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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

教育ICTの最前線レポートを支える デジタルカメラα

2015/5/30より ソニーデジタルカメラ「α」の"アンバサダー"として1ヶ月弱活動をすることになりました。数回ほどこのBlogにも記事をPOSTしてみたいと思います。

αアンバサダーのハッシュタグからこのブログに到達した方のために簡単に自己紹介をしておくと、当方は
・教育をICTの活用により、更に良くするための個人的な活動を行っている
・全国各地で行われている教室や教育現場でのICT活用の様子を記録・伝達するための
 ツールとしてαを使っている
・教育系イベントや公開授業をTwitterで実況中継し即日Togetterに纏める

という活動をしています。そのため、当方はいわゆる”写真家”クラスタの人間ではなく、短時間でより品質の高いレポートを作る課題解決ツールとしてαが現状ベストの選択肢であると考え、使っています。よって他のアンバサダーさんよりは「ユースケース」に関する記事が多くなると思われます。

まず、実際にどんな実況中継を行っているかの一例ですが、こんなのです。

このイベントは全国の小学〜大学までの先生が、ICTによって授業や活動の質を高めたり、今まで出来なかった事を実現している様子などを広く伝えてきたものです。年に数回開催されていて、今年の4/26は200名の会場が早期に満席になる程注目を集めるイベントとなりました。

で、このイベントで使ったのが以下の組み合わせです。
Apple - MacBook (12" Retina)

α7S | デジタル一眼カメラα(アルファ) | ソニー

Remote Camera Control  | ソニー

やりたい事は「αで撮った写真を使いなれたMacから説明文を加えて瞬時にTwitterする」ということ。これ簡単なようで結構難しいのですが、それを可能にしたのが最後に紹介している「Remote Camera Control」というPC/Mac用ソフトでした。このソフト、USB接続されたαなどのソニーデジタルカメラに対して
・PC側からシャッターを切る
・PC側からF値/シャッタースピードなどを制御する
・αで撮られた写真は自動的にPCに転送されてくる
ということが出来る素敵ツールです。これを駆使することで、
 スライドを撮影->内容を120文字くらいで纏める -> Twitterにスライドと一緒に投稿
という流れが非常にスムーズに行えます。それをひたすら繰り返したのが先のリンク先のTogetterです(一部、同じハッシュタグの他の人のTweetも混ざってます)


なお、カメラとしてα7Sをわざわざ選んでいる理由は
・薄暗い会場でスライドを撮影する際に(今の所)α7Sが最も綺麗に写る
・サイレントシャッター機能が使える
・コンパクトなので登壇者に対する威圧感(?)が少ない
などです。レンズは色乗りが良いという意味で35mm f2.8 の ツァイス単焦点を使いました。あとTwitterにまとめるのが目的なので画素数はそんなに要らない、むしろMAX解像度で撮影しても1200万画素のα7Sは最近のデジカメと比較してもストレージを圧迫しないという意味で結構、ありがたい存在だったりします。

ということで、机のある会場だと、上記のRemote Camera Control を使う方法が最も早く、かつ正確に講演の内容をリアルタイムに近い形で残せます。が、難しいのが机がない時で、当然Macが使えません。私のユースケースでは公開授業のように、教室にお邪魔して授業を邪魔しないように気を使いながら、生徒児童がICT機器を活用している様子を撮影させてもらう場合がこれに該当します。
そこで活躍するのが、レンズスタイルカメラ+スマートフォンの組み合わせです。これについては過去記事をご参照ください。

全国のよく訓練されたSONY党員の中でも、公開授業の記録と発信のためにレンズスタイルカメラを使う人間はそうそう居ないと思いますが、これらの組み合わせは撮影の機動力と即時の記録を両立するツールとして(個人的には)今の所最強です。実況Tweetを繰り返すうちにフリック入力は電車の中で女子高生に二度見されるくらい早くなりました(笑)  さすがにキーボードの入力速度には負けますが。

これらのレンズスタイルカメラは、スマホとの間は「PlayMemories Mobile」というアプリを通じてカメラとWiFiで通信し、カメラの捉えた絵を飛ばす仕様になっています。レンズスタイルカメラには液晶モニタが付いておらず、スマホに映像を飛ばすことで「ファインダー」代わりに使えます。また、撮った写真はその場で縮小されたものがスマホに無線転送されてくるといった機能も持ってます。しかし、先のiTeachersのような大きなイベントや、大規模な展示会ではWiFiがあちこちに飛んでいるため、電波の混雑の影響か、画像の転送が非常に遅くなったり、途中でカメラとの接続が切れたり、スマホへの撮影画像の転送に失敗するといったトラブルによく遭遇します。本末転倒な気もしますが、本音を言うと有線で高速・安定した通信ができるバージョンが欲しいなぁ。

ちなみに、レンズスタイルカメラを購入しなくても、α7Sなど最近のαシリーズには「アプリ」と呼ばれる追加機能をダウンロード可能で、「スマートリモコン」というアプリを入れることでレンズスタイルカメラと同等の使い方ができます。
が、私が敢えてレンズスタイルカメラを使っているのは
・公開授業では見学者が非常に多く、人の合間を縫って撮影が必要
・一方で(許可は得ているものの)生徒児童の顔がハッキリ写り込むのはNG
・そのため中望遠域を多用する
という制約条件があり、カメラを片手持ちにしてアングルフリーに撮影できるレンズスタイルカメラの方が利便性が高いのです。例えば以下のような写真を撮るには、レンズスタイルカメラだとやりやすいです。
(写真は同志社中学校iPad×Skypeを使った"英語のスピーキング"練習の授業風景)

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※上記の公開授業の詳細は過去記事を御覧ください。


なお、今回はαアンバサダープログラムに参加し、ソニーさんから最新のコンパクトミラーレス一眼「α6000」という機種を1ヶ月ほどお借りする機会に恵まれました。手持ちのα7Sよりもコンパクト、かつAPS−Cサイズのセンサーを搭載するほか、オートフォーカスが極めて高速という特徴を持ったカメラです。
早速昨日、友人の結婚パーティーがあったので使ってみましたが、コンパクトさに似合わぬ連写・速写・AF性能を持つことが実感できました。特に公開授業の機会があれば、QX1やQX100と比較をしてどの程度の使いやすさなのか、スマホと組み合わせた実況中継にも耐えられるのか、などを検証する用途で使ってみようと思います。

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また、ちょうどタイミングよくGoogleからGoogle Photos」が発表されましたSONYさんにはちょっと申し訳ないのですが、ちょっと使ってみた限りでは本家のPlayMemoriesというアプリよりもGoogle Photosの方がだいぶ使い勝手が良い感じなので、次回はこちらとの組み合わせでどんな利便性が得られるかを記事にしてみようと思います。

開発者の論理、運用(利用)者の論理

このブログは教育関連の話題を扱うブログですが、今日はちょっと教育に限定しない話題を書いてみたいと思います。組織内で、システムを開発(または導入)する側と、それを利用する側の話です。
たぶん、すごくあたり前のことが書いてあるだけなので、そんなに気負わず読んでみてください。あー、あるある、くらいの気持ちになっていただければそれで充分です。

