EverLearning!

モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

iPad Proは教育分野で活躍できるか? 数日間使ってみた率直な感想

兼業しているiOSコンソーシアムのご厚意で、iPad Pro(WiFi、32GB)を数日間試用させて頂ける機会に恵まれました。残念ながら話題のApple Pencilがどこにも在庫がなく試せていないのですが、純粋な「大型のiPad」としての価値と、それが教育分野でどう使えそうか? についてレビューをお届けしたいと思います。

iPad Proはデジタル教科書+編集アプリの併用を可能にするか

 まずは、当ブログが以前から指摘していた「デジタル教科書」と「メモ帳など」の併用がどの程度できそうか、という点について。
教科書がデジタル化されタブレットの中に入った場合、従来は教科書を表示している間は、タブレットでは他のことができないという課題がありました。教科書が紙であるうちは当たり前にできる教科書を見ながらタブレットで何らかのまとめや制作をするという行為が、メモなどのアプリと教科書を都度切り替え、行ったり来たりしながら利用しないといけない、という課題がありました。

 これについてはiOS9以降、画面を二つに分けて同時にアプリを動作されられるSplit Viewで対応できそうと期待し、実際にAir2でやってみました。結構快適でしたが、個々の画面が小さめで細かい文字が見にくい。そのため、。iPad Proの約13インチ画面なら本格的に使えそうと期待していました。で、やってみました。

f:id:nomotatsu:20151115183320j:plain

 ↑ はiPad Proで撮影した2画面表示のスクリーンショット。左型にデジタルテキストを想定してApple公式のMacBookマニュアルを、右側にメモアプリを想定してWord iOS版を表示してみました。実際のiPad Proを目の前に置くと、双方の画面が充分な解像度とサイズでかなり快適に使えます。(ただ、低学年用の大判の教科書と比べると、まだ文字や表示が小さいかな、とも感じます)

 ただし、この「Split View」はまだ発展途上というイメージです。なぜなら、縦方向の2分割しかできないから。例えば横方向での閲覧が前提になっているiBooksファイルを表示してみると、こうなっちゃいます。

f:id:nomotatsu:20151115184402j:plain

左側の画面の上下に帯が入り、表示部分の拡大もできずテキストの細かい文字を読むのが難しい。先のMacBookの取り扱い説明書は、iBooks形式で縦書きテンプレートのもので作られており画面いっぱいを使えていますが、横書きテンプレートで作ったiBooksファイルはSplit Viewではちょっと使いづらくなってしまいます。そのため、以前も掲載しましたが

f:id:nomotatsu:20150911234242j:plain

こんな感じの横向き画面の上下2分割ができたらなぁ、と改めて感じました。
 この辺りは、開発者の方に負担がかかりやすいのと、キーボードを利用するときに基本的には本体を横向きにして使うことが想定されている(純正キーボードの仕様を見てもそう感じますよね)といったハードルもあるので、当面は対応が難しそうな気もしています。

 

複数人での利用について

 次に教育分野で期待が大きいのが、一人1台のタブレット端末の配備が(予算・管理・運用面で)難しい現状の中で、経過措置的に複数人で1台のタブレット活用を行うことです。
 iPad Proはこれまでで最も大きなiPad。班のメンバーで一緒に覗き込んだり、班の中で発表を行うには十分なサイズで、ちょっとしたプレゼンならこれで問題なく出来そうです。
 が、同時に編集となると2人が限界かな、とも感じました。班のメンバーがみんなで1枚のiPad Proを取りかこみ、同時に「作業」をやろうとすると、まだこのサイズでも小さそうだと感じます。
 ただ、2人がそれぞれ区切られた領域で別々に作業をできる可能性は感じました。しかしながら、iPadのSplit Viewは同じアプリを2つ並べて起動(例えば左画面と右画面に別々のSafariを起動する)はできないので、アプリ側でソフトウェア的に2分割モードに対応してくれるといいなと感じます。例えば、こんな感じ。

f:id:nomotatsu:20151115190717p:plain
 向かい合っている2人がそれぞれ独立してロイロノート・スクールを使えるようなモード。技術的にはできそうじゃないですか?>杉山社長


キーボードとの併用について

 iPad Proのソフトウェアキーボードは画面の拡大に伴い、機能強化が行われています。

f:id:nomotatsu:20151115191642j:plain

 従来は切替が必要であった数字キーが最上段に追加されており、シフトキーとの組み合わせで多くの記号もそのまま入力できるようになっています。ただ、絶対的に画面サイズが大きいこともあり、ソフトウェアキーボードでの入力は手の移動距離が大きく、結構負担を感じます。本体の大きさ・重さも相まって机の上で使うことが一般的になるでしょうから、こうなるとハードウェアキーボードが欲しくなります。

