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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

もし自分が学校ICT導入責任者だったら…「今ならこうする」の一案 -ノートをデジタル化して学習者の機動性を高める-

最近、世の中の話題がインフラ・OS・端末の話が中心になっていますが、これらを適切に選ぶには「何に使いたいか」「それで何を成し遂げたいか」が大事、という話は何度かこのブログでも触れています。

 しかし、なかなかその具体例の明示って少ないな、もしくは、今の時流を踏まえて新しくなっていないな、と感じることが増えてきた。今日は ぼくのかんがえたさいきょうのガンダム ではないですが、自分がもしどこかの学校や教育委員会で学校ICTの導入責任者になり、限られた予算で学習者にとってメリットがあり先生の負担が少なく「まず第一歩を踏み出せてみんな幸せ」なモデルを考えなさい、といわれたら「多分こうするかなぁ」というものを書いてみようと思います。

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 先に目次という形で結論を書くと、以下のような使い方を考えました。 

ただ、以下のユースケースは少々成人教育な色合いが強いので教育学的にはどうなのよ、という批判があるであろうことは承知してますが、「現実的かつ効果的」なアイデアの叩かれ台として少々専門家の先生たちの批判が怖いながらも書いてみます。
 


対象は一般的な公立小5年〜中学校以上

 今回は、文科省のGIGAスクール構想の令和二年度の端末整備ロードマップ小学校5年生〜中学校1年生となっていることを踏まえて設計しました。「中学校以上」としているのは、条件が整えばこれ以上(私学や中高一貫、公立の高校も含む)の学校段階でも同じことが十分通用する汎用的な設計だからです。

 汎用的な設計としたのは、ICT導入初期段階においては、できるだけ教科や科目・単元を問わずに幅広く使えて、全体に浸透しやすいところから着手するのが良いと考えたからです。特定の教科のみで劇的な効果を発揮するユースケースも沢山ありますが、導入初期時点で個々の事例を考えるのは難易度が高すぎる(そして特定教科の声の大きい先生や事例に引っ張られて科目間の活用が極端に偏るリスクもある)と考え、敢えて教科横断・学年学校種横断で使える案としました。さらに「導入するにあたって先生への負担感が小さめ」であるが、「導入した児童生徒のメリットが大きく、使い続ける動機になる(死蔵されにくい)」、そして「他に必要なシステムが少なく安価にスタートできる」こと、そして導入後に先生と児童生徒ともに「導入の意義が認識しやすい」こと(=来年度以降も続けるための動機になりやすいこと)を意識しています。

 

インターネット接続できるインフラはあるが、スピードが万全ではなくてもOK

 これは「ずーっと将来に渡ってスピードが万全でなくてOK」と言っているわけではないので先に誤解の無いようにお伝えしておきますねGIGAスクール構想では最大8割引でインフラ整備ができる仕組みを国がせっかく作ってくれているので、それはしっかり活用してください。(ちなみにあまり知られていませんが私学も使えますよ!)

 ただ、なぜこれを書いているかというと、いくら今回のGIGAのスクール構想で校内のLAN環境が1Gbps(一部機材は10Gbps)対応になっても、今回の予算の建付け上、学校からインターネットに出ていく回線の速度が十分でなくなる可能性があることを懸念したからです。例えば全員が一斉に動画を視聴したり、リッチなアプリを活用したりしても、インターネット接続点がボトルネックになって、満足に使えない可能性がある。そしてインターネットに接続するための回線は学校の「外」にあるため、今回のGIGAスクール予算の対象外(つまり自治体なり学校が自分で支払う必要がある)なのです。

 これで「授業が止まってしまう」とか「準備にものすごく時間がかかる」だと持続的な取り組みにはなりません。そのため、スタート当初はもしかしたら校内配線や機器は整っていても、インターネットが遅いかもしれない、というリスクも踏まえて「それでもちゃんと使える」案を考えました。

 

端末は一人一台のiPad WiFiモデル+Lightning接続キーボード+Apple Pencil互換品

 さて、いよいよ具体的に何がやりたいかを書きます。今回やりたいことを実現するための最も安価な構成は以下の通りです。

 ・iPad(第7世代) WiFi 32GB 想定価格 32,800円 (税込 36,080円) 
  https://www.apple.com/jp/ipad-10.2/ ※教育向け価格は少しだけ安い
 ・Lightning接続の有線キーボード 想定価格 税込 1,000円程度
  https://www.dospara.co.jp/5shopping/detail_parts.php?ic=439671&lf=0
  ※キーボードは消耗品と割り切って高いものにしない
 ・スタンド機能を兼ねるケース  想定価格 税込 1,500円程度
  例えばhttps://item.rakuten.co.jp/loof-shop/lingchen05/
  ※ケースは、個人的には個性を出すものなので家庭で買ってもOKとしたいが
    最低限のものを用意するならこれくらいか?
 ・LogiCool Crayon 想定価格 6,800円(税込み 7,480円)

