EverLearning!

モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

なぜ「学校にPC一人一台」が必要なのか?-生徒児童と先生の立場で考えてみる-

「小学生に一人一台のパソコンを配る意味なんてあるの?」

「今まで無くたって授業できてたんだから、そんなの無駄でしょ?」

 年末から1月にかけて、こんな声がよく聞こえるようになってきました。改めて、「なぜ一人一台だといいんだっけ?」と思い、そういう記事を探してみました。ところが、意外にも、ない。

 特に、ICTが苦手な方でもわかりやすく、短くまとまっている記事が少ない。ならば、書いてしまおうと思って今回のエントリーを書きました。7000ー10000字クラスが多い本ブログとしては短めの4000文字弱にまとめました。

f:id:nomotatsu:20170820103812j:plain

 

 

1.試行錯誤の回数が紙より圧倒的に増えるから

 PCで制作作業をすると、何度でもやり直しが瞬時にできます。時短になるのはもちろん、同じ時間内での試行錯誤の回数が増え、結果、制作物の完成度が高まります。
 例えば鉛筆で原稿用紙に作文を書く時、間違えたら消す(その部分が汚れたり、筆跡が残ったり、紙が破れることもある)、書き直す、それ自体に時間がかかって内容を吟味するより作業に時間が取られる、という「不便さ」があります。それが面倒だと、何度も推敲して良くしていく気概が削がれます。この負担はPCだと軽減されます。

 あるいは教科書に赤で傍線や下線を入れる時、それは生徒児童にとって「最終判断」に近い行為。赤線は一般に消せないから(最近はフリクションペンとかもあるけど)。でも、PC上であれば何事もなかったかのように消せます。だから、納得のいくまで引き直したり、後から訂正ができるので便利です。

 これから必修化するプログラミングでは、特にトライアル&エラーが重要。プログラミングした結果は動かしてみたいとわからないことの方が多いので、とにかく試行錯誤を繰り返し、ステップバイステップで進めていくことも重要なのです。

 これらは、一般に大人たちが仕事をしていく中で、仕事の精度を上げるためにPCを使うのと非常に近い理由です。つまり、PCを一人一台使えると、自分が納得がいくまで気軽に試行錯誤をして、成果物の完成度を今までと同じ時間の中で大幅に高めることができるのです。

 

2.ちょっとしたことをすぐ調べることができるから

 最近では多くの生徒児童は、すでに幼少期から家族や自分の持っているPCやスマートフォンで調べ物をすることが普通の行為になっています。でも学校では、スマートフォンや携帯電話は持ち込み禁止、PCもいつもは使えない。なので、先生やクラスメイトからの情報に「それってなんでだろう」「その背景はどんなだろう」という疑問があっても、調べられません。
 しかし一人一台のPCが手元にあれば、気になったことを忘れないうちに調べられます。学齢によっては授業を聞きながら調べ物をするのはハードルが高いので先生も生徒児童も訓練が必要(特に話をしている最中に調べ物をしている生徒児童は「授業中に他ごとをやっている」ように見えてしまうので先生も訓練が必要)ですし、調べ物を授業中にすること自体が嫌という人もいるかもしれません。
 ただ、授業では先生の言っていることを黙って聞いてノートをとることよりも、そこで展開される内容が定着し、生徒児童がその知識が使えるようになることの方が重要なはず。

 なお、実際に一人一台のPC等がある環境で1年以上学んでいる生徒児童学生171名にとったアンケート内の質問『「自分専用の端末」があることで嬉しかったこと』として、171人中136人(79.5%)が「ちょっとしたことをすぐ調べられる」を挙げています。

 

3.いまやPCで紙とほぼ変わらない(むしろ上回る)手書きができるから

 PCは「キーボード」に慣れないと使いにくいという考え方がありますが、最近のパソコンやタブレットは、ペンの性能が10年前とは段違いに進化しており、ほぼ紙と同等の感覚で書けるようになっています。手をついたまま書き込んでも誤作動しない、かなりのスピードで字を書いてもちゃんとついてくる、など。
 しかも、最近では手書きで書いた文字をあとから「検索」できる技術も進歩しています。大量の授業ノートの中から特定の単元の情報を検索することだってできます。綺麗な字で書いた方が検索に引っかかりやすくなるので、字を綺麗に書くわかりやすい動機も生まれます。
 さらに、書いた後に、書いた文字や図を移動させたり、拡大縮小ができるという、紙には絶対にできない芸当も可能です。一人一台の手書きが可能なPCが生徒児童の手元にあれば、ノートを代替することも可能になるのです。
 詳しくはこのブログの過去記事のこちらあたりをみると良くわかります。

 