基本的に多くの組織内では仕組みやシステムを「作る」もしくは「導入する」担当と、それを「使う」もしくは「運用する」担当に分かれていると思います。当方は社会人まだ7年目ではありますが、これまでに両方の立場を経験させていただきました。その中で、立場が変わるとモノの見え方が変わるということを「社内システム」を例に挙げて話をしたいと思います。

 

社会人1年目、私は社内システムを「使う」、いわゆるユーザーとしての仕事を経験します。

そこで日々感じていたのは
・なぜ使う側の立場をここまで考えていないシステムなのか
・何でもかんでも備考欄で吸収するのはいかがなものか
・この手作業でやる所をシステム化すればもっと人件費が浮くのに
・1分1秒が惜しいのに、なぜこんなトロいシステムを使うのか
・業務手順の変更や改善をなぜきちんと作り手は説明してくれないのか
といった不満でした。

大学〜大学院で一つの研究室内システムを作り上げた経験もあったので、「ちょっと手を加えれば直せそう」と見える部分は沢山目に付きました。そこでいくつかは「具体的にこうしてはどうか」と提案をしたこともありますが、ちょっとした仕様変更(文字を入力する枠を追加したり、条件フラグをひとつ増やすなど)だけでウン十万円かかる、などと言われて玉砕し続けました。
とはいえ、ただで引き下がるのは嫌だったので、ExcelVBAなど使えるものを活用して効率化ツールを作るなど、工夫や提案を続けてみました。そうしていたらある時、社内システムの開発プロジェクトに関わる機会に恵まれました。

そこで、今までとは正反対の立場を経験します。

システムの開発や改修は、ヒト・モノ・カネ・時間との戦いでした。限られたリソースの中で結果を出さなければなりません。しかも、ユーザーに要望を聞くと、とても消化しきれないほど大量の意見が出るし、最初に聞いた時に出てこなかった要望が、締め切りをだいぶ過ぎた後に出てくる(しかも重要で絶対に実装しないといけなかったりする)ということもよくありました。
こうした事情から全ての希望を満たすことはまずできないという現実に直面します。よって「割り切り」をするわけですが、その時に真っ先に削られる候補に挙がるのが「システム内であったら便利だけど、別の方法でカバーできるよね」という機能です。

例えば、画面内にひとつ入力枠を追加してほしいというケース。Excelや紙であれば枠を書くだけでOKなので「簡単でしょ?」と思われがちです。しかし、システムとなると、枠を増やすためにはデータベースやそのテーブル構造をまず理解し、どこに変更を加えれば良いかを把握し、その変更による影響がありそうな部分(特に他のシステムと連携する部分)を特定し、試験環境で動かしてみて大丈夫か、では本番の環境に導入したらどうか…などかなりの部分の精査が必要になります。こうした検証や試験に加え、仕様書の書き換えや、新機能の説明会とその資料の作成するなど、相当な手間がかかります。このあたりは実際に経験してみて、なるほどこれは「ウン十万円」というコストは適正だったんだな、と納得したのを覚えています。(ちなみに、この話は”内製開発”、つまり業者に発注せず自分で作る、という経験を元に書いています。もし外注していたらたぶん桁が違う数字になっていたでしょう…) 

結局、ここにかける時間と手間をかけるのであれば、現場には数秒間の負担や手間になってしまうものの、「申し訳ないですけどExcelで…」とか「備考欄に手入力で追記してください…」というのが費用対効果という意味で現実的な答えになるわけです。

細かい例を挙げるとキリがないのですが、開発をやってみた結果、過去の自分の持っていた不満について自分自身で回答すると、以下のようになってしまいます。

・なぜ使う側の立場をここまで考えていないシステムなのか
 -> ヒアリングを重ねても、システムを毎日使っている人と同等に詳しくなるのは難しいです…。

・何でもかんでも備考欄で吸収するのはいかがなものか
・この手作業でやる所をシステム化すればもっと人件費が浮くのに
 -> 上記の例の通り。システムを使う人の人件費が浮いても、作る側や展開する側の人件費がそれを上回ってしまうと「やらないほうがベター」なんです…。勿論コスト以外に人命や安全などもっと重視するものがある場合は、この限りではありません。

・1分1秒が惜しいのに、なぜこんなトロいシステムを使うのか
 -> システムの動作速度はいろんな要因で決まるため、全体的なパフォーマンスの向上はかなり難易度が高くコストに見合わないケースが多いです…。これについてもコスト以外の重要要因がある場合はこの限りではありません。

・業務手順の変更や改善をなぜきちんと作り手は説明してくれないのか
 -> すみません本当はもっとちゃんと説明したいんです。でも人や時間が足りないというのが本音です。説明文書や資料はきちんと作っているので、最低限そちらをみていただければ…。

 

とはいえ、双方言い争っても何の解決にもならないので、それぞれ持てる手段で歩み寄るためにも対話は絶対に必要です。どうしても利用者にカバーしてもらわないといけない場合は、そのほうが全体を見た場合に効率的であることを理解してもらえるよう、きちんと説明することは最低限必要でしょう。

一方で両方の立場を経験してみて重要だと感じたのは、システムを「使う側」の人間も、こうした「作る側」や「導入する側」の事情を理解するように努めることです。開発や提供をする側に文句や愚痴ばかり言ったり、費用対効果が低い機能改善を強く求めてばかりいると、開発/導入を行う側はどうしてもその人を避けたくなってしまうものです。

実はこの話は、システムに限ったことではなく、仕事をする上でのあらゆる面で重要なことだと私は考えています。異なる立場同士で話をする時には、相手の事情をまず理解しようと考える。不満に思っていることが実現できないのには、なんらかの理由や制約条件があると考えて、事情を聞いてみる。実はこれができる人は意外と少ないので、大抵の場合は「この人は自分を理解してくれそうだ」と見てくれて、腹を割って話してくれます。すごくあたり前の話ではありますが、改めて、自戒も込めて書き残しておきます。


最後に、一応教育についての話題を扱うブログとして、自分が大事にしている言葉を示して終わりにします。
 

学びの多くは相互理解から。争いの多くは相互不理解から。

 

今後も様々な立場の方とお話しをし、知らないことを補うため自らも学ぶ、ということを続けていきたいと思います。

 

※ちなみに、今回のエントリーはあくまで組織内に閉じた話をしています。これがモノの売買など「組織外」が絡む話になるとだいぶ事情が変わってくる部分がありますが、その辺は要望があればまた書きます。

清教学園が挑む「eポートフォリオ」の活用と「学びのステークホルダーに対するコミュニティ作り」

先日、大阪府河内長野市にある私立の中高一貫校「清教学園中・高等学校」を訪問してきました。同校は全国の私立中高一貫校で唯一、文部科学省の「高大接続」「高校教育の質の確保・向上」「大学入試改革」の調査研究の委託先に選定されています。しかも”グローバル時代や教育の多様化を見据えた「大学受験」だけに縛られない人間教育を目指す”という方針も掲げており、それを実現する仕組みのひとつとして「e-ポートフォリオ」というシステムが運用されている点に筆者は注目しました。このシステムを授業に積極活用している、同校の特任教諭 田邊 則彦先生と、同システムを開発した 株式会社NSDの川畑 雅哉様にお話を伺いました。

