社会人が iPad Pro を1年間 勉強に使ったら色々捗った話
約半年前に書いた以下の記事がけっこうロングランで読まれています。
どうも最近、キーワード「iPad Pro」で検索してここに辿り着く方が増えている(そして1日のPV数も伸びている)ようですので、続編を書いてみようかなと。テーマは「社会人の勉強」で、昨年12月にiPad Proを購入した時「学習者の目線で最大限、活用してみよう」と決めて、実際に1年使って見た結論が「大満足」だったということを書いて見ます。
なお、今回の記事で触れている”勉強”とは、「個人学習用途」限定である点を先にお断りしておきます。「学校や組織のメンバーとの共同学習」というテーマだったら全く違った内容やアプリが並ぶと思いますが、個人学習用途なので基本的に使ったのはほぼ「ノート」、調べ物をする「スマホ」や「PC」の不便を解消するツール類ばかりでした。
先にざっくり伝えたいことを書いてしまうと
・社会人をやりながら年間で7つの試験にトライした
・iPad Pro は最高の「紙とペンの価値を拡張するデバイス」
・勉強に使うアプリは3つ程度でいい
・手書きは知識の定着に効果がある気がする
という4点に集約されると思います。
以下、順番に解説していきたいと思います。
社会人をやりながら年間で7つの試験にトライした
iPad Proを購入してから挑んだのは以下の7つの試験です。
・Versant (英語のスピーキング・ライティング能力を測る試験)
・TOEIC
・CompTIA Security+ (ITのセキュリティ関係試験)
・教育情報化コーディネーター試験(ITCE) 3級
(教育IT化の提案力やICT支援員スキルを認定する入門的な試験)
・会社の管理職登用試験
・教育情報化コーディネーター試験(ITCE) 2級 1次試験
・教育情報化コーディネーター試験(ITCE) 2級 2次試験
(2級は1次が筆記+論述、2次が模擬提案+面接 という応用的なスキル判定試験で
1次のみ通過すると準2級認定、2次を通過すると2級認定されます)
会社の管理職登用試験の内容については書けないので(笑)、それ以外の各種試験の対策に必要になった学習は大きく大別すると
・知識のインプット
・思考のアウトプット(ラフなもの)
・文書などのきちんとした形での情報アウトプット
の3つになるかな、と思います。最後の「文書などのきちんとした形での情報アウトプット」については、今の所PC(Mac)の方が使いやすいという結論に至ったのですが、「知識のインプット」と「思考のアウトプット(ラフなもの)は、iPad Proがおおいに活躍しました。
iPad Pro は最高の「紙とペンの価値を拡張するデバイス」
資格試験には「覚える」という単純作業が付きもの。どうせなら効率的に学びたいですよね。そこで私はこの1年間、紙のノートを使うのはほぼやめて、徹底的に iPad Proを「ノート代わり」として使ってみました。結論は、「全く問題なし」です。
例えばTOEIC対策。
リスニングについては、「興味のあるテーマの動画を見る」のが一番と考えて、以下のアプリを使いました。
このアプリは米国で毎年開催される同名イベントの公式アプリ。Appleの様々な新技術・新機能などを解説する動画が見られます。TOEICの試験前には、この中から見たい動画をいくつか再生しながら、適当にメモを取るようにしてみました。
左がWWDCのアプリ(分かりにくいですが動画を再生中)、右は前回も紹介した「Notablity」です。
動画を見ながらメモを取ることで、動画の内容を自分なりに噛み砕く(ただ聞くだけよりも一段深く集中する)ようにして見ました。また、よく分からない表現はメモして残して後で振り返る、ということもやってみました。
動画や英語の音声を再生するなら他のアプリでも勿論良いのですが、WWDCアプリは無料なこと、画面2分割の「Split View」、他アプリ起動中でも小窓で動画を再生しつづけられる「Picture in Picture表示」に対応していること、扱っている内容が個人的に面白いことから、選定しただけです。特にAppleのKeynoteの英語は比較的聞き取りやすい表現が多く、リスニング対策には結構オススメ(ただ、登場する単語に偏りがあるので語彙を強化したい人にはちょっと不向きかな)。
Notabiltyはホントによくできているノートアプリなので、そこそこの価格はしますがProユーザーは「紙のノート的な使い方をするアプリ」として購入して置いて損はありません。作成した手書きメモは iCloud や Google Drive に同期できますし、Mac用のクライアントアプリも合わせて導入すれば iCloud 上のデータをMacでも活用できます。
(※私はMacで手書きメモを編集することはないので購入はしてません。手書きのメモは必要ならPDFに出力ができるので、AirDropでMacに送って対応)
