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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

【持論】TOEIC780点=センター満点 は愚策

本年もどうぞ宜しくお願い致します。今年も教育の問題に企業人目線を織り交ぜてツッコミを入れていきたいと思います。さて、12/31に教育関係者でまたもや「これホントかよ」と物議を呼んだ記事を今年最初のネタとして取り上げます。


「TOEIC780点、英検準1級以上ならセンター試験英語は満点扱い 文科省
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131231/edc13123108530000-n1.htm


今日は「業務で日常的に英語を使っているビジネスパーソンとしての立場」でこのニュースにツッコミたいと思います。
まず私の持論から言うと、センター試験英語がTOEFL iBT 71点以上で満点は良いが、英検準一級 or TOEIC 780で満点扱いはダメです。単純に今のセンター試験の”読む”と”聞く”能力の判定であればTOEICは置き換え可能とは思います(780はむしろちょっと高めな要求とも感じますが)。 が、問題はそこではない。私が前者は良くて後者をダメとした理由は”Speaking”と”Writing”の力を後者二つは測定していないから。オリンピックを契機として日本人の英語力の底上げをしたいのであれば、この二つの能力を受験で問うことが必須だと私は考えています。なぜなら”読む”と”聞く”は受け身の能力であり、外から見た実質的な英語力向上を認識してもらうには”話す”と”書く”能力が必要だからです。

ハッキリと言います。日本人が中・高・大 と英語を勉強しているのに英語でコミュニケーションが取れない理由は以下の3つです。

1. 語学を「コミュニケーション」の手段として捉えさせないカリキュラム(受験制度)
2. 「全員が英語出来なくていいじゃん」という思い込み
3. TOEIC”だけ”で英語力を測ろうとする社会のダメさ


順番に見ていきたいと思います。
1. 語学を「コミュニケーション」の手段として捉えさせないカリキュラム(受験制度)

大学受験は中高の英語学習に大きな影響を与えます。今回のニュースは前段として「センター試験(およびその代替)にTOEFL(読む・聞く・書く・話すの4大能力を測定できる)を導入すべき」という議論があり、当方はこれに賛成しています。

しかし、どうしても今の受験制度は「採点しやすい」「評価しやすい」という理由で”読む”と”聞く”を中心とした出題・配点になっています。「書く」については大学二次試験で自由英作文・部分英作文の設問で試していますが、「話す」は特定分野を除き殆どノーケアです。しかし「語学はコミュニケーション手段」なので、アウトプットである「話す」力は必要不可欠。受験ではこの意識があまりに欠如しており、実社会で使う英語と受験英語の乖離はしばしば問題になっているのはご存知の通りかと思います。

ならば4能力が測れて、しかも71点以上でセンター満点にできるTOEFL iBTが良いかというと、必ずしもそうではありません。拘束時間が概ね4時間半と長く、難易度も高め。さらに受験費用も現在「225$」つまり2万円以上。補助金や団体割引を使っても費用と時間負担が大きいので、高校生に他模試と並列して受験してもらうのが厳しいのでは。また、TOEICや英検とは問題の性質もだいぶ違うので、先生が学校で対策をするのも大変。うまくやらないと「英語偏重」になり教科間のバランスも崩れかねません。

この問題を解決するには、学校や個々人の負担を最小限としながらどのように「話す力を評価ができる仕組みを作るか」が重要と考えています。その解決策の案は一つ用意しましたので、最後に提示しますね。

 

さて、二つ目です。

2. 「全員が英語出来なくていいじゃん」という思い込み

この考え方は、今後数年〜十数年で起きると予測されている社会構造の変化が「無い」と仮定すれば真ですが、変化が起きれば偽となります。
これについては年末に投稿した日本大学での講演資料(公開版)でも言及しています。

