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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

【結果共有】情報機器を使って休校中に遠隔での教育に参加した児童生徒へのアンケート(n=73)

 本日は、昨年公開して各方面から好評を頂いた「学校で「一人1台」環境で1年以上学んだ児童生徒170名に実態を聞いてみた」の続編を書いてみます。

it-education.hatenablog.com

 今年3月から急遽始まった休校対応においてICTの活用が注目されている中、いち早くICTを活用したオンラインでの教育を実施したいくつか学校にご協力いただき、「学校との間の遠隔(オンライン)教育を受けた生徒(一部児童)へのアンケート」を行ないました。その結果を公表したいと思います。

 以前はGoogle  Formsのアンケート結果ページにこのブログから直接リンクをする方式にしたのですが、このアンケートは継続的にしばらく実施してもいいかなと思っておりまして、アンケート回答ページをあえて閉じずに結果を公表するという方式にしたいと思います。この方式だと、今後回答数が増えて結果の傾向が変化してきたときにも追跡ができるので、面白そうかなと。

 なお、アンケートへの回答ページは一般には公表しておらず、学校の先生経由でのみ展開することにしています。「ウチも回答したい!」という場合は、ぜひ筆者までご連絡ください。見ていただくとわかりますが、学校名や生徒児童の個人名は一切収集していませんので、純粋にオンライン・遠隔教育を受けた感想が分かってメリットも多いと思います。

 ということで本日はアンケートの公開(4/3)から一次締め切り(4/24 23:59)までにご協力いただいた73名の生徒児童の生の声を紹介したいと思います。

 

 回答者の属性

質問1)あなたの現在の属性を教えて下さい

(択一回答)

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回答者は中学生と高校生がほぼ半々、一部小学生がいる

 今回のアンケートの回答対象としたのは、以下の通りです。
・教育用端末を使って休校期間中に「学校との間で」遠隔での教育を経験した方
・「遠隔教育」にスマホ、PC、タブレットなどの「情報機器」を活用した方
・現在中1〜高3の中高生の方と、この春高校を卒業した方
のすべてを満たす人、となります。
※小学生はこのアンケートの質問に(漢字が多く少し難しいですが)回答できる人は、回答してOKとしました
※4月から中学生にあがった人(2020年3月まで小学生だった人)、および2020年3月で高校や高等専門学校を卒業する人も、回答可能としました

 また、「親から指示を受けて学んだ人」は回答の対象に含みません。この春、民間企業が様々な形で教材の無料公開をし、それを自宅での学習代替手段として用いた方はたくさんいると思いますが、あくまで「学校から指示を受けて、家でスマートフォン、PC、タブレットを使った、遠隔での教育をやった中高生(+小学生)」が調査対象で、アンケートの冒頭でこれらの条件を満たしている回答者であるかを別途確認しています。

 

回答者の学習に使った端末に関する質問

 今回のアンケートでは、使っている端末の種類やOSなどについても聞いています。1つ目の質問の回答項目は前回の「学校で「一人1台」環境で1年以上学んだ児童生徒170名に実態を聞いてみた」と統一しています。

質問2)今回、休校中に学校との間で学習をするために使った情報機器を教えて下さい。
※複数を同時に使っていた人は、複数にチェックを入れてください。

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学習に使用された端末(複数選択可能)

Google Formsのグラフの仕様のせいで左側の選択肢が一部読めないので以下に補足していくと、グラフは上から


Windowsノートパソコン(キーボードを装着すればノート型になるタブレットも含む)
Windowsノートパソコン(キーボードと画面が分離しないノート型)
Windowsデスクトップパソコン
MacBook
ChromeBookChromeタブレット
Macデスクトップパソコン
iPad
Androidタブレット
スマートフォン
・その他...

となっており、今回の73名の回答者は「その他」を選んだ人はいませんでした。
前回の調査ではiPadユーザーが圧倒的多数だったのですが、今回はWindowsノートとスマートフォンの利用率がかなり高いことがわかります。

 

質問3)学習に使った情報機器の画面サイズは?
※複数を同時に使っていた人は、複数にチェックを入れてください。

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学習に使っている端末の画面サイズ

同じくグラフの項目名が切れてしまっているので以下に補足します。上から順に
・7インチ以下(参考:スマートフォンの方はこれを選んでください)
・7~8インチクラス(参考:iPad miniは7.9インチなのでここです)
・9-11インチクラス(参考:miniじゃないiPadの大半と小型のノートパソコンはここです)
・12インチクラス以上(参考:ほとんどのノートパソコンはここです)
・その他...