4.過去の学習資産をすべて持ち歩くことができるから

 3.の手書きノートと組み合わせるとさらに強力なのがこれです。学年が変わっても、他の教科であっても、自分が過去に書いた大量のノートにいつでもアクセスできる。検索すれば「あれどこにいったっけ?」がすぐ探せる。何より、「今日はそのノート持ってないや」がなくなる。自分専用のPCの中(あるいは個人のクラウド)に、どんなカバン・ランドセルでも到底無理な量の情報を持ち歩くことができます。
 さらにデジタル教科書が本格的に導入されれば、教科書がPCの中に入ります。中には、学校では貸与されるPCで、自宅では同じ内容をスマートフォンで見られるよう配慮されている製品もありますので、重い教科書を何冊も家と学校の間で持ち歩く必要がなくなる、という期待も寄せられています。

 これらの仕組みにより、教科書に書いた線や書き込みが、いつでもどこでも確認できる。分かりやすい板書や教科書へのメモ指導に力を入れている先生であれば、授業で先生から生徒児童に与えた情報が今まで以上に「再活用」されやすくなるのは、先生にも、生徒児童にも、大きな強みになると言えます。

 

5.今までの学校で発揮できなかった才能が発揮されるから

 PCはソフトを追加することで、有用な楽器になる、カメラになる、動画の編集機になる、絵や作品を作るキャンバスになる、という汎用性が魅力です。そして、文化祭や部活、生徒会活動でそうしたソフト(アプリ)をうまく活用し、いままででは考えられなかったレベルの成果を発揮できる生徒児童が、実は少なくありません。
 デジタルを使うことで今までできなかったことを解決する方法に長けている生徒児童は、たいてい学年の中に何名かいます。授業やスポーツであまりパッとしないある子が、その才能をフルに発揮して一躍スターになる場面も多数見てきました。一人一台で十分に作業ができる状態になれば、そうした才能を伸ばせる可能性が高まります。一人一台の環境で教える先生たちからは、導入してから半年もたつと、必ず「今まで見えてこなかった生徒の一面が見えた」とびっくりします。それは、PCがなければ先生たちが永遠に気づくことができなかった一面かもしれません。

 

6.一人一台のPC配布は生徒児童の「選択肢」を増やすから

 いままでは、強制的にアナログな方法しか許されていなかったものが、デジタル(PC)を使うという「選択肢」が増えます。言い換えれば、デジタルな学びの手段を導入してもアナログな方法を使う選択肢は残ります。導入校の生徒児童を良くみると、人によって同じことをやるのにアナログでやっている生徒とデジタルでやっている生徒が分かれます。でも、それは「自分にとって最適だと思う方法で学ぶ」という学習の自由度が増しているだけなので、特に問題はないのです。しかも、一人一台であれば、一人一人がどのような方法で学ぶかを選択できます。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 以上、6つにポイントとしてまとめてみました。何よりも、上記6つを通して、生徒児童がICTを活用する能力が高まり、ICTを活用して課題を解決できる「基礎スキル」が身につくことが最大の「一人一台」のメリットです。一人一台というのは「使いたい時に、誰にも断ることなく、すぐ使える」という状況とほぼ同じです。(中には許可がないと使えない授業というのも存在するようですが…)

 一人一台は、実施する前はとても不安です。特にPC関係は先生よりも子供達の方が詳しいことが多いので、よからぬことをする人が出てきそうと思うかもしれません。でも、発想を変えて「先生が生徒児童から”教えてもらう”」ことをよしとすれば、生徒児童は自己効力感が満たされてさらに試行錯誤をしてくれますし、先生も一緒に進化していくことができます。また、みなさんが気になる「よからぬこと」は、技術の進歩によりかなりの部分がシステムで「検知」できますので、「悪いことやってると先生たちはみているよ」で想定している9割の問題は解決します。そのためにメーカーや企業はがんばっていますので。

 これからの時代を生きていく生徒児童たちですから、自分たちよりもどんどんデジタルを得意になってもらって、いままでよりもすごい学習成果を出してもらって、たくさん試行錯誤してもらって、学びのログをためてもらって、一人一台のPCを卒業までに最強の「学びの武器」に育ててもらって、送り出しましょう。

 

========

追伸:本来はこういう記事を書く場合、出典なり実際の事例などを引用するべきなのでしょうけど、今回は敢えてそういう小難しい要素を抜きに、読み物としてさっと読める体裁を重視しました。実際には文科省が発行している資料にICTの有用な場面などは体系的にまとめられているのですが、分量や用語などで少しハードルを感じることが多いと思い、こういうまとめ方をしています。

筆者が書いた、併せて読むのをおすすめしたい類似の体裁の記事として、以下のようなものもあります。