読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

EverLearning!

野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

大学入試改革で進む3つの教育産業界の変化予測

【追記2:コメントが誰でもできるように設定を変更しました】
はてなブログの設定を変更し、コメントを誰でも投稿できるようにしました。

【追記1:ご覧いただいている皆様へ】
本記事について、数名の教育分野に詳しい方からご指摘を頂戴したのですが、本稿は「ICTはあくまで脇役」という観点に立って記載されているものです。
=============

大学入試センター試験を廃止し、かねてより議論されていた「1点刻みの得点合否廃止」「テストの得点以外の評価軸」「英語の多方面評価」などを盛り込んだ大学入試改革について、中教審から下村文科大臣への答申が行われました。

 さて、この新方式の導入は平成32年度(2020年)とあります。つまり、現在の小学校6年生からになりますので、いま小学校で学んでいる全児童は新制度での大学受験に挑むことになります。そういう意味では、まもなく中高一貫校を受験する家庭にとっては、今回の受験は非常に重要な「選択」になります。

 とはいえ、国の方針となった以上はこれから様々な対策が進むでしょう。これに伴って、受験に関わる業界にどんな変化が起こるのか、私なりに予測をしてみました。当たるかどうかはわかりませんが、是非読者の方々からご意見をいただければ幸いです。
(追記:コメントができるように設定を変更しましたので、ぜひご意見を頂戴できますと幸いです)

 

1. 英語の「話す」「書く」力を評価する仕組みの確立

 今回の新方式では英語では「4技能(読む,聞く,書く,話す)」の習得が必要になります。従来のセンター試験ではリスニングとリーディングのみ。ライティング分野は簡単な文法や語順整序が出題される程度で、作文力などの英語の「アウトプット系」能力は一部大学の二次試験で出題される他は、ほとんど問われていません。スピーキングについてはほぼ皆無です。
 そのため、特に「話す」力を評価したり、教える先生側も正しい発音をしたりそれを評価する能力が必要になってきます。こうした動向を踏まえ、一時的に英会話業界や発音力にフォーカスした教材、学習方法が教員・生徒ともに脚光を浴びるものと予想します。また、ネイティブの英語教員の需要も一時的に高まるでしょう。特に日本語がある程度わかり、学校生活に溶け込みやすいタイプの方は引っ張りだこになるかも知れません。
 さらに、英語の4技能試験には民間の試験を活用する方針です。その例としてはTOEFLTOEIC SWが挙げられていますが、これらの試験ではコンピュータを多用します。必然的にその「練習環境」を学校に求める声が出てくるでしょうから、この英語対策が間接的に学校へのICT機器の導入に貢献したり、学校の近くに「テストセンター」的な施設が増えたりするかもしれません。タブレット向けの発音力評価ツールや、英作文支援ツールなども今後アツい分野でしょうね。発音力とリスニング対策は絶対に紙の教科書ではできないため、英語対策は文科省が掲げる”2020年までの一人1台のタブレット導入”の推進にあたっての武器になることは間違いないでしょう。個人的には、これでもう中学・高校は学校にタブレットを入れないという言い訳はできない段階になったと思っています。

2. 思考力・主体性・協働性を支援するツールの開発が進む

 今回の新制度では面接や小論文などを通して、ペーパーテスト以外にも様々な能力を多方面で評価することが目玉の一つになっています。しかし、こういう試験を実施することを求められる大学側の負担は相当なものでしょうし、大学の先生が必ずしもこうした評価が適切に行える人ばかりとも限りません。
 しかし、実はこうした人材評価を随分前から実施しているところがあります。それが「就職活動の採用試験」です。就活では、コンピューターによる基礎学力テスト(いわゆるSPI)からライ・スケールなどを取り入れた巧みな性格診断(紙の上に指定されたパーツのシールを貼り付けて絵を描かせて潜在的な心理状態を推測するツールもあります)、奇抜な質問が登場するエントリーシート、そしてグループワーク形式や少人数形式の面接など、様々な方式でその「ひととなり」を評価しています。もちろん、就職活動の「人物評価」と、大学入学試験での「学力評価」がそのまま同列に語れるわけではありませんが、従来型の筆記試験に「新たな学力(21世紀型学力と表現されることもあります)」である応用力・思考力・協働して課題を解決する力などを加え、それを現場に無理のない形で運用するために、受験における筆記試験以外の能力評価をある程度、第三者機関に外注したり、そのノウハウを民間から購入するといった動きが数年以内に顕在化するものと予想できます。
 また大学受験では少子化が進んでいるとはいえ、相当な数の受験生の対応が必要ですので、正面から全ての受験生対応をやっていたらとてもではありませんが人件費だけで相当なものになります。ここでもICTの活躍する余地が大いにあることでしょう。最初からCBT(コンピューターベーステスト)にしておけば、その採点や集計の手間はマークシートと比べても大幅に減ります。もっと言うと、一人一人に違う問題を出題することだって可能になるかもしれません。(現状のSPIがこのタイプです。勿論、公平性の面からこの方式が安易に大学受験に持ち込めるかは議論が必要でしょう)
 これをサポートするためにも、なりすまし受験を防ぐための生体認証技術や、国民総番号制とのリンク、ソフトウェア的に本人を特定でき、かつ安価な技術が今後一層、もてはやされることになるでしょう。Duolingo Test Center のように、身分証をまず登録し、常時カメラでテスト受講者をモニタリングするような方式がもしかしたら一般化するかもしれませんね。また、小論文評価の関連業界もより発展するでしょう。
 少なくともコンピューターや既存の仕組みで人の「人物像」や「性格」をある程度まで見抜く技術はすでにあるので、「そんなことできるはずがない」という段階ではないのは確かです。

