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EverLearning!

野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

【事例】開成学園におけるICT×読書の取組み

ひょんなことがきっかけで、私立「開成学園」を取材してきました。
記事として作成したのでいつもと文体が違いますが、非常に面白い事例なので是非共ご覧下さい。
 
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東京都、JR西日暮里駅から歩いてほど近く、都内の中学受験界では「男子御三家」として有名な名門校、「開成中学校・高等学校」。こちらでは約1年前から、少し変わったICTの活用が行われているという噂を聞き、サービス開発担当者とともに学校を訪問させていただいた。ここ2-3年ほど、学校現場でのICT活用、特にタブレットやPCを活用した授業の実践を行っている先進的な学校が脚光を浴びているが、今回紹介する事例はそうしたケースとは少し異なる。特別な端末は導入していないし、大きなルールや組織の変更なども行われていない。どの学校も「ごく当たり前」にやっている「ある事」にICTを適用する事で「新たな価値」を産み出す事に成功している事例だ。
 
その「ある事」とは、”読書” である。
読書といっても、電子書籍の話ではない。生徒達がふれているのは「紙の本」であり、一般的な家庭学習の一環としてそれを読んでいる。異なるのは、読後に課題として提出が求められている「読書レポート(本のあらすじ、紹介文等)」をICTサービスで管理しているという点だ。サービスを活用している同校の国語科教諭、森  大徳 先生にお話を伺った。
 

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インタビューに応じて下さった 開成中学校・高等学校 国語科教諭 森 大徳 先生
 
「今までは生徒が提出したレポートに赤ペンでコメントを書いていたのですが、どうしても1対1の関係になってしまうのが勿体ないなと、一人のレポート文を学年全員が読んで、コメントし合えたら面白いのにな、とずっと思っていたんです。」
森先生はこれまでの紙ベースの読書レポートで感じていた問題点をこのように語る。このサービスはその問題点を解決したというが、どのような仕組みになっているのだろうか?
 
 
■読書交流支援システムの活用方法

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 同校の中2学年で導入されている「読書交流支援システム」は、読書レポートを投稿し、管理するためのWeb型サービスだ。Web型なので、基本的にブラウザがあれば、PCでもタブレットでも、スマートフォンでも同じ画面で使う事ができるし、別の端末からアクセスしても他の端末で作業した結果がそのまま残っている。
 使い方は非常にシンプルで、予め登録してある自分のログインIDとパスワードをログインし、読んだ本をシステム内で「検索」し、「読書レポート」を投稿する。読書レポートの提出についてはこれだけでOKだ。本の検索は「Amazon」の書籍データベースと連動しており、書籍の表紙画像も表示される。また、画像をクリックするとAmazonの書籍購入ページにジャンプし、気になった書籍をそのまま購入したり、書籍のレビューを見たりすることも可能だ。
「生徒の読書レポートを見て、私自身が気になった本を買う事もしばしばあります」と森先生は語る。
 

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 投稿された読書レポートは、いったん「公開待ち」のステータスになる。公開待ちのレポートは、教員が「管理者モード」でログインし「承認」することで公開される。(画像の赤でマークした部分)
「生徒が自宅や学校から好きなタイミングで(読書レポート)を提出できるので、都度確認して、承認ができるのが楽だ」と森先生。こういった仕組みは不適切な言葉を使った投稿を防ぐ為に導入したというが、現時点で実際にそういったレポートが投稿された事は「ゼロ」だ。
これまでは提出期限時にまとまって「紙」の形で提出されてきた読書レポート。先生はその紙の束を何時間もかけて読み、赤ペンでコメントを入れていたが、この手間はシステム導入によりかなり軽減されたという。
 
また、面白いのは、「公開」された後の仕掛けだ。

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  まず、画像の上部に赤でマークした部分に注目してほしい。Amazonからは「本のページ数」データも一緒に取得している。これを「1ページ1km」と見立てて、読書マラソン」という形で生徒の読書量を測る指標にしているのだ。読書レポートを投稿するとこの「距離」が伸び、自分のアカウントに蓄積されていく仕組みだ。
 同校では生徒一人一人に対して読書量の「自己目標」を決めてもらい、期末にはその自己評価も行ってもらっているという。例えば、「今学期は1500ページ読む!」という目標に対して1600ページ読めたら「A」、1300ページ程度なら「B」といった具合だ。しかも面白いのが、これを成績に反映していることだ。目標はあくまで自分のペースにあった分量を設定するので、読むのが遅い人が不利になるということもないという。
 
 また、画像の下方では同じ本に対してレポートを書いた他の人が表示されている。これは最近映画にもなり話題になった「永遠の0」のレポートリストで、Page6まであることから相当数の人が読んで、レポートを投稿していることが分かる。このように、今生徒に人気の本や、他の人のアクティビティが生徒同士で共有出来ることが非常に好評だという。
 
 このような生徒同士のコミュニケーション機能には他に「コメント機能」がある。

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 誰かが投稿したレポートに対して、他の生徒がコメントをできるのだ。この機能で先生から生徒へのフィードバックはもちろん、生徒同士がコメントを通じたコミュニケーションができる。これにより、先の「レポートを全員が読んで、フィードバックを全体で共有する」ことが手軽にできるようになっている。こうしたレポートやコメントの投稿は学校にある共用のパソコンでも利用はできるが、殆どの生徒が自宅のPCやスマートフォンから行っているという。なお、コメントが多いレポートや、読書「距離」の多い生徒などの「ランキング」を表示する機能もあり、生徒達も意識しているという。
 
