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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

WWDCビデオによるとiOS9で教育分野のiPad管理が大幅に改善されそうです

今日は先日米国で開催された「WWDC」ではiPadiPhoneを「運用・管理」するための新機能・機能向上が多数発表されました。本稿では当方がWWDCのビデオを視聴し、「教育分野でのiPad運用管理に寄与しそう」と感じた部分を紹介します。

事前にお断りしておきたいのは、この情報はWWDCの公式サイトで閲覧できるビデオの情報をもとに作成しており、実際のリリースまでの間にこれらが一部変更されたり、機能としては存在しても日本では利用できない可能性、そしてMDMやアプリ側の設定に依存する内容はiOS9を導入してもすぐには利用できない可能性があるという点です。
また、ビデオは全編英語なので、当方の英語力不足で一部誤訳や解釈の相違が含まれる可能性もあります。以下の情報をビジネスシーンなどで活用したい場合には必ず原典にあたるようにしてください。
ビデオは以下のリンクから見ることができます。

What's New in Managing Apple Devices - WWDC 2015 - Videos - Apple Developer

1. MDMから遠隔でアプリをインストールする場合でもApple ID が不要になる

これまではiPad上にAppleIDを設定せずにアプリを配布するには、Apple Configuratorを使ってUSB経由で導入する方法しかありませんでした。MDMからアプリを配信する場合は、MDMから各iPadに対し「App Storeから指定されたアプリをダウンロードしてください〜」的な指示を遠隔で出しています。App Storeからアプリを落とす=Apple IDが必須であり、さらにiPad上でApp Storeを表示しておかないといけない(機能制限を使えばApp Storeを隠すことができるが、この状態だと先のダウンロード命令が通らない)という制約条件がありました。

しかし、iOS9からはApple ID に対してではなく「デバイス」に対してアプリを割り当てることが可能になります。Apple IDを事前に設定しておく必要はありません。これで、多くの学校がiPad導入時に悩む「生徒の人数分だけApple IDを取得する」という苦行から解放されることが期待されます。(ただし、ビデオを見る限りアプリ側でも対応が必要っぽいので、教育系アプリをリリースしている企業の方は要チェックです)

ちなみに、現行のApple IDで管理しているiPadから、この”デバイス”管理方式への移行も可能とのこと。その際、ユーザーが作成したアプリ内のデータが消えたり、アプリを再インストールしなくても良いそうです。不要になった有料アプリのライセンスを回収して他のデバイスに再割り当てすることも、今まで通り可能とされています。

さらに嬉しいのが、”AppStore”アイコンを隠した状態でも、遠隔でアプリをインストールすることが可能になるとアナウンスされていることです。多くの小中学校では生徒が勝手にアプリを追加することがないようAppStoreのアイコンを非表示にしていると思います。このため、アプリを遠隔配信するには、MDMから一時的に「App Store」制限を解除し、アプリを配った後に再びApp Storeを隠す、という手順が必要でした。
(もちろん、生徒を信頼して最初からAppStoreの制限をかけていない学校もあります)

この変更は、iPadの導入時の手間を減らすだけでなく、現場の要望に応じたタイムリーなアプリ導入をより行いやすくするなど、今回最も嬉しい改善点ではないでしょうか。

2. MDMから一斉にiOSの最新版へのアップデートを指示できるようになる

iOSのアップデート管理は管理者にとって悩みの種ですが、iOS9からMDM経由でその制御ができるようになるようです。といっても、すでに数百台レベルでiPadを導入しているような学校にとっては、それらが一斉に最新版のiOSにアップデートしに行くとWiFiインフラに負荷が集中するので、現実的にどれだけ役立つ機能かは未知数…。
現実的には、管理者が対象端末をどこか一箇所に集めて、WiFiへの負荷や状況を確認しながらMDM経由でアップデートの指示をだす、という使い方になるでしょう。でも、MDMがこの機能に対応してくれれば、使い勝手が向上するのは間違いないですね。
個人的には「iOSのアップデートを抑止するオプション」を早く実装してくれるとありがたいのですが、ビデオを見る限りではそういった機能には言及されていません。

3.「パスコード」「壁紙」「機器名称」などの変更を制限可能になる

よく小学校などで「学校のiPadに生徒が勝手にパスワードを設定して他の生徒や先生が使えなくなって困る」というトラブルを聞くのですが、それを防止する手段がついに提供されました。また、iPadの名称をせっかく出席番号・学籍番号に揃えても、ユーザーがあっさり変更できてしまうという問題も、今回解消されます。

この制限を適用すると「設定」アイコンの中から「パスコード」や「壁紙」の項目そのものが消える仕様になっています(冒頭のビデオの19:30前後にそのデモがあります) ので、パスコードの場合は事前に設定してある場合はそれが変更不可に、逆に未設定の場合はパスコード設定を追加することが不可能、ということになります。