リーディング対策もリスニング同様「関心のあるテーマの長文を読む」ことで対応しました。標準ブラウザの「Safari」で適当な文献PDFを探し、それを「Good Notes」に送り、アノテーションをしながら読むというのが好きなスタイルです。写真はOECDの教育とICTの関連性についての報告書(全編英語でかなりの分量)ですが、Apple Pencil だとこうしたアンダーライン引きや手書きでのメモ書きを紙と同じ感覚で行えるのが便利です。分からない or 自信のない単語は指先で範囲指定して「辞書」をタップすれば意味もすぐ引けますし、効率良く読み進められます。
※ただ、TOEIC本番は問題用紙にアンダーラインを引いたり書き込むのが禁止されているので、これで練習しすぎて本番も同じようなことをやらないように注意
Good Notes にもMac用のアプリがあり、iCloudで書き込んだ内容がほぼリアルタイムで反映されます。前回の記事でも書いたように、私はNotabilityを「書く」ツール、GoodNotesを「読む」ツールとして活用しており、NotabilityについてはMacでも書き込んだ内容を閲覧する機会があるのでMac用のアプリを購入しています。
それ以外の知識習得時にも、基本的に iPad Pro と Apple Pencil をノートとペンの機能拡張版として使いました。iPad Proの12.9インチモデルは画面がA4の紙とほぼ同等のサイズなので、左右分割しても細かい文字がそれなりに読めます。なので、基本は2分割してこんな感じで使っています。
Sprit Viewで画面を二つに分割し、左半分に「Good Notes」、右半分に「Notability」、これが個人的に最高に使いやすい。左画面をSafariにして、Webで調べ物をしながらメモを作ることも多々。ちなみに、左画面の文字を指先で範囲指定して「コピー」し、右画面のNotabilityにテキストでペーストすることも可能、丸ごと写経しなくても必要な部分だけ抜き出せるのは紙と教科書には絶対にできない芸当なので、学習効率が非常に良いです。
さらに、Notabilityが紙のノートに勝る最強のポイントがこれです。
ちょっとわかりにくいですが、写真の下部の筆跡が一部半透明になっています。これは、録音した音声の再生に合わせて、自分の筆跡が再現されていく様子をキャプチャした画像です。講義や研修などを録音しながらApple Pencil での手書きをしたり、キーボードで文字を入力したり、他のアプリからテキストをコピペすると、それらの操作が録音の「どのタイミング」で行われたかが裏で時系列に沿って記録されているのです。録音した音声をiPad上で再生すると、録音に合わせて少しずつこの半透明の文字が黒くなっていくので、後から講義や研修を振り返る時に非常に効果的。特に「この辺のメモを取っている時の音声を聞き返したい」という時にとても便利で、録音した音声の振り返り学習頻度が格段に増えました(今まで録音して全く聞き返さなかった講義・研修音声がたくさんあったんですが…)。再生速度は0.7x、1.0x、1.5x、2.0x から選べます。この機能だけで iPad Pro が欲しい人もいるのでは。
勉強に使うアプリは3つ程度でいい
ここまでの話はひたすら「知識をインプットする」ような場面で iPad Pro を使って見た話ですが、成果物を作って提出するような実技系の対策を行う時にもiPad Pro は結構いい仕事をしてくれました。というのも、いきなり最終成果物に着手するよりも、はじめにブレストやアイデアを書き出し、何を重点的に伝え、どのような順序でそれを記していくかがけっこう重要だからです。私はこうした作業をよくホワイトボードやノートでやっていたのですが、今回はITCE 2級2次試験 の実技課題攻略の構想を iPad Pro でやってみました。
試験問題を外に出して良いか分からないので、ITCEのメモではないもので恐縮ですが、例えば以下のようなマインドマップ的なものを書くときにも、iPad Pro と Apple Pencil は非常に重宝します。
iPadでマインドマップを書くアプリはたくさんあるのですが、私はなんとなくその操作方法に馴染めず、結局紙とペンに戻るということが幾度となく続いていました。しかし、マインドマップは書き込むほどに修正がめんどくさくなります。その点、iPad Pro と Apple Pencil の組み合わせだと、書いた後に文字や図形を移動できたり、線をストローク単位で消せるので、紙とペンと比べると幾分か作業が楽になります。この図はまたもやNotabilityを使って書いていますが、同じような機能はたいていのノートアプリがサポートしていますので、気に入った手書きアプリを使うと良いでしょう。