(田邊先生にはご厚意により高校3年生の授業も見せていただきました)

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左:清教学園 特任教諭 田邊 則彦先生、右: NSD 川畑 雅哉様

eポートフォリオは、生徒の学習履歴や成果物を集約し、中高6年間の学びの「ポートフォリオ※」を形成するために導入されています。webベースのシステムで、PC、タブレットスマートフォンなどOS/デバイスを問わず閲覧することが可能で、生徒や教員だけでなく保護者も閲覧や利用が可能となっています。

ポートフォリオ:画家・写真家・デザイナーなどが自分の作品などを集約してまとめ、自身を知ってもらうために利用するものを指します。ここでは自身の学習成果物が「作品」として集約されているという意味合いになります。

一般的なLMSと大きく異なることは、単なる「課題の出題・提出」といった「蓄積」の要素だけではないことです。”自己評価”、”相互評価”、”教員による評価”といった「多面的評価」を実現するプラットフォームとしても機能しているのがポイントで、システム上に提出された課題や作品に対して教員やクラスメートがコメントをつけ合い、そこでディスカッションすることを通じてさらなる改善を押し進める「学びのPDCA」を加速するための仕掛けが用意されています。
(相互評価を実施するかしないかは教員が課題ごとに選択できる)

田邊先生は、このポートフォリオとここに集約される様々な作品に対する評価を「進路先が求める人物像にマッチするよう、学習成果物を適切に組み合わせ、自身の”軸”に合わせたストーリーを構築する材料にしてほしい」とお話されていたのが印象的でした。
現在進められている大学入試改革では、各大学が明確に「アドミッションポリシー」を制定することが求められているほか、いわゆる「知識の再生」だけに依存しない大学入試における選抜方法として「面接」や「小論文」などの活用も挙げられています。そうした動きを先取りして生徒達が準備できるような「ポートフォリオ化」を今の段階から進めている、と見ることができるでしょう。
実際にこのe-ポートフォリオを活用している授業を見学することができたので、その模様をお伝えしていきます。
※写真掲載には学校および生徒から事前に許諾を得ております

一人1台のiMacがある情報科教室

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今回授業を見学した教室は一見、理科室のような大きめな白い机が並んでいるだけの情報科教室。しかし、机上に見える枠のような部分をあけてハンドルを引き出すと、なんとiMacが登場。このiMacを使って、今回は2時間連続の授業を使い、「卒業論文」を「iBooks Author」を活用して「iBooks形式」に変換し、手元の「iPad」で確認しながら作品として仕上げていく活動を行っていました。国公立大学の前期試験直前でこういった授業は珍しいなと思っていたのですが、このクラスは当初から推薦により大学進学が確定しているコースの生徒とのこと。

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授業はまずQuipperを使ったアイスブレイクからスタート。Quipperは日本人が英国で立ちあげた教育系ベンチャー企業で、主に学習のプラットフォームを提供している会社です。田邊先生はQuipper社と連携しながら同システムを独自にカスタマイズやバグフィクスした上で生徒に提供しているそうです。当方が知る限り、学校としてQuipperを使っているのは日本ではここだけではないでしょうか?

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アイスブレイクの後、本題のiBooks作成作業に移行。こちらが冒頭の「eポートフォリオ」の画面。ここには、生徒達が卒業の要件として制作した40000字規模の「卒業論文」が格納されていました。ちなみに、生徒は論文の書き方(いわゆるアカデミックライティング)を高校2年の頃から約1年かけてしっかり学んでいるとの事で、iBooksにリデザインする中で「引用はどう表現するのか」といった質問が生徒より出ていました。また、iBooks Author特有の表現に戸惑う生徒の様子を見て、「出典にはハイパーリンクなどを使ってジャンプさせるのも手」「Wordから図表がうまくコピペできない場合はスクリーンショットを活用しても良い」といった指示も飛び交っていました。

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写真のようにwebなどから素材をうまく持ってきて見栄えのするデザインに変更するなど工夫をしている生徒も見られました。

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ちなみに、章立てやセクションの関連性などiBooks独特の仕組みなどについては特に先生から指示や説明はありませんでしたが、理解が早い生徒が他の生徒に共有しながら習得していく様子が見られました。普段からこうした生徒同士の学び合いや問題解決を行うよう指導しているということで、授業中生徒達は座席を離れて様々な場所で情報交換をしながら作業を進めていました。

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実際にiPad上でiBooksから出力した作品をプレビューし、完成イメージを確認している様子です。完成作品は.pdfと.ibooks、およびiBooks Authorで編集可能なファイルの.iba の各種形式でeポートフォリオ上に格納し、授業は終了となりました。

成果物に対する相互評価と「学びのコミュニティ」化

この後は、eポートフォリオ上で教員が作品に対してコメントをつけたり、場合によっては生徒に公開して「相互評価」を行うという流れになります。冒頭に述べた通りeポートフォリオwebブラウザベースのシステムなので生徒手持ちのスマートフォンでも閲覧ができます。このため、授業の中だけで使うのではなく、適宜授業外で先生やクラスメートからつけられたコメントを確認したり返信したりすることができます。なんとなく教育SNSに近い形に見えますが、田邊先生は教育SNSはもっと日々の相談や話題などの一般的な用途について使うシーンを想定しており、eポートフォリオは”学習成果物”を通し地域社会や保護者、教員などの「学習者を取り巻く全てのステークホルダーに対するコミュニティに育てていきたい」という考え方をされています。
(逆に、小学校から中学校に上がる時の不安などを生徒や先生・保護者や先生などが会話するような機会は教育SNSに任せる方が良い、とシーン別で利用イメージを明確に分けていらっしゃいました)

株式会社NSDと田邊先生の連携により生まれたeポートフォリオ

授業後には株式会社NSDの川畑様にも詳しくお話を伺うことができました。
このプロジェクトには2011年ごろから関わり始め、ほぼゼロから現在のeポートフォリオを作り上げてきたそうです。2011年から2年程度、海外で使われている近いコンセプトの商品を研究したり、田邊先生の授業サポートなどに関わっていく中でシステムとして必要な要件を集約したり、日本特有の学習評価の考え方などに触れていきます。ベースとなるシステムは2013年に作られ、同年に清教学園に田邊先生が着任してから約2年間、同校が推進しているルーブリック(※2)の活用も踏まえながら進化を続けていき、現在の形になったとのこと。ただ、現時点ではまだプロトタイプという位置付けで、2015年度の早い段階での製品化にむけて活動中とのことでした。
(※2:熊本大学のホームページからの引用「ルーブリック(Rubric)とは、レベルの目安を数段階に分けて記述して、達成度を判断する基準を示すものである。学習結果のパフォーマンスレベルの目安を数段階に分けて記述して、学習の達成度を判断する基準を示す教育評価法として盛んに用いられるようになった。これまでの評価法は客観テストによるものが主流を占めていたが、知識・理解はそれで判断できたとしても、いわゆるパフォーマンス系(思考・判断、スキルなど)の評価は難しい。ポートフォリオ評価などでルーブリックを用いて予め「評価軸」を示しておき、「何が評価されることがらなのか」についての情報を共有するねらいもある。」 http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/opencourses/pf/2Block/05/05-2_text.html )

