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EverLearning!

KDDI(株) 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、KDDIを代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

「IoT」「プログラミング教育」と「第四次産業革命」の関連性を書いてみる

久しぶりの更新となる今回は、よく聞く割には実態がよく分からない「IoT」「プログラミング教育」と、政府系の文書によく登場する第四次産業革命」の関連性について書いてみたいと思います。

当方は現在、本職(KDDI)でIoTに関連する部署に在籍しているのですが、今日の内容はあくまで本職とは関係なく、一般的に入手できる情報を元に個人として思考・意見を述べるもので、会社や組織を代表するものではありません。

想定する読者としては
「IoTってそもそも何?泣いてる人の顔にしか見えないんだけど」
「第4次産業革命とかIndustry4.0って最近よくみるけど何が変わるの?」
「これと小学校でプログラミング教育が義務化するのに何の関係があるの?」
という率直な疑問を持っている人です。

なお、本エントリーは私なりの考えを伝えるもので、動きの早い業界ということもあり、私自身の理解や考えが追いついていない可能性もあります。ですのでこの内容が必ずしも正しいとは捉えず、ご自身の思考や批判の材料に使ってもらえれば幸いです。

 

 

さて、昨今教育現場では「小学校からのプログラミング教育必修化」が話題になっています。この方針は2016/4/19に開催された「第26回 産業競争力会議にて文部科学大臣から示されたものです。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai26/siryou2.pdf

出典:第26回 産業競争力会議 資料2http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai26/siryou2.pdf)


この方針は、国の様々な課題に対する具体的対応策を示す「日本再興戦略」の2016年版を考えるにあたり文科省が提言したもので、実際その「日本再興戦略2016」に盛り込まれ、2016/6/2 に閣議決定されました。閣議決定は「国としてこれをやる」という宣言でもあります。

この日本再興戦略では国全体の共通目標として「名目GDP600兆円」を目指すことが掲げられていて、そのために

 1 600兆円に向けた、新たな有望成⻑市場の創出・拡大
 2 人口減少社会、人手不足を克服するための生産性の抜本的向上
 3 新たな産業構造への転換を支える人材強化

という3つのアクションが規定されました。プログラミング教育や進行中の大学受験改革を含む「高大接続改革」はこれらを支える重要施策として規定されていて、

- 初等中等教育でのプログラミング教育の必修化(2020年~)
- IT活用による習熟度別学習 (筆者注:いわゆるアダプティブ・ラーニング)
- 高等教育での数理・情報教育の強化
- トップレベル情報人材の育成
-「第四次産業革命 人材育成閣僚会議(仮称)」の設置

といった形で以下のように表現されています。(右下の3.の部分に記載あり)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai26/siryou1.pdf

(出典:第26回 産業競争力会議 資料1 名目GDP600兆円に向けた成長戦略 次期「日本再興戦略」【案】http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai26/siryou1.pdf)

 

この中の「プログラミング教育必修化」という内容を各種メディアが広く報じたことから、プログラミング教育に関する話題が当方の周囲でも急速に増えたこと実感しています。

 

さてここで、国が目指していることを改めて整理しておきたいと思います。詳しくは閣議決定された日本再興戦略の原本(長いよ→http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/2016_zentaihombun.pdf)を読み解くと、国は

・これから、少子化が進み、生産労働人口はどんどん減っていく
・一方で高齢化も進み、放っておくと年金や福祉などに必要な財源が枯渇する
・よって「一人ひとりの生産性を向上させること」は重要な解決策の一つ
・その生産性の指標として名目GDP600兆円という目標を掲げている
・それを実現できる人財を早くから育成することも重要
・さらに並外れたパフォーマンスを発揮する人財が国内で活躍できる素地も整えたい
 (そのために必要な規制改革・緩和も進めたい)

と考えていることがわかります。

つまり、プログラミング教育は(無理を承知でものすごくシンプル化してしまえば)最終的に「生産性向上」、すなわち一人の人間からより多くの”価値”を生み出せるようにするための施策の一つ、と言えます。
(実際にはもっと多くのことが考慮されているので少々乱暴な纏め方であることはお断りしておきます)

 

 

