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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

手持ち機材のみで遠隔から講師とやりとりできる講義環境を構築した話

 先日、ひょんな事から自社(Z会)で開催する報告会を遠隔地から見てもらい、遠隔視聴者からコメントをいただく、という課題を解決する必要に迫られました。昨今、Web会議システムも結構進化しているし、意外と簡単に実現できるんじゃね…?と思っていたら、これが思ったよりも大変。

 色々と試行錯誤をしてみて、なんとか実現させたのですが、
・これって、インフルの回復期で(割と元気だけど)学校に来られない生徒の授業参画
不登校や入院など、何らかの理由で教室に行くことが難しい生徒のフォロー
・交通費や時間などの都合で行きたいけど行けない研修の遠隔地からの参加
みたいに、教育分野では需要が多そうな話。

 一応、教育現場のICT環境のアドバイザーとして一定のスキルを持っていることの証左である「ITCE 教育情報化コーディネーター 2級」の保持者として、ベンダーに無駄に高い遠隔授業システムを売りつけられることは回避してほしいのでどこかの現場で役立つかもしれないので、実現方法を記録に残してみることにしました。

今回の要件としては

 1. セミナーの様子を遠隔地の人に配信したい(遠隔の人は2-3名程度)
 2. 遠隔の参加者との双方向のコミュニケーションができるようにしたい
 3. 細かいスライドが見えるよう光学ズームができるカメラを使用したい
 4. できるだけ今ある機材を使い、追加のコストはかけたくない
 5. 配信映像+遠隔者とのやり取り(音声・チャット等)も記録として残したい
 6. 商用利用ではないので映像のクオリティは100点満点でなくてもよい

というものです。

ということで、具体的に実現方法をみていきましょう。

 

 

意外にもWebカメラとして使えるものが少ない市販ビデオカメラ

 先の6つの要件のうち、地味に難しいのが「3. 細かいスライドが見えるよう光学ズームができるカメラを使用したい」。普通に考えると「その辺に転がっているビデオカメラをSkypeWebカメラ的に使えばいいんじゃね?」と思ってしまうのですが、調べてみてわかったのが実はそれができるモデルって最近の機種では殆どないということ。比較的古いハンディカムとかVAIOに搭載されていたiLink端子ならば出来るんですが、昨今の店頭で買える機種では殆どがHDMI出力端子に取って代わられている。もちろん、Webカメラ的に使える機種もありますが、それを新しく購入するのは「4. できるだけ今ある機材を使い、追加のコストはかけたくない」に反するのでNG。
 じゃあ、大半の機種に付いているHDMIを使うのはどうか、とも考えるのですが、一般的なPCにはHDMI“入力”端子は殆ど付いていない。つまり、カメラが捉えている映像をPCに入力するには、何らかのアダプターが必須なのです。調べてみるとUSB経由でHDMI入力を受けられるアダプターは1万〜1万5000円程度で存在しますが、これも「4. できるだけ今ある機材を使い、追加のコストはかけたくない」 に反します。加えて、一般的なWebカメラで“光学ズーム”付きがこれまたほぼ皆無でして、ズームインしてスライドの文字や登壇者の表情がちゃんと見えるように配信することも事実上不可能。

ということで、結構悩みました。


発想の転換:パソコンでデジカメの遠隔操作をするアプリが使えるんじゃ?

 そこで思い出しました。そういや、自分の手持ちのSONYのデジカメって、PCでカメラを遠隔操作するアプリがあったなと。そして、最近のバージョンでは、PC側でカメラの捉えた映像をみながらシャッターが切れる(いわゆるライブビュー)にも対応してたじゃん、と。つまり、
「ビデオカメラに拘らなくても、普通のデジカメが捉えている映像をパソコンで見られるようにすればいいんじゃね?」
と。
 幸い、筆者はSONYのPCから制御可能なカメラを持っていたので、今回はそれを使いました。Cyber Shot RX10M4という、24mm〜600mm という強烈な25倍ズームが出来る機種です。会場の全体像からスライドの細かい文字までバッチリいけるはず。しかも、この方法であればPC側にカメラのファインダーの映像を送り続けるだけなので、メモリーカードをデジカメ側に刺しておく必要すらない。あとは、「5. 配信映像+遠隔者とのやり取り(音声・チャット等)も記録として残したい」を満たせるWeb会議システムを選定すればよい、ということになりますが、ここは教育分野の定番であるZOOMさんにお願いすることにしましょう。ZOOMなら、特定アプリのウィンドウを「画面配信」で飛ばせるから、
 デジカメ→USBケーブル→PCのアプリで映像を受信→そのアプリを画面配信する
これでイケるんじゃないか?と。 

 

