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Z会 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

GIGAスクール構想で導入された端末の保守・運用・管理をどうするべきか

 本日は、GIGAスクール構想による教育用コンピュータ(以下、端末と書きます)端末の調達が各地で進むにつれて、今後大きな課題と話題になりそうな「導入した端末の保守・運用・管理」について書いてみたいと思います。

 この領域は実は筆者が学校向けの端末導入支援で血反吐を吐きながら現場でスキルや知識を実際に活用して一定のノウハウを積み重ねてきた領域でもあるのですが、本ブログではそうして得てきたノウハウをできるだけ公共の利益のために情報展開していくことを心がけています。今回は、おそらくベンダーさんがなかなか語ってくれない「保守・運用・管理」について、思い切って書いてみます。

 当方の得意分野が本ブログの読者であればご存知のとおりiPadであることから、主軸はiPadにはなりますが、他のOSについても取り上げながら紹介してみようと思います。

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そもそも保守・運用・管理とは何か?

 これから公立の学校も含めて、多くの学校に「一人1台」の児童生徒用の端末が配備されます。これまでは教職員用の校務PCとPC教室、学校によっては共有のタブレット端末などが配備されているケースはあると思われますが、過去と比較しても明確に学校に常備される端末の数が増えます。

 そして言うまでもなく、端末は精密機器です。落とせば壊れるかもしれませんし、空調の効いていない部屋に長期間放置すれば(充電保管庫の中に入れてあったとしても)夏場などは熱で破損したり電池パックが膨張したりするケースもあるでしょう。そういう物理的なところの「管理」は想像がつきやすいのですが、実はもっと大事なのは目に見えない、端末の中の「設定」や「データ」、そして「アカウント」の管理だったりします。

 まず、今回配備される一人1台の端末に対しては、原則として一人ずつ、個人の「アカウント」が付与されることが前提になると思います。そのアカウントがApple IDになるか、GoogleのIDになるか、MicrosoftのIDになるかはその自治体が採用する端末のOSがiPad OSなのか、Chrome OSなのか、WIndows OSなのかによります。(少なくとも採用している端末のOSが標準で求めているIDは導入することが必須でしょう)

 このアカウントは生徒児童に原則として一人1つ紐づきます。使い回しは厳禁です。6年生が卒業して使わなくなったアカウントを1年生に流用するようなことは絶対にしてはいけません。なぜならアカウントには生徒児童の個人の学習データや様々な情報、個人的に撮った写真などの一部プライバシーに関わるかもしれない情報が含まれる可能性があったり、自治体によっては中学校に上がっても同じIDを使う可能性があり、その時に同じIDが小学校1年生で使われていると「混ぜるな危険」という状況が起きます。故に、アカウントは新入生の入学、卒業、転校、転入などに合わせて都度メンテナンスすることが必須です。

 次に考えるべきなのは、端末の「機能制限」です。誤って本体を初期化してしまってデータが消失したり、端末が使えなくなるような事態を防ぐためのものから、課金が発生してしまうような機能や教育活動の上で不必要と思われる機能を隠す、似たような機能が複数あると生徒児童および先生が混乱するので片方に統一するなど、いろんなパターンがあります。この中で最も教育機関特有の機能制限として「アプリストアを消す」というものがあります。みなさんが日常で使っているスマートフォンタブレット、PCは自分のアカウントでログインすればアプリストアからアプリを適宜ダウンロードして機能を追加するというのが当たり前かと思いますが、教育機関においてはこの機能が
 ・課金がされるリスク
 ・教育上不適切なアプリ(ゲームやSNS、出会い系など)が入るリスク
 ・極端に多くの通信が発生するリスク
 ・セキュリティ上問題のあるアプリなどが導入されるリスク
などがあり、ほとんどの義務教育の学校ではアプリストアが意図的に消されています。

