方が多く、遠方から見えられている方も多かった事から同校の注目度が改めて感じられます。

今回の見学では敢えて全体ではなく、インターナショナルコースの授業に密着しました。インターの先生達の取組みは非常に先進的なのですが、授業や教材が殆ど英語のため、その魅力があまり伝わっていないのでは…と感じているため、詳細を書いてみようと思います。(実際、思ったよりも見学者が多くなかった)

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インターナショナルコースは、一人1台のMacBookを活用。これらは各家庭が入学時に購入し、家と学校の間で持ち運んで使っています。授業はすべて英語、生徒達はMacBookでの入力も文章読解もすべて英語で行うことになります。

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テクノロジーの授業を担当しているマーク・マクルアー教諭。マクルアー教諭の授業は帰国子女等を中心とした英語が特に強い「Advanced Group(AG)」と、中学校から英語を学び始めた「Standard Groug(SG)」がMixされているため、そこかしこで英単語や表現についての「生徒同士の助け合い・学び合い」が見られるのが特徴です。
今回の授業のテーマは「コンピュータは考える事ができるのか?」 
AIやCleverBotと呼ばれるBot、自律型ロボットなどの事例を紹介した後、この題材について考える為にAIを実際に体験出来るこちらのページにアクセス。
http://existor.com
(注意:音が出ます)

このサイトは、人工知能を持った女性が英語で質問した内容を文字と合成音声で答えてくれます。

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生徒にはこのワークシートが配布されており、この女性から名前や年齢、血液型など指定された7つの項目と自由質問7つの合計14の情報を聞き出す演習からスタート。回答はその時々によって異なるようで、年齢を聞くと「なんで貴方に答える必要が有るの?」という厳しい回答に遭遇している生徒も(笑 なんとなくiPhoneに搭載されているSiriとのやり取りを彷彿とされる感じです。
こうして実際にAIと対話をすることで、「コンピュータは考える事ができるのか?」についてチャットを使い意見出し・意見交換をする。最後にはその内容をマインドマップに纏めるという作業を行っていました。

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授業後マクルアー教諭に伺ったところ、今回の授業ではFreeMindというオープンソースマインドマップを利用。他にもマインドマップアプリはあるものの、実質的に開発が止まっていて開発者のフィードバックが無い物も多いためFreeMindを選んだそうです。マインドマップを使った思考整理と視覚化は今回初めてのトライだそうで、有効性が高いために来年度より本格的に導入を目指しているとの事。とはいえ、生徒に使ってもらうには相応の準備が必要なので、目下来期に向けて現在下地を作っていると仰っていました。

続いて、1/2時間目連続してMoodleを活用した授業を展開していたロブ・ブライト教諭の授業スタイルを紹介します。気づかなかった人が多いと思いますが、ある意味「反転授業」的なことをやっていました。

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Moodleとはオンライン上で教材の配布、生徒からの課題提出受付やその進捗管理などを行う学習ポータルです。広尾学園のインターナショナルコースはすでに昨年の同時期にお伺いした時にもMoodleを利用しており、今回の公開授業では事前にMoodleで配布されている課題や教材に取り組む生徒達の姿を見る事ができました。

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計算やメモはそれぞれ紙と鉛筆を使っているのがポイント。広尾学園ではこのようにデジタルとアナログのそれぞれの得意な部分を相補的に使うスタイルが生徒の中で確立されつつあり、それぞれ自分の使いやすいツールを「生徒自身が選んで」使っています。

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Moodle上の問題は単なる「紙の教科書や教材を電子化して載せただけ」ではなく、このように問題の回答を画面に入力して、その場で正誤判定を行ってくれる機能もあります。習った内容や他の教材を参考にしながら、紙で計算し、画面に入力をするというスタイルで生徒は課題を進めていました。

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また、Moodle上にはアニメーションや動画など「動く教材」も沢山格納されています。この授業では金属の化学反応について学んでいましたが、筆者もこういうネット上の「動く教材」で数学についての長年の疑問が解決した経験を持っており、こうした道具を元に学習できる生徒達がちょっと羨ましくもあります。