 上記の合計価格は税込みで46,060円ですが、ある程度まとまった数で調達すれば十分GIGAスクール構想の端末 45,000円 の定額補助に収まるでしょう。ただし、ケースはあくまで傷防止レベルであって、耐衝撃などの性能を持っていない点は注意が必要です。(この辺はiPadに限らずどの製品でも同じですが)

2020.2.10 追記:ケースやペンなどの周辺機器は補助対象外(←の資料6ページ目)だった…。かつ、本体価格が4.5万円を下回る場合は、補助額はその本体価格まで。となると、4.5万円に収めても周辺機器の上記1万円相当分は、自治体の持ち出しになりますね。それならば、というのも変ですが、容量128GBの上位モデルが42,800円(税込 47,080円)なので、自分ならこちらを選びますかね…

 ポイントは、今回はキーボードは「使いたいときだけ使う」としている点。なので最低要件を満たすレベルにしかしてません。今回の提案はキーボードでの文字の入力よりもハードルが低い部分よりも先にやったほうが良さそう、と考えての提案だからです。また、キーボードは何よりもまっさきに壊れやすい部品なので、交換が利きやすい安価なものを外付けにしておく(本体一緒に壊れるリスクを最小化する)という考え方です。

 

SAMRモデルに基づき、まずは学習者の「ノート」のSubstitution(代替)から
   →受益者負担で「Notability」というアプリを買ってもらう

 今回の提案の最大のポイントはここです。導入したICT端末で何をやりたいかというと「ノートをデジタル化する」。以上です。

 いやそんな単純でいいの?と思うかもしれませんが、効果は絶大です。ノートのアプリとして筆者が以前からパワープッシュしているのが「Notability」というものです。 

 

Notability

Notability

  • Ginger Labs
  • 仕事効率化
  • ¥1,100

apps.apple.com

 

 お値段1100円。ですが、これを1回買えば、もうノートを文具屋さんで買わなくてよくなります。在学中ずっと使えるノートが1100円で買えると思って良いです。なのでここは「受益者負担」としました。学校が校納金、あるいは教材費として一括で集めて児童生徒に配布するのが良いと思います。

(2020.2.9 21:30追記: 上記イタリックの部分の「受益者負担購入」が、WTO調達の仕組みを回避しようとしている(違反)のでは?という指摘がありましたので追記しておきます。この部分の適法性については識者の皆様のご意見を仰ごうと思います。)

https://www.mext.go.jp/content/20200130-mxt_syoto01-000003278_15.pdf

 

この提案でできるようになること

 45,000円 の端末+周辺機器と、上記のアプリでできることは絶大です。

 ・生徒はiPadとペンで日常のノートをとる(縦位置がおすすめ)
 ・ノートをとるのと同時に録音ができて、授業内容はいつでも聞き返せる
  (自分の筆跡と録音がリンクするので、聞き返したい部分の頭出しも即座)
 ・ノート内に板書の写真や授業の様子も挿入できる
 ・録音付きのノートは友達にAirDropを使って即座に共有できる
  (欠席した時も友達のノートを受け取れば音声もついてくる
 ・先生にノートを提出する時には、PDFに出力してGoogle DriveでもOne Driveでも
  好きな方法で提出するだけ
   →先生も提出されたノートにiPad上でPencilで赤入れをしてPDFを戻すだけ。
    物理的な回収と返却作業が不要
               ロイロノートスクールMetaMoJi Classroom  などを組み合わせるのもGood
 ・児童生徒は過去のノートふくめ書いた内容を「検索」できる
   →あの内容いつ習ったっけ?を即座に検索して探し出せる
 ・ノートは全部、クラウドにバックアップされる
   →端末が故障しても児童生徒に学習ログ紛失のリスクが少ない
 ・上記の「バックアップ」をするときだけインターネットにつながっていればいい
   →それ以外はぶっちゃけオフラインでもOK
 ・なによりも、児童生徒のノートが紙からiPadに置き換わるだけなので、先生は
  必ずしも授業スタイルを変えなくてもよい
   →もちろん、今後もずっと変えなくていいわけではない。でも、児童生徒が
    ICTに慣れている状況になれば、先生たちの授業スタイルも自ずと変わる。
    後述するようなインタラクティブなやり取りをきっとやりたくなる。

