EverLearning!

モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

IPEVO製 書画カメラ「iZiggiHD」レビュー

昨今の小中学校の教育現場では、各校に電子黒板や大型ディスプレイおよびプロジェクタの配備が進んでいますが、それと連動して「書画カメラ」を導入する学校も増えています。
書画カメラは、手元のプリントなどを大型ディスプレイなどに大写しして、先生や生徒が書き込みをしながら説明をする際に活躍します。特に、複雑な図形の問題の解説を行う際に、黒板に同じような板書を書くのは結構時間がかかるのですが、書画カメラならそのあたりを省略できますし、色もそのまま再現できるなど、いろいろと利点があります。

書画カメラは最近いろんな製品が出ているのですが、今回はモニターとしてご提供いただいた、IPEVOという会社の「iZiggi HD」を紹介します。

www.ipevo.jp

◆そもそもiZiggiは他の書画カメラと何が違う?

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IPEVO iZiggi HD。折りたたむとかなりコンパクトで、台座の部分はiPhone5sを分厚くしたようなサイズ感で、ここにバッテリーが内蔵されており、フル充電でおよそ2時間(充電時間も約2時間)使えます。

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使用時はこんなイメージになります。カメラは500万画素CMOS。アームはけっこうぐーんと長く伸びます。今回は被写体としてMacFanの最新8月号に登場してもらいました。WWDCの基調講演の全文和訳や教育分野でのiPad活用記事が多数載っているので訓練されたファンは購入するように。

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最大の特徴は、一番下のインジゲーターが示すように、WiFiを搭載していることです。通常のUSB書画カメラと同様に、PCやMacに有線でカメラの映像を送るのに加えて、WiFi経由で「無線で」iPadAndroidに映像を送れます。これが教室での取り回しになかなか便利です。

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iPad上からはiZiggiが無線のアクセスポイントに見えていて、これを選択して本体裏面に記載されているパスワードを入力すれば接続可能になります。

f:id:nomotatsu:20150704230115j:plain接続を行い、専用の「WhiteBoard」アプリを起動するとこんな感じで、iZiggiが捉えた画面をiPadに無線で転送されてきます。書画カメラの一般的な利用シーンは、電子黒板の横に置いておき、そこに先生や児童生徒が来て書き込みをすることが多いかと思いますが、iZiggiは無線でかつバッテリー内蔵なので、逆に書画カメラの方を生徒児童の机に持って行くことができます。

そして、勘のよい読者の方は既にお気付きかもしれませんが、後方のテレビになにやらAppleTVのホーム画面らしきものが写っていますよね…。そうです。

f:id:nomotatsu:20150704230116j:plainiZiggiはAirPlayにも対応しており、iPad<-->大型ディスプレイの間も無線で映像を送れます(要:AppleTV)。  本体、iPad、大型ディスプレイの間がそれぞれすべて無線で動作するので、非常に自由な取り回しができます。 

f:id:nomotatsu:20150704230131j:plainまた、iPad側のアプリは映像をモニターするだけではなく、手書き文字や簡単な図形、テキスト文字を挿入する「電子ホワイトボード機能」を持っています。当然、電子的に書き込みなので、原本を汚しません。(もちろんMacFanの8月号を買っても「永野先生!」なんて書いてありません) 例えば図形問題なら、補助線をあちこちに引いては消して、というトライアンドエラーを繰り返すことも容易です。また、この画面でピンチして特定の部分を拡大できるのもデジタルならではのメリット。
また、カメラボタンで今捉えてる画面を静止画や動画としてiPadにキャプチャして残すことができます。

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撮影を行うと、こんな感じで「カメラロールに保存」するか「メールに添付するか」などのオプションが表示されるほか、本体に2ポートあるUSBポートのうち、どちらかにUSBメモリなどが挿されている場合は、画像をUSBメモリに保存することができます。(もちろん、ここもワイヤレス!)


iPhoneiPad書画カメラ的に使えるけど…

ぶっちゃけた話、似たような使い方ならば、「iPhoneiPadでテキストや生徒のノートを撮影して、それを大型ディスプレイに写す(またはAirPlayで飛ばす)」ことでも対応できます。実際にやっている先生はチラホラと居るみたいです。これはこれで、とても便利!