3.PBL(プロジェクト型学習)/CBL(チャレンジ型学習)がより発展する

 今回の改革では「アクティブ・ラーニング」というキーワードが登場しています。これは、答えのない課題に対して様々な方法を使って解決策を考えるという学習手法で、こういう考え方は企業や社会に勤める社員にとっては日常的に取り組んでいることでもあります。
 実は企業が人物像評価に先のような手法を取り入れているのは他でもなく、解決策が未知である問題にどれだけ食いかかっていける精神を持っているかを、入社前にある程度の精度で判断したい考えがあるからです。ただ現状の受験では、暗記とその吐き出し編重となっており、答えのない問題に取り組むという経験自体が不足しがちです。未知に挑む姿勢は企業だけでなく学問や研究においても重要なことなので、従来通り「知識」はきちんと身につけつつ、プラスαでこういう力を伸ばせるのであれば「その方が良い」という人が大多数かと思います。
 こういう「解決策が未知である課題」に対して精度の高い答えを作り出すには、やはりICTの力が極めて有効です。実は私は、ほぼ同義であるCBL(チャレンジ型学習)を実践する国内外の学校および生徒が銀座のApple Storeに集まって行ったイベントでこんな質問をしたことがあります。この時の生徒たちはいずれもMaciPadを使っていたので
MaciPadがなかったら、CBLを進める上でどんな困難があったと思いますか?」と。すると、多くの生徒が「調べ物をするときにより時間がかかるようになる」「資料作りにものすごい時間がかかる」「多くの人を説得できるような発表がやりにくくなる」といったように、「調べる」「まとめる」「発表する」の各段階でICTが時間・効率・精度のいずれの面でも効果があると思える回答をしたのです。
 フューチャースクールや学びのイノベーション事業では、既存の「学力」の部分では導入の有無で大きな差異は生まれなかったと結論づけられていますが、一方で現時点では”学力”としてはあまり評価されていない「アクティブラーニング」や「21世紀型学力」の伸長という部分では相応の成果があったと報告されています。実際に私も複数の学校現場を見学してそれを感じています。

 もちろん、こうしたノウハウはジグソー法などの既存学習手法や、学級運営の中にも既に存在しています。よって、アナログの部分で得られている成果をさらに共有することも重要になってきます。さらにそこにICTという「武器」が加われば、生徒の活動はさらに進化・深化していくことでしょう。
 したがって、こうしたアクティブラーニングや反転授業、ICTの授業活用などの「ノウハウ」をすでに持っている学校や企業はより、世の中の注目を集めることになるでしょう。こうした実践をきちんとした報告冊子やアウトプットとして残せているところは、その分チャンスが増えることにもなりますし、新制度を先取りしていることにもなります。特に中学校・高等学校にとっては保護者にとってはそれが学校を選ぶにあたっての重要な「基準の一つ」に、数年以内にはなってくるでしょう。

 以上が3つのポイントになります。まもなく中学受験で中高一貫校を選ぶご家庭は、各学校で「英語」「アクティブラーニング」「ICT」の導入状況や予定を確認するほうが良いかもしれませんね。


 なお、個人的に心配していることとして、公立中学校・高等学校でのICT活用の遅れがあります。私立の中高一貫校は先行してタブレットの導入などが始まりました。小学校ではいくつかの研究指定の公立小学校や教育大学付属の学校、自治体レベルの取り組みで動きが始まっています。しかし、公立中学校・高等学校、特に中学校については全国でも極めて事例が少ないのが気になっています。この辺りは、早急にテコ入れが必要になるでしょう…。

 以上、今回の報道を受けて個人的に考えたことをまとめてみました。何かの参考になれば幸いです。