ちなみに、日本の労働生産性は先進7カ国中最下位、OECDでも34カ国中20位(平均以下)となっていて、その一員が昨今の電通報道で話題になっている「長時間労働」であるという内容がこの原本の後半にも登場し、具体的な削減目標も登場します。
(統計データはこちらで色々と設定を変えながら見ることができます)

 

で、そこで気になるのが「早期からプログラミング教育を行うことが、本当に”生産性向上”に繋がるのか?」という点です。そこに登場する一つの根拠が、上記にもチラっと登場する「第四次産業革命」です。

 

第四次産業革命については、多用される割にはハッキリした定義は無いのですが、先にあげた「日本再興戦略2016」の中には以下のような記載があります。

(第4次産業革命と有望成長市場の創出)
今後の生産性革命を主導する最大の鍵は、IoT(Internet of Things)、 ビッグデータ人工知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第4次産業革命」である。

 

なんというか、パソコンを学ぶ時に、専門用語を調べたら専門用語で説明してあって絶望する的な雰囲気漂う引用なので、それぞれ用語を説明したいと思います。


IoT(Internet of Things)

最近新聞やネットニュースで見ない日はないくらいよく見かける泣いている人の顔のように見えるこの単語ですが、「モノのインターネット」と訳される言葉の略称です。
今まで、インターネットにつながっているものと言えばスマホやパソコンなど人間が常にそばにいて、明確に操作や指示を与えるものが大半でしたが、IoTは基本、人から離れて存在している様々な「モノ」に通信機能をつけて、インターネットに情報を送り出したり、逆に人が遠隔から制御するイメージです。もっともわかり易い例で言えば家庭用のDVDレコーダー(インターネットに繋がっていて、最新の番組表をネットから取得したり、スマホから録画予約ができる)は広義でのIoT機器と言えます。

IoTはセンサーやロボットと密接な関係があり、

 温度センサー(数分に1回、温度を測定してインターネットに送る)
 水センサー(植木鉢の水分とか、川の水位を数分おきに送る)
 赤外線センサー(人やモノが通過・接近した時に信号を送る)
 加速度センサー(物体が動いたり、落ちたりした時に反応して情報を送る)
 GPS(衛星から取得した位置情報を送る)

といった身の回りの様々な「情報」をインターネットを通してサーバーなどに送る役割を果たします。

さらに、サーバーでそうした情報を分析し、一定のレベル(例えば温度が40度を超えた、など)を超えたら、そのセンサーを管理している人に警告通知を送るとか、先ほどの温度センサーの近くにいる散水ロボットに自動的に命令を出し、水を撒かせて温度を下げさせる、といったことも可能になります(ロボットというとPepperのようなものをイメージするかもしれませんが、センサーからの情報を元に動作するものもある意味、ロボットです)。

 

ビッグデータ

上記のセンサーやIoT機器を各地に大量に配置すると、人が到底全部を見きれないような膨大な情報が集まってきます。さらに、人の行動履歴(SNSの投稿やwebの閲覧履歴やオンラインショッピングでの商品閲覧・購入履歴など)もここに加えることができれば、凄まじい情報量になります(実際にはプライバシーの問題から難しい例の方が多いかと思いますが…)。
ただし、情報はただそこにあるだけではゴミ同然です。これらを上手に分析して特定の事実を突き止めると、その価値は大きく変わってきます。

例えば、
「このエリアでは長時間雨が降っていない -> 気温がずっと高く、川の水位も下がっている → 熱中症渇水対策グッズが売れている」といった傾向が導き出せれば、企業はそのエリアに集中して在庫を動かし、生産を効率化できる -> 売り上げや生産性が向上する という”価値”が生まれるわけです。こうした様々なデータから価値のある仮説や事実を見つけ出せる、データ収集・分析・加工・統計の技術を持った人のことを「データサイエンティスト」といい、現時点では引く手数多な職業と言われています。

 

人工知能(AI)

人工知能は、先のような方法で集められたビッグデータを一定の法則性に則って自ら「学習」し、「分析」をして人間のように「判断」ができるようになったものと言えます。ある意味では、データサイエンティストの機能をコンピューターが取り込み始めたのが現在の段階と言えるのではないでしょうか。
今のところ、マトリックスの世界で語られているような「人間を超えて支配するようなもの」ではありませんが、コンピューターの進化がこのままの速度で行くと2045年くらいには人間の判断力を超える、いわゆる「シンギュラリティ」が訪れると言われています(実際には、コンピューターの進化=チップの集積度向上に依存し、その集積度向上には近々技術的な限界が訪れるという説もあり、シンギュラリティが起こるにはいくつかの技術的なハードルを超える必要があると考えられます)。