となっています。

 Windowsノートパソコンの方は多くが12インチ以上のものを使っているようですね。その他の選択肢として「忘れてしまった」が1名いました。

 

質問4)学習に使った情報機器はどのように手配しましたか?
※複数回答可能。途中で端末が変わった人や、複数を同時に使っていた人は、複数にチェックを入れてください。

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端末の入手方法

 続いて、学習に使っている端末の手配方法についても聞いてみました。これは前回のアンケートにはなかった質問で、どのくらいの生徒児童が今回の休校にむけて端末を調達したのかな、ということに興味があったのですが、意外なことに「休校のために新しく端末を買った」という人はいませんでした。スマートフォンタブレットを自宅にすでに持っていて、それを学習に転用した事情が伺えます。そして親の端末を借りている人も少ない。
※最後の「その他」に具体的に記入してくれた方は、中学進学時にお祝いみたいな形で買ってもらった端末と推察されるので、実質今回の73名の方は「すでにあるもの」を全員使っていると推察されます。

 なお、回答母集団の中には公立の学校の生徒児童も含まれているのですが、そうした方は「学校で普段使っているものを自宅に持ち帰って使った」に包含されていると考えられます。

 

どのような教科が遠隔・オンラインで教えられているのか?

 

続いて、前回のアンケートと同じ項目群で「教科」について聞いてみました。

質問5)今回の休校中に情報機器を使って学校との間で学んだ科目は?
※複数回答可能

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教科の分布

上記のうち、項目が見えないところが2箇所は上から
 ・日本史・世界史(高等学校)
 ・朝の会・帰りの会(Zoom利用)※「その他」の自由回答
となっています。

 これ、ひとつ失敗したなぁと後から気づいたのが「国語」が小中高の分類ナシになっているので、国語がやたら多く見える…。なお、数学や英語、社会はかなり多いことがわかります。参考までに、前回の調査との比較が面白いので載せてみます。

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前回の調査聞いたで、一人1台の情報端末を使って学んだ教科

n数がそれほど多くない(前回171、今回73)ので比較にどこまで意味があるかは微妙ですが、個人的に気になったのは
 ・総合的な学習の時間が35.7%→26%に減っている点
  →学校という場の重要性を感じる…
 ・「情報」を学んでいるという回答が 45.6%→4.1% に激減
  →ICTなのに…
の2点でした。皆さんはいかがでしょうか。

 

生徒児童は遠隔・オンライン教育のどこに困っているのか?

 次に、生徒児童の「困りごと」について聞いてみました。まずは、事前に想定していた内容について複数選択で聞いてみました。


質問6)自宅での学習で、困ったことについて当てはまるものをすべて選んでください。
※複数回答可

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遠隔・オンライン教育に対する困りごと

 グラフが見にくくてすみません…。項目は上から、
・最初に授業に参加するまでが難しくて困った (16)
・相手の顔が見えない・見えにくいことでどうすればいいかわからないことがあった
(5)
・文字の入力がしにくい・遅いことで意見を伝えにくいことがあった(8)
・通信環境が悪くて音声や映像が頻繁に切れた(24)
・通信環境が悪くて必要なデータをダウンロードするのに時間がかかった(15)
・フィルタリング(ホームページやアプリの利用制限)が厳しくて困った(3)
・いつから遠隔での授業が始まるかよくわからなかった(3)
・遠隔の授業の開始に間に合わないことがあった(10)
・機械やアプリの使い方がよくわからず困ることがあった(15)
・先生が機械やアプリの使い方が分かっていないようでもどかしいことがあった(8)
・家にきょうだいや親がいて授業に集中できないことがあった(13)
・きょうだいや親以外の理由で家で集中できないことがあった(4)
・友達と会えず、いつもできていることができないところに困った(20)
・目がつかれた(27)
・姿勢が悪くなったり、腰が痛くなったりした(20)
・遠隔で行われる授業がとにかくつまらなかった(7)
・友達と交流する要素がなかった(21)
・特になし(9)
・その他.. 以下各々1ずつ
 − いつ先生に質問していいかタイミングがわからず、質問がしにくかった
 − 長時間のパソコンの利用により頭痛になってしまった
 − パソコンのマイクの設定がうまくいっておらず、相手に自分の声が聞こえないことがあった
 − 頻繁にではないが、映像が途切れて先生の言っていることがわからないことがあった
 − パソコンのスペックが低すぎてテレビ電話でレクチャーを受けている間にフリーズしてしまった
 − 何をするにもタイピングなので腱鞘炎になった

