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EverLearning!

野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

1年前に示されたICT導入の懸念はどこまで解決した?

昨年の夏、当方はSNSの人脈を通じて学校の先生へのアンケート調査を実施しました。
有効回答が97件も集まり、大半はGoogleサイトのアンケートページから回答頂いたもののでした。
その時のアンケート結果はこちらから閲覧できます。


「学校の先生へのアンケート」結果について


今回の記事では、このアンケートの自由解答欄の記述で示された様々な懸念やご意見を1年少々たった現時点で改めて振り返りたいと思います。

自由回答の質問は以下のようなもの。
「(ICT化について)教育のICT化について不安があれば自由に記入してください。」

ここについては、かなり多くの方が自由回答をお寄せくださいました。
幾つかに分類しながら、現時点での当方の知見からコメントをしてみたいと思います。

 

【業務負荷に関する不安の声】
・ICTが苦手な教員の世話が増えそう。
・先生方の不安を解消するための支援で忙しくなりそうです。
・導入者の負担が校務として増えても、通常の学校活動の中でまったく優遇がない。結局、じゃあ誰がやるか、そのための他の部分での負担軽減がないと誰も導入に前向きにならない。
・得意ではない教職員に対してのフォロー体制を確立できないと、なかなか進展がないと思います。

・使いこなせるようになれば便利だし、作業の効率化、準備の軽減などにつながるとは思うが、使いこなせるまでが大変。1つの教材を作るのに1時間、2時間と平気で立ってしまう。余計に仕事量(時間)増えてしまう、というのが不安。
・ICT化により情報の共通、教材の共通化が図れるが、他の負担が増えることは間違いない。
・導入に関しては教育委員会等が中心となると思われるが、活用に関する研修や設備の維持などの面では各学校にお任せということが多くなると思う。 そうなると、担当になった職員の負担が増え、導入するメリットが薄れてしまうといったことも考えられる。特に、設備の維持は予算が絡むので更新されなければ古いICT機器がそのまま使われ、生徒が新しい機器に触れるということは皆無に近くなる(初期導入は行うが更新が滞る) 導入するためのマスタープランをしっかり作成する必要があるのではないか(維持・更新などの予算なども含めて)  
・ICT化が成績管理とか、生徒の個人情報管理についてはすすみつつあるが、結局、担当の分掌の教員に作業負荷がふえるだけの傾向があると思う。ハード面は充実してほしいが、操作などについての研修費用やら、サーバ管理などの人的費用などもこみでのICT化であってほしい。

→ こうした「導入に伴う業務負荷」については、初期導入フェーズ(構築・初期研修)活用・運用フェーズに分かれると思います。問題は後者で、売上が出る”導入フェーズ”については企業や導入推進側も一生懸命ですが、その先の「活用・運用フェーズ」について事前に考えきれていないケースがあると聞きます。いわゆる「ICT導入のシャドウコスト」問題です。
最後のコメントにもあるように「活用(運用)については現場にお任せ」というのはままある話で、使い方や利便性がしっかりとついてこなければ、使われなくなり、「無駄な投資」になってしまうリスクがあります。電子黒板が一部でこうなった過去からしっかりと学び、現場に丸投げではなく企業や教育委員会などの導入推進側が、初期導入時にある程度「アフターフォローコスト」をきちんと計算しておくことも重要でしょう。(最も、この辺りが一番協議によって”削られがち”でもありますが…)
この問題については、ある程度の導入事例の経験値だけでなく活用・運用の経験値もたまってきていると思いますので、あとはそれをいかに「共有」するかがポイントになりますね。問題は、継続的な「苦手な先生へのフォロー体制」をどうするか。ICT支援員のコスト捻出が厳しい自治体も多いなか、これを低コストで確実に”維持可能”な仕組みにするためには、情報共有だけでなく”情報活用”の力が現場にも求められるかもしれません。


【導入しないこと自体が不安であるという声】
・導入しないと淘汰されます。
・私立学校に勤務しています。周辺の学校のICT化が進み、自分たちだけが遅れてしまうのでは、と不安です。

→これについてはこの1年間で、私立を中心にさらに顕在化しているように感じます。私立学校は文字通り少子化の中で生き残りをかけた「差別化」が進んでいますので、ICT以外の特色がうまく出せているところはまだしも、そうでないところは一つの武器としてICTやタブレットなどの導入がここ1−2年で多々出てきそうだと感じます。

【教員のスキル・異動に対する不安の声】
・教員のICT活用スキルが低すぎる。
・多くの教員がICT機器を使いこなせるかが不安である。
・アナログ媒体の「置き換え」としてデジタル機器を設置し、「アナログでできたことができない(やりにくい・慣れない)」という理由でICT導入を避けたがる教員が予想以上に多いこと。 「慣れ」をどう壊していくか。
・自分がICTを活用することにたいする周りの妨害。
・講師を招いての研修会が必要である。 