なお、人工知能には最低限の「学び方」、すなわち大量のデータを読み解くためのお作法を人間が最初に与えてあげる必要があるとされています。それがだんだん、機械やコンピューターが自分で勝手に学ぶ、いわゆる「機械学習」や「ディープラーニング」と呼ばれる手法により、これらがAIの進化を加速度的に早める可能性があるとも言われています。


参考:

blogs.nvidia.co.jp

 

説明が長くなりましたが、第四次産業革命は、IoT機器とセンサーを使って人間がこれまであまり意識したりきちんと記録してこなかった情報をインターネットに送り出し、そうして得られたビッグデータ人工知能によって処理・判断させ、その結果をロボットに返し、これまで人間がやらなければならなかった一部の仕事を肩代わりしてもらう。手の空いた人間は、その余力を使ってより高度なことや、機械がまだできない領域の仕事に注力する。その結果、生産性が上がる。そんな世界を目指していると言えます。(こうしたデータの活用には実際には様々なハードルがあるのですが、そうした規制への対応も明文化されています)

 

さらに、先ほど引用した、日本再興戦略2016の第四次産業革命の説明には以下のような続きがあります。

 

「第4次産業革命」は、社会的課題を解決し、消費者の潜在的ニーズを呼び起こす、新たなビジネスを創出する。一方で、既存の社会システム、産業構造、就業構造を一変させる可能性がある。既存の枠組みを果敢に転換して、世界に先駆けて社会課題を解決するビジネスを生み出すのか。それとも、これまでの延長線上で、海外のプラットフォームの下請けとなるのか。第4次産業革命は、人口減少問題に打ち勝つチャンスである一方で、中間層が崩壊するピンチにもなり得るものである。

 

なかなか迫力のある文章ですが、最後の「中間層が崩壊するピンチ」については少し補足しておきます。

例えば、誰かがロボットやセンサー、IoT、人工知能などをフル活用し、機械によってある仕事を「自動化」できるようにしてしまったとしたら、その「単純作業」をする”人”は不要になる可能性がある、ということを示しています。

機械は何度でも同じ単純・単調な作業を「めげずに」続けられ、火花や有毒ガスが飛び交う危険な場所で働かせても文句を言いません。しかも休憩も睡眠もいらない。生産性で人間は敵うはずがありません。例えば、ある工場が30人でこれらの仕事を手分けして進めていたのが、自動化によってロボットの動作や作業結果を確認する3人だけで回るようになったとしたら、「労働生産性は10倍」と言えます。少々大げさかつ乱暴な例えですが、第四次産業革命はこうした観点で生産性向上に期待されているわけです。

 

つまり、「生産性向上」が実現できる人、つまり「誰かが作った仕組みを単純に使うだけではなく、今の仕事のやり方から生産性をさらに向上できる人」が必要とされており、逆に言えばそれができない人がだんだん「要らなくなるかもしれない」ことを暗示しています。

そして、ここまでで述べたセンサー・IoT・ビッグデータ分析・人工知能・ロボットに共通していることが、「大小の差はあるものの、コンピューターによって動いており、その制御は人間がプログラミングを通して行なっている」という点です。(ここでのプログラミングは「コンピューターに対して(コマンド、画面上での指示の別は問わず)人間が一連の命令を与えることを示しています)。

 

つまり、「第四次産業革命の時代を生き残る」には、センサー、ロボット、IoT、人工知能などに対して

 ・それぞれの要素がどう繋がっているかを理解し
 ・それぞれの要素がどのような機能を持っているか理解し
 ・その上で、そのコンピューターが理解できるように指示を出し
 ・結果がおかしいことになったら、どこが間違いなのかを探し出せ
 ・想定通りに動作しているかを時々確認できる

といった対応ができる必要がある、というのが、国の主張をもう少し細かく噛み砕いた内容であると筆者は考えます。その基本的なリテラシーが、プログラミングであり、コンピューターやネットワークの理解であり、従来で言えば「情報教育」と呼ばれる領域をより深化させた世界、と言えるかもしれません。