また、田邊先生からはアダプティブラーニングの仕組みと連携して、e-ポートフォリオの中に診断機能的なものが入ってくるともっと面白くなる。システム側から学習状況に対していろんなサジェッションが出てくると面白いよね」というコメントもあり、各方面で始まりつつある「学習ログ分析」や「教育のビッグデータ解析」とも連携できると、とても面白そうです。実際に、株式会社NSDもこの部分については非常に期待しているとのことでした。

eポートフォリオの抱える課題

最後に、お二方にお話を伺う中で三つほど顕在化した課題についても記載しておきたいと思います。
1点目は「校務支援システム」の連携です。一般的にこれらは機密性の高い情報を扱うためにネットワーク的に分離された場所に置いてあるケースが大半ですが、eポートフォリオwebブラウザで外部からアクセスできます(eポートフォリオで扱うのはいわゆる”成績”や”評定”よりも前段階の参考情報という位置づけ。もちろん、IDとパスワードによる個々の認証はきちんと行い、情報管理も含めて生徒には学んでもらう意図があります)。
とはいえ、こうしたe-ポートフォリオが扱う情報が適切な形でセキュリティを保ったまま、校務支援システムと連携できると何かと利便性が高いでしょう。このあたりは、e-ポートフォリオが製品版として登場する際には是非とも検討されてほしいですね。

 

2点目は「多面的評価」に対する教員への負担感をどうするかという問題。田邊先生も川畑様もこの点は非常に気にされていて、従来やっている手法+αでなるべく負担感がない(場合によっては現状の先生が個々に手で管理しているものと比較して手間が減る)ように見えるような仕掛け作りを考えているとのことでした。

最後の3点目は、こうしたシステムが広く整備されていく前提として学校内の学習環境(ハード・ソフト・インフラ)の整備が進む必要があるという点。そういう意味では学校そのものにネットワークがなくても使えるセルラータブレット端末や、生徒が個人で持っているスマートフォンを教育にうまく活用すると良いのでは、というコメントが田邊先生よりありました。(当方がKDDIの人間ということを気遣ってのことかもしれませんが、実験的にセルラー端末を導入して検証を行うという事例もいくつか出てきており、当方もその可能性を感じ始めているところなので、このあたりは何かできることがあればなぁと”個人的には”思っています)

 

以上、清教学園の取材レポートでした。

授業だけに注目すると「iMacを使ってiBooksで卒論を加工している」という見え方になってしまうかもしれませんが、実際にはe-ポートフォリオを使った「授業の前後」にその価値があるという点が、今回の取材での一番の気づきでした。「学校の中」に閉じたICTの活用ではその真価は活かしきれない部分がありますので、田邊先生のおっしゃっていた「学習者と取り巻くすべての学びのステークホルダーに対するコミュニティ作り」というコメントには大いに賛同するところです。

今後の清教学園の動きが楽しみですね。

同志社中学校×オンライン英会話「ベストティーチャー」コラボ公開授業

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2015年2月9日(月)、京都にある同志社中学校にてICTを活用した英語の公開授業が開催されました。オンライン英会話スクールを運営する「ベストティーチャー」とコラボレーションし、Skypeを使った海外とのリアルタイムコミュニケーションを同時多数並行で実施するという内容でした。

ベストティーチャーについての詳細はITMedia TechTargetの拙稿“世界に1つだけのテキスト”で正しい英語が話せる「ベストティーチャー」を、また同志社中学校のICT環境や特色ある教育については同Tech Targetの神谷 加代氏の記事 同志社中学校がiPad miniで実現した“英語が話したくなる授業”とは?  および 「iPad mini導入」は始まりにすぎない――同志社中学校がIT活用に挑む訳  を参照をいただくとして、本稿では公開授業の内容に絞ってお届けします。

 

「会話」の機会を最大化する授業設計

一般的な中学英語の授業では、生徒が「発音」をする機会はあっても、第三者と「話す」機会は実はかなり限定的。ネイティブのALTや授業担当教諭との掛け合いは、授業時間を生徒数で割ると、一人あたり2,3分レベルになってしまいます。しかし、英語が「伝わる」経験や「相手の発言内容を理解できる」経験は非常に重要で、英語力の向上や自身の課題を知る絶好のチャンスでもあります。多くの先生がそうした「話す」機会の創出に悩む中、今回のベストティーチャーとのコラボではなんと12人の英語講師が生徒のためにSkypeにスタンバイし、2−3名の班に一人の講師がいるという非常に贅沢な状態で進められました。「一人ひとりの生徒が英語を”聞く”機会、”話す”機会を最大化」した英語の授業と言えそうです。

 

授業の設定は以下のような流れです。

・6人の英語の先生(それぞれ出身国はバラバラ)がiPad上のSkypeに待機

・授業の初めにToday's Taskの確認

・3分で先生の名前と出身国、そしてその先生の特徴(好きな食べ物や趣味など質問内容は自由)など、
 なるべく多くの情報を聞き出す
・ただし、出身国についてはズバリ「どこの国出身ですか?」と聞いてはいけない。

・3分経ったら、次のSkype講師にスライドし、また3分間で新しい先生のことを聞き出す
・これを6回繰り返し、各班で先生の名前と出身国をリスト化したものをロイロノートで提出

・最後に、特定の先生を紹介するスライドをロイロノートで作成し先生に提出

つまり、各班で最低でも3分×6回=18分間程度「会話」を行うチャンスを与えていることになります。これを2クラスで同時に実施していました。もともと同志社中学校では英語についてはハーフクラス制度を導入しており1クラスの人数が少ない状態で授業を受けられるのですが、さらにそこにハーフクラスごとに6名の講師がつくので、非常に贅沢な「英会話」の環境と言えるでしょう。


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ベストティーチャーのサービスの特徴として、事前にSkypeの会話に使う台本「スクリプト」を専任のライティング講師と一緒に作成し、その内容に沿ってSkypeレッスンを行うというものがあります。が、スクリプト作成には通常のベストティーチャーのスキームだと少々時間がかかるので、今回の公開授業では各班ごとに固定の質問(名前と出身国を聞き出す、ただしその表現方法は自由)と自由質問をグループで10問程度を英作文し、事前に授業担当教諭にチェックをしてもらった上でSkypeレッスンに挑むという方式を行っていました。写真は、その事前に用意した英作文シートに質問の答えを記入しながらSkypeレッスンを受ける生徒の様子です。

 