 要点はスライド13に集約されていますが、私たちの想像している以上に海外で日本語を勉強している人が「日本で誰でも出来る仕事」を奪っている現実(例えば日本語への翻訳であれば日本人の1/10程度のコストでタイ人やベトナム人が請け負う)、さらには外国人が日本の企業入社枠の一定割合を占めているという現実を知る必要があるのです。また、日本企業内でもコスト効果や現地化のメリットが上回れば海外への業務アウトソースや分業もあり得ます。IT系産業では一部業務のアウトソース先としてミャンマーバングラデシュの可能性がフォーカスされつつあります。こうなると日本語が使えない相手と一緒に「仕事」をする必要が出て来て、英語が使えないとお話にならなくなります。(私の会社でもこういう動きが一部で出ています。興味の有る人はプレスリリースを探してみて下さい)

勿論、様々なリスクや政治的判断などからパラダイムシフトが未達に終わったり、早々に日本に業務回帰されたりする可能性もあります。しかし、少なくとも「別にみんなが英語を必要としている訳じゃない」という判断によって選択肢を自ら狭めてしまうのは勿体ないと言わざるを得ません。「5教科7科目すべてをやるのは現実的でない」といって早期に教科を絞ると受験が苦しくなるのと同じで、選択と集中は追い込まれた時にやるべき事です。
また、もう一つの誤解は、多くの人が”ビジネスで英語=文法の発音も表現も完璧、バリバリ海外との案件を纏める商社マン” 的なイメージなのですが、現実的にはそうとも限らないということです。スライド15にもあるように、アジアへの業務アウトソースではそこで働く人々は英語ネイティブではありません。彼らは文法的に破綻した英語を使うこともよくありますが、それは別に大きな問題ではありません。日本人と決定的に違うのは「間違っていてもいいから確実に要件を伝えよう」とする勢いです。従ってこういう場面ではシンプルな言葉で確実に意図が伝わるような英語がモノを言います。こういう所では多少文法的に破綻していても「伝える」工夫や、分からなければ何度でも「聞き返す」度胸などが一番役立つ「英語のスキル」でもあります。言い換えれば”読む”と”聞く”がいくら受験で完璧でも、相手に要件を伝える”話す”と”書く”が出来なければ「全く使い物にならない」とも言える訳です。その場で相手の要件に合わせた単語や表現を「瞬時に引き出して正しく発音/作文出来る」ことは、単純な文法力や語彙力とは別のスキルでなのです。
こうした練習が不足していることが「間違いを極端に気にする」日本人の性格的な部分が重なり、「発言/発信ができない」人が多くなっていると私は考えています。このままでは実際に英語でコミュニケーションが出来ないどころか、対外的な英語力向上も期待できません。

 

最後はこれです。

3. TOEIC”だけ”で英語力を測ろうとする社会のダメさ

個人的には日本社会全体が「TOEIC偏重主義」から脱却しないとダメだと思っています。理由は受験と同じで、”話す”と”書く”が出来ないと実質的な意味がないから。しかし、企業はグローバル分業やアウトソースなどの背景から英語ができる人財を欲しています。そこでフィリピンなどへの語学留学の制度を用意したり、社内で様々な研修を行うケースも増えていると聞いています(特にフィリピンは欧米よりも圧倒的に安価なので人気)。
ただ、その効果測定として”話す”と”書く”能力の評価を行わず、TOEICの得点が高ければOKというような雰囲気があるのはいただけません。新卒や中途採用などの募集要項でも、TOEICの得点要件や福利厚生としてTOIEC対策ばかりが並んでいる企業には??と思ってしまいます。
少し話がそれますが、日本は大学と企業の連続性が低めではあると思います。しかし、企業が英語について”話す”と”書く”能力を求めると、大学や受験の在り方も少しずつは代わってくると考えており、こうした動きは中長期的には必要な事だと考えています。
(勿論、企業が安易に転職市場や新卒生にこれらを求めるのではなく、内部の人財をきちんと育てても不足するのであれば、の話です。昨今の企業は新卒生や労働市場に◯◯力 といったものを求め過ぎな部分があり、それが雇用の流動化を妨げていることも自覚すべきです)
そういう意味では、社会の最前線に立っている企業や組織もTOEIC以外、もっと言えば”読む”と”聞く”意外の能力評価についてもっと真剣になるべきです。