こうしたラフを作って、大体の構想が固まったらパワーポイントやKeynoteなどで正式な成果物を作るのですが、その時はPCやMacを使いました。まだ iPad 用のMicrosoft Power Point は(閲覧や修正ならほぼ完璧にできますが)ゼロから文書を作るには少々、機能不足だからです。ただ、PCやMacで作業をする際にもiPad Proは傍に置いてあって、適宜手書きのメモを参照しながら成果物の作り込みをしてみました。
結局、こうした「ノートとペンの拡張」的な使い方で勉強をする分には、使っているアプリはせいぜい「Notabiltiy」と「Good Notes」と、あとは写真などを撮影したり管理するアプリがあれば充分という感じで、3つくらいあれば個人の勉強に使う分にはほとんど事足りた感じです。ちなみに写真については、 iPad Pro は スピーカーが4つ搭載されていてシャッター音が大音量で鳴り響くため、こちらのアプリを最近は愛用しています。
手書きは知識の定着に効果がある気がする
ここまで記してきたように、1年間 iPad Pro で勉強をして見て思ったのは、改めて「書くこと」が知識の定着に大きく寄与するんだな、という感覚です。定量的に測ったわけではないので断言はできないのですが、やはり「動画を手書きメモを取りながら見る」「長文をアノテーションをしながら読む」という「手書き」が介在する学び方をすると、自分の感覚としては知識定着率が良いように感じた次第です。そういう意味では、これまでのタブレットやノートPCでは実現し得なかったことが実現できている感じがします。
ちなみに、以下の本では学習者をタブレットやノートPC、紙を使った集団に分けて学習定着度を測定するという研究が紹介されています。
https://www.amazon.co.jp/タブレットは紙に勝てるのか-タブレット時代の教育-赤堀侃司/dp/4906768245
サンプル数が少ないという点に注意が必要ではありますが、この本で指摘されている「タブレットと紙を比較した時の一つの弱点」とされている「アノテーション」や「メモをしながらの学習」については、iPad Proであればほぼ克服できているような気がします。同様の研究を iPad Pro を利用した集団を加えて実施したら、どんな結果が出るのかな? とか、ちょっと気になります。
さて、ここまで見てきましたように、iPad Pro は他のどのタブレットと比較しても「紙とペンにかなり近い感覚」が味わえるデバイスだと思っています。紙とペンを代替できる可能性がある(※代替して良い、とは断言しない)のですが、単なる代替ではなく、以下のような付加価値が得られる点も見逃せません。
・書いた情報を後から編集したり、別のアプリで利用できる
(PDFに出力、コピーして再利用、など)
・書いた情報を常時持ち歩ける
(ノートだと”一冊前のノートを今日に限って持ってない! ということが起きる)
・ノートのように途中で紙が切れたり、色ペンのように途中でインクが切れることがない
・色ペンでどれだけマークしても、後から何事もなかったように消せる
(フリクションペンを使っても多少は跡は残ってしまう)
・元の文書をどれだけ書き込んだとしても、オリジナル文書はそのまま残る
・紙とペンでは扱えない音声情報(録音)と同期したメモが残せる
・特に新しいことを覚えなくても容易に紙とノートから移行できる
(これ重要)
つまり、これまで勉強に「紙のノートとペン」を多用してきた人ならば、導入によってメリットが得られる可能性は高いと思われます。
惜しいのが、iPad Proは(最近の価格&レート改定を考慮しても)まだ値段が比較的高いと言う点です。率直に言ってこれと同等の書き味のタブレットが学校に入っていけば、今までのタブレットよりもだいぶ文房具的な活用が進みそうな気がするのですが、まだそこまでいくには時間がかかるでしょう。今、このデバイスが最適なのは、たぶん時間のない中で早期に資格取得を求められている社会人の方や、大学受験など何らかの受験勉強に挑んでいる方だと思います。 時間対効率を追求したい人は、 iPad Pro と Apple Pencil を購入してみるのも良いのではないか、というのが当方が1年間、iPad Pro を使って勉強して見て感じた感想です。
最後に、当方のこの1年に挑んだ7つの試験の結果についてですが、最後のITCE2級2次試験だけは残念ながら通過できず、翌年にリベンジということになりましたが。準2級の資格は取れました!それ以外は普通に社会人をやりながら全て合格もしくは過去最高得点を更新できた、という事実も申し添えておきます。
追記(2018.1.9) この記事のさらに続編を書きました。このとき、クリアできなかったITCE2級についてもリベンジを果たしたのですが、この時の反省を踏まえて新たな学習ツールを導入した、という記事です。