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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

GIGAスクール構想(学校PC一人一台)成功に向け、SE時代に配慮していたことを公開してみる

 当方は以前、教育機関向けのICT導入を支援するSEとして動いていました。GIGAスクール構想の実現に向けて全国の教育委員会や私立学校がインフラ・端末整備のために動いている(そしていろいろ困っている)現況を勘案して、そのへんのノウハウをせっかくなのでまとめて無償で公開してしまおうと思います。

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 通常であればこういう話はいわゆる「飯の種」でもあるのであまり堂々と公表する企業人は少ないのだと思いますが、今回は

学校向けのICT環境整備についてきちんと取り組んだ経験がある企業の関係者は結構少なく、今回のように全国一斉に調達に向かって動く中では間違いなく技術者不足が起きると懸念していること
・当方は現在Z会に所属しており、オンライン英会話やCBTベースのアセスメント、AI技術を用いた教育用ソフトウェアなどを提供する立場にありますが、自社のものを使ってもらえるかどうかは別として、こうしたソフトウェアが「ちゃんと動作するICT環境」が担保されないと誰も幸せになれないと懸念していること
・「一人一台」が長年の望みであった当方としては、個人とか組織の枠なんてどうでもよくて、今回の多額の税金を投じて行われる国家プロジェクトを通して一人ひとりの児童生徒がICT環境をある意味「当たり前」の学習手段として定着させ、(これをあくまで一要素として)次の世代が自分たちを遥かに上回る「すごい人たち」になれる素地を作りたい

という考えで書いてみます。ということで例によって所属は明らかにしていますがこの記事も「個人の見解」であり「組織を代表する意見ではない」ということを明示したうえで以下の内容について情報提供したいと思います。

 なお、以降記載することはすべて「筆者の経験や見聞きしたこと」によるもので、情報元となるソースはほとんどありません(聞かれても困る)。というのも、ICT導入における世の「失敗事例」や「トラブル事例」ってほとんど表に出てこないからです(これはこれで収集したいとも思っていますが)。あくまで本記事の文責は筆者にありますが、この記事内の情報のどの部分を信用するか、そしてどの部分を活かすかは読者の裁量と責任であるという点も明記しておきたいと思います。

 

 

 

やりたいこと編:そもそも「ICT」で実現したいこと、解決したい課題は何か?

 実は最初にして一番大切な問いがこれです。文部科学省の方や今回の補助金を設計されている方々も皆さんおっしゃることですが「ICT導入が目的化してはいけない」のであって、ICTで何が実現できるのか、どんな課題が解決できるのかをまず知っておいた上で、「じゃあ(学校設置者である)私達はこれで何をしたいのか?」を明確にして、目的を明確化しないといけません。換言すれば、学校として「どのような児童生徒を育成したいのか?」という大方針がハッキリしていて、自校の強みを伸ばす、あるいは弱みを補うためにICTを戦略的に活用できれば、失敗はしにくいと言えます。
(注:失敗をしないのが目的になっても駄目です)

 ここで気をつけたいのは下心のあるような目的ではなく、大義を掲げることです。たとえばICT導入で先行している私学の例でいうと、ICT導入の目的が

 ・周辺の私学に対する差別化や生徒募集の強化
 ・(従来型の偏差値偏重的な意味での)学力の向上

みたいな「経営的な下心」が見え隠れするものだと、正直厳しい結果になっている(なりつつある)ケースが多いと感じています(主観)。これらはいずれも「大人の都合」であって、学習者に教育機関としてどのような価値を提供できるかという観点が弱いからです。

 わかりやすく言えば「校訓」のような大方針をベースに考える、です。校訓で示されることが多い「自主」「自律」「友愛」「相互理解」「創造」といった絶対的価値観と照らし合わせ、自校の強みと弱みに照らし合わせたICT活用をまず考えるのが良いと思います。気をつけたいのはこの段階ではまだ「教科別」の議論はせず、教科の枠を越えた共通の価値観を醸成しておくのがキモです。

 例えば

・民間企業と同等のICT環境を整え、学びの生産性と創造性を向上させる素地をつくる
・一人では難しい課題に仲間と協働して立ち向かえる機会を増やす
・個々人が自分のペースに合わせた個別最適な学びを行えるようにする
・児童生徒がより「やりたいこと」「やりたかったこと」を実現しやすい学校にする
・教職員が(これまで気づきにくかった)生徒児童の特長を見つけやすくする