 

 気になったのはやはり通信環境により音声や映像の途切れが頻発したこと、そして「目が疲れる」「姿勢がわるくなったり、腰がいたくなったりした」という声です。特にスマートフォンや小さめの画面のタブレットでのオンライン・遠隔教育は、こうした負担が思った以上にストレスになるようです。
 その他の「パソコンのスペック低すぎ」問題は、今後GIGAスクールで配布される端末は果たして大丈夫なんだろうか…とちょっと心配になりますね。

 一方で、個人の端末を使っているケースが多いのか、自宅のインターネット回線を利用していることに起因しているのか、前回調査時に多かった「フィルタリングによりサイトが見られない問題」は今回はかなり少数派になっている点が注目されます。

 

質問7)前の質問の中に当てはまらないことで、困ったこと、自分が受けた授業に対して改善してほしかったことがあれば教えて下さい
※自由記述、任意回答  以下、原文ママです

雑音
なし
実際に会って質問できることがネットだとしにくく、一方的な授業になっていた。
困ったことではありませんが、本来グループワークで意見を共有したり、何か一つのものを作ったりするところ、それができないのがつまらないです。意見共有などは、オンラインでもグループに分かれて行ったこともありますが、大分簡易的な上、顔を合わせて行った方がはるかに意見を深められそうです。
大丈夫です
普段なら教科書読み上げて解説でも授業として集中できるけど、遠隔だととてもつまらなく感じる。 カメラには映らないからみたいなこと言って親が話しかけてくる。マイクをミュートしているのをいいことに授業に口出してくる。
・パソコンが立ち上がらない ・配信された動画やサイトが開けない
半日をオンライン授業で使っているので残りの時間は自由にしたいのにいつも以上に課題が多くて時間がかかる。
特にないです。
特になし。
我が家はwifiがないため、データ使用量がいつもより多くなった。
普段やらないことなのでストレスがたまる
特にありません。
 
 
 親が授業に口出しをしてくる、という話はお隣、韓国でもあるみたいです。ライブ授業により、どの授業でも親が「見学」できるようになったことから、常に授業が親の「評価」にさらされる…なんて話も。
 

生徒児童が遠隔・オンライン教育をやってみて「よかったこと」は?

 課題だけでは面白くないので、やってみて「よかったこと」も聞いてみました。

質問8)逆に、自宅で学校の授業を受ける(遠隔授業)をやってみて意外とよかったと思うことについて、以下から当てはまることをすべて選んでください。
※複数回答可

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遠隔・オンライン教育のよかったこと
項目は上から、
・授業の直前まで家にいられる(登校しなくてもよい)(53)
・遠隔の授業でも思ったよりもクラスメートと交流できる(26)
・普段の授業よりも楽しい(14)
・余計なものが目に入らないので集中できる(7)
・普段の授業よりもわかりやすい(3)
・機械やアプリの操作スキルが上がった(28)
・文字入力が早くなった(14)
・今までとは違った学び方ができた(34)
・クラスメートの知らなかった一面が見えた(5)
・先生の意外な一面が見えた(7)
・特になし(5)
・その他...(各々1、原文ママ)

 −私の通う学校の遠隔授業では、期限が翌日の宿題や、一週間以上先の課題がたくさん出されます。家に一日中いるとだらけがちですが、これらの課題をこなすノルマがある為、その日中にやるべきことの予定を立てたり、学習時間を確保したりとのことが必須な為、「自立」へと近づけたと心から思います。

 やはり「登校」という手間がないことのメリットが圧倒的多数でした。これは予想通りだったのですが、一方で「集中できる」「楽しい」「わかりやすい」という回答が少ないのは気になるところです。(特に普段の授業よりもわかりやすい、が「3」というのは、ちょっと気になるところ。
 
