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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

桜丘中学・高等学校ICTオープンスクール 2015夏レポート

2015年7月17日(金) 10:00−13:00に東京都北区にある私立中高一貫校「桜丘中学・高等学校」でオープンスクールが開催されました。教職員など教育関係者に限らず、保護者や企業の方が250人以上集まりました。筆者も訪問してきましたので、レポートをお届けします。

同校は2013年度より教職員に、2014年度より生徒にiPadを一人1台導入。2年度目にあたる今年は中学1−2年と高校1−2年の生徒が一人1台のiPadを利用しています。

f:id:nomotatsu:20150717100323j:plain同校のICT導入を牽引した品田副校長。「生徒と教員の創造性を刺戟するツール」という位置付けで、初めから端末は”iPad”を前提に検討。品田先生はiPadを導入する私立学校の”仲間”がもっと増えてほしいとして、「まずは使ってみよう。本校もそんなに特別なことはしていない」と、まずはできるところから始めてみることの意義を強調されています。

同校のICT環境は以下のとおり。
無線LANアクセスポイント(ラッカス社製)を各教室脇の廊下に配置
MDM(この4月よりインベンティット社のMobiConnect for Educationを導入)により
 iPadへの機能制限の適用/解除やアプリのインストール状況を遠隔で確認・変更
・アプリの導入は「教育用アプリのみOK」として生徒の自己判断に任せている
 (不適切なアプリはMDM経由で見つけることができるため)
NTS社のCYBER CAMPUSという学校向けポータルアプリを中心的に利用しており、
 先生->生徒への連絡や教材配布などに日常的に活用している
・別途、ソフトバンクとベネッセの合弁会社の製品Classi」も導入済
Appleの無償教育プラットフォームiTunesUで同校の一部の教材を学外にも配信中
・いわゆるICT支援員は居ないが、校内でICTの担当者を数名配置しているほか、
 ICTに強い数名の生徒が活躍して問題解決を行ってくれることも多い

なお、生徒のiPadは各家庭で購入したものをいったん学校で集め、教育用途の初期設定を施した上で生徒に配布する形式をとっています。

今回のオープンスクールでは通常の授業公開だけでなく、上記のような「導入に関わった企業から製品の紹介を行う」ブースや、同校の生徒が来場者からの質問にフリーに答えてくれる部屋など、様々な取り組みを行っていましたので、今回は敢えて「公開授業」以外、同校の利用状況にスポットを当ててみようと思います。

◆同校の生徒へのインタビュー

最初は、生徒が直接質問に答えてくれるという部屋で、男子と女子それぞれ1名ずつに同校のICT環境についてお話しを伺いました。1名は高校から同校に入学、もう1名は中高一貫して同校に在籍しており、ともに高校2年生。
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まず、iPadの使い方を教えてもらいました。中核になっているのはCYBER CAMPUS。学校からの指示や必要な連絡はCYBER CAMPUSにも掲載されているほか、写真のように先生や委員会などから送られてくる「メッセージ」を通じて基本的な教員-生徒間のコミュニケーションが可能となっています。中学から在籍している生徒はCYBER CAMPUSiPadにより「高校になってから先生への相談や連絡が取りやすくなった」と大きなメリットを感じたようです。(iPadは同生徒が高1の際に導入された)

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また、CYBER CAMPUSには先生たちからの配布物や授業で使ったプリント、家庭への案内文書なども格納。IDを保護者にも共有し、学校の連絡を親子でチェックしている例も少なくないようです。品田副校長曰く「”子供の動きがわかって助かる”」という保護者の声も届いてるとのこと。
生徒にとってもデータが集約されているメリットは大きいようで、シリーズもののプリントの一部をなくしてしまっても、必要な部分だけダウンロードできるので「テスト前のいざという時に助かる」という。先生側も
・個々の生徒の紛失申告を覚えておき、個別対応をすることが不要になる
・シリーズ物のプリントを試験前にまとめてアップロードしておけば良いので
 印刷や差し替えの手間が大きく減る
と、iPadおよびCYBER CAMPUSの最も大きな導入効果として「ペーパーレス化」を認識しているようです。

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お話しを伺った生徒からはiPadは「勉強のためのツール」としての認識が共有されていて、LINEなどの生徒対生徒のコミュニケーションには個人のスマートフォンを使っているとのこと。ただ、意外にもクラス内に2−3人はガラケーユーザーが残っているため、必要に応じて生徒同士の連絡にCYBER CAMPUS掲示板も使うことがあるようです。なお、自宅にはほぼ全員の生徒がWiFi環境を持っており、CYBER CAMPUSは自宅からもアクセスして適宜利用しているとのこと。