 など。そのためにICTがどのように使えるか、は事例がたくさんあるのでまずはこういうところから調べると良いと思います。まずは公式文書として文科省「教育の情報化に関する手引」の第一章(特に15ページ)あたりを紐解いてみるのが良いと思います。

https://www.mext.go.jp/content/20191219-mxt_jogai01-000003284_002.pdf

 なお、この部分はできれば「実感を伴った理解」があったほうが良いので、「教育ICTで可能になることが体験できる機会」を持つことを強く推奨します。様々な組織が主催する「体験会」でも良いですし、自分で端末を買ったり借りたりして手元で使ってみるでも良いです。使ったり触ったりしたことが無いものを(第三者の評判などを根拠に)肯定・否定するのはICTに限らずよろしくないです。教育ICTの推進は多額の税金を投入した(そして子どもたちの将来を大きく左右する可能性が高い)未来投資なので、ここは時間がないなどと言い訳せずにやるべき所。

 また、同手引には第四章から教科別の活用事例が学校段階ごとに示されていますので、上記の「大方針」がある程度定まったら続けて教科ごとに活用目的や想定利用シーンを検討すると良いでしょう。
https://www.mext.go.jp/content/20191219-mxt_jogai01-000003284_003.pdf

 

ソフトウェア編:やりたいことを実現するソフトウェアは何か?

 上記の手引を読んだり、関連する領域を教科別に掘っていくと次に気になるのが「じゃあどんなソフトを使うのが良いの?」という問いです。もちろん、この「良いソフト」の定義は、前項で書いた「やりたいこと」を実現できるかどうか、という価値軸です。

 例としてわかりやすいのが前項で示した「個々人が自分のペースに合わせた個別最適な学びを行えるようにする」に対応するAI技術を活用した教材でしょう。どうしても中間層を意識して行いがちな一斉授業だけでなく、個々の現状のスキルに合わせてコンピューターが最適な問題を出したり、個々の弱点を補う復習問題を出したりします。中には自宅で取り組む宿題を自動生成するものもあります。(これが使いたいのであれば、持ち帰り学習もできると理想だね、とか、自宅のコンピュータや個々人のスマホとの連携を検討すべきだよね、などと次に検討すべきことが自然と見えてきます

 あとは、教育に資する動画がいつでも見たい時に見られる(NHK for SchoolとかTEDとか、場合によってはYouTubeとか)、オンライン英会話を積極的に使う、というニーズがあるならば、それをやっても大丈夫な通信環境(インフラ)を設計しなければならない、ということになるでしょう。

 ただし、こうしたソフトウェアはやりたいことが積み上がっていくと1つ1つのコストも馬鹿にならないので、欲張りすぎると全体の足を引っ張ります。そのため、この段階ではある程度意欲や具体的プランを持っている教科の先生の意見(教育委員会であれば担当者の意見)を優先度高めにする、などの判断軸を持って「どこからやるか」を検討すべきでしょう。もちろん「そのプランが本当に学校として”やりたいこと(前項”やりたいこと編”で定めた大目的に沿っているか)もお忘れなく。

 次に、上記の「やりたいこと」を実現できるOS(WindowsiPad OS・ Chrome OS )を検証します。残念ながらソフトによっては一部のOSでしか動作しないもの、あるいはOSによって機能が制約されるものもまだまだありますので、「より快適に使えるのはどれか」「より目的の機能が多く充足されるOSはどれか」「それをやるために必要な最低限度の周辺機器はなにか」を絞り込み、もっとも理想に近いOSを選択しましょう。このあたりになってくると、実際に端末を借りるなり買うなりして検証をしたほうが良くなってきます。

 

・ハードウェア編:やりたいことを実現するのに近いハードはどれか?

 ここまできて、やっと「どのPCを選ぶか」というハードウェアの話に到達します。使いたいOSが定まれば、あとは「どの機種にするか?」だけをみんなで考えればOKです。
 今回のGIGAスクール構想では公立の場合は1台のPCあたり4.5万円の定額補助、私立の場合は最大1/2(上限4.5万円)の補助となっています。ここで重要なのが4.5万円に収めることよりも、ここまで重視してきた価値軸(やりたいこと)をいかに制約条件の中で実現するかを強く意識することです。

 ちなみに、PCの選定にあたっては「標準仕様書」が公表されています。

https://www.mext.go.jp/content/20200108-mxt_syoto01_000003278_10.pdf

 が、これは文部科学省の方もハッキリおっしゃっていますが「この通りにする必要は全く無い」ものです。あくまでスタンダードであり、一部を削ったり足したりしても全く問題ないです。ですので、優先すべきはここまでで考えてきた「やりたいこと」。たとえば、協働学習にG suite for Education(Google版のWord/Excel/Powerpointみたいなもので、教育機関向けには無償で開放されている)を使いたいのでキーボード入力がおおいのでキーボードを重視した調達にする、「持ち帰り学習」が大事ならばLTEモデルを調達する、など。もちろん自治体(教育委員会)で調達するならば4.5万円を越えた分は自治体としての税金投入が追加で必要ということになりますので、慎重に検討すべきではあります。