質問9)前の質問の中に当てはまらない「良かったこと」や、もっとこういうことがやりたい!ということがあれば教えて下さい。
※自由記述、任意回答  以下、原文ママです
便利なのは便利だけど、もっと深入りした内容をするには生徒の積極性を高める要素がほしかった。家だと学校とはちがうから切り替えがなかなか出来なかった。
私の受ける遠隔授業は、一つの授業30分程度で、そこで出される課題を他の時間で各自で進めるという方式です。普段の学校では、それらの課題は基本的に授業の時間を使い進めます。私的に、それらの課題は、学校での授業中いまいち集中できないまま何となくやるよりも、1人で家で集中してやる方が捗っている気がします。
登校しなくてもいいのはいいですね
オンラインならではのことをもっとしたい。
特になし
午前だけオンラインで授業を行い、午後は与えられた課題をこなすことで授業数が減ったことが良かった。
プレゼン
私たちはオンラインでスライドを使って発表会をしたが、普通の学校の授業も遠隔で受けてみたいと思った。また、発表だけでなくディスカッションなども行ってみたい。
特になし。
友達や先生の顔が見れる!!
もっとみんなで朝の会が終わったあとや暇なときに絵しりとりなどの交流をしてみたいです!
 
 
 

では、みんなこれからも「オンライン・遠隔」教育を受けたいのか?

 
 最後に割と究極の質問を2つしてみました。
 
質問10)これらかもコロナウィルスの影響により休校になってしまったとき、遠隔で学び続けられる仕組みがあれば使いたいですか?
(択一回答)

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これからも遠隔で学びたいか?

選択肢は
・今のやり方(およびその進化系)であればぜひやりたい
・やりたいけど、環境をもっと良くしてほしい
・今の課題が改善されないなら、やりたくない
・自宅での学習はもうこりごりだ…
・その他...(各々1、原文ママ
 − 音声の改善を希望。大切な所を聞き逃してしまったりしていないかとても心配。
 − 直接享受してもらったほうが確実なので、学校での授業を希望
 − 国語以外の教科でもオンラインを活用して授業を進めてほしい。
 − 自習がしたい

となっています。

 環境の改善が前提となれば、実に75.4%の生徒児童がオンライン教育に肯定的ということになります。一方で環境改善に関係なく「やりたくない」生徒も12.3%いるということも留意が必要でしょう。
 
質問11)最後に、学校で学ぶのと、今回のような家で学ぶのはどっちがいいですか?
(択一回答) 

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究極の質問に対する皆さんの答え
 最後に「究極の質問」をしてみました。ある意味「安心した」という学校関係者が多いかもしれませんが、個人的には23.3%、およそ4人に1人も「家で学ぶ」ほうが良いという生徒児童がいた、ということが衝撃でした。
 
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 ということで、今回は4/3〜24のおよそ3週間に限定して、比較的早い段階でオンライン・遠隔教育を行った学校を通じて、生徒児童にアンケートへ回答してもらいました。意外な部分、思った通りだった部分など、それぞれ感じ方があると思います。
 
 なお、今回のアンケートでは意図的に「どのような遠隔教育手法を使ったか」は聞いていません。中にはZoomなどの遠隔会議システムを使ってオンラインのライブ授業をやったと思われる学校もありますし、「ダウンロードに時間がかかった」という選択肢が一定程度選ばれていることから「オンデマンドの資料や課題を端末にダウンロードして学習した」ケースもあったことが伺えます。YouTubeなどに録画した動画を視聴した形式や、Google Classroom、iTunesU、Slack、Teams、学校独自のLMSなど、いろんなプラットフォームを用いて学んだ生徒児童もいるかもしれません。
※これらの質問は実質的にどの学校が回答しているかを絞り込みやすくなってしまうという点もあり、割愛したという事情もあります。
 
 が、今回はそうした「学び方」については一旦脇においといて、純粋に「自宅で学ぶこと」という事象に対する子どもたちの素直な感情を聞いてみたいと思ったのが一番強いのです。SNS界隈を見ていると学校の先生がいろいろ四苦八苦し、工夫をして学習環境の整備や「学びを止めない」ための工夫をしている様子はわかったのですが、生徒児童に対して「実際のところ自宅で学ぶってどうよ?」というヒアリングがまだあまり行われていないのでは?と思い、今回のアンケートを企画するに至りました。
 せっかくなので、こうした生徒児童の声を元に、どうやって「休校中の自宅での学び」をブラッシュアップしていくかを、子どもたちも「当事者」として一緒に考えていくようなきっかけになればと思っています。
 
 なお繰り返しになりますが、このアンケートに回答したい、という学校はぜひ今後もしばらく集計をしますので(これはあくまで1次集計という位置づけ)、「ぜひやりたい!」という方は、筆者までご連絡ください。