 

そして、こうしたスキルセットを育むために重要なのが、「人財育成」計画、つまり、IoTやAIの周辺領域や、それらが拡張した世界で戦っていけるスキルセットを持っている人をどう育て、増やすか、という戦略です。そのために、日本再興戦略2016は以下のような内容も示しています。(※個人的に”人材”という言葉は好きではないのですが、引用部分はそのままとします)

 

(イノベーションと人材の強化)

第4次産業革命を実現する鍵は、オープンイノベーションと人材である。技術の予見が難しい中、もはや「自前主義」に限界があることは明白である。既存の産学官の枠やシステムを超え、世界からトップレベルの人材、技術、資本を引き付ける魅力ある国となれるのか、が勝敗を分けるポイントである。
第4次産業革命が進行する中で、産業構造や就業構造は変革していかざるを得ない。企業と個人との関係も変らざるを得ない。技術や産業の変革に合わせて、人材育成や労働市場、働き方を積極的に変革していかなけば、雇用機会は失われ、雇用所得は減少し、中間層が崩壊して二極化が極端に進んでしまう。
第4次産業革命の波は、若者に「社会を変え、世界で活躍する」チャンスを与えるものである。日本の若者が第4次産業革命時代を生き抜き、主導できるよう、プログラミング教育を必修化するとともに、ITを活用して理解度に応じた個別化学習を導入する。大学改革、国立研究開発法人改革を実現し、産学共同研究を大幅に拡大する。

 

ということで、「生産性向上」を一つの大きな目標としつつ、その手段である「第四次産業革命」を最大限押し進めることが、国の方針。それを牽引できる人財を、初等中等教育のプログラミング教育はもちろん、大学(論文や先進的な研究)、企業内人材育成、各種研究機関など全体で増やしていこう、というのが国の考え方で、そのために様々な施策が工程表とともに公表されています。
例えば初等中等教育については、こんな感じ。ここに学習指導要領の改定や教育クラウド化、デジタル教科書などもマッピングされています。

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日本再興戦略2016 工程表 139ページより抜粋http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/2016_kouteihyo.pdf

 

ついつい、教育行政の方向性としては文科省、教育とICTに関する方向性としては総務省、といった見方をしてしまいがちなのですが、国の施策はさらにその大上段があり、その目標(ここでは、生産性向上による名目GDP 600兆円の達成)に向かって動いており、その中に各省庁の施策が位置付けられているということは、意識しておいて損はないでしょう。

 

もちろん、こうした考え方や目標設定のあり方が自体が本当に正しいのか、この項目とこの項目が本当に連動・関連しているのか、と、個々の内容を批判的に見ると疑問や疑念は多々あります。これらはあくまで「総論」であり、実際には各論でそう簡単にいかない部分は多々あることと思います。
例えばプログラミングを小学校から教えるとなると、その手法の是非やコスト、教える人はどうするのか、など課題は山積みです。「本当に必要なのか?」という議論も出てくるでしょうし、「産業界が求めているものを実現するのが学校ではない!」という考えもあることと思います。

また、報道されている電通問題よりも、教職員の時間外労働・実質的なサービス残業の方が大問題だと思っている私としては、本当の意味での「生産性向上」(※単に授業を効率化するとかそういう話ではない) を学校現場でこそ実施していかなければ、こうしたプログラミング教育の推進施策は実質、骨抜きになってしまうんではないか、という懸念も持っているのですが、今日のエントリーでは国の大上段である目標と実現手段とプログラミングの位置付けを紹介するのが目的ですので、そうした現場レベルでの課題・問題には踏み込まないでおきます。


ただ、こうした資料を読み解いていくと、国はワーストケースのシナリオを想定し、その対策のために必要な施策をアクションとして盛り込んでいるようにも見えます。
こうした情報は探せば誰でもネット経由で得ることができ、各種会議や検討会の議事録の多くは公表されているので、「なぜこのような施策が現場に降りてきているのか」という疑問の答えはある程度、解消できるかもしれません。

分量が多いので読み切るのは大変ではあるのですが、こうした国レベルでの関心のある領域について動向を追いかけることも、いち国民として必要なアクションなのかもしれません。