なお、移動中や通学中にiPadを使いたいことはないか? という質問については、やはり「ある」そうです。一方で今の所個人が持っているスマートフォンと「テザリング」をして使うことは現時点で禁止されているようで、基本的にはiPadは自宅と学校で使うツールという位置付けのようです。とはいえ、同校はアプリのインストールなどをルール面では比較的生徒に寛容な運用をしている学校なので、生徒会などを通じて声が挙がっていけば解放されそうな気もします。

 

◆古典におけるiTunesUの活用

f:id:nomotatsu:20150718213402j:plain続いて、iTunesUおよび学級活動におけるiPadの活用状況について、同校の教員から解説していただけるセッションに参加してきました。まず同校の国語科 大槻 和史教諭からiTunesU の利点と課題の説明から。iTunesUはAppleが無償で教育機関向けに提供している無償の学習管理ツールです。

Apple - Appleと教育 - iPad - iTunes U

教材・アプリ・URLリンクなどを”コース”としてひとまとめにしておき、授業の中で”資料箱”として活用したり、授業後の復習の際の”思い出し”作業に使うことができます。(アプリへのリンクができるので、授業の前にこのアプリを入れておいて、といった指示にも使えます) 
必要に応じて作ったコースは学外に公開・共有を行うこともでき、大槻先生は自作の古典のコースを全世界に公開しています。大槻先生がiTunesUにトライしてみて感じたメリット・デメリットは以下のとおりまとめました。
【メリット】
・授業中にある程度流れに沿って必要な教材が紹介できる
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YouTubeの古典を読み上げる教材を紹介し「世の中にはこういう教材を無償で公開してくれている人がいるんだよ」とネットの可能性に触れてもらえる
青空文庫の同じ作品へのリンクを配布することで、複数の原典に触れてもらうことが容易になった
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・板書に必要な内容を事前にiTunesUに入れておくことで、板書の手間が減り、机間巡視や生徒への目配せをする時間が増えた
(写真のように、板書は投影しているものに書き込みを行う形式。生徒も手元のiTunesUから入手したPDFファイルにMetaMoJi Noteなどを活用して書き込み、デジタルノートを作成している模様)
・生徒も板書を”単に写す”という作業が減り、思考に時間を割きやすくなった
授業の練習問題とは別の練習問題をアップしておくとテスト前にかなり活用され、iTunes Uで授業を進めた単元については有意に成績の向上が見られた
・作った教材を他の古典の担当者に”継承”でき、共有財産化できる
のは大きい
(iTunesUにはコース単位で編集権限を他の人に付与したり、譲渡することが可能。譲渡を受けた側は必要な部分だけ残し、自分なりにアレンジすることも可能)

【デメリット】
・練習問題などをアップするのは効果的だが、その解答解説もきちんと配布しないと効果が薄れる
・とにかく準備が大変、自分もヘトヘトになった
 出張や部活など忙しい中でバランスをどこに置くかが悩ましい
・外部公開する場合は著作権などに充分配慮する必要が有る

大槻教諭は公開にあたってはできるだけ引用をせず、URLなどへのリンクでできるだけ原典に飛ばすなどの工夫をして著作権に配慮したそうです。ちなみに「公開してみたら受講人数が1000人を超えていました。受講人数やランキングの上下はプレッシャーでもあり楽しみでもあります(笑)」と、大変な部分は多々あるものの、総じてiTunesUをポジティブに捉えていたのが印象的でした。
なお、大槻教諭はこうした教材は基本的に校務用のPCで作成し、PDF化したものをiTunesUにアップロードしているそうです(iPadそのものは先生も持っているが、教材の作成にはあまり使わない) 。 教材作りには使い慣れたWordなどのソフトを活用しつつ、閲覧や教示用に適宜iPadを活用するという棲み分けをしているようです。

ちなみにiTunesUは年々機能が拡充されており、先生と生徒とのディスカッションが可能なコミュニケーション機能が追加されたり、直近のアップデートでは課題を生徒から提出してもらい、教員が評価・取りまとめる機能も追加されています。無償で使えて、かつ広告なども出ないので、まずは学内限定で教材を集約するプラットフォームとして活用方法を模索してみるのがいいかもしれません。