・変化に対応しづらい教員は、まだたくさんいます。宝の持ち腐れにならないようにどうするかが大切になると思います。 ipadには、可能性を感じます。
・情報機器に詳しい人が転勤すると滞ってしまう場合が多いです。 学校に情報機器活用を円滑に推進していただける支援員さんがいてほしいと思います。 機材の初期導入の費用より、通信費をどうするのかなどの維持費の捻出に困る現状があります。 ICT化により子どもの支援の幅は確実にひろがると思いますが、教員の仕事量が減るとはあまり思えないです。それは各自の意識の問題でもあるからです。
・各学校・各自治体事にバラバラのものが入ってきたときに、異動によって今までのノウハウが使えなくなってしまう可能性がないだろうか。 プロジェクタと実物投影機と大型テレビと…というあたりならば問題は無いが、タブレットやパソコンが入ってくると、今まで作ってきた教材データが流用できなくなる可能性はないだろうか。

→教員のスキルについては、個人的には児童生徒に協力してもらうことである程度は追いつけるのでは、と最近の事例を見ていて感じます。色々と制限を課すと、児童の知的好奇心が悪い方向に行ってしまいがちですが、逆にそうしたスキルや知識・応用力がある生徒に運用や活用の一部を委任することでうまく回る事例は沢山あります。
一方で気になるのは「妨害」や「導入を避けたがる」という一文。これは、反対派の教員はハッキリとは言わないケースが多いのですが「今までのスキル・やり方が通用しなくなる」ことや「授業の主導権を握れなくなる」ことに対する抵抗感、もっというと「最終的にICTによって教員という職業が不要になるのでは」という誤解が根っこにあるような気がしています。実際には、教員に求められる役割が「一方通行に話す人」から「学びの水先案内人」に変わる部分はあるでしょうが、個人的には教員が不要になることは絶対にない( ∵ もしそうであればとっくにeラーニングが世の中を席巻しているはず) と思っています。こうした誤解を解く地道な活動も必要ですね。(特にICTで紙や鉛筆、黒板とチョークが置き換わるという誤解は、未だに多いですから…)
人事異動でICT推進の流れが切れてしまう問題については、淡路市教育委員会のように、異動しても先生に機材がついて回る「エバンジェリスト方式」も登場してきましたので、こうしたノウハウがうまく共有されていけば解決に向かうかもしれません。

 

【導入そのものの弊害を不安視する声】
・授業中、学生がICT機器(特にPCやタブレット端末)を本来の目的以外のために用いて授業に集中しなくなることを懸念しています。
・私の勤務する特別支援学校ではどこでも同様かと思いますが、子どもたちが障害があるが故の合理的配慮の一つとして様々な支援機器や人的支援が必要です。したがって、ハイテクな支援機器が導入されていくことは、障害のある子供たちにとっては人として輝いて生きることができるための権利であると考えます。不安といえば、ネット活用にあたって、悪意のあるサイトやサービスに引っかからないかということでしょう。
・急速に進むと導入したけど使わないという負の連鎖に陥る。
・現場で本当に使える教育のICT化が行われるかどうか。
タブレットのアプリなどが、教員がアレンジして使うことができないほど、過剰に「完成」していると、教材から柔軟性と弾力性を奪うことになると思い、その点について不安を感じています。 アプリ等を活用し、教員が教材を編集できるような可能性を示したり、有意義な実践事例を示すような支援(啓蒙?)があるといいのかもしれません。
・年齢による利用形態の差をきちんと考えねばならないと思う。 紙の辞書や地図帳を利用できること、それも単にスキル以上のものが要求されると思うし、コミュニケーション能力や情報の批判的学習能力のない小さな子どもに、いきなりのブログやSNS利用は、交通ルールを知らない子ども一人で大通りに出すようなものとも言える。 著作権名誉毀損なぞ法的な枠組みに対する理解も必要でしょう。

→目的外利用の不安は常につきまといます。公開授業やメディア報道では良い面しか出てこないのですが、現場の事例を聞いていくと大なり小なりの課題はあるようです。このあたりは学年や年齢に応じた適切(この匙加減が難しい)なコントロールが必要だとは思います。
ちなみに、高校生レベルではある程度、自由にアプリの追加などを許容するほうがリテラシー醸成が進むということと、変な使い方をすれば「バレる」とか「使うのを中止せざるを得ない」といった抑止力をうまく理解してもらうことの2点で、大抵の問題は解決しているように感じます。
また、ICT導入の「目的」や「理念」が中途半端だと悲惨なことになる、という指摘は賛成派・反対派ともに非常に多く見受けられます。もちろん、導入前から完璧な理念は作れませんので走りながら考えることも重要ですが、考えた結果はキチンと残していく、それを共有する仕組みが重要かなと思います。