■導入によって得られた効果
 このシステム導入により、様々なポジティブな効果が得られている。まず、教員側のメリットだ。森先生は次のように述べる。
「今までの紙での読書レポートと比べて採点や管理の手間が減ったという部分も勿論有りますが、それより大きいのは、生徒の意外な一面が見える事です。読んでいる本やレポートから、普段からは想像がつかない一面を発見することもありました。」
 様々な先生にお話を伺って来たが、よく聞くのは授業で輝く生徒、スポーツで輝く生徒、学業で輝く子と言った部分は目立つので比較的把握しやすいが、潜在的な才能を持っている事に中々気づいてあげられない事を惜しむ声だ。そういう意味では、このシステムでは読書で輝く人や、他の人へのコメントなどのコミュニケーションで輝く子も見つけられるかもしれないし、意外な書籍を「探してくる」能力に長けた生徒も見つけられるかもしれない。多様な才能を見つける一助になる事は間違い無いだろう。
 なお、森先生によるとこの読書レポート、先ほどの自身の立てた目標に対しての達成度の自己評価が8%、読書レポートそのものの教員評価が12%で、合計で全体の20%を国語の成績に反映しているという。かなり大きな割合だ。このため、生徒の参加率はほとんど「100%」だという。
 一方、生徒にも様々な効果が出始めた。ひとつは競争意識から来る様々な”工夫”だ。「距離」で上位になるために一生懸命本を読む事や、より多くのコメントを獲得する為に文章やタイトルを練るなど、このシステムが有るが故に様々な「試行錯誤」が展開されているという。成績とは関係なく、他の生徒からの反応というモチベーションから読書量が増えた生徒も居るそうだ。また、このシステムにはクローズドな環境でのSNS的な性質がある事から、情報リテラシー的な要素を学ぶ場としても有効に作用する可能性もあるだろう。
 
■これからの展開
 森先生はこのシステムの今後の活用にあたり幾つかのリクエストも出している。
 それは「他の学校との連携」だ。学内、学年内だけでなく、学校という枠を超えて他の生徒からコメントがついたり、いいねと言ってもらえたりすることは生徒にとって更に大きなモチベーションになると指摘する。
 他の学校との連携となると、学校レベルでの合意は勿論の事、生徒同士の個人情報を適切に保護する仕組みも必要になってくるだろう。例えば、学内の生徒・先生同士では個人名が見えるが、学外のユーザーにはイニシャル表示になるといった具合だ。また、学校間連携を実現するにあたっては更なるセキュリティの向上と言った課題も出てくるかもしれない。
 
 筆者が個人的に期待しているのは、保護者や自治体・民間を巻き込んだ展開だ。保護者が自分の子どもの学校での活躍を見たいという気持ちは有るだろうし、自治体や民間を巻き込めばこのシステム内で表彰やコンクールの開催がシームレスに行える。応募の為の印刷や郵送といった手間も省けるだろう。
 
■「無理の無いICTの活用」事例として期待
 今回のインタビューの中で最も印象に残ったのは、生徒や先生がこのシステムを非常に自然に使っている事がイメージ出来た事だ。学校でのICT活用というと、タブレット端末を全員に配布し、WiFiなどのインフラも整備し、様々なソフトを導入して活用すると言った華々しい事例が注目されがちだ。マスコミもそういう事例をこぞって取り上げる傾向がある。
 だが、こうしたICTを学校内で利用していくにはそういった「ハードルが高そうな事」よりも「なるべく有るものを活用して出来る事」の方が圧倒的に現実的だ。特に、ICTを学校や教育に入れる事に対する価値が理解・共有されておらず、思い切った動きができずにやきもきしている方も多いのではないだろうか。
 その点、この事例はとても身近な「読書」が題材であり、導入に当たっても決して学校が「無理をしていない」。しかも、本を読んでレポートを書くという「一連の流れ」は変えておらず、誤解を恐れずに言えば「アプトプットであるレポートをICT化した”だけ”」だ。だが、この”だけ”という点がとても重要だ。冒頭でも記載したように、特に生徒に機器を配布したり、大掛かりなシステムを構築したりしたわけでもない。だが、ICTによるメリットはしっかりと享受している。
 このシステムに筆者が期待しているのは、「学校へのICT導入の入り口」として活用される事だ。読書感想を紙ではなくパソコンやスマートフォンで書くという行為については賛否が分かれるかもしれないが、先生と生徒双方にとってのメリットは大きい。しかも最近進んでいる「読書離れ」に対する処方箋にもなり得るために、支持を得やすいのではないかと見ている。
 ICTは一度メリットが学内に広く理解されれば、他のシステム導入への道が開ける。各学校に潜在的に居ると見られる「先進的な先生」にとっても、追い風になる事だろう。
 筆者は数多くのICT導入による効果を見て来ているが、このシステムには是非共学校でのICT導入の「敷居を下げる」役割を担う事を期待したい。