 

では、上記3つの問題点を踏まえた上でどうすればいいのか、当方なりの提案を示します。

1. の受験や3. の企業において”話す”と”書く”力を評価する仕組みを比較的簡単に実現するための仕組みが必要です。それにあたり検証に値すると思われるのが「Versant」というテストです。これはスピーキングとライティング(特にスピーキング)に特化した試験と言えるもので、当方も会社の勧めで2回受けましたが、非常に良かったです。

まず最大の利点が、たったの15分で終わること。しかも自宅で受験OK。時間を選ばずに受験でき、費用も5000円程度です。
さらにVersantの素晴らしい所は、受験後3−5程度で結果が直ぐに確認出来ることです。これは人間が話した英文を機械的に評価する仕組みが実現されていることを意味します。

で、どんな問題が出るかと言うと…
・問題用紙に印刷されている文章のうちx番目を読み上げなさい(発音のチェック)

・聞こえてきた文章をできるだけ正確に復唱しなさい
・聞こえて来た質問に(自分の言葉で)回答しなさい
・バラバラな順序で聞こえて来た単語を並べ替えて文章を構成しなさい(作文力チェック)
・聞こえて来たストーリーの内容をなるべく正確に要約しなさい(リスニング力+作文力)
・「あなたの家族構成」などのお題についてなるべく多くを制限時間内に話しなさい
など。(2014/1/1現在)
自分の周囲でVersantを受けた人たちの得点の傾向を見ると、発音の流暢さや瞬発的な作文力が高い人ほど高得点になっており、この評価基準はかなり正確なものだと感じています。

※ちなみにTOEIC満点の人がVesrantを受験したといっても満点(80点)にはならないケースが多々あります。”読む” ”聞く” と ”話す” ”書く”能力は相関ゼロではありませんが、別の能力が求められることが判ります。

個人的には高価で今までとは概念も対策も異なる TOEFL iBT受験用に予算を積むくらいなら、TOEIC/英検 + Versant で一定レベル以上ならばセンター試験満点扱い、とした方がよっぽど現実的だと思っています。特にスピーキングはセンター試験のような大会場で一斉受験させるにはハード的な対応が必要でしょうから、既存のVersantの仕組みを利用する事は理にかなっています。昨今議論されている分散受験方式(センター試験一発勝負ではなく、何回かの受験結果から最高点を適用できる制度)の検証を先行して進める一つの機動力にもなるでしょう。

また、当方が2020年に向けて本当に予算を組んでやるべきだと考えているのは、”Speaking”と”Writing”の回答を機械が採点できる(Versantのような)仕組みを国や自治体が購入して各校に配布し、日常的に使えるようにする事です。そのうえで重要なのは、2. でも触れているように業務上の英語で重要なのは「伝える事」なので、多少文法的に破綻していたとしても、内容や要件がきちんと伝わる言い方であれば高得点にする採点チューニングが為されていること。「あ、多少間違っていても”表現”した方がいいんだ」という意識付けを中学・高校段階から進めていくことが重要だと思われます。これをやらないと、いつまでも「間違いを気にして発信しない」という問題が解決しません。

これと相性が良いのがタブレットなどのICT機器の活用です。例えば学校のPCや生徒のタブレットに学校が契約した「発音力/作文力評価アプリ」が入っていて、授業や放課後のちょっとした時間で自身の”発音力”や”即興作文力”の効果測定が日常的に行えるとしたら、学校でも非常に価値のあるものになると思いませんか? しかも、これなら先生の負担も殆ど増えずに”話す”と”書く”力を成績などの評価基準に加えられます。

このような観点に立って日本人の「英語教育」を見直してみると、見えてくる物があるんじゃないかな、というのが今年最初の提言です。
せっかくなので、提言するばかりじゃなく実際にこれを実現出来るよう、自分が動いていけないか模索していこうとも思っています。