 

【予算に関する不安の声】
・現場の意見、要望や既に学校単独予算や自費で導入、研究している財産を無視しての機器選択やソフト面の選択。 今までが、何回主張しても分かりました。で…現実は違う。 新しいネットワークに教育の概念が無い縦割り行政。
・国の政策として推進すべき。予算によって整備状況が違うのはおかしい
・不安と言うよりも、愚痴になりますが、いつも予算が少なく中途半端な設備が導入されます。結果として教員も生徒も便利さを実感できにくくなっている現状があります。
・ICT化により予算が機器にもっていかれ、教員の給与が減るのではないかという不安があります。

→ これは非常に難しい問題で、自治体も教育ICTは進めるべきと理解しつつも、その承認を得るための「理由付け」に非常に苦しんでいるという現状もあります。特に教育ICTの導入の「効果」を測定する基準がはっきりしていないと、他に顕在化している課題を解決する方向に予算が奪われるケースが多々。さすがにICT化で教員の給与が減るという話は公立学校では無いと思いますが、予算についての統一基準が無いことは地域格差に繋がりかねない、一方で強制力のあるガイドラインなどを作ると地域ごとの特色が出せなくなるという痛し痒しの部分もあり、当方としてはここにまだ答えを見いだせていません。

【そのほか】
大学入試制度が、知識重視型から変わらなければ、国数理社英の教員のICT化が進まないという根本的な問題に不安があります。 ただ、教育のICT化によって、教員による教え方の上手い下手のバラツキが是正されることを強く期待しています。

→ これは学習指導要領の改訂が今後どのように進むかに期待したいところです。教務力のバラツキは、うまく進めないとかえって拡大しかねないので、そこをどうするか。

 

授業の効率化、高度化は重要だが、その意味が人によって異なること。 デジタル教材やデジタルドリル等によって、工夫がなくなる、生徒が一人で勝手に勉強できる、等のことを「効率化」と捉え、それを有難がって導入しようとして賛成する人、反対する人。本来の授業の高度化、不要な手間の効率化と捉えて賛成する人、反対する人、が出てくる。 この場合、全く逆の意見を持ちながら、同じ「賛成派」などと捉えられてしまう可能性がある。 この、誤解がある状態で賛成、反対の議論をするのは大変不安がある。 

→ 教育における「効率化」が果たして本当に正義か?というと、そうでもないことがあると思います。非効率でも、一つの問題を前にして数時間頭を悩ませることも時には必要ですし、高等教育になればなるほど「自己解決力」を養うためにも、こうした思考訓練・試行錯誤は必要です。むしろ「効率化」されるべきは、自分自身で考えたり思い悩んでもなかなか解決しない事や、従来の手法では絶対にできないことに対して向けられるべきであり、そこにICTが入っていくことが望ましいと思います。例えば、語学であれば「スピーキング力やライティング力を測定する」ということは先生ひとりでは相当厳しいですが、ICTによってある程度は機械に判定させる技術も登場しています。効率化すべきところと、そうでないところは、きちんと見極めるべきですね。

 

教員の技術の差というよりは、意識・意欲の差によって、生徒のICT活用能力やメディア・リテラシーに大きな差が出てしまうこと。これは、「塾」や「予備校」では埋められず、しかもコストがペイすることがないと(私は)予想するために、民間企業が参入して「ICT塾」を開校することはないから、その差を生徒個人や保護者が埋めることはたいへん難しくなる。生徒個人の問題であると同時に、じつは、情報弱者のような「弱体化した市民」を生産することになるのではないかと危惧している。それは、日本の弱体化につながるだろう。

情報格差の問題は、学校よりもむしろ地域や親の中で深刻になっていると思います。しかもこの格差は遺伝する傾向があると考えています。ICT活用塾のようなものを民間が開設することがコスト的にペイしないかどうかは別としても、企業がCSR活動の一環として行っている情報リテラシー教育をもっと発展させて、地域や自治体との連携を進めることで何かできることがあるかもしれない、とも思ったりします。

ということで、まだまだ1年前の多くの「不安」については明確に回答できない問題は多いものの、確実に言えることは「ノウハウは溜まっている」ということです。
これをどう共有するか。アクセスしやすい場所に置くか。しかもノウハウは多すぎたら見てもらえないし、少なすぎたら役に立たない。この辺りを「どう整理するか」も重要なテーマです。

そろそろ、こうしたICTの情報共有を官民学が一体となって推進できるようなDBなり、ポータルが欲しいところなのですが、いいところ、ないですかね…。