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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

文科省が考えている教育ICT施策の超概要をまとめました

文部科学省が同省のホームページで8/29に公開した

「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会」の報告書(中間まとめ)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/1351684.htm

について、全体を一読ました。
 大変良く纏まっている報告書なので原本を読んで頂くのが一番よいのですが、時間がない方でもその概要を理解しやすくする目的で、重要なポイントになりそうな部分を以下に列挙しておきます。なおこの報告書は2014年4月に発足した有識者懇談会の知見を纏めたものです。

■現状の課題
ICTを活用した恊働学習や課題発見/解決型授業が出来ている学校は小中とも半分以下
・TALIS 2013調査では「生徒が課題や学級の活動にICTを用いる」指導実践を頻繁に行う教員の割合が全参加国・地域で最下位
・2011年に掲げられた教育の情報化ビジョンが遅延中、特に情報端末/デジタル機器/ネットワーク環境、校務の情報科、教員への支援が遅延、地域格差も顕著
(シンガポールが2010年時点で生徒2人に1台のコンピュータが有るのに対し日本は2013年時点で6.5人に1台。国内でも最大は4.3台/人、最小は8.4台/人と差がある)
具体的な情報端末等の整備計画がある地方公共団体は3割のみ
校務支援システムが完備されている都道府県は山口、佐賀、大分の3県のみ
地方財政措置として1,678億円×4年が投入されているが整備は思うように進んでいない

■懇談会で提言されている指針
・ICT化の推進には端末・環境整備に加え、ICTを活用した教員の指導力強化、外部専門家による指導・助言および評価が必要
内閣府世論調査では7割以上の保護者が子供にスマホを与える事に不安、リテラシー教育強化にむけ啓発資料の作成・周知が必要
・端末が普及し、生徒の端末に学習データが蓄積されるのを見越した、データの適切な取扱いのガイドライン設定が必要
地方の過疎化対策としてICTを用いた遠隔教育の効果検証が必要
・国内では全産業中IT産業が8.9%で最大規模だがその担い手が不足しており、初等中等教育段階からその育成に力を注ぐことが必要、プログラミング教育もその一環として注力すべき
・教員が多忙すぎるとの調査結果の一方で、今後数年内に起きる教員の大量退職による年齢構成の変化に備え、指導力強化が必要、ICTはその一助になり得る
・そのため、各校でICT活用のリーダー的教員を育成、周囲に浸透させる方針
次期学習指導要領・解説では更にICTを活用した指導方法を明確化する
 ・さらにICT活用授業を教員研修や教員採用選考、教員免許状更新講習などへ導入する事が望ましく、これに向けて教育委員会や大学が連携しプログラム策定と体制構築をするべき
・ICTを活用した授業を進めるため、未整備地域においてはまず電子黒板や実物投影機を早期に完備すべきとの指針
タブレットはOSに依存しない環境整備を早期に進めるべき
・すでにタブレットの導入が動いている自治体ではサポート体制や教員の指導力強化研修などの支援体制を用意する事が適当
・これらの支援ノウハウを共有する基盤として、国立教育政策研究所が運営する教育情報共有ポータルサイト(CONTENT)を活用することが適当
・こうした機器調達には規模の経済を働かせた大量調達(複数地方公共団体での合同調達)によりコスト削減を図るほか、コスト低減に積極的な民間企業と国が連携し、教育情報化に関する情報交換や共同説明会等の官民一体プロジェクト等の取組みを促すのが良いという指針

■スケジュール感
これらの施策を2017年度までを「加速期間」として推進していく
・2015年−17年度にかけ、ICT教育効果の検証、学習データ利用法の検討、過疎化/少子化対策としての遠隔教育の開発・普及・促進、情報モラル教育の充実、整備コスト低減に向けた官民一体のプロジェクト運営、情報共有基盤の構築・運用
・2014年度はその準備期間。先行して校務情報科検討、高校遠隔教育の検討、教員リーダー養成プログラム開発、1678億円の地方財政支援、デジタル教科書標準化、NW構築の在り方の検討 などが開始済み/今後開始の予定


■上記を纏めた上での所感
 最後のスケジュール感の部分だけを見ても、2015年度は様々な施策が一気に動き始める年度と分かります。つまり、2014年度までの成果がこの先の方針・意思決定に大きく響くとも言えます。
 特に企業においては、コスト低減に積極的な企業と国が組むという指針が見える事から、既存プレーヤーだけでなく様々な工夫により低コストで同等の課題解決が行えるソリューションを提示できる(かつその機会を得られる)企業にはチャンスがあるかもしれません。また、プログラミング教育を推進するべきでは、という意見が提示されているのも注目に値します。
 個人的に気になったのは、教育ICTの情報共有のデータベースとしてCONTENTが明示されている事と、タブレットのOSに依存しない環境整備という部分の2点です。前者はちょっと勉強不足なのですが、同等主旨のサイトは既に幾つかあるので、うまく統合する方向に動いてほしいと思います。後者については「平成25年度 教育分野における最先端 ICT 利活用に関する調査研究 報告書」にも示されている「webアプリケーション」の活用が見え隠れするのですが、個人的にはプラットフォームを選ばないアプリケーションは将来的なOS混在環境において理想的と思いつつも、まだブラウザベースで充分なUI/UXを提供できるレベルに達していない(それを支えるインフラ設計もきちんと出来ていない)と思っていますので、いきなりここを目指す事には少々、疑問があります。開発する側は厳しくなるかもしれませんが、複数OS向けのクライアントアプリがあるソフトウェアを上手く活用する方が良いのでは…。ネットワーク障害が起きたら、一切授業ができなくなるブラウザ依存型のシステムに向かうには、まだ時期尚早という気もします。