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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

新iPadは教育分野的にイケているのか?

9/10(日本時間)、Appleのイベントにて新型のiPadラインナップが発表されました。

 期待されていた、より大型なiPadiPad Pro」と、無くなるのではないかと心配されていたiPad mini も「iPad mini4」が発表され、iPad Air2は従来モデルを継続販売という結果となり、7.9型、9.7型、12.9型 の3つのスクリーンサイズのiPadが出揃いました。

期待以上に良かった「iPad mini4」

 今回、注目がiPad Proに集まっているのですが、iPad mini4は非常に良いモデルだと感じました。Keynoteの中でPhil Schillerが「iPad Air2の性能をminiのサイズに凝縮した」とサラっと一言説明しただけでしたが、言葉の通りサイズ以外のスペックはほぼiPad Air2と同等。従来機種ではiPad Air2でのみ対応していた、画面を2分割し複数アプリを同時に動かせる”Split View”対応や、厚み6.1mm、カメラの画素数、ディスプレイの反射しにくい構造もAir2と同等のスペックとなります。
 ただ、最大のポイントはなんと言っても歴代iPad最軽量の298.8g(WiFiモデル)を達成したことでしょう。セルラーモデルも304gとほとんど変わらず(セルラーWiFiの重量差は年々縮小しています)。もともとiPad miniシリーズはその携帯性が好評で、当方の周囲の教育関係者にも愛用者が非常に多いです。当方もminiシリーズは初代miniとmini2を持ってますが、縦持ち・両親指でキー入力するときに非常にしっくりくるサイズ感が気に入っています。
 これまで生徒児童が利用するiPadとしては、9.7インチのモデルが比較的多くの支持を集めていましたが、昨今ではminiを選択する学校がかなり増えています。もともと9.7インチのiPadは、「複数人で覗き込んで作業しやすい」「グループワークに向く」などの理由から採用が多かったのですが、昨今では特定の学年で「一人1台」を実現していることや、制作した内容の共有にApple TV や ロイロノートスクール などのツールが定着し始めたことで、デメリットが解消しつつあります。一方で「机を広く使えること」「荷物が軽く済むこと」など、小型軽量のメリットが勝り始めているようです。

 そしてminiシリーズの最大の魅力でもあるiPadシリーズの中では購入しやすい価格も、為替レート変動の影響が心配ではありましたが、従来機から据え置かれました。セルラーモデルも前回同様、同一容量+14,000円で購入でき、通信事業者から割引を受けて購入することも、Appleのオンライン/公式ストアでSIMフリーモデルを購入することもできます。iPadを導入したい教育機関としては、最も最初に検討するであろう、正常進化という意味でイケているタブレットです。

 ただ、教育分野としての利用にあたって気になるのは、メリットの一つである”Split View”を使うと、片方の画面がかなり小さく表示されることです。画面の解像度は非常に高いので目を凝らせば文字は見えますが、視力への影響が心配という声が出そうです。

 

フル装備だと価格がネックだが、期待値が高いiPad Pro

 続いて、教育業界で待望の「より大型のiPad」である”iPad Pro”について。9.7インチのiPadの縦画面表示を横に2枚(厳密にはピクセル計算で1.88倍程度)並べたような画面サイズになっています。

 教育分野がiPad Proに期待するのはやはり「グループに1台」や「二人で1台」といったような、複数人でiPadをシェアして使う場面でしょう。このサイズであれば、複数人で覗き込んで作業をするのにも充分は広さ。画面サイズを生かして、二人で協力して進めていく学習アプリなどの拡充に期待がかかります。

 また、個人的には美術や音楽など、芸術分野での活用拡大に期待しています。同時に発表されたApple Pencilは、現地で触ってきた人から続々と「とにかくレスポンスが良い」「紙に書いているようだ」といった感想が届いています。公式サイトには明記されていないのですが、現地で実機を触った林 信行さんが当方のFacebookで報告してくれた内容によると「手首を画面につけた状態で書いても誤作動を起こさない」、いわゆる”パームリジェクション”という機能もApple Pencilと iPad Proの組み合わせで実現されているようです(Windowsタブレットでは一部でこれを実現している事例があり、タブレット入札時の調達要件にこの機能が要求されていたケースも見たことがあります)。Apple Pencilはとにかく、実物を触ってみたいですね。iPadのLightning端子から充電するという仕様も見事で、しかも15秒の充電すれば30分使えるという急速充電機能も搭載。これならほとんど充電の手間を意識することなく、書くことに集中できますね。