なお、今回は新しい制限機能が色々と増えており、画面上からは「Appの自動アップデート」(要監視モード)といった気になるワードもあります。もしここからアプリのVerUPを制御できるようになると嬉しいのですが、詳細はビデオでは言及されていないので実際にチェックしてみるしかなさそうです。

4.VPPやDEPのシミュレーターが利用できるようになる

これは主に開発者向けのツールとなるようです。VPPは、教育機関が有償アプリのライセンスを購入する際に20本以上まとめ買いすると(アプリのよっては)半額になるという「Volume Purchase Program」の略です。VPPを使うと、MDMから遠隔でユーザーが気づかないうちにアプリをインストールする「サイレントインストール」が使えたり、ライセンスが不要になった時には利用権利を回収することでアプリが勝手に消える、といった制御面での利点があります。また、DEP(Device Enrollment Program)はiPadの事前設定作業を自動化するサービスです。

VPPもDEPも、これまで事前検証する手段が非常に限られていたので、実際に導入してみたら想定通りに動作しなかったり、様々な制約条件があって苦しんだベンダーの方も多いと思います。このシミュレーターである程度の事前検証ができることが期待されます。特にDEPについては、日本国内では本校執筆時点でまだAppleKDDIから購入したiPad/iPhoneでしか利用できないという制約条件があるため、シミュレーターで動作イメージを事前にチェックできるようになるのはありがたいですね。

5. Apple Configurator2によるキッティングの効率化

AppleConfiguratorが初のメジャーバージョンアップを果たしました。主な機能強化点は以下の通り。

・複数のMacApple ConfiguratorによるiPadの分散管理と設定情報の共有
→ 従来はMacごとに管理しているデバイスのデータベースを持っており、これがMacの全体をバックアップしない限り他のMacに移行することができなかった(言い換えれば、母艦のMacのバックアップを取らずに故障していたらThe ENDだった)のが、内部に端末のデータベースを持つのをやめることで、Mac A で管理していたiPad  をMac Bでの管理に移行するなど、柔軟な運用が可能になります。これにより複数のMacで設定を共存することも可能となり、分散管理が可能になります。

・オフラインで利用可能に
→ 従来は起動時にインターネットに接続していないと強制終了されてしまう仕様だったのですが、今回のバージョンからオフライン利用ができるようになりました。

・管理下のiPadに対して「タグ」をつけて管理
→ 例えば「4年生のiPad」といったように分類を行っておけば、そのタグがついたiPadだけん対して設定変更操作を行うといったことも可能。カートなどを使って大量のiPadを管理している学校には嬉しい機能かも。

・アプリのアップデートをAppleConfigurator単独で実施可能に
→ 今まではConfigurator経由でアプリを入れる時には、iTunesなどを使ってMaciPad用のアプリを事前にダウンロードしておき、それをConfiguratorに登録してiPadに配るという操作が必要で、アプリのVerUPの時も同様の手順が必要だったのですが、今回からはiTunesに依存することなくアップデートが可能になるようです。

DEPとの連携も可能に
→ 詳細は実際に使ってみないとわからないのですが、「Automated Enrollment」という名称で、従来の設定アシスタントを使う代わりにApple ConfiguratorからDEP対象のiPadに指示を出すことが可能となるようです。もともと全てが無線で完結するのがDEPのメリットであるわけですが、Apple Configurator2を使うことでこのあたりの手順がどのように効率化されるのか、要検証ですね。

・「BluePrint」よばれるテンプレートを保存し、一斉に適用可能に
→ 従来のApple Confguratorでは1パターンしか保持できなかった設定内容を複数保持することが可能になります。端末の名称、導入するアプリ(VPPにも対応)、構成プロファイル、前述の「タグ」などを1つのテンプレートとして登録し、対象のデバイスに一気に適用することができます。1校で複数のポリシー管理を行っている場合に便利そうですね。
コマンドラインスクリプトによる設定自動化にも対応
→ ビデオでは口頭で言及されているだけですが、BluePrintよりもさらに自由度の高い自動キッティングワークフローがデザインできるような機能を備えるようです

上記の新機能の一部は、冒頭のビデオの36:10あたりからデモで見ることができますので、Apple Configuratorを普段から使っているベンダーの方や管理者の方は、一度見ておいて損はないかなと思います。

 

以上、WWDCのビデオ内容をもとに気になったiOS9とiPad関連の機能強化を紹介しました。


β版のiOS9とApple Configurator2 はデベロッパーサイトで入手できるとのことですが、サイト内にある一般公開前のアプリやiOSの仕様について言及することは規約で禁止されているので、気になる方はiDEPに登録して実際に試して見るしかありません。
また、β版はどんどんマイナーバージョンアップをしていくのが通例で、最初のバージョンでは不具合が潜んでいたり、いつも間にか機能のアップデートがあったりすることもしばしば。

最終的には、秋にリリースされるパブリックβ版や正式版で検証をすることが重要になりそうですね。