が、わざわざこの書画カメラを使うメリットは、
「先生と生徒が同時に書き込みができる」
という点に尽きるでしょう。原本へのアナログな書き込みと、先生によるデジタルな書き込みが共存できるのです。

例えば数学の授業では、生徒に黒板に問題や途中式を書いてもらい、黒板の前で生徒に説明してもらうケースがあると思います。
書画カメラを使えば、板書してもらわなくても生徒の自席にてノートの絵を大型ディスプレイに飛ばし、本人は鉛筆などで指し示しながら解説をすることができます。その上で、少し離れ場所にいる先生(ここが重要。すぐ隣にいると生徒的にはプレッシャーがハンパない)がiPad上から「この式変形はなんでこうなるの?」とか、「この部分がいいね」といった具合にノートに重ねて解説や書き込みができます。違う解き方をした生徒や別解を紹介する時にも便利でしょう。

また、グループワークの際にも、良い作品を作っている班があれば、そこに生徒に集まってもらったり、作品を一度取り上げて前に持ってこなくても書画カメラそのものを作品のところに持って行き、電子的な書き込みを加えながら他の生徒児童にポイントを示すこともできます。紹介される生徒も、それを見る生徒もすぐに自分たちの作業に戻れるので、授業の効率が少し良くなります。

 

◆インターネットの同時利用も可能

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iZiggi HDとiPad無線LAN接続していると、iPad無線LAN接続はiZiggiとの接続を優先するために、そのままではインターネットにつながらなくなってしまいます。その対処方法が2つ用意されています。一つは、この有線LAN端子を使う方法。 
この場合は

 iPad ))) 無線LAN ))) iZiggi <---有線LAN---> インターネット

という接続になります。が、せっかく本体が持ち運べることがこの製品の利点だけに、LANケーブルを繋ぐのはメリットが薄れてしまいます。そこで、

 iPad ))) 無線LAN ))) iZiggi ))) 別の無線LAN ))) インターネット

という接続ができるような設定画面が用意されています。

f:id:nomotatsu:20150704230128j:plain先ほどのホワイトボードアプリから、インターネット接続などの設定を行うGUIを呼び出すことができるようになっています。ちなみに左側のメニューに「Wireless Disk」という項目が見えますが、これは台座に接続したUSBメモリなどに保存している画像を参照できる機能です。

 

◆惜しいところ

いろいろと授業の機動力をあげるという意味では魅力的なICT機器なのですが、惜しいところもいくつかあります。

1. iPad側のアプリが基本、英語UIであること

WhiteBoard」というアプリが、先ほどのWiFi設定画面なども含め英語ベースという点はちょっともったいない。日本語を始め、各国語版を出して欲しいところ。

2. インターネット接続との両立がちょっと面倒

先に示したように、iPadとiZiggiを接続しながらインターネットを参照するにはアプリからiZiggi側の設定GUIを開いて、WiFiの設定が必要という点はちょっと面倒です。製品の性質としてはちょっと違いますが、SONYのレンズスタイルカメラや各種デジカメのWiFi連携では、iPadスマートフォン側はインターネット接続を保持したまま、カメラからのライブビュー映像や撮影画像を無線LAN経由で飛ばすことが可能になっていますので、工夫次第で設定をもっと簡略化することもできるんじゃないかな。

3. もうちょっと安いと良い

気になるお値段は執筆時現在、Amazonで ¥28,400 と、けっこうします…。実は以前は¥25,000 くらいだったのですが、円安ゆえちょっと値上がりしているのかもしれません。

www.amazon.co.jp

1万円台まできたらちょっと買ってみるか…という人も出てきそうですが、3万円近くとなると個人で支出するにも、学校に買ってもらうにもちょっと大変そうな気がします。

 

個人的には書画カメラを入手したのは初めてなのですが、一つ持っていると何かと使えるシーンがありそうだなーと思いました。みんながタブレットを持っていれば、ここで紹介しているような授業シーンはほとんどロイロノートスクールとかMetaMoJi Share for Classroom とか 前回の記事でも紹介した School Takt で実現できるわけですが、その段階にはまだまだ時間がかかる学校も多いことと思います。

また、タブレットを導入している学校でも、タブレットを操作している様子をみんなに見てもらうためには書画カメラがあったほうが便利という声も多いので、これから購入を検討している人はこういったICT機器との連携も一つのポイントにしてみてはいかがでしょうか。

多摩市立愛和小学校「i和Designプレゼンテーション」2015夏 訪問レポート

2015年6月27日土曜日、多摩市の愛和小学校にて公開授業とカンファレンスが行われました。保護者、他校の教職員、企業の職員、議員、行政関係者など多様なバックグラウンドを持つ方々が約200名が訪問。午後のカンファレンスでは総務省の情報通信利用促進課の元山 和久さんの講演やEdTechをテーマにしたパネルディスカッションおよびPitchが行われるなど、盛りだくさんの内容でした。