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授業中のブライト教諭は常に生徒の間に入ってサポートに専念。いわゆる「反転授業」における先生の役割(教壇に立って全員に同じ内容を講義するのではなく、生徒と同じ目線に立って学習を正しい方向に誘導する役割)を既に実施していると言えます。先生は移動しながら指導できるよう、iPadを使っています。MoodleはWebブラウザさえあれば端末は殆どのもので使えるのがポイントです。

MoodleMoocsのような自宅でオンラインで学べる仕組みはこれから多くの学校でもトライアルが進むかと思いますが、少なくとも広尾学園では様々な場所で同様の取組みが1年以上前から行われています。

なお、インターナショナルコースではiPadを生徒が使う事がないの?といったら答えはNO。実は、学校所有の共有iPadも用意されています。

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こちらはタイラー・フリン教諭による天文学の授業。iPadアプリ「StarWalk」を使って、様々な星座や天体を調べるというワーク型の授業。生徒の殆どは女子ですが、天文学は大人気のようで「今日はiPadで天体の勉強をするよ」という声に生徒達はやったー!というリアクションで大盛り上がり。(※筆者はもともと天文学者になりたかった)

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StarWalkは、iPadの向いている方向にある天体や星座を表示してくれるアプリで、生徒達はこのワークシートに記載されている天体を探すためあちこちでiPadを振り回していました。先生からは「お願いだからiPadを落とさないでくれよ!」と指示する場面も(笑

f:id:nomotatsu:20131222002048j:plainお目当ての天体を見つけると、インフォメーションボタンを押すことで天体の詳細やWikipedia英語版の記事を見る事ができます。こうして様々な天体を、それが存在する方角や位置関係を教室内に居ながらにして学べるのです。もちろん「実際に夜間に実物に触れる」ことも重要かと思いますが、こういう事前知識があることで視野はより広がる事でしょう。

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ワークシートの後半にはいくつかの課題も用意されており、それを解くために生徒同士が調べた内容についてディスカッションをしていました。この生徒同士のディスカッションも基本的にはすべて英語。ちなみに、英語が苦手な生徒を他の生徒がフォローするだけでなく、帰国子女の中には漢字が弱い生徒も居るようで、逆に帰国子女に漢字などを教えるような「学び合い」もあるんだそうですよ。

 

以上、駆け足で広尾学園のインターナショナルコースの授業を見ていきました。
どうしても目立つ「iPad」や端末といった部分に注目が集まりがちですが、広尾学園の良い所はその端末を活用するにあたっての「環境」までしっかり整えられていると言う所に有ります。インターナショナルコースではMoodleが中心ですが、医進・サイエンスコースという理系向け特進クラスや、一人1台のiPadを活用する中学校本科コースではGoogleサイトを最大限活用しています。
いずれも共通しているのは、こうした端末とシステムを活用する事で「先生の負担も軽減している事」。紙の課題や配布物は最小限、誤植や修正はその場ですぐに反映出来るといった部分がフレキシブルな授業に活かされています。
なお、今回の訪問では中学校本科のロングホームルーム内で教育向けSNS「Ednity」を活用しているという新しい動きも見る事が出来ました。これまで広尾学園ではベネッセコーポレーションと連携し、生徒の個々の学習ログを記録し、先生と生徒がコミュニケーションを行うといったサービスを使っていましたが、生徒同士のICTサービス上でのコミュニケーションはそれほど目立っていませんでした。(Gmailの活用はかなり前から行われていましたが) 生徒同士の学び合いを刺激する意味でも、今後こうしたサービスがさらに広がっていく事を大いに期待したいところです。

このような所をみると、「iPad」や「MacBook」を入れた事で広尾学園は成果を挙げたわけではなく、きちんとシステムやインフラという「見えにくい所」にまで知恵を絞って工夫をしてきた事が大きいことが分かるかと思います。勿論、その裏側には教育の「理想」を目指して試行錯誤を繰り返している先生達の努力があります。
午後のカンファレンスで同校のICT活用の顔、金子先生や医進・サイエンスコースの木村先生も仰っていましたが、ICT機器の導入が「目的化」してはならず、その機器を通じていかに教育の「理想の姿」を先生と”生徒”、場合によっては保護者といっしょに考えていくかが、最も重要なことなのではないでしょうか。