 筆者はiPad Pro 初代(およそ4年半くらい前)から今までおよそ4年半、iPadをノート、議事録・講義講演録、メモとして紙をできるだけ使わない生活をしてきた経験があります。そしてこれを経験すると、大抵の人が抜けられなくなります。事実、筆者が実際にNotabilityを使って色々やっているのを見て周囲に同じ組み合わせでiPadを購入した人の数(通称:被害者)も多数。学習者にとって明確なメリットがあるものは、ほっといても使われますので死蔵される心配が少ないのです。

ちなみに、ノートをデジタル化するメリットは前回の記事にも少し書きました。

it-education.hatenablog.com

 PCは「キーボード」に慣れないと使いにくいという考え方がありますが、最近のパソコンやタブレットは、ペンの性能が10年前とは段違いに進化しており、ほぼ紙と同等の感覚で書けるようになっています。手をついたまま書き込んでも誤作動しない、かなりのスピードで字を書いてもちゃんとついてくる、など。
 しかも、最近では手書きで書いた文字をあとから「検索」できる技術も進歩しています。大量の授業ノートの中から特定の単元の情報を検索することだってできます。綺麗な字で書いた方が検索に引っかかりやすくなるので、字を綺麗に書くわかりやすい動機も生まれます。
 さらに、書いた後に、書いた文字や図を移動させたり、拡大縮小ができるという、紙には絶対にできない芸当も可能です。一人一台の手書きが可能なPCが児童生徒の手元にあれば、ノートを代替することも可能になるのです

特に、書いたあとの移動や修正、図や写真のコピペという、デジタルならではのメリットとアナログの良さが融合しているのがポイントです。

 

一人1アカウントの「Managed Apple ID」を用意し、200GBのクラウド容量割当
   →書いたノートをすべてクラウドに集約

 あまり知られていませんが、Appleは一人1つのIDがこれからの教育に必須になることを見越して、学習者用のIDを大量発行できる仕組みを教育向けに無償で提供しています。それがApple School Manager です。
 当方も使っていますが、少し発行に技術的知識が必要なところを乗り越えれば、とにかく大量発行できて、すぐに生徒児童一人ひとりに必要なIDが発行できるので超絶便利です。小中でまずスタートするには、これで充分でしょう。惜しいのが、この仕組みは有料であるMDM(Mobile Device Management)というApple以外のメーカーが提供する仕組みとセットで導入しないと効果があまり出ないということ。ここはMDM側にスペシャルプライスを教育機関向けにだしてほしいところです…。

 なお、この方法だと事実上いくらでもIDを払い出せるのですが、注目すべきはその払い出すID一つ一つに対して「1IDごとに200GBの無料のiCloudストレージがついてくる」ということです。なので、前述したノートはほぼすべてこの中に放り込んでも、卒業までに充分余りがあるくらいの容量です。

 さらにIDの維持にも特に費用がかかりませんので、卒業後もそのままそのIDを活かしておく、ということも可能です。このあたりは小中を一緒に管轄している公立の教育委員会は「小中連携」という意味で一緒に管理しておくとよいでしょう。今後この仕組みがどう変わるかわかりませんが、中学校卒業後以降も、IDをそのまま「卒業生」扱いで残しておいても、今のところ問題はなさそうな設計になっています。

 

先生が慣れてきたらClassroom Appを段階的に使う

 もう一つ、Apple の学校向けサービスには無料で使える授業運営支援「Classroom App」アプリがついてくるという点も注目です。先生のiPadまたはMacから、児童生徒がいまどのような作業をしているかを見ることができたり生徒児童が発表をするときに先生のiPadMacに生徒のiPadの画面を大写しすることができます。(児童生徒がわざわざ前に出てきて、ケーブルをつないで、切り替わるのを待って、はい発表、という流れを組まなくても、着座もしくは座席で起立してその場で発表、ということがかなりスピーティーにできます。)
使いすぎると授業の統制が厳しくなるのでそこは注意すべきアプリですが、無料でここまで使えるのか、と感心するアプリです。

 また、ノートをiPadに置き換えたとき、先生が期間巡視をするときに紙のノートと比べて状況を見にくい(画面が角度によっては光ったり、暗い画面で使っている児童生徒のものが見にくい)という課題があるのですが、これは先のでClassroom App を使って手元で児童生徒のノートを大写しして見ることで代替できますし、児童生徒の立場では横や後ろで立ち止まってノートの内容をじっくり見られると「監視されている気がする」と嫌がるケースもあるので、一つの手段として知っておくと良いでしょう。

 さらに、GIGAスクール構想での整備対象にはなっていませんが、iPadを活用している学校が独自予算で整備している場合が非常に多いのがApple TVです。これを使うと、iPadの画像を無線でプロジェクターや電子黒板に飛ばせます。このため、先生はケーブルから開放され、自由に期間巡視しながら提示する内容を変えたり、場合によっては生徒児童の作業の様子を無線で投影することもできます。似た技術としてMiraCastやChromeCast、WiDiなどiOS意外でも使えるものもありますので、導入時に是非併せて検討しておきたいオプションです。