愛和小学校は全国的にも珍しい、公立の小学校で独自に児童が一人1台”以上”のICT機器を利用できる環境を整えている学校です。「20年後にこの学校を卒業していった子どもたちが社会で活躍できるようにするには、ドッグイヤーよりも早く進化していく世の中を相当、先取りしていく必要がある」と、同校の学校長、松田 孝 先生は「最先端が学べる学校」作りを意識して進めてきました。

本稿ではソニーデジタルカメラ”α”を使って撮影した公開授業の模様を中心に、同校の特徴を示す部分を紹介していきます。

1. 先導的教育システム(通称:教材クラウド)を活用

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朝の会で「School Takt」を使い、体調や先生への申し送り事項を入力する児童の様子

愛和小学校は本年2月より始まった「先導的教育システム実証事業」に協力する「検証協力校」の一つ。先導的教育システム(以下、教材クラウド)には、独自にタブレットなどのICT機器とインターネット接続環境を用意することで参加しています。教材クラウド上には複数の企業から寄せられた教材が集約されており、すべてwebブラウザ上で動作するwebアプリです。基本的にHTML5などの標準技術で作られており、協力校はここに登録されている教材やwebアプリの中から目的にあったものを選んで活用しています。
愛和小学校では授業支援システム「School Takt」や、いわゆるドリル型教材「ラインズ eライブラリLite」などを授業時間のほか、朝の学習時間および帰宅前などに活用していました。

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ドリル型教材「ラインズeライブラリLite」に取り組む児童の様子

この「教材クラウド」の最大のポイントは、ブラウザで完結すること。IDとパスワードさえ入力すればICT機器のOSや端末を選ばずに使えるのです。コンテンツを収容するサーバーなどを学校として持つ必要がないので、コスト面での効果も期待されています。とはいえ、ハードやOSの差分の影響有無や、認証、学習履歴の管理など様々な観点から「本格利用に向けた課題」も想定されており、全国各地でその検証が進められています。

2. マルチデバイスの活用

f:id:nomotatsu:20150628005351j:plainChromeBookを利用している児童たちの様子

f:id:nomotatsu:20150628012607j:plainデジタイザ(ペン)操作が可能なWindowsタブレットを利用している児童

先の教材クラウドや各種webアプリの導入により、OSが異なるデバイスを導入しても共通的に行える要素が増えてきました。同校はこれまでAppleの「iPad」を一人1台利用できる環境を整えてきましたが、今回の公開授業では前週の金曜日に配布されたばかりというChromeBook」や「Windowsタブレット」を利用する児童の姿を見ることができました。しかし、まだ利用開始から1週間程度しか経っていない割には、児童たちは端末の扱いには(従来のiPadの活用もあり)手慣れている印象です(スクリーンキーボードに慣れているためか、ChromeBookでの入力がほとんど全員、人差し指の一本指入力スタイルでしたが…)。
ChromeBookは端末価格が3万円台ということもあり、米国では教育分野に急速に広がっています。

3. Googleの各種サービスの活用

f:id:nomotatsu:20150628005355j:plainGmailでその日に使うURLや共有スプレッドシートを受け取る児童の様子

ChromeBookの追加導入に合わせて、同校はGoogle Appsの教育版アカウントを人数分、新規に取得(教育版Appsは無償で提供されます)。これにより、生徒はGmailGoogle DocsGoogle Driveなどのクラウド型サービスを使えるようになりました。

f:id:nomotatsu:20150628005354j:plain「学校の近くのお気に入りスポット」をGoogleMap上で指定する児童の様子

今回の公開授業では、6年生の学級活動で事前に調べてきた「学校の近くのお気に入りスポット」をGoogleMap上で探し、その住所を共有スプレッドシートに入力して、全生徒分を電子黒板に一覧表示するという活動が行われていました。

f:id:nomotatsu:20150628005402j:plain共有スプレッドシートに自分のお気に入りのスポットの住所とその理由を記入

共有スプレッドシートにはほぼリアルタイムで他の児童が入力している作業の様子が反映されています。事前に各児童ごとの行だけを入力済のシートを先生がGmail経由でURLにて配布し、それに生徒が住所や「おすすめする理由」を入力。すでにキーボードショートカットの「コピーとペースト」も習得しているようで、最後の10分は実際に地図の上にずらりと並んだクラスのみんなのおすすめスポットを見ながら、一人ずつ発表の時間をとっていました。