ロイロノートスクールの比較機能も併用

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3分×6のインタビューが終わった後、担当教諭(写真は今回の公開授業にお招きくださった反田先生)がロイロノートスクールの「集約(比較)表示機能」を使って各班の回答を一覧表示しながら答え合わせをしている様子です。ほとんどの国名を当てたツワモノグループも登場。
このあと、特定の一人の先生を選んで、その先生を紹介するスライドをロイロノートスクールで作成するという作業に各自が取りかかりました。あまり馴染みのない国の先生もいたようで、各自のiPadSafariをつかってその国の状況を調べる生徒が目立ちました。

 

公開授業を終えて- インタビュー

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公開授業のあと、今回の授業を企画した背景についてベストティーチャーの宮地社長と、同志社中学校の反田先生に個別にお話しを伺うことができました。
(写真左が反田先生、右が宮地社長)

ベストティーチャーと同志社中学校とのコラボのきっかけは、Villing Venture Partners という教育向けベンチャー支援組織のイベントで出会ったことだそう。ベストティーチャーとしてはすでに同志社が中学校1年生全員がiPadを手にしていることも追い風になったそうです。出会ってから数ヶ月後となる12月、ベストティーチャーは同志社中学校の「特別講座」で希望者に英会話Skypeレッスンを実施、これが大変な人気を博し、一部保護者も参加、見学に駆けつけたということから、今回の公開授業でのコラボが決まったそうです。

公開授業について宮地さんは「講師の確保が大変だった」と振り返っていました。通常はすべてがオンラインで完結するベストティーチャーにとって、今回のような”公開授業”は初めての経験。常時7−8名のネイティブ講師がSkypeレッスンのために待機しているとはいえ、今回はそれを上回る人数で、さらにクイズの性質上”すべて異なる国籍であること”や”中学生でもわかりやすい表現ができること”などの条件も加わっています。しかし、もともと多彩な国の英語に触れることが必要というベストティーチャーの講師採用ポリシーもあり、無事に対応できたそうです。宮地さんは今回の公開授業で「ある程度感触を得たので、今後学校向けの展開も検討していきたい!」と意気込んでいました。
(実際に、ベストティーチャーのホームページでは学校向けの案内が掲載されています)

一方反田先生は、「こうした形の授業を取り入れることで、これからの英語学習に求められてくる”4技能”の育成に大きな効果があるのではないか」と期待しているとのこと。ちなみに、Skypeを使った「国当てゲーム」はEdTech業界に詳しいデジタルハリウッド大学の佐藤昌宏教授のアイデアとのこと。反田先生はそのアイデアを3分×6セット、かつジグソー方式を取り入れたゲーミフィケーションを盛り込んだ授業デザインに仕立てたということです。特に今回の3分×6という方式は「最初の先生との会話で失敗したり、自分が出せなくても次の先生の回に気を取り直して”再トライ”できる」「一先生あたり3分の時間制限を設けることで質問を一つでも多く発話しよういう気持ちが後押しされる」という点がポイントということ。確かに、作文が正しくできても限られた時間でそれがうまく相手に伝わるように「発音」できるかは全く別問題。それを複数回、トライする機会があるのは非常に良いことかもしれませんね。

 

今回の見学で、教育におけるICTの活用が「これまで難しかったことが普段の教室で可能になる」という実例をまた一つ、垣間見た気がします。

2014年の振返りと、2015年の抱負

皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年初の投稿ということで、昨年の振返りと、2015年に向けた抱負を投稿したいと思います。

まず、昨年にあった幾つかの出来事を振り返ります。昨年も多くの教育関係の皆様とつながることができ、一部で点と点が線になり始めた感触を得た年でもありました。特に象徴的な出来事を5つほど示すと

ITMedia Tech Target  (教育IT)への寄稿を開始(2月)

webメディアデビュー。iPadを活用している学校への取材と、EdTechの先端を走る方々の製品紹介記事を執筆しました。記事を〆切までに書き上げることの難しさ、「編集」により自分の文章が生まれ変わることへの驚きを経験させていただきました。なお、昨年最も読まれたのは「EdTechフロントランナー」の「アオイゼミ編」で、教育ITのサイト内でも頻繁にアクセス数1位を獲得しています。

iOSコンソーシアム 文教WG(ワーキンググループ)が成立(6月)

本職と別に無給で兼業をしている”一般社団法人 iOSコンソーシアム”に、念願の教育系組織を立ち上げました。当方は同WGの共同リーダーに就任し、「企業と教育者をつなぐ」ための活動を進めてきました。iPadで教育サービスを体験するイベントを3回、30−40名程度の教育ICT企業と学校関係者が集まり、あらかじめ決めた「お題」について情報交換する「月例会」も6回、開催しました。今年は関西支部でも月例会を実施していく予定です。

ICT教育ニュースに記事を寄稿(7月)

「先生のための初級ICT教育講座」シリーズの第一弾として寄稿した「教育現場でiPadが選ばれる5つの理由」が、同サイトの年間ビュー4位に入りました。この世界ではiPadWindowsが人気を二分していますが、それぞれに良さはあるものの、現時点では特に豊富な教育向けアプリを擁することが強みと言えます。しかし、各種企業におけるキャッチアップや、文科省総務省が連携して進めている教育のクラウド化に伴うHTML5ベースのwebアプリが増えてくると、この記事の5つ理由が過去のものになってくるかもしれません。

iOSコンソーシアムとして 文部科学省共催のイベントに3回の出展(9月、11月、12月)

9月に文部科学省で開催された「情報教育担当者連絡会」を皮切りに、11月に横浜、12月に大阪で開催された「eスクール ステップアップ・キャンプ」に、それぞれiOSコンソーシアム 文教WGとして小ブースを出展。iPadを学校教育に活用している現場の模様や、コンソーシアム会員企業のソリューションを教育委員会や学校関係者向けにPRしてきました。iOS関係の展示が全体として少なかったこともあり、いずれもかなり多くのお客様がブースに立ち寄ってくださいました。

・人事異動でKDDI内でも教育とICTの活動を開始(10月)

これが当方としては昨年最も大きな出来事でした。それまでは完全に本業と切り離して活動していた教育とICTの活動が一部仕事になったことで、この分野について調べたり、研究する時間をより多く取ることができるようになったのは大きな前進です。とはいえ、これはあくまでスタートラインであり、昨年10−12月を準備運動期間とすれば、今年からが本番とも言えます。仕事として教育とICTの成果が残せるように努めていきたいものです。

 

以上が昨年の振返りです。次に2015年の抱負ですが

「教育ICTの推進のためにあらゆる面で戦う」

ということを宣言したいと思います。
何と戦うのか、ですが、大きく5つあります。ほとんどが教育ICTと関連します。

1.既存の常識と戦う

一つ目は、教育ICTをあるべき姿で推進していくために「これがベストプラクティス」とされるものを(自分自身の常識も含め)「それが本当にベストなのか?」と疑い、そこから解決策や代案を考え、提言し、広げていきたいと思います。例えば昨年は、学校へのタブレット導入にWiFiや電子黒板が必須であるという考えや、学校にMDMは必要ないのではという考えがそれぞれ塗り変わりました。重要なのは、教育ICTは未来の子供たちのために推進することであり、大人の都合で進めていることではない、という事実です。特に本職でも教育とICTに関わることになったことで、この部分はより強く意識していこうと思っています。

