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Z会 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

Z会での 教育×ICT 2つの再挑戦 -KDDI退職の後日談-

  気がつけば8ヶ月ぶりのブログ更新となりました。前回書いた記事は、前職を退職したときに書いたこちらです。

 この記事は過去最大の反響となり、公開直後は一時1万PV/日となり、SNS等を通じて「会って話したい」というお声も沢山いただきました。その後も、初対面の方から「ブログ読みました」と言われたことも数知れず。多くは教育ICT関係者ですが「物凄く良く分かります」「同じことで悩んでいます」という意見を大抵はいただき、教育分野の市場性探索やマネタイズに試行錯誤しつつ、事業を通じて教育分野を良くしたい方がこんなにも多いのか、と勇気付けられました。

 

 さて、当該記事の執筆(=前職の退職)直後の5/1、私は静岡県三島市に本拠地を置く教育企業「Z会」の一員になりました。

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 Z会というと最近では海外企業や教育系ベンチャーに出資したり、ドラスティックな変化を続けている印象があるかと思いますが、背景には85年以上の高品質・高付加価値な通信教育と添削指導の実績があります。時代に合わせて形を変えつつ、全国により良い教育機会を提供する挑戦を続けている点に魅力を感じ、この会社の門を叩きました。(もう一つ、決定的だった理由があるのですが、それは後述します)

 また、難関大学受験向けに難易度が高い問題を出すイメージが強いかと思いますが、グループ全体で幼児・小学生から社会人まで広い年齢層に教育サービスを展開しています。通信教育だけでなく、速読英単語をはじめとする書籍の出版、模擬試験、私立学校向け検定外教科書の提供、学校のICT化支援、塾事業、英語4技能や非認知スキルのアセスメントなどなど、かなり広い領域を手がけています。私はその中の「ICT事業部」という部署で、ずっと考えていた「ICTによる教育の拡張」を事業として担当できることになりました。

 前置きが長くなりましたが、5/1の入社から今日まで、そしてこれから取り組もうと考えている2つのことを今日は書いてみたいと思います。

1. 英語「で」学べる日本人を一人でも増やしたい
2. 思考や表現、そして協働する機会をICTで身近にしたい

 たった2つですが、それぞれがそれなりに長いので、順を追って書いていきます。

 

1. 英語「で」学べる日本人を一人でも増やしたい

 私の英語力はTOEICは855と決して十分なレベルではありませんが、過去の記事にある通り、ある程度の勉強を続けて英語の文献やプレゼンテーションはほぼ理解できるようになりました。

 その結果、英語「で」学ぶことができるだけで、こんなに学びの選択肢が増えるのか、という事を知ることができました。

 日本語が使える人は世界的には少なくはないものの、英語のその数とは雲泥の差です。よって、英語が使えると、母数が多い分、安価で質の高い学びの選択肢が増えます。その一つがMOOCsに代表される、海外の大学の講義などをオンラインで好きな時に受講でき、要件を満たせば「修了証」ももらえるサービスです。私はZ会に入社直後、最初の業務としてMOOCsの一種である「Coursera」の日本展開を担当したのですが、ここで私は英語「で」学ぶことの重要性を再認識するに至ります。

 正直最初は、英語の講義をわざわざ受けなくても、JMOOCdocomo gaccoのように日本語で大学やそれ相当の学びをオンラインで享受できると思っていたのですが、いざ海外のMOOCsを掘り下げていくと、かなりの差があることが分かりました。

 それは、圧倒的なコンテンツの量と質、そして「最先端」の領域をタイムリーに学べるという価値でした。例えばCourseraで言えば、


IBMが提供する、Raspberry Pi を用いてWatson および Bluemix を活用しながらIoTの基礎を習得できる講座

Googleが提供する、Google Cloud Platform(GCP)のGoogle公式資格の対策ができる講座

・Courseraの創立者でもあるAndrew Ng氏によるAIやDeepLearning の最先端を学ぶことができる講座

・技術系以外にも、日本では少ない「学び方」を学ぶ講座や、「フェイクニュースを見分ける」などのリテラシー育成に寄与するような講座

 など。

 特にGoogleはオンラインでは現状、GCPの資格対策講座はオンラインではCourseraでしか提供していないようで、企業からも結構引き合いがあることに当初はびっくりしたものです。

※ここまでの講座リンクはなんらアフィリエイトや追跡タグなど埋め込んでいませんので安心して踏んでください。私はブログを通して稼ごうという気は微塵もありませんので(笑)ただ、同じ講座を有償受講するなら、Z会を通じて購入した方が本家の2-3ヶ月分の費用で1年の学習権を購入できるので、お得です。

 こうしたIT系の先端領域は、英語の方がコンテンツのリリースが圧倒的に早いので、英語「で」学べる、という利点はこういうところにあるのだな、という点を強く実感しました。しかも、座学講座と比べて価格は1/10くらいで、ちゃんと「修了証」も取れる。ということで、私も入社早々、いくつか講義をとって自分のペースで学んでいます。