 音楽分野でも期待大です。iPad向けの音楽アプリはGarageBandが有名ですが、実は楽器演奏をする人を支援するアプリは非常に多く、「楽譜」を一定のテンポでスクロールしてくれるものや、変換ケーブル経由でギターに接続して、エフェクターやチューナーとして機能するアプリなどが多彩なアプリが存在します。ただ、モノによっては「もーちょっと画面が大きければ…」と思うケースがあります。ピアノ経験者ならわかると思いますが、楽譜を見ながら弾く時の譜めくりが最たる例。紙の譜面だと、2枚めくれちゃったり、勝手に閉じてきちゃったりが煩わしいのですが、タブレットに譜面と適当なビューワーを入れておくと、それがなくなりけっこう快適です。でも使ってみると、9.7インチでもまだ小さい(もしくは狭い)と感じます。Proくらいのサイズなら、楽譜やTab譜をスキャンして(※)スタジオや部室に持ち込む用途にも良さそうですね。(※私的利用や著作権法35条の教育分野の例外解釈を超える利用に注意)

 そして、キーボード一体型カバー"Smart Keyboard"も登場。本体のマグネット型端子から電源を取って動作するタイプとしてきました。このへんはMicroSoftSurfaceを意識しているのかなぁという印象ですが、これまでのiPadのキーボードは一部の有線キーボードという例外を除き、いずれもBluetoothによる無線接続をするタイプであったことを考えると便利なことには違いはありません。Bluetoothタイプは、いざ使おうとするとキーボード側の電池が切れていたり、ペアリングからやり直すということもしばしば。学校で導入する場合は、本体とは別々に電源管理をしないといけないのが面倒でした。この点が解消されそうなのは嬉しいですね。

 ただ、これらのApple Pencil、Smart Keyboard、そしてPro本体がかなり高価なのがネックです。本体については、12型クラスのWindowsタブレットがまだ比較的高価なので(商品コンセプトやOSの仕様が異なるので比較もナンセンスとは思いますが)若干、比較すると安い場合が多いようです。本体は32GBモデルで799ドル、9万5800円くらい、税込だと10万円を超えてきそうです。ここにペン(99ドル、12800円くらい?)、Smart Keyboard(169ドル、19800円くらい?) を足すと、なかなかなお値段です。これを調達する予算が教育機関で確保できるか?と言われると、難易度は高そうな気がします。価格というハードルが越えられるのであれば、おそらくmore better な選択肢かなと思います。

 ちなみに、中間的な位置づけになるAir2については、今後の立ち位置や棲み分けがちょっと微妙になってきた気がします。モビリティならmini、プロダクティビティならProという雰囲気になってきたからです。Air2が今回リプレースされなかったのは、その辺の見極めもあるからなのかもしれません。

さらに教育分野で使われるために今後、期待したいこと

 今回の発表で個人的に残念だったなーと思っていることが2つあります。一つは、Force Touchに対応したiPadが出てこなかったこと。そしてiPad向けのiOS9の”Split View"が今の所「横画面」の表示に対応していないことです。

 一つ目のForce Touchは、画面を押し込んだ際に触感フィードバックが得られ、押す強さを2段階で検知し異なる動作を呼び出せます。MacBookApple Watchで既に実現していて、今回、iPhone6sと6s plus にも搭載されました。Force Touch 対応は、大画面になるほど技術的に難しくなるとは頭でわかっているものの、これがiPadにも搭載されたら、いろんな可能性(特に視覚障害のある人の活用可能性)が広がるんだけどなぁ、と思わずにはいられません。

 二つめのSplitViewですが、教育分野では授業支援ソフトやwebページの参照などで比較的「横画面」での利用シーンが多いにもかかわらず、執筆時時点ではiOS9のSplit Viewは「横画面表示のアプリを縦に2つ並べる」ことができません。「縦に2分割」しかできないのです。

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こんな感じで、縦画面にしても横画面にしても、SplitViewの各画面の表示は「縦表示」になる。でも本当にやりたいのは ↓ みたいな感じ。

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 この例では、上がロイロ、下がwebブラウザ。筆者は画面分割により「制作をしながらwebを調べる」などの並行作業が可能になることをかねてより期待しています。しかし、今の所はアプリ側が擬似的に横画面表示する作り込みをしないと、こうした機能が充分に真価が発揮できないようです。ここは、なんとかOSレベルで対応して欲しいです。(ただ。アプリを作る側からすると縦横両方のSplit Viewを考慮するのは「勘弁して〜」という感じかもしれませんけど…)

 

 ということで、新iPadの発表を受けて考えていたことを取り急ぎ記事にしておきました。mini4もProも、目的がマッチすればイケてると思います。いずれにせよこれらは「iPad」なので、アプリの豊富さとか、スリープするとほとんど電池が減らないとか、従来のiPadの良さを引き継いでいる点は引き続き他のOSとの優位点になります。全ラインナップが出揃うのは11月。どれにするか、悩むのもまた楽しいですね。