 2.時間と戦う

2014年が教育ICTの方向付けをする年であるとすれば、2015年はそれを実行する年であり、各所で下準備されてきたものが一気に動き出してくると私は見ています。時流を読みながら素早く動いていくには、常に時間との勝負が重要だと思っています。自身もICTをより上手く活用しつつ、それに多くの時間を取られて判断が遅くならないようにしたいと思っています。重要なのは情報を収集したり出力することではなく、そこから「判断」をすることであると肝に銘じていきます。

 3.世の中の動きと戦う

これは既存の動きの反対勢力になる、という話ではなく、足元で起きていることと国や自治体、組織の計画を頭の中でリンクさせ、背景や理由を理解した上で、分かり易く世の中や組織に対して発信をしていくこと。そこから、新しい動きを作り出すことを重視する、という考え方です。否定や批判をしても世の中や組織は動かないし、仲間がいなければ動きは大きく鈍ります。ただ、これをやるには情報のアンテナを相当高くすることが必要ですし「自分の頭で考える」ことも重要です。具体的には、文科省や国の動きをきちんと把握し、解釈し、世の中に発信し、指摘や批判も受けながら、自らも成長していくという覚悟です。

4.自分自身と戦う

3を進めていくには、自身の積み上げてきた理念や信念を場合によっては変えたり、捨てる覚悟が必要です。少なくとも私は企業の人間であり、学校現場のことで先生方に、政策や方針のことで官僚の方々に、教育の各分野のことでその道のエキスパートの方々に、それぞれ勝てるわけがありません。ですが、そこに少しでも近づこうとする努力は絶対に捨てたくありません。ですので、私は素人なりに自分で考え、こうではないか、と発信をし、それにより各々の世界の人たちから批判や指摘いただく(直接言っていただかなくても、自分からそういう指摘を見つけ出す)ことができれば、そこから学ぶことで先に進もうと思っています。もちろん、企業人として得うるスキルや知識も並行して伸ばすのは言うまでもありません。「完璧でなければ情報を発信しない」では先に進めないので、とにかく考え、表現し、修正していく中で「自分自身」が弊害になるのであれば、どんどん変えていくことを進めたいと思います。 

5.ワークライフバランスと戦う

昨年の反省も踏まえ、KDDIの社員、iOSコンソーシアム 文教WGの共同リーダー、そして家庭の3つの立場のいずれもきちんと両立させ、年齢相応のワークライフバランスを得る術を磨こうと思っています。今回、年末年始に6日間ほどSNSを使わない期間を設けたことで再認識しましたが、情報収集や発信は重要なものの、それ以上に重要なものも沢山あります。それぞれの場所に強くコミットすればするほど、他のものを見失ってしまうので、常にバランスを意識して、メリハリをつけて動くようにしていこうと思います。 

ということで、今年も様々な面で教育とICTを推進していきますので、なお一層、皆様のお力添え、ご助言をいただけますと幸いです。おそらく「お前それ間違ってるから」と言われていちいち凹むようなヤワな人間ではありませんので、直接会った時でも、飲みの席でも良いので遠慮なく突っ込んでいただければと思います。

引き続き、どうぞよろしくお願い致します。

大学入試改革で進む3つの教育産業界の変化予測

【追記2:コメントが誰でもできるように設定を変更しました】
はてなブログの設定を変更し、コメントを誰でも投稿できるようにしました。

【追記1:ご覧いただいている皆様へ】
本記事について、数名の教育分野に詳しい方からご指摘を頂戴したのですが、本稿は「ICTはあくまで脇役」という観点に立って記載されているものです。
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大学入試センター試験を廃止し、かねてより議論されていた「1点刻みの得点合否廃止」「テストの得点以外の評価軸」「英語の多方面評価」などを盛り込んだ大学入試改革について、中教審から下村文科大臣への答申が行われました。

 さて、この新方式の導入は平成32年度(2020年)とあります。つまり、現在の小学校6年生からになりますので、いま小学校で学んでいる全児童は新制度での大学受験に挑むことになります。そういう意味では、まもなく中高一貫校を受験する家庭にとっては、今回の受験は非常に重要な「選択」になります。

 とはいえ、国の方針となった以上はこれから様々な対策が進むでしょう。これに伴って、受験に関わる業界にどんな変化が起こるのか、私なりに予測をしてみました。当たるかどうかはわかりませんが、是非読者の方々からご意見をいただければ幸いです。
(追記:コメントができるように設定を変更しましたので、ぜひご意見を頂戴できますと幸いです)

 

1. 英語の「話す」「書く」力を評価する仕組みの確立

 今回の新方式では英語では「4技能(読む,聞く,書く,話す)」の習得が必要になります。従来のセンター試験ではリスニングとリーディングのみ。ライティング分野は簡単な文法や語順整序が出題される程度で、作文力などの英語の「アウトプット系」能力は一部大学の二次試験で出題される他は、ほとんど問われていません。スピーキングについてはほぼ皆無です。
 そのため、特に「話す」力を評価したり、教える先生側も正しい発音をしたりそれを評価する能力が必要になってきます。こうした動向を踏まえ、一時的に英会話業界や発音力にフォーカスした教材、学習方法が教員・生徒ともに脚光を浴びるものと予想します。また、ネイティブの英語教員の需要も一時的に高まるでしょう。特に日本語がある程度わかり、学校生活に溶け込みやすいタイプの方は引っ張りだこになるかも知れません。
 さらに、英語の4技能試験には民間の試験を活用する方針です。その例としてはTOEFLTOEIC SWが挙げられていますが、これらの試験ではコンピュータを多用します。必然的にその「練習環境」を学校に求める声が出てくるでしょうから、この英語対策が間接的に学校へのICT機器の導入に貢献したり、学校の近くに「テストセンター」的な施設が増えたりするかもしれません。タブレット向けの発音力評価ツールや、英作文支援ツールなども今後アツい分野でしょうね。発音力とリスニング対策は絶対に紙の教科書ではできないため、英語対策は文科省が掲げる”2020年までの一人1台のタブレット導入”の推進にあたっての武器になることは間違いないでしょう。個人的には、これでもう中学・高校は学校にタブレットを入れないという言い訳はできない段階になったと思っています。