 しかし、純正のキーボード付カバー「Smart Keyboard」は税別19800円もします。しかも、英字配列のみ。今回の試用のためにこれを購入するのは憚られたので、手持ちのサンコーレアモノショップで購入した有線キーボードとANKERのスタンドを組み合わせて数日間使ってみました。

f:id:nomotatsu:20151115180657j:plain

こんな感じです。(奥にちょっと写っているのはMacBook 12")
 見た目はほとんどノートPC。で、作業についてもバックグラウンドで余計なプロセスが走らないせいか、内容によってはMacBooiよりも快適に入力や制作に取り組めるものもありました。纏まった文章の作成も、これならほとんど問題ないでしょう。
この組み合わせだと、純正のSmartKeyboardと同様に有線キーボードなので電源が要らないことに加え、ANKERのスタンドなら角度が何段階かに変えられ、iPad Proを縦置きしてもグラつきませんでした。合わせて5,500円程度+税 なので、金額的にはだいぶお財布に優しくなります。

 

iOSMac OS の緩やかな融合への期待

 こうやってハードウェアキーボードを接続してSplit Viewで作業をしていると、ある程度のことまではiPadでできてしまうな、と感じるようになってきます。ただ、Proの解像度に対応できていないアプリはAir2相当の引き延し表示で、だいぶ間延びした感じになります。さらにSplit Viewに対応していないアプリもまだまだ多く、今後のアプリ開発者には期待がかかることでしょう。
 ちなみに、iPad Proの解像度に対応していないアプリでは先に記載した新ソフトウェアキーボードではなく従来のソフトウェアキーボードが表示される仕様となっていました。画面内のかなり広い領域を間延びしたキーボードが占める感じはだいぶ残念感が漂うので、デベロッパーさんは是非PROで自身のアプリを確かめてほしいと思います。

 そして、ここまでPROを使ってみて思ったのが、そろそろMacOS用アプリのエミューション動作ができるアプリが欲しいというものでした。Mac OS上でしか動かないアプリがiOSで動かせるようになれば、タッチ操作による戸惑いは多少あるものの、大部分のことがiPad一台でできるでしょう。リモアクではなくネイティブで動かしても十分なハードウェアスペックを持っていると言えると思います。ゆくゆくは、Mac OSiOS、もっと言えばMacBook Airのようなコンシューマーラインの製品とiPadが統合されていくのかな、という感覚です。

 とはいえ、iPadにはマウスやポインターなどをごちゃごちゃくっつけ、不格好に使うものにはなってほしくないという思いもあります。それを解決するかもしれないのが、Apple Pencilかな。体験した方が口々におっしゃるのが、その革新的な筆記感覚だそうですが、残念ながらまだ私は触れていません。ただ、Apple Pencilは描画ツール+マウスポインターの代替品として、スマートな使い勝手を提供してくれる入力ツールに進化してくれそうと期待しています。また、先の「2−3人の生徒児童がで同時にPROを取り囲んで使う」というシーンにおいて、今後複数本のApple Pencilが入手できて、同時に複数人でApple Penciで絵が描けたりできれば別の可能性が拓けるかなあ、とも思っています。これについては、追ってレビューしたいですね。


価格について

 最後に、価格について。iPad Proはその名の通り、プロユースを想定したもので、お値段はかなり高め。最下位である32GB WiFiモデルでも94,800円、税込10万円を超えます。iPad Air2 を2台購入するより若干安いけど…という価格設定。なので、2人以上で1台を使うという使い方ができなければ、整備コストの軽減にはあんまりなりません。(もちろん台数が減ることによる管理・運用のコストは減りますが、最終的に一人1台になるならこの価格のデバイスを買うのか、という判断になりそうな気もします)
 さらに、セルラーモデルは128GB一択で、税込おおよそ14万円弱、ノート型コンピューターの比較的良い機種が買えてしまいます。同じような値段であれば、より汎用的な使い方ができるノート型コンピューターやMacBookを選ぼうかな、もしくは、選ばせたいという保護者も少なくないでしょう。

 とはいえ、MacBookWindowsノート/タブレットiPadは、根本的に異なる製品。ことさら教育分野においては、汎用的であることは必ずしも善ではなく、むしろ目的が定まらず導入された汎用機が「何をやるものかよく分からない」ことから結局あまり使われないという残念な話も良く聞くのも事実です。

 iPadの良い点は「iPadである事」です。豊富なアプリや直感的な操作性で使え、教育向けの管理ツールもだいぶ洗練されてきました。クリエイティビティを刺激するアプリも沢山あります。この辺りを良く理解した上で、とはいえ予算という制約事項もあると思いますから、よく考えた上で選んでほしいな、と思います。