 とはいえ、端末はあくまで「教育用コンピュータ」なので、ソフトが入っていなければただの箱もしくは板(文鎮ともいう)同然です。よって端末には必要に応じてアプリ(ChromeOSであればChrome拡張機能Androidアプリ)を入れることが必要で、一応今回のGIGAスクール構想では初期設定(キッティングと言います)で最低限の教育上必要と思われるアプリは導入された上で配備される(はず)です。しかし、後から「このアプリを使いたい!」となった場合はどうするのでしょうか。上述の通り、アプリストアは機能制限で閉じられているとなると、個人のスマートフォンタブレットと同じような方法ではアプリを入れられません。

 そこで活躍するのが「MDM(Mobile Device Management)」です。このシステムを使うと、インターネット経由で端末と通信し、新しいアプリを自動的に端末にインストールしてくれたり、機能制限を遠隔で一斉に緩和したり逆に厳しくしたりすることができます。1台1台触ったり、先生から指示して生徒児童に設定を変えてもらう必要がなく、ちゃんとインターネットにつながった状態であれば充電保管庫などで保管している間に作業をすることもできます。このMDMの活用も「保守・運用・管理」の中でかなり重要な位置を占めます。

 他にも、フィルタリングで不適切なWebサイトを見られないように設定をしていて、それが悪さをして授業中に見せたいサイトが見られない場合は、フィルタリングソフトの設定を変更したり、OSやソフトウェアは定期的に新しいバージョンにUPしますのでそれをどのタイミングで適用するか、適用して不具合が出ないか、などなど、意外と端末を導入した後に検討したり、調整をしたりすることが多いのです。
 こういう作業をまとめて私は「保守・運用・管理」と呼んでいます。

 

学校に納入された後の端末は「誰」が面倒を見るべきなのか?

 すでに上記の内容だけて「まじかよ」と思っている先生もたくさんいそうなのですが、ではこの作業は、誰がやるべきなのでしょうか?

 理想は、公立学校の場合は教育委員会が統括し、必要に応じて教育委員会が外部のベンダーさんと「保守運用管理の契約」を取り交わして、専門的なスキルをもっている方がサポートをすることです。冒頭のアカウントのところでも触れているように、一部個人情報を扱うところもありますし、間違って生徒児童のアカウントを消してしまっては学習履歴や大事な写真などの思い出データまで一緒に吹っ飛んでしまう危険性もあり、かなりセンシティブです。

 ただ、今回のGIGAスクール構想ではこのあたりに課題があって、あくまで自治体に対して補助が出るのは端末1台あたり45000円(周辺機器など必須のものを含む)と、学校構内の通信環境整備までです。もちろんその他の補助金や様々な施策を組み合わせることで他にもお金を獲得する方策はあるのですが、基本的に長期間の保守運用や、教育用のアプリなどを自治体として購入したい場合は基本的に追加の予算措置をする必要があります。

 この部分が今回のGIGAスクール構想で自治体の明暗が分かれているところで、単純に学校向けにエアコンとか机椅子を購入するときの「モノ買い」と同じ感覚で担当者が調達に動いていると、ICT機器特有の「導入した後の保守管理」に相応の技術や対応時間が必要なことが見過ごされてしまうリスクがあります。厳密には認識しているけど、そのコスト見積もりがあまりに安く全然足りない、というケースが往々にして発生します。これは過去にもよく問題になってきた話です。

 そうなると、教育委員会が十分な保守予算を計上できず(またはしようとせず)、ベンダーさんも初期設定とその後には毛が生えた程度の運用管理しかしませんよ、という状況になるケースがおそらく出てきます。そうなったらどうなるかと言うと、現場=学校の先生に丸投げされるパターンが出てくる可能性もあるわけです。