2. 思考力・主体性・協働性を支援するツールの開発が進む

 今回の新制度では面接や小論文などを通して、ペーパーテスト以外にも様々な能力を多方面で評価することが目玉の一つになっています。しかし、こういう試験を実施することを求められる大学側の負担は相当なものでしょうし、大学の先生が必ずしもこうした評価が適切に行える人ばかりとも限りません。
 しかし、実はこうした人材評価を随分前から実施しているところがあります。それが「就職活動の採用試験」です。就活では、コンピューターによる基礎学力テスト(いわゆるSPI)からライ・スケールなどを取り入れた巧みな性格診断(紙の上に指定されたパーツのシールを貼り付けて絵を描かせて潜在的な心理状態を推測するツールもあります)、奇抜な質問が登場するエントリーシート、そしてグループワーク形式や少人数形式の面接など、様々な方式でその「ひととなり」を評価しています。もちろん、就職活動の「人物評価」と、大学入学試験での「学力評価」がそのまま同列に語れるわけではありませんが、従来型の筆記試験に「新たな学力(21世紀型学力と表現されることもあります)」である応用力・思考力・協働して課題を解決する力などを加え、それを現場に無理のない形で運用するために、受験における筆記試験以外の能力評価をある程度、第三者機関に外注したり、そのノウハウを民間から購入するといった動きが数年以内に顕在化するものと予想できます。
 また大学受験では少子化が進んでいるとはいえ、相当な数の受験生の対応が必要ですので、正面から全ての受験生対応をやっていたらとてもではありませんが人件費だけで相当なものになります。ここでもICTの活躍する余地が大いにあることでしょう。最初からCBT(コンピューターベーステスト)にしておけば、その採点や集計の手間はマークシートと比べても大幅に減ります。もっと言うと、一人一人に違う問題を出題することだって可能になるかもしれません。(現状のSPIがこのタイプです。勿論、公平性の面からこの方式が安易に大学受験に持ち込めるかは議論が必要でしょう)
 これをサポートするためにも、なりすまし受験を防ぐための生体認証技術や、国民総番号制とのリンク、ソフトウェア的に本人を特定でき、かつ安価な技術が今後一層、もてはやされることになるでしょう。Duolingo Test Center のように、身分証をまず登録し、常時カメラでテスト受講者をモニタリングするような方式がもしかしたら一般化するかもしれませんね。また、小論文評価の関連業界もより発展するでしょう。
 少なくともコンピューターや既存の仕組みで人の「人物像」や「性格」をある程度まで見抜く技術はすでにあるので、「そんなことできるはずがない」という段階ではないのは確かです。

3.PBL(プロジェクト型学習)/CBL(チャレンジ型学習)がより発展する

 今回の改革では「アクティブ・ラーニング」というキーワードが登場しています。これは、答えのない課題に対して様々な方法を使って解決策を考えるという学習手法で、こういう考え方は企業や社会に勤める社員にとっては日常的に取り組んでいることでもあります。
 実は企業が人物像評価に先のような手法を取り入れているのは他でもなく、解決策が未知である問題にどれだけ食いかかっていける精神を持っているかを、入社前にある程度の精度で判断したい考えがあるからです。ただ現状の受験では、暗記とその吐き出し編重となっており、答えのない問題に取り組むという経験自体が不足しがちです。未知に挑む姿勢は企業だけでなく学問や研究においても重要なことなので、従来通り「知識」はきちんと身につけつつ、プラスαでこういう力を伸ばせるのであれば「その方が良い」という人が大多数かと思います。
 こういう「解決策が未知である課題」に対して精度の高い答えを作り出すには、やはりICTの力が極めて有効です。実は私は、ほぼ同義であるCBL(チャレンジ型学習)を実践する国内外の学校および生徒が銀座のApple Storeに集まって行ったイベントでこんな質問をしたことがあります。この時の生徒たちはいずれもMaciPadを使っていたので
MaciPadがなかったら、CBLを進める上でどんな困難があったと思いますか?」と。すると、多くの生徒が「調べ物をするときにより時間がかかるようになる」「資料作りにものすごい時間がかかる」「多くの人を説得できるような発表がやりにくくなる」といったように、「調べる」「まとめる」「発表する」の各段階でICTが時間・効率・精度のいずれの面でも効果があると思える回答をしたのです。
 フューチャースクールや学びのイノベーション事業では、既存の「学力」の部分では導入の有無で大きな差異は生まれなかったと結論づけられていますが、一方で現時点では”学力”としてはあまり評価されていない「アクティブラーニング」や「21世紀型学力」の伸長という部分では相応の成果があったと報告されています。実際に私も複数の学校現場を見学してそれを感じています。

 もちろん、こうしたノウハウはジグソー法などの既存学習手法や、学級運営の中にも既に存在しています。よって、アナログの部分で得られている成果をさらに共有することも重要になってきます。さらにそこにICTという「武器」が加われば、生徒の活動はさらに進化・深化していくことでしょう。
 したがって、こうしたアクティブラーニングや反転授業、ICTの授業活用などの「ノウハウ」をすでに持っている学校や企業はより、世の中の注目を集めることになるでしょう。こうした実践をきちんとした報告冊子やアウトプットとして残せているところは、その分チャンスが増えることにもなりますし、新制度を先取りしていることにもなります。特に中学校・高等学校にとっては保護者にとってはそれが学校を選ぶにあたっての重要な「基準の一つ」に、数年以内にはなってくるでしょう。

 以上が3つのポイントになります。まもなく中学受験で中高一貫校を選ぶご家庭は、各学校で「英語」「アクティブラーニング」「ICT」の導入状況や予定を確認するほうが良いかもしれませんね。


 なお、個人的に心配していることとして、公立中学校・高等学校でのICT活用の遅れがあります。私立の中高一貫校は先行してタブレットの導入などが始まりました。小学校ではいくつかの研究指定の公立小学校や教育大学付属の学校、自治体レベルの取り組みで動きが始まっています。しかし、公立中学校・高等学校、特に中学校については全国でも極めて事例が少ないのが気になっています。この辺りは、早急にテコ入れが必要になるでしょう…。

 以上、今回の報道を受けて個人的に考えたことをまとめてみました。何かの参考になれば幸いです。

ICTによる教材共有を成功させる3つの視点

今日は「教員間のICTを用いた教材の共有」について考えてみます。

ICTによる教材の情報共有手段としてCONTETを活用していく方針は文科省の中間方針でも示された通りです。CONTETは国立教育政策研究所が、同組織が開発しているNetCommonsを活用した教材共有プラットフォームとして立ち上げた同サイトです。


教育情報共有ポータルサイト


「情報共有」は企業にとっても永遠のテーマです。そこで今日は、企業などで取り組まれている情報共有の事例や、自身の過去の失敗をもとに、「情報共有」が成功するために必要な要素を3つのポイントを示してみます。
 実は、上記のCONTETは民間企業の人間は見ることができません。そのため、私は現状がどうなのかを知らずにこの記事は書いています。ですので、もし認識誤認や間違いがあれば、ぜひ閲覧権限のある先生から情報をいただきたいです。なお、以下では「教材・副教材・素材・プリント類」をひとまとめに「情報」と表現します。また、情報共有サイトは原則無料で利用できる前提としていますので、あらかじめご了承ください。

 