 ちなみに、資格や学位の取得ができる講座も(これはCourseraに限らず)あります。例えば、TESOLなど英語を「教える」スキルを認定する資格MBA経営学修士)の資格をオンラインで(通学せずに)取得することもできます。これらは一定のコストと忍耐が必要ですが、こうした資格や学位を日本にいながら低コスト(留学と比較すれば数十分の1以下)で学べるのですから、良い時代になったものです。

 ただ、実態としては「英語」で講座が提供されていることが、多くの人にとって心理的ハードルになっています。中高大と時間をかけて英語を学んできたのに、それを使って「学ぶ」という行為に移れる人は本当に少ない、という事実も同時に知りました。

 こうして私は、全ての世代がもっと英語を「使える」ようになり、英語「で」学ぶという選択肢を取れるようにしたい、と考えるに至りました。今はスマートフォンタブレット、場合によっては翻訳デバイスなどの力を借りれば、英語「で」学ぶことが昔よりもずっと簡単になっています。「学び方」も、私たちが中高生の時の紙と鉛筆「だけ」というスタイルに加え、当ブログで何度か紹介しているiPad Proを使った「新しい形」の学びなど、英語を効率的に、かつ身近に学ぶ方法が沢山あります。

 私も社会人になった頃は、TOEIC400点台でしたが、少しずつ積み重ねていき、最終的に一定レベルまで伸ばすことができました。英語は必ず、「使える」ようになります。だって、言語ですから。

 私が大好きなソニーの創業者の一人、井深大さんは「仕事の報酬は仕事」という名言を残しました。これを「学びの報酬は学び」と換言もできると私は考えています。特に英語はその好例で、世界の幅広い学びのリソースにアクセスでき、多くの人と繋がり、交流もできる。まさに学びの報酬として相応しい対価だと考えています。ということでまず私は、世代を問わず、英語「で」学べる人を一人でも増やすために、動いていこうと思っています。

 

2. 思考や表現、そして協働する機会をICTで身近にしたい

 一つ目の「英語」の学びもそうですが、私たちはこれまで「受験勉強」や「資格の勉強」を通していわゆる「知識や技能」を得てきました。前述の通り、ICTはその取得にあたり有効な手段になり得ます。ただ、当たり前のことですが、知識や技能は、それを「活用」したり、それを使って「思考」して新しい価値を作り出したり、「表現」することで自身の考えや人となりを伝えてこそ意味があります。さらに、課題を解決するために知識や技能、思考や発想を複数のチームメンバーに共有し、それぞれで「協働」することが、社会で生きていくためには不可欠と言えます。

 実は、これらの「知識・技能」「思考力・判断力」「主体性・協働性・多様性」といったスキルは「学力の3要素」という形で随分昔から学習指導要領に表現されていました。

【学力の3要素】
1:知識・技能の確実な習得
2:(1を基にした)思考力、 判断力、表現力
3:主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度
(出典)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/02/15/1381780_3.pdf

 ただ、これまでの学校教育は多くが大学入試をマイルストーンとして設計されており、その大学入試が「知識・技能」を中心に問うていることが度々、問題視されてきました。実はこの点が「高大接続改革」と呼ばれる、高校教育・大学入試・大学教育の一体的な改革と、それと連動した小中学教育の「学習指導要領の見直し」を通じて変わっていきます。2020年度よりセンター試験は新しい試験に移行し、数学と国語で「記述式問題」が部分導入されるほか、大学の個別選抜試験も小論文や面接、調査書などを複合的に組み合わせ、その大学の学びの在り方に呼応したスキルを持っているかを複合的に合否を判断する方式に移行するとされています。ただし、知識や技能が問われないのではありません。知識や技能が「あることを前提として」、考えたり表現したり、他の人と協働したりするスキルが問われる割合が増える、という意味合いです。

 これらの変化は社会で生きている多くの大人たちにとっては歓迎したい動きと言えると思います。しかし、実際にこれが起きると、「思考力・表現力」や「主体性・協働性」といった別軸の学力を伸ばすための「適切な機会」が今よりも多く必要になります。実は私は、この点に大きな不安を抱えています。

 というのも、「知識・技能」は自分一人で机に向かって取り組めば身につけることができることが多いのに対し、「思考力・表現力」は自力でできる範囲が狭まる、さらに「協働性・多様性・主体性」については、そもそも複数の人がいることが前提になるので、益々その力を伸ばす機会を得ることが難しくなります。しかも、知識・技能と比べて一朝一夕に伸びるスキルでもないので、時間もかかるでしょう。