 ただ、忘れないでほしいのは「安いハードは品質もそれなり」という可能性が高くなることです(例外もありますが)。現場から「遅い」「固まる」「使えない」という評判が聞こえてくるようになったら、その段階で「失敗率」が相当高まっているという認識を持ったほうが良いです。「〇〇を使う時に▲▲が困る」であればまだ対処できますが、前述の3ワードが聞こえてくると本当に最悪です。今回の補助金で調達した端末は5年程度使うことも意識して、ぜひ検討してほしいと思います。(2回目以降の調達や更新は自治体・学校が全部負担することになるのと同義ですので)

 あとは、ハードを買うと関連した予算も必要になる、ということはこの段階できちんと心に留めておいてください。例えば
 ・本体を保護するカバー(10−20%の破損は普通に起きる) → 保険コストが必要
 ・外部キーボード → 学年によって標準調達とするか、BYODにするかを検討
   ※個人的には、ここは生徒児童が自分にあったものを購入して持ち込んでも
     良い、と思ってます。キーボードが最初に壊れることが多いので。
 ・セキュリティ  → WebフィルタリングやMDM(いずれも後述)は要検討
 ・(LTEの場合は)通信料 → 今回の補助金は対象外なので別途予算措置が必要
は、私立公立問わず、過去の調達ではほぼすべての教育機関が導入仕様にいれています。うち、保険、セキュリティ、通信料関係は(一部を除き)導入時一括の費用ではなく、毎月ランニングコストとして出ていきます。こうした要素は見込んでおかないと、あとから詰みます。

 

・インフラ編:やりたいことが実現可能なインフラ設計とは?

 続いて、ここまでの「やりたいこと」を実現するためには、おそらく「インターネット通信環境」が必須となっているはずです。ではそれをどの程度のスペックで導入するか。
 真っ先に思いうかぶのがWiFiかと思いますが、実はWiFiよりも先に検討すべきなのが「学校からインターネットに出ていく固定通信回線」の性能の決定です。もしここまでの「やりたいこと」に動画やオンライン英会話などが含まれるならば必然的に「それを多くの人が同時に使っても大丈夫な固定回線を引く」ことが求められます。ここがボトルネックになると、どれだけ学校の中のケーブルやネットワーク機器で良いものを購入しても事実上意味がありません。

 厄介なのが、今回の「GIGAスクール構想」ではこの「インフラ構築」について「令和二年度までにやり切る」という工程表になっていることです。

https://www.mext.go.jp/content/20191227-mxt_syoto01_000003278_06.pdf

(この図の薄緑の部分がインフラ。端末は学年ごとに段階導入だが、今回のインフラへの補助金は令和2年度まで。実際に制度設計に携わっている側は令和2年度までにやりきってもらう、という方針の模様。ただ、インフラ設計と納入ができるベンダーは決して多くないし、工事は夏休みや冬休みなど長期休暇に集中する可能性が高いので、今年はインフラ業者の深刻な要員不足が懸念されます。ここはなんらかの救済措置がないと詰みそうなので、元インフラ屋さんとしては声をあげていく予定)

 ただ、「インフラ構築」も標準仕様にそって無理やり調達だと超リスキーなので、ここまで書いてきた「やりたいこと」とそれに紐づく「ソフト」「ハード」を明確にすべき。でないとインフラの投資が無駄になったり、足りなくなったりということが想定されます。それをなんとかしようと思った頃には、補助金も出ない、ベンダーさんももう満員御礼で受付できない、担っている可能性大。

 したがってかなり判断が難しい作業を一番最初にやる、ということになるのでこの部分はとても難易度高いです。ここは筆者は元インフラ屋さんでもありますので、以下の記事のように、お問い合わせをいただければサポートできると思います。

 
制度設計編:やりたいことを生徒児童が実現できる制度設計とは?