続いて英語科の村松 英奈教諭から、同校のiPadの学級活動などでの活用状況のレポート。

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同校での代表的なiPad活用シーンは、
・CyberCampusの活用
iBooksの活用(先のiTunesUやCyberCampusからダウンロードしてきたPDF教材をここに集約して管理する)
・カメラで日常的な記録を残す
 (iPad内の生徒が撮った写真が家庭でのひとつの話題になるという保護者の声も)
Keynoteなどのプレゼンテーションで自分たちの考えを表現する
といった内容が中心。いずれも生徒と教員の双方にメリットがあるものが深く浸透しているという印象でした。

同校の高校生は夏休みを利用して最低一人2校、オープンキャンパスに訪問するという”夏休みの課題”があるそうですが、従来は各大学のオープンキャンパスの日程の一覧表(かなりの情報量)を配布していたのが、iPadによりペーパーレス化と生徒側での活用度合いの向上が実現したそうです。
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また、同校では”学習時間の記録”を推進しており、そうしたデータを集計したデータを週次で生徒たちに示すことで意識付けのひとつの材料にもしている事例が紹介されました。これを毎回紙のアンケートでやっていると継続するだけで大変な工数ですが、デジタルだとこうしたデータを集計し「活用」するハードルが下がるひとつの事例と言えます。


◆午後:レゴ エデュケーションとの特別授業

同校のオープンスクールは午前中での実施でしたが、午後には実は一部の希望する生徒に向けて、同校が購入しているレゴ社の「StoryStarter」を活用した地域調べ学習の体験授業と、レゴ社が特別に持ち込んでくれた「マインドストーム EV3」によるビジュアルプログラミング体験授業が開催されました。マインドストームEV3について詳細は以下リンクを参照。

education.lego.com

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マインドストームEV3へのプログラミングするためのiPadは生徒自身のものを使用。アプリとライセンスはレゴ エデュケーションがイベントのために準備してくれました。参加者は高校生が中心で、いずれも中学校の技術の授業でプログラミングに少しは触れた経験があるようです。

f:id:nomotatsu:20150719145950j:plain講師はレゴ エデケーションの江口さん。事前にこうした「お題」を用意し、生徒たちにトライアンドエラーを体験してもらいながら「やってみたい」という意欲を引き出していました。

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手元のiPadですぐに試し、ロボットが実際に動くことで結果を目で確認できることを楽しみながら、どんどんトライアンドエラーを繰り返す生徒たち。
後半では与えられた情報や知識をもとに「スタート地点から障害物を回避しながら怪我人のところに急行し、病院に搬送して戻ってくる」という仮想ミッションにチャレンジ。会場内に用意されたコースを生徒たちは奪い合うようにトライアンドエラーを繰り返していました。iPadとEV3の間は無線でつながっており、iPad上で修正された動作はすぐその場で反映されます。その場で微調整を繰り返したり、いったん自席に戻って仲間と作戦会議をしたりと、班によって方法は異なりますが、ドロップアウトしている生徒は一人もおらず、全員が非常にイキイキと取り組んでいたのが印象的でした。終了後は全員が「楽しかった!」との感想。
ちなみに、同じ授業は希望する教職員の方も参加・見学されていましたが、生徒たちの吸収の速さや課題解決能力について一様に驚いていました。

f:id:nomotatsu:20150718213417j:plain用意されたコースで作ったプログラミングの動作試験に挑む生徒

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超音波センサーで障害物に近づいたことを認識させ、回避旋回行動をとっているEV3

もう一つのクラスではレゴ®ブロック「StoryStarter」と、そのブロックで作った作品をコミック風のプレゼンテーション資料に仕上げる「StoryVisualizer」を使ったワークショップを行いました。

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各グループは「指定された都道府県の観光名所を調べてPRする内容をブロックで作る」というお題にそって、自分たちのiPadでwebを調べながら、見つけた「アピールポイント」をブロックで表現していました。
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出来上がったブロックをアプリ「Story Visualizer」でプレゼンテーションに仕上げていく生徒の様子。

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ワークショップの最後には各班が出来上がった成果物を「プレゼンテーション」形式で紹介。このワークショップにも教員の参加者・見学者がいましたが、生徒の表現力やプレゼンテーション力(場慣れ感)、そしてiPadをスイスイ使ってこの作品をまとめていく様子に驚いていたのが印象的でした。

 

以上、桜丘中学・高等学校でのオープンスクール+α のレポートをお届けしました。
全体的に「最低限の管理はするけど、できるだけ生徒や先生には自由に使ってもらう」という雰囲気が見えました。「創造性を刺激するツール」としてのiPadの役割が今後どのような発展を見せてくれるのか、楽しみです。