 そもそも、学校の先生が端末の保守・運用・管理をやるべきなのか。

 ここについては、最近筆者は学校や教育委員会関係者などに対して30名弱の方に個別の1:1インタビューをして、全員に共通質問としてお伺いしたのですが、意見が割れています。ただ、間違いなく言えるのは学校現場の先生方、特に中学校は働き方改革の必要性が全国で強く叫ばれるくらい、とにかく多忙です。ただでさえ授業の準備や生徒児童の指導に割ける時間が少ない中、機材のお守りまで入ってくるとなると、余計に時間外勤務を増やす事態になりかねません。この点を踏まえても、保守・運用・管理は必要なコストをきちんと見込んで、外部の有識者によるきちんとした管理を行ってもらうのが「理想」です。

 が、なぜ意見が割れているのか、というと、そこには様々なメリット・デメリットがあるからです。

 

保守・運用・管理を現場でやるメリットとデメリット

 先ほど記載した30名程度の先生や教育委員会関係者に個別ヒアリングして出てきた、現場で保守・運用・管理をやるメリットとデメリットは以下のようなものでした。

【メリット】
・新入生や転校生、場合によっては生徒児童のご不幸など、学校個別の情報についてはもちろん教育委員会も把握はしているが、時間としては学校現場の方が把握が早い
MDMでアプリをすぐ配信したり、フィルタリングの設定を緩めるなどは、授業中の「こまった」が起きた時にできるだけ速やかに解決されることが理想である
・教職員も手元にあるICT機器の使い方や仕組みを理解しておいた方が、より活用度合いが高まる
・ベンダーや教育委員会に対して必要な対応をお願いする時に、システムの画面などを全部知っている必要なくても、少なくとも概念的な理解をして相談できたほうが話が早い

【デメリット】
・今以上に忙しくなる
・メリットデメリット以前に、保守・運用・管理は教職員の仕事ではない
個人情報を大量に扱い、一歩間違えるとアカウントや重要な情報が消えてしまうようなリスクのあるシステムを現場が触ることは危険すぎる
・よくわかっていない教職員が妙な設定変更をして問題が起きるリスクがある
・ベンダーが保守してくれる範囲を逸脱した作業をしてしまうと、最悪ベンダーが今後の保守をしてくれなくなる(ベンダー保守を契約している場合の話)

 

などなど。

 大枠としては、現場でできるとスピード面で大きなメリットがあり、生徒児童への対応の面でフレキシブルに動けることに対し、現場に多くを任せすぎるのはセキュリティ面と労働量の面でかなり厳しいのでは、という実態が見えてきます。

 ちなみに、一般企業では基本的に保守・運用・管理はシステム部門がすべて対応するケースが多く、従業員が使うPCやタブレットスマートフォンの設定については現場の社員には基本的に触らせない運用が一般的です。これは企業として個人情報の流出リスクももちろんですが、企業の機密情報が端末経由で流出することが死活問題になりかねないためで、学校から見るとかなり高いレベルのセキュリティが求められることに起因します。

 

基本的な保守・運用・管理の知識はどの学校でも知っておく必要がある

 では、仮に教育委員会もその委託先のベンダーもしっかりしていて、現場は基本的に与えられた端末を使っているだけで問題がなさそうであれば、このあたりの保守・運用・管理のソフトウェア面の知識を現場は持っていなくても良いのでしょうか?

 この点については、個人的には「否」だと思っています。上記のメリットの最後に「ベンダーや教育委員会に対して必要な対応をお願いする時に、システムの画面などを全部知っている必要なくても、少なくとも概念的な理解をして相談できたほうが話が早い」という意見がありましたが、これは私もその通りだと思っています。特に教育委員会の方については、ベンダーとのやりとりである程度の知識を持っていないと、時間が浪費されるだけでなく今後の保守費用を高く見積もられる危険性もありますので、かなり重要なところです。

 しかし、学校内の全員が保守・運用・管理のスキルまで持つことは現実的ではないですし、おそらく無理だと思います。ですが、学校の中にこうした知識を持っている人が最低でも2-3名でチームを組める体制を持っておくが理想です。(※学校の規模にもよりますが、公立学校は人事異動が頻繁にあるので一番詳しい先生が抜けたら何も分からなくなる、は最悪の事態です)