 最後に、「制度設計」というくくりで、「フィルタリング」や「端末管理」や「機能制限」について触れておきたいと思います。ここは主に導入後の比重が大きいのですが、導入前に「心づもり」として意識しておいてほしいことを書きます。

 まず、今回のGIGAスクール構想にも「目的」があるので、ここまでの議論はそれを外さないように意識していくべきでしょう。

子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育 ICT 環境の実現に向けて
~令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境~
文部科学大臣メッセージ≫
https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_syoto01_000003278_03.pdf

Society 5.0 時代に生きる子供たちにとって、PC 端末は鉛筆やノートと並ぶマストアイテムです。今や、仕事でも家庭でも、社会のあらゆる場所で ICT の活用が日常のものとなっています。社会を生き抜く力を育み、子供たちの可能性を広げる場所である学校が、時代に取り残され、世界からも遅れたままではいられません。

ということで、「社会を生きる力を育む」と「子供たちの可能性を広げる」という学校の役割認識を踏まえた上で、制度設計もそのバランスを意識する必要があります。制度設計はルール設計とも言えますが、この部分ががんじがらめだと「なんでも大人の顔色を伺わないと先に進めない」「制約が多すぎて自分たちの可能性が広がらない」という本末転倒な結果になります。

 事実、見られるWebページを制限する「フィルタリング」が厳しすぎることで「迷惑」している生徒児童はたくさんいます。以下の記事からアンケートのページに進んでいただき「自由記述回答」をご覧ください。すでに一人一台の環境で学んでいる生徒児童の生声が多数あります。
 ただ、多くのフィルタリングを行うシステムはかなりこの制限を柔軟に変更できる仕組みを持っていますし、学校や学年など細かくグループを切ってそこだけ設定を強くする・緩和することも動的に行なえます。大事なのはそういう「現場の要望に応えて設定を柔軟に変更できる担当者」を必ず配置することです。

 同じ理由で「機能制限」は、生徒の手元にあるPCでできることを敢えて制限するというものです。たとえば、勝手にゲームアプリなどを入れられないように「アプリストア」を消すことも可能ですが、これをやると教育上有意義なアプリを自分の判断や裁量で入れて便利にするということが不可能になります。導入先進校では
 ・使いたいアプリを申請制にして、正当だと思われるものは先生が入れてあげる
  →応用パターンとして、許可されたアプリだけが表示されるアプリストアを
   生徒児童向けに公開しているパターンもある
 ・どのアプリをいれても良いが、どんなアプリを導入しているかは先生から見える
という方法である程度、生徒児童からの意見を制度に反映しています。

 なお、上記の機能制限を遠隔で変更できるのがいわゆる「MDM(Mobile Device Management)」というシステムです。これは、インターネット経由での通信ができる状態であれば、遠隔でアプリを一斉に入れたり、一斉に機能制限を解除したり、逆に制限を強くできるツールです。学校に人が出向いて、一台ずつ実機を触って設定しなくて良いのでとても楽です。ただ、このシステムも、本来であれば生徒児童が「やりたいこと」、そして先生が「やりたいこと」を実現しやすくするためのツールとして活かすべきもので、いたずらに機能制限をして生徒児童の自主性をうばう悪魔の監視ツールにならないようには配慮してあげてください。ただ、管理の容易性と労働生産性の観点から、このツールはマストです。また、先のフィルタリング同様にこちらも「現場の要望に応えて設定を柔軟に変更できる担当者」を必ず配置することが肝要です。基本的にこれはランニング(月額単位の課金)ですが、ChromeBookの場合は管理ツールとして最初にまとめて支払う買いきり方式があります。

 こうした部分に付随して、どうしてもICTを導入すると「いままでに無いものだから、いろいろとウチの生徒児童がやらかしそう…」という不安からあれこれ機能制限をしたくなります。ただ、最初にあれこれ制限しすぎると、けっきょくあまり活用されずに、結果的に「死蔵」されるリスクも増します。これでは税金の無駄遣いであり、そうした学校が数年後にマスコミなどに報道されてしまうと、今回のような補助金は世論を考えても「二度と計上されない」になることも結構恐れています。機能制限をすれば「リスクが軽減される」と思うかもしれませんが、制限をして「使われない」ことによるリスクもかなり大きいということを、承知をしておいてください。機能制限は子供の権利をうばうことと紙一重でもあります。

 ここで筆者が愛してやまない、ICT導入先進校の近畿大学附属高等学校の乾先生の名言をひとつ。

「万引があるからといってお店を開けないスーパーってないですよね。同じように、トラブルを恐れて使わせないICTというのも無いと思うんですよ。」(2018年11月 Edvation×Summit2018 のパネルディスカッションより)

 もちろん、機能制限を開放することに対する責任の所在などの「覚悟」も必要ですが、ここで大事なのがやはり最初に書いた学校としての「やりたいこと」と照らし合わせた価値軸です。

 

 なお、この「制度設計」の観点でひとつ提案があります。せっかくなので、ある程度GIGAスクール構想が進み、端末やインフラが学校に整ったら、本格的に使い始める前に「児童・生徒に制度設計に入ってもらう」というのはいかがでしょう。