 ということで、今回の方法を実現するための道具は以下の通り

・64bitのOSが動いているWindows PC 又は Mac(下記のソフトの動作要件)
  → 今回は2014年製のMacBook AirMac OS X Sierra を使用
ソニー製無料ソフト「Imaging Edge "Remote"」
・Imaging Edgeに対応するデジカメ
    参考:Imaging Edge対応機種一覧ページ:
    http://support.d-imaging.sony.co.jp/app/imagingedge/ja/devices/
・一般的な三脚
・Web会議ソフトZOOM
BluetoothのWeb会議用マイク付きスピーカー

 

構成図は以下のような感じです。

f:id:nomotatsu:20190121000129p:image


 Bluetooth のWeb会議用マイク付きスピーカーは、 会社に転がっていたものを使いましたが、理屈上は安く売っているスマートスピーカー(Alexaとか)でも行けそうな気がします(未検証)。

 なお、ZOOMは有料プランを使いました。というのも、無料プランだと最大40分までの会議しかできないのと、配信と同時に録画・録音を行う機能がローカル保存しかできない(クラウド保存ができない=アーカイブを第三者に見てもらうのに一手間かかる)という事情から、14.99$ 、2000円弱くらいの「Pro」を使ってます。

ZOOMの有料・無料プランの違いがわかりやすいサイトは以下

 https://zoom-kaigi.com/zoom-yuryo-muryo/

 

具体的に今回やった手順

 実際にやった事を以下に記載しておきます。

MacBook AirSONYの無料アプリ「Imaging Edge」をインストール
    すると3種類のアプリがインストールされるが、そのうちUSB接続された
 カメラのファインダー映像をMacBookでも見られて、MacBook側から
 カメラの設定変更や撮影が可能な「Remote」を使用
・デジカメ(RX10M4)とMacBook AirをUSB接続し、Remoteを起動
・「Remote」のウィンドウにカメラが捉えている映像が表示されるようになる
・Web会議アプリ「ZOOM」を起動し、「画面共有」で「Remote」を配信対象に
     (この段階で遠隔地の参加者にデジカメが捉えている映像が見えるようになる)
・続いて、MacBookBluetoothのWeb会議用マイク付きスピーカーを接続
 演台など適切な場所に配置する
     (これにより話者の声が遠隔地に届き、遠隔地の声も話者に届く)

  これで、実際にやってみました。約3時間モノの会を一通り遠隔配信し、途中で遠隔の参加者による会場へのコメントも無事に機能しました。
 映像はなめらかか?といわれるとすごく滑らかではないものの、スライドや講演者を写す程度なら十分許容範囲。クラウドレコーディングも思ったよりもちゃんと見られました。
 難点としては、Imaging Edgeの「Remote」アプリは本来カメラをコンピュータからコントロールするものであり、このアプリの右側には常にカメラ側のピントや露出などをコントロールするパネルが表示されている。これが一緒に配信されてしまうのは回避できません。

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(遠隔配信中の画面をiPhoneでキャプチャしたもの。右側にカメラコントロールっぽいモノが映っているが、これを消すのは諦めた)

 

 あとは、Web会議用のマイク付きスピーカーはBluetooth接続ということもあり、時々接続が不安定になることも。いざコメントや質問を遠隔から受けようと思った時に、実は音が聞こえてないとか相手の声が届かない、というICTあるあるなシーンに陥る危険性あり。ただ、ZOOMならばチャットも同時に使えるので、ある程度は気づくことが出来ると思います。

 

 最後にして多分最大の難点が、デジカメのズームやスライドと講演者の移動(パン)など、デジカメの操作をする人が配信会場に必要、というところ。これが一般的な学校での遠隔授業では(操作をするのが生徒であればその生徒は授業に集中できなくなるし、別の先生やスタッフを配置するほど余裕もないという意味で)なかなか厳しいでしょう…。というか、本当ならば遠隔から見ている人がカメラの操作やズームをしたいところですが、残念ながら今回の構成ではそこまではできません。類似のことができる遠隔参加ロボットとしては有名なOriHimeがあるけど、流石にOriHimeも25倍ズームはできないし、導入のハードルが一気に高くなってしまうんですよね…。

 なお、調べてみるとCanonNikonなどのデジカメでも類似のアプリが存在するようなので、基本的にデジカメの捉えている絵をコンピュータに取り込む事さえできれば、SONYに限らず同じ方法で対応できると思われます。

 そして、おそらくですが同じようなことはMacBookの代わりに iPhoneiPadAndroid でも出来そうです。

というのも、
スマホアプリにてデジカメが捉えている映像を見られるものが存在する
iOSAndroidも、ZOOMの画面配信機能が使える
・カメラとの間の接続がWi-Fiで無線化できるので取り回しが改善する
というメリットがあるはず。

想定できるデメリットもあるのですが、こちらも近々、試してみようと思います。

 

ということで、今日は「ありモノを使って双方向な遠隔講義環境を作ってみた」のお話でした。