 

 ということで、ここまでの内容については、46,060円+個人負担のアプリ代+MDMなどのシステム代だけで実現可能です。(Apple TVは共用でもよいのであると便利なオプション)

 iPad の最大の武器はなんといっても「手書き」です。Word や Excel のような標準のオフィス系アプリも無料で使えるのですが、これらがすべて手書きに対応しているのもポイント。しかも、書き心地がほとんどノートに書いているのと変わらないので、紙のノートから移行しても最も違和感が少ない。そして、「手書き」を重視するならば、実はノートブック型よりもタブレット型のほうが断然使いやすいし、ノートをiPadで置き換えれば、机の上に置かれるモノが「増えない」のもポイント。ということで、今回は「ノートをiPadで置き換える」ということによる児童生徒のメリットに焦点をおいた場合の、おそらく現時点での最適解を提案してみました。

 

おわりに、「○○が絶対にいい」と断言する人には要注意

 最後に大事なことを。もし児童生徒に使ってもらうPCや端末を選定するときに、どういうことをやりたいかを伝えずに「何がいいんですかね?」と聞いて「Windows」「Chromebook」「iPad」と回答する人は、要注意です。そう回答する人は、おそらくその環境しか使ったことがないか、何らかの理由でその端末を勧めたいケースが多いからです。同じ理由で「○○なんて学校に導入するのはムリ」と、具体的なシーンも付さずに断じて憚らない人も要注意です。

 大事なのは繰り返しになりますが「何をやりたいかによって最適なPC・端末は変わる」ということです。なので、上記の質問をしたら「どういうことをやりたいですか?」と聞いてくれる人に相談するのが良い。さらに「こういうことをしたいんだけど、iPadChromebookWindowsってそれぞれどうかな?」と聞いて、各OSごとに具体的なアプリ名や使い方が出てくる人であれば、ぜひアドバイスをもらうべきでしょう。

 よく、「ハードウェア(パソコンや周辺機器)のことはソフトを作っている人にアドバイスをもらうといい。逆にソフトウェアのことは、ハードウェアを作っている人にアドバイスをもらうといい。」という考え方があります。これはけっこう正しいと思っており、両方にある程度精通している人であれば、かなり的確なアドバイスをくれるはずです。

 今回の記事では「手書き」という要素を活かして「ノートをiPadに置き換える」という割とシンプルで現実的な提案をしていますが、あくまで「この用途であればたぶんiPadが記事執筆時点では最強」というだけの話であって、Windows や Chromebook を否定しているわけではまったくありません。(筆者は仕事とプライベートで、Windows,Mac,Chromebook,iPad,iPhone,そしてAndroidスマホをそれぞれ使い分けており、自称6OS並行利用ユーザーです)
 さらに「執筆時点で」と断ったのは、Microsoft の Surface はペンや製品の品質が年々すごく良くなっていて、そこにOneNoteというアプリを組み合わせると手書きが相当いい感じまなところ来ています。あとはAirDropに代わる仕組みが実装されればiPadと同等か、とも感じていますが、まだ価格的にiPadのほうが優位、というのが実態なだけです。

 
 逆にいえば、みんなでスプレッドシートや文書(Word、Pages、Google Docs)上に一緒に書き込みをして共同編集作業をするならば、現時点ではChromebookが最強です。

 既存のパワポやワードの文書・教材資産を活かすならWindowsのエコシステムの大きさは強力です。

 それぞれに良さがあり、それぞれに弱点がある。そして4.5万円ですべてを満たすのは難しい。すべてを一つのデバイスで満たすのが難しいからこそ、大人たちは一人で複数のデバイスを使っているというのもまた事実です。とはいえ、最初の一台として大事な選択をするのであれば、やはり「なにをやりたいのか」を明らかにしてからOSのやハードを選定したいところ。時間的な制約でなかなか難しいですが、今回はそのような悩みを抱えている方に向けて情報提供できればと思い、一つのユースケースに絞って書いてみました。

 

補遺:

小5-6から紙ではなく画面上で「手書き」をさせることに対する抵抗感はあると思います。そこは自分も認めるところです。果たして教育学的な知見からアリなのかな?とも思います。ただ、児童生徒の目線から見たときのメリットはとても大きいため、成人教育的な観点が強い案とは認めつつ、当方個人がとっても恩恵を受けていることなので、これを小中高に広げられたらな、と思っています。

いろいろご指導いただけますと幸甚です。