4. EdTechサービスの積極的な導入

f:id:nomotatsu:20150628005357j:plainSchoolTaktで生徒全員のワークの進捗を前方電子黒板にリアルタイムで表示

2年生の国語の授業では、先ほど紹介した「教材クラウド」の中のSchoolTaktを授業の中で使ってる様子を見ることができました。わざと句読点を抜いた文章を児童に配布し、児童たちで句読点を入力してもらうワークを行っていました。

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読点(。)を書き込むワークに取り組む児童。

この教室ではほとんどがWindowsタブレットを利用、一部iPadを使っている生徒も混ざっていましたが、あくまでSchoolTaktはブラウザ上で動いていることから、端末のOSの違いを意識することなく授業が進んでいました。このwebアプリ基本的にはあらかじめ先生が用意した「お題」を配布し、生徒児童はそのお題を動かしたり、手書き文字を書き込むことができます。(これがブラウザで動くことに結構感動します) また、設定次第では生徒児童同士でほかの人の回答をお互いに見たり、比較することも可能です。わからないことがあったり、問題が解けたときには右上の「OK」や「NG」といったアイコンをタップすることで先生に自身の状況を手軽に伝えられるほか、右下に表示されているように課題への「制限時間」を設定してカウントダウン表示したりと、多機能でありながらどの教科でも使えるような汎用性も持っています。また、同校の副校長である田畠先生は「児童が相互にコメントを送ることもでき、それを教師がマッピングしてお互いのコミュニケーションを視覚的に把握する機能が秀逸で、学級内の様子がよく把握できます」とこのアプリを高く評価されていました。

SchoolTaktを開発した会社「コードタクト」はまだ設立から半年程度の非常に若いベンチャー企業でありながら、先の教材クラウドに採用され全国で活用されるなど、注目のプロダクトと言えます。

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5年生の英語の授業では、以前当ブログでも紹介した、多国籍の講師による「Skype英会話」を提供する「ベストティーチャー」を活用。愛和小学校ではネイティブスピーカーのALTは月に1回程度しか来ることができないそうで、ネイティブと英語で「話す」機会が非常に限られていました。しかしベストティーチャー社が本年より月に1回程度、このSkypeを用いた遠隔英語レッスンを同校に提供し始めたことにより、英語を話すチャンスが増えました。この日は同時に6名の先生がスタンバイ。

f:id:nomotatsu:20150628005411j:plainSkype講師の先生の質問に正答すると3ポイント、不正解でも1ポイントとして、とにかく多く「発問する」ことでチームごとにポイントを競うゲーム的要素を取り入れていました。

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児童の手元にはあらかじめ使いそうな単語や表現のプリントと、質問の結果得られたポイントを記録する用紙が配布されていました。このあたりのアナログとデジタルを組み合わせながら進めている姿は、この日の公開授業でもあちこちで見ることができました。
ベストティーチャーもいわゆるEdTechベンチャーの一つですが、昨今では大学受験の英語が原則「4技能(読む・聞く・書く・話す)」を問う方向にシフトしている動きもあり、現在様々な教育系企業と連携して非常にスピード感を持ってサービスを拡充しています。もともとは社会人向けのTOEICTOEFLの対策からスタートした同社のサービスですが、このところ学校や教育機関での活用事例が目立ってきました。
ベストティーチャーについては、以下の拙稿も合わせてご覧いただければと思います。

techtarget.itmedia.co.jp

5. 学年に合わせたプログラミング教育

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同校ではプログラミング教育に力を入れており、成長過程に合わせて利用するプログラミングツールを変えているという特徴を持ちます。その中でも高学年ではレゴ社のマインドストーム EV3 を利用。同校では以前からMacを使ってマインドストームを動かす学習をしていましたが、ごく最近よりiPadから無線(Bluetooth)でマインドストーム本体に命令を出せるようになったことから、早速iPadを使って「ライントレース」を行うプログラミングを行っていました。

f:id:nomotatsu:20150628005404j:plainEV3のライントレースのプログラミングの一部。本体に搭載されている光学センサーを使い、まわりとの色のコントラストの違いから線を認識させ、線からはみ出さないようにEV3を走行させるというもの。一見簡単そうですが、パラメーターを微調整したり、途中からコース上の色が変わるなどの仕掛けもあり、トライアンドエラーを繰り返す必要が有ります。
iPadだとその場でちょっとパラメータを修正してすぐやり直せるので、児童の学びの機動力がMacを使っていた時よりも向上していることを感じました。

6. 電子黒板アプリ「Kocri」を利用

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今年のEDIXでも大変な話題になった、「スライドを黒板で見やすい形に変換して表示してくれるアプリ」である”Kocri(コクリ)”が使われていました。先ほどのベストティーチャーの