 これはあくまで個人的な提言なのですが、こういう業務や知識はよく各学校の「情報担当」が抱え込むケースが多いと思うのですが、個人的には情報担当の役割として属人化するのは非常に今後の長期的な運用を考えるとリスクが高いと思っています。今はまだICTが苦手…という、できるだけ「普通の先生」を巻き込んで、できる人をちょっとずつ増やしていかないと、後述する「次の時代」でいろいろ詰む可能性があるとも思われるからです。

 ということで、実際にMDMやアカウントを管理するシステムを操作できるまでは求めなくても、少なくともこの記事に書いてあることや概念だけでも理解できるような先生は、増えて欲しいところです。

 

5年後およびBYODを見越して備えておきたいこと

 さて、最後に記載しておきたいのは、今導入が進みつつある端末の「5年後」についてです。

 端末の寿命は、大事に使ってだいたい5年がマックスだと思われます。では、5年後に買い替えのための大規模な予算がつくか?と言われたら、私はNOだと思っています。今回のGIGAスクール構想は「一人1台の端末によって教育がどのように変わるかを、多くの人に知ってもらうためのカンフル剤」としての位置付けが強いと私は思っており、ある程度価値が理解され、保護者にとっても「PCくらいないとこれからは学べないよね」という状態に早くなることが重要とも思っています。

 そうなると、5年後はおそらく「BYOD」、つまり自分の持っている端末を学校に持ち込んで使うという方式に切り替わっていくことが想定されます。もちろん、経済的に困窮している家庭に対しては何らかの補助などの仕組みも併せて考える必要がありますが、少なくとも全員に対して一律に端末代金を支給する今回のようなモデルは難しいと思います。

 そしたらどうなるか。BYODは、機種を指定して入学時に購入してもらう方法(私はこれを半BYODと呼んでいます)と、文字通り自分がもともと持っているデバイス、つまりOSも画面サイズも利用年数もバラバラな端末を持ち込んで使う(これを完全BYODと呼んでいます)の2種類がありますが、特に後者を選択した場合は、保護者や家庭の負担はかなり小さくなるものの、それぞれの端末の違いをある程度理解した上で共通的に使える仕組みを意識しておかないと、少なくとも機会平等を担保した教育が難しくなるからです。

 端末の保守・運用・管理について学ぶことは、それ自体がICTやOSの特性を学ぶことができるよい機会です。このあたりは、授業の中で日々活用するアプリの使い方だけではちょっと身につきにくい、ICT機器の根っこの仕組み的な部分になっているからです。そして、この辺りを理解している人が現場にいないと、おそらくBYOD時代になった時に「コンピューターの基本的な概念」を理解せずに危ない橋を渡るリスクが増します。

 一方で、完全にBYODが浸透すると、端末の管理は学校ではなく生徒児童(あるいは家庭)の責任範囲になるので、ある意味 保守・運用・管理 については、BYODへの過渡期であるこの5年間くらいしか必要がない知識かもしれない、とも思います。ですが、この5年間は少なくとも「絶対に必要」なので、逆に学んだことをどう次の学習環境・学習設計に活かすか、という意味で、やらなければならないならばそれを好機にするという発想も必要だと思っています。

 

 とはいえ、それを学ぶための時間も方策も厳しい、というのが現状では重い課題です。ここに対しては私も考えあぐねいているところなのですが、逆にこのように文章として公開することで、一緒に悩んで考えてくれる人や、ご自身の学校での実践事例を教えていただける方が出てきたらありがたいな・・・と思って、書いてみました。

 

 今回もだいぶ長文になってしまいましたが、保守・運用・管理は甘く見てかかるとこれから半年後くらいに牙を剥いて現場を襲うことも危惧されるので、この業界の端くれものとして注意喚起するとともに、(本来ないことが理想ですが、どうしてもそう言うケースがあると想定した上で)最低限の対応が現場でできるようになって欲しいと思い、書いてみました。

 

 最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!