 前者については、小論文にしても、英会話にしても、答えが一意に定まらず、この記事の執筆時時点の技術では高精度が求められる受験に自動採点技術を適用するのは難しいと見ています。よって、この領域の学びにはまだまだ「人の力」が必要と言えます。後者については、現時点では学校がその機会を提供しうる最適な場所ではあるものの、まだ40人の生徒を一人の先生が教え、生徒同士のやりとりが限定的な「一斉授業」が多いのが実態です。(逆に言えば、この部分に自信を持って反論できる学校は、きっと入試が変わろうが社会に変化が起きようが、その学校の特色を発揮し強みが活き続ける学校だと思います)

 仮に、この部分が学校で充分に補えないと、学校の外部、つまり塾などの「私教育」で補う事になります。私が所属するZ会はまさに「私教育」を構成する一員ですが、今回の社会変化を手放しでビジネスチャンスだ!とは、とても思えません。確かに、短期的には「機会」かもしれませんが、私教育に投下できる予算、つまり家庭の経済的余裕が教育機会の格差に繋がってしまうとしたら、長期的には市場のシュリンクになりうるとも懸念しています。従来でも「経済格差が学力格差になる」と度々指摘されますが、それが加速することは避けたい。もちろん、この部分が学校、特に高等学校の先生方が奮闘し、杞憂に終わることを願っているのですが、私個人としてはまだ不安が残っています。

 ただ、このギャップを埋めるために今こそ活かすべきと考えているのが、ICTです。企業でもICTはコミュニケーションやコラボレーションを迅速化するために当たり前に使っています。教育×ICTの世界についても、ICTを活用することで知識や技能の習得を効率化する仕組みは多数登場しており、特にAIや学習データ分析は効果を挙げつつあると感じています。本来10時間必要だったことが1時間で学べれば、残りの9時間で他の学びに集中する時間が得られるかもしれません。

 しかし。そうして生み出された時間が、思考力・表現力や協働性・主体性の育成に向けられるのか? 時間が確保できれば、そうした学びへのアクセスは可能なのか?、と言われれば、NOだと私は考えています。時間だけでなく「人」と「お金」の問題が絡むからです。

 ということで、私はこうした現状認識と課題感から「知識・技能」の先の学びを「身近」にする、つまり「時間」は既存の教育×ICTサービスが「知識・技能」の獲得を効率化することである程度創出してくれる可能性を信じつつ、その先の学びに必要な「人」と「お金」のハードルを下げ、ちゃんと「次の学び」に繋がる仕組みを担保したいと考えました。実は、私がZ会の門を叩いたひとつの理由が、Z会がそれをやろうとしていたからです。「それ」とは、7月にリリースされた「Z会 Asteria 総合探究講座」のことです。

 この講座には、全国からオンラインで集まった3人の生徒+ファシリテーターと呼ばれる講師による「協働学習」という仕組みがあります。60分間、決められた時間枠にオンラインの仮想空間に集まり、相互にコミュニケーションしながらファシリテータの指導のもとで「答えのない課題」に挑むというものです。

 学校での議論とは違い、反論や議論に日常の友人関係が影響する事はありませんし、他の受講生は声は聞こえるものの、顔や表情は見えません。一緒に学ぶメンバーも毎回シャッフルされます。つまり、遠慮なく「自分の意見が言いやすい」環境になっているのです。もちろん、オンラインなので通学も不要。これを初めて知った時に私は「通信教育の新しい可能性」と「ICTがこれからの学びの機会を身近に、かつ安価に提供するドライバになっている」と感じました。(価格も、月7800円で協働学習(月1回)と、それに対応する対人スキルを伸ばせる「個人学習」、各業界の第一人者によるライブ授業が受けられる探究学習(月1回)が全部セットになっていて、テーマとなる業界は毎月変わります)

 とはいえ、協働的な学びは、社会ではある意味「当たり前」であるため、その価値がなかなか認識されていません。しかもそうした要素が高大接続改革の中で重要性を増していることは、まだまだ一般の多くの方が知るところではないのが実情です。しかしながら、協働、すなわちコラボレーションはこれから社会に出て行く上で絶対に必要なスキルの一つ。協働する相手は、人とは限らず、場合によっては機械かもしれませんが、その場合には必要な要件を確実に伝えるための「表現力」も重要になっていくでしょう。この価値を大事に育てていきたいと思っています。

 

www.zkai.co.jp

 ということで、5月に転職してから8ヶ月ほど、私は「英語で学ぶ」と「協働的に学ぶ」という2点を、ICTを通じてより広く、身近にするという事に注力しています。以前から私が掲げている「ICTで教育を拡張する」という軸はそのままにしつつ、教育企業の中で教育そのものを私自身も学びながら、明確なターゲットと「やるべき事」、そしてその「事業性」を意識しながら、教育をより良くしていくために再挑戦を続けています。

 

 今回の投稿を機に、ブログも少しずつ再開していきたいと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。