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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

同志社中学校×オンライン英会話「ベストティーチャー」コラボ公開授業

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2015年2月9日(月)、京都にある同志社中学校にてICTを活用した英語の公開授業が開催されました。オンライン英会話スクールを運営する「ベストティーチャー」とコラボレーションし、Skypeを使った海外とのリアルタイムコミュニケーションを同時多数並行で実施するという内容でした。

ベストティーチャーについての詳細はITMedia TechTargetの拙稿“世界に1つだけのテキスト”で正しい英語が話せる「ベストティーチャー」を、また同志社中学校のICT環境や特色ある教育については同Tech Targetの神谷 加代氏の記事 同志社中学校がiPad miniで実現した“英語が話したくなる授業”とは?  および 「iPad mini導入」は始まりにすぎない――同志社中学校がIT活用に挑む訳  を参照をいただくとして、本稿では公開授業の内容に絞ってお届けします。

 

「会話」の機会を最大化する授業設計

一般的な中学英語の授業では、生徒が「発音」をする機会はあっても、第三者と「話す」機会は実はかなり限定的。ネイティブのALTや授業担当教諭との掛け合いは、授業時間を生徒数で割ると、一人あたり2,3分レベルになってしまいます。しかし、英語が「伝わる」経験や「相手の発言内容を理解できる」経験は非常に重要で、英語力の向上や自身の課題を知る絶好のチャンスでもあります。多くの先生がそうした「話す」機会の創出に悩む中、今回のベストティーチャーとのコラボではなんと12人の英語講師が生徒のためにSkypeにスタンバイし、2−3名の班に一人の講師がいるという非常に贅沢な状態で進められました。「一人ひとりの生徒が英語を”聞く”機会、”話す”機会を最大化」した英語の授業と言えそうです。

 

授業の設定は以下のような流れです。

・6人の英語の先生(それぞれ出身国はバラバラ)がiPad上のSkypeに待機

・授業の初めにToday's Taskの確認

・3分で先生の名前と出身国、そしてその先生の特徴(好きな食べ物や趣味など質問内容は自由)など、
 なるべく多くの情報を聞き出す
・ただし、出身国についてはズバリ「どこの国出身ですか?」と聞いてはいけない。

・3分経ったら、次のSkype講師にスライドし、また3分間で新しい先生のことを聞き出す
・これを6回繰り返し、各班で先生の名前と出身国をリスト化したものをロイロノートで提出

・最後に、特定の先生を紹介するスライドをロイロノートで作成し先生に提出

つまり、各班で最低でも3分×6回=18分間程度「会話」を行うチャンスを与えていることになります。これを2クラスで同時に実施していました。もともと同志社中学校では英語についてはハーフクラス制度を導入しており1クラスの人数が少ない状態で授業を受けられるのですが、さらにそこにハーフクラスごとに6名の講師がつくので、非常に贅沢な「英会話」の環境と言えるでしょう。


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ベストティーチャーのサービスの特徴として、事前にSkypeの会話に使う台本「スクリプト」を専任のライティング講師と一緒に作成し、その内容に沿ってSkypeレッスンを行うというものがあります。が、スクリプト作成には通常のベストティーチャーのスキームだと少々時間がかかるので、今回の公開授業では各班ごとに固定の質問(名前と出身国を聞き出す、ただしその表現方法は自由)と自由質問をグループで10問程度を英作文し、事前に授業担当教諭にチェックをしてもらった上でSkypeレッスンに挑むという方式を行っていました。写真は、その事前に用意した英作文シートに質問の答えを記入しながらSkypeレッスンを受ける生徒の様子です。

 

ロイロノートスクールの比較機能も併用

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3分×6のインタビューが終わった後、担当教諭(写真は今回の公開授業にお招きくださった反田先生)がロイロノートスクールの「集約(比較)表示機能」を使って各班の回答を一覧表示しながら答え合わせをしている様子です。ほとんどの国名を当てたツワモノグループも登場。
このあと、特定の一人の先生を選んで、その先生を紹介するスライドをロイロノートスクールで作成するという作業に各自が取りかかりました。あまり馴染みのない国の先生もいたようで、各自のiPadSafariをつかってその国の状況を調べる生徒が目立ちました。

 

公開授業を終えて- インタビュー

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公開授業のあと、今回の授業を企画した背景についてベストティーチャーの宮地社長と、同志社中学校の反田先生に個別にお話しを伺うことができました。
(写真左が反田先生、右が宮地社長)

ベストティーチャーと同志社中学校とのコラボのきっかけは、Villing Venture Partners という教育向けベンチャー支援組織のイベントで出会ったことだそう。ベストティーチャーとしてはすでに同志社が中学校1年生全員がiPadを手にしていることも追い風になったそうです。出会ってから数ヶ月後となる12月、ベストティーチャーは同志社中学校の「特別講座」で希望者に英会話Skypeレッスンを実施、これが大変な人気を博し、一部保護者も参加、見学に駆けつけたということから、今回の公開授業でのコラボが決まったそうです。

公開授業について宮地さんは「講師の確保が大変だった」と振り返っていました。通常はすべてがオンラインで完結するベストティーチャーにとって、今回のような”公開授業”は初めての経験。常時7−8名のネイティブ講師がSkypeレッスンのために待機しているとはいえ、今回はそれを上回る人数で、さらにクイズの性質上”すべて異なる国籍であること”や”中学生でもわかりやすい表現ができること”などの条件も加わっています。しかし、もともと多彩な国の英語に触れることが必要というベストティーチャーの講師採用ポリシーもあり、無事に対応できたそうです。宮地さんは今回の公開授業で「ある程度感触を得たので、今後学校向けの展開も検討していきたい!」と意気込んでいました。
(実際に、ベストティーチャーのホームページでは学校向けの案内が掲載されています)

一方反田先生は、「こうした形の授業を取り入れることで、これからの英語学習に求められてくる”4技能”の育成に大きな効果があるのではないか」と期待しているとのこと。ちなみに、Skypeを使った「国当てゲーム」はEdTech業界に詳しいデジタルハリウッド大学の佐藤昌宏教授のアイデアとのこと。反田先生はそのアイデアを3分×6セット、かつジグソー方式を取り入れたゲーミフィケーションを盛り込んだ授業デザインに仕立てたということです。特に今回の3分×6という方式は「最初の先生との会話で失敗したり、自分が出せなくても次の先生の回に気を取り直して”再トライ”できる」「一先生あたり3分の時間制限を設けることで質問を一つでも多く発話しよういう気持ちが後押しされる」という点がポイントということ。確かに、作文が正しくできても限られた時間でそれがうまく相手に伝わるように「発音」できるかは全く別問題。それを複数回、トライする機会があるのは非常に良いことかもしれませんね。

 

今回の見学で、教育におけるICTの活用が「これまで難しかったことが普段の教室で可能になる」という実例をまた一つ、垣間見た気がします。