 Society 5.0時代を生きる子供たちにはデジタルネイティブな子も多いです。少なくとも、先生や保護者よりある部分においてICTには長けている生徒児童も多い。なにより、ICTを学校で積極活用し始めると、生徒児童のほうが先生より詳しいケースが従来とくらべて格段に増えます。そのため「児童生徒から先生が謙虚に学べる学校」と「先生が引き続き実験を握っている学校」で如実に明暗が分かれるのです。

 であれば、委員会などを組織して、先生と生徒がICT環境の課題や関連するルールを話し合う場を設けるのが自然です。実際に生徒会を通してルールの変更や規制撤廃を実現した学校も(中高を中心に)けっこう出てきました。特に、なぜその制限・ルールがあるのかを大人たちと話し合うことで、制限のあり方を建設的に解決する提案を出してくれるケースもけっこうあるのです。

 

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 いかがでしたでしょうか。実は、ここに書かれている順番というのは、一般的なSEや技術屋さんが考える順番とはほぼ「逆」だったりします。おそらくSEは
 ・学校がICT導入したいという状況を知る
 ・インフラの状況を把握する(必要であれば改善提案する)
 ・そのインフラで使うハードを提案する
 ・そのハードで動くソフトを提案する(この段階でフィルタリング・MDM等も検討)
 ・提案内容を学校のビジョンにすり合わせる
という感じではないでしょうか。ただ、これだと先に導入するモノが決まる(というより企業の都合で導入したいハードやインフラが決まる)ので、モノの制約条件が教育やビジョンの実現手段を拘束するんですよね。なので、できるだけ私は学校のビジョン(校訓、指導方針、教育方針。主に学校パンフレットなどを見る)を知った上で提案内容を作っていく動き方をしていました。実際、ビジョンや方向性と合わずに提案を断念した学校もたくさんありましたが、そこで無理をすることはお互い良い結果にならないので、割り切るようにもしていました。
 こうした考え方が現場で奮闘しているSE・営業の皆さんにもちょっとは役に立てば幸いですし、ここに書くには少々テクニカルすぎるMDM、セキュリティ、特定システムの運用などのニッチ情報は、自分が持てる情報の共有として今年は積極的に企業に皆さんにも提供していこうと思っています。

 

 では〆として、少し前に筆者がFacebookにあまり考えずにつらつらと書き連ねた投稿が、最近各所から「研修に使わせてほしい」と言われることがあるので、こちらに転載しておきます。本文最後の「制度設計」の部分に大きくひも付きます。

いろんな学校を訪問して、一人一台の環境がうまく行っているところの共通点みたいなことをメモ的に書いておく。
・先生が生徒からICT活用テクを学ぶ文化がある
・ICTとアナログのどちらを使うか、生徒に裁量がある
・ICTを使うタイミングをいちいち先生が指示しない
・若手ICT担当先生がベテラン先生を巻き込んでいる
・機能制限が段階的に緩和されている
・学校の外や放課後での利用が認められている
・ICTでの成果物を定期的に披露するリアルの場がある
・ICTが生徒の可能性を伸ばす事を先生が認識している
・ベテラン先生がICTでの授業「拡張」を楽しんでいる
・ICTの「デメリット」も把握しつつ活用している
・一人一台環境の改善に向け日々情報収集している
・自校の事例・課題や次の動きを外に発信している
・外向けの発信に生徒が登場する
・ICTの運用保守管理の重要性を認識している
・特定のシステムに強く依存しすぎていない
・紙教材とデジタルの役割分担が明確
・良い意味で教員がICTにより楽に仕事をしている
・授業での好事例を先生同士で共有する機会がある

最初は機能制限や利用シーンの限定があっても良い。ただ、それを使う生徒児童の方が大人よりよっぽどこの領域に詳しいのだから、学習者の声をルールや運営に反映していくことが重要。そのためにも運用保守管理はとても大事。
生徒児童が自分たちの学びの環境改善にオーナーシップを持てると、やりたいことの制約を取り払うために団結したり、課題解決のために主体的に考えられるようになる。こうなったら完全にICTは文房具になる。

他にも教科指導面でまだまだいっぱいありそうだけど、教科や指導の話を自分がするのはなんか違うとも思ったので書くのは控えておきます。

他にも「こういうのがあるよ!」という方の意見や
「いやこれは気をつけないといけない部分あるよ」などの補足や反論、ぜひお寄せください。


ああ、また結局1万字クラスの記事を書いてしまった…。

 



長々とお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。