EverLearning!

モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

2021年の抱負 「一人1台」教育用コンピュータの主権を”学習者”に渡そう

 本年もよろしくお願いいたします。

 新年の抱負をブログに年が明けたらすぐに書くと決めていたので、今回は手短に結論だけ。

 今年の抱負はズバリ、表題の通りです。国が主導し、自治体が調達し、各学校に配備される一人1台の教育用コンピュータ。足元ではコロナウィルス感染の脅威が(新種の浸透も含め)益々広がっていますが、仮に特定の学校で休校、特定の学年・学級で学年閉鎖・学級閉鎖が起きてしまっても学習者の「学ぶ権利」「学ぶ意欲」をいかに守るかという点は当然として、日常期においても手元にあるICT機器が自身の学校生活を豊かにするための道具として使いたい時に、使いたい方法で使える、それを大人が不要に制限しないようにしたいと思っています。

 この話をすると、必ず「理想論」とか「何かがあった時の責任論」が展開されます。が、ここではいちいち例は挙げませんが、そうした「大人たちの勝手な心配」が杞憂であった事例はたくさんあります。「理想論」は、実現できれば理想に近づけるのだから、教育を、児童生徒のことを真剣に考えているのであれば、まず不可能と決めつけずに理想論とその事例をちゃんと検証して欲しい。特に「ウチの児童(生徒)にはそんなの無理」という勝手な大人側の決めつけを今まで嫌というほど聞いてきましたが、それで可能性を限定されて被害を被るのは学習者たる子供達です。教育に携わるものがわざわざ子供たちの可能性を狭める方向に圧力をかけることは、適切ではありません。

 というのも、私はこれまで、いくつかの学校で講演や授業をさせていただく機会をいただいたことがあるのですが、そういう機会をいただける時には必ず依頼側と事前調整して「講義/授業中に個人のスマホあるいは配布するタブレットを自由に使ってもらうこと」に対して同意をとりつけます。そして、講義中に生徒や学生にスマホタブレットを使ってもらい、特に機能制限などなく中に入っているアプリを自由に使って良いとか、LINEを使って自分に質問や意見を送ってもらって構わないとか、そういう方式を採用しています。中にはいわゆる「困難校」と呼ばれるような学校もありましたが、それでも生徒や学生は特に授業中に問題を起こしたり、内容を逸脱した使い方をされた経験はありません。むしろ、こうした講演や講義をしている時は「寝落ち」している方がほとんどおらず、また後日のアンケートを先生方と共有すると「あの子がこんな意見を書くなんて意外だった」という声がほぼ100%聞かれます(もちろん、寝落ちさせない講義や授業の力量や中身の面白さも問われているので毎回全力で準備とシミュレーションをしてから挑むというのもありますが)。このブログで過去何度も書いていますが、ICTはこれまでの学校生活でみえてこなかった児童生徒の意外な一面や強みを可視化してくれます。

 あくまで当方の経験上ですが、従来の偏差値的な学力とICTを活用した時の生徒の創意工夫力の間にはほとんど相関関係は見られないのではないか、というのが当方の持論です。学校生活の中で(授業に限らず)ICTを活用していくために大事なことは3つだけで

 1)指導者側がどこまで学習者を信用できるか

 2)ちょっとした(他の学習者に被害や実害がない)悪ふざけ程度の行動はスルーしつつその中でも要所要所で「おっ、ここについてはいい行動だな」という良い部分を見つけた時にはタイムリーに承認してあげられるか

 3)明らかに他の学習者に実害が及ぶような行動についてはその人の性格を考慮した上での教育的指導ができるか

さえ抑えておけば大丈夫、というのが個人的な感覚です。

 

 といっても、ここでこういう記事を書いて吠えていても、世の中の大半の小中学校に導入される一人1台の教育用コンピュータはガチガチの規制で、文部科学省が「持ち帰りが前提」と言っていてもそれを考慮した設定や設計がまともにできていないところが大半でしょう。こうしたガチガチの機能制限下の端末はやがて児童生徒から煙たがられ、あまり活用されず、死蔵されたり文鎮化したり雑に扱って故障が頻発するという事態が起きやすくなります。それは血税の無駄を意味します。

 そうならないように、デジタル・シティズンシップをはじめとする、教職員や児童生徒に対するICTのポジティブな活用と、その活用上の留意点を「学習者同士の議論」を通してエンゲージメントすることに、今年の自身の多くの時間を使いたいと思っています。そのためにやれることはできるだけ多くやっていく、効果がありそうなことはいろいろ試す。これが私の覚悟です。

 その背景は当方の前回の記事に譲ります。

it-education.hatenablog.com

 

 最後に、いつも引き合いに出して恐縮ですが、近畿大学附属高等学校の乾武司先生の5分間の動画を紹介します。学習者が主権を持つ形で「先生がいちいち教えなくても生徒たちが自分で学んで、結果的に教科書や指導要領相当の内容を習得できる授業のあり方」としてICTを活用した一つの事例を紹介したいと思います。たった5分なので、ぜひ年始の皆さんの時間をちょっとだけ分けてください。ICTを用いた学び方の視点が変わります。これは高校の事例ですが、応用パターンは小学校でも中学校でも、日本の優秀な先生であればいくらでも考えられます。大事なのはICTで既存の授業の一部をデジタル化させるのではなく、児童生徒に学習の主導権を持ってもらい、自律的、もっと言えば主体的な学びを先生がエンゲージメントすることにあります。ICTはそういう今までやれなかった授業を実現するための触媒なのです。

 ということで、 「一人1台」の教育用コンピュータの主権を”学習者”に渡すために、今年は泥臭く動いていこうと思います。共感してくださった方、少しでもこの考えを広げようと思ってくださる方、ぜひSNSであったり、組織内のメールであったり、本記事を印刷して職員の方に展開してもらったり、手段は選ばないので、皆さんでこの「理想論」を実現するために必要案ことを考えて欲しいと思います。SNSでのシェアも歓迎します。

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。