1. 情報を発信する側に明確なメリットがある

 情報共有プラットフォームの大前提はこれです。情報が集まっていれば、「利用する側」には大きなメリットがあります。欲しかったもの、作るには時間がかかるものがそこにあると知れば、校務や雑務で時間が取れない教員には非常にありがたいでしょう。
 一方で、情報提供側のメリット、正確には「情報を共有しても良いと”事前に”考えられるメリットがデメリットを上回ること」はどうでしょうか。これを明確にするのが鍵ですが、結構難しい。
 例えば、情報公開により「外部から感謝される」「有名になる」「認められる」といったメリットがありえます。有益な情報であればあるほど、その可能性は高まります。でもこれらは共有する前にはわかりません。逆に、人目に触れることで情報の欠陥や間違いを指摘されたり、場合によっては炎上するような「デメリット」の方が、共有の経験したことの無い人には非常に強く感じられます。そのため、公開に足るものを作り、自信をもって共有するという”一線を越える”のには、非常に勇気や手間・時間が必要なのです。
 自身から情報を発信、共有が出来る人は、実はほんの一握りしかいません。その経験がない人には、下手に情報を展開すると「誰かから指摘される「直せと言われる」「面倒なことが増える」と思うものです。「ただでさえ忙しいのに、そんなことやってられないよ」というのが偽らざる気持ちでしょう。この「大多数の人」を動かすには、事前にわかりやすいメリットを提示できることが重要です。
  このわかりやすいメリットの例として、表彰があります。提供された情報を様々な角度で評価するのです。が、往々にして情報提供の経験のない人は「そんなすごい情報、提供できないよ」と思っており、一線を越える勇気にはなりにくい(むしろ負担に感じる)でしょう。そこを動かす最大の力は、職場の同僚による承認や推薦です。多くの方が経験していると思いますが、周りが「すごい」と思っていることは、自分には当たり前のことの中に潜んでいることが多いものです。これを管理職など、ある程度立場のある人が行ってあげることが、一線を越える勇気につながるケースは多いのです。
 ただし注意すべきことは、情報の提供するよう圧力をかけてはいけないということです。これが起きると、仕方なく投稿された質の低い情報が溢れ、利用者は優れた情報を探しにくくなり、離れていってしまうでしょう。両者にとって不幸です。提供者からこういう動きが出てきたら、注意が必要と言えるでしょう。

2. 情報をプッシュできる

 どんなに優れた情報でも、その存在が知られていなければ、ないものと同じです。わかりやすい例を言えば、企業のホームページがまさにこれです。素晴らしい製品、技術を持っている企業はたくさんありますが、その多くは知られていません。何か事件やすごいニュースなどがなければ、わざわざブラウザから検索して、サイトを見に行ったりしませんよね?利用者が能動的に情報を「プル」して初めて入手できるものなので、これをやるには目的意識が必要です。大多数の忙しい教員にとって、わざわざ時間を作って情報提供サイトにアクセスし、なんらかのキーワードを入力し、表示された候補を上から見ていく…なんてこと、日常的にはとてもじゃないですが、できないでしょう。 
 そこで「プッシュ型」の情報提供です。FaceBookTwitter、古くはRSSやメルマガ配信などは、勝手に自分のところに新着の情報が(ある程度カスタマイズされた形で)届くというところが、普及のポイントになりました。情報共有サイトにおいては、投稿された情報の中から、その教員の属性に近い情報(小中高、学年、教科、職位、地域、その時期に取り扱うことが多い単元に関わる情報など…)、かつ一定の基準を満たしたものが投稿されたら、自動的に通知されるような機能はおそらく必須です。これをトリガーにサイトに誘導することができれば、かなりの活気が出ることでしょう。同様に、情報に対してコメントや「いいね!」的なフィードバックがつけられ、それに対するリアクションも通知されるような機能もあると良いでしょう。
 人が処理できる情報量には限度がありますので、このあたりの情報推薦アルゴリズムをきちんと作り込むことが重要です。Facebookの標準ニュースフィードも、様々な工夫をしてその人に合った情報が上の方に来るように工夫されています。こうした民間のノウハウは、きちんと情報共有基盤にも反映してほしいものです。
 ただし、この手法はまず「最初の一回、サイトにアクセスしてもらう」という大前提が必要です。優れた情報共有の基盤があることを知ってもらい、そこにアクセスしてもらえなければ、プッシュもプルもありません。 そして当然ながら「役立つ情報が無い」のも論外です。立ち上げ段階で「目玉」となる情報が存在しないと、最初のアクセスが最後、プッシュ配信の登録もしてもらえないままサヨナラになってしまいます。このあたりは、CONTETならば運営する国立教育政策研究所 ならびにその支持者、その他民間の基盤であればその運営企業の、最初の頑張りどころということになると思います。

 

3. 管理が行き届いている

 最後がこれです。いろんな企業の方にヒアリングをすると、少なくない企業でSNSや情報共有基盤が提供されてはいますが、大多数は「あまり使われていない」という回答です。その理由を聞いてみると、大半は以下のようなものです。
 ・特定の空気を読めない人が場を荒らしている(本人にその自覚がなさそう)
 ・少数のヘビーユーザーが「内輪」な雰囲気を作り出しており、入りづらい
 ・たんなる宣伝・自慢の場になっている
 ・役立つ情報がない、または多すぎて探せない
最後の一つは上記の1. 2. の段階で失敗している場合に良くあることなのですが、それ以外の理由については、いずれも「管理」がきちんとされていない、もしくは明確な利用規定が存在していない場合に発生しうる問題です。
 何を隠そう、私自身もFacebookで教育関連のグループをひとつ運営していますが、率直に言ってこの「管理」がうまくできていません。管理が行き届いているように見せるには
 ・なるべく定期的に役立つ情報を配信する(多すぎると鬱陶しいので匙加減が重要)
 ・投稿された情報やコメントには管理人が必ずフィードバックを返す
 ・同一投稿者の多重投稿、誹謗中傷や不適切な情報には厳正に対処する
 ・運営ルールを明確に示す
 ・特定少数の人たちだけに向けた情報を投稿しない(内輪グループにしない)
といった工夫が必要です。つまり、相応に「管理の時間と手間」がかかるので、それを「維持」するために必要な時間や人を予め確保したり、不足する場合は速やかにそれを拡充することが重要なのです。当方の運営グループが参加人数の割に過疎化しているのはこれが要因なのです。(分かってるならなんとかしろよ、って話ですよね。すみません)

ということで、CONTETにしても、それ以外の民間の情報共有基盤にしても、こうした3つの要素を併せ持つことが非常に重要だと思っています。このあたりの事情は企業では「ごく当たり前」のことなのですが、それでも器だけ作って結局使われない、というケースは多くの企業が経験しているものと思います。

 教育の情報化、ICT化が叫ばれてもう随分とたちますが、重要なのはこのあたりの民間のノウハウをいかに「盗むか」です。いい情報があれば自然と人が集まるなんていうのは幻想です。そして情報は集めることが目的ではなく、それを活用してさらに磨いてもらうことが目的でなければいけません。このあたりを意識してうまく進められるかどうか。日々、情報を「発信」する側の人間の一人として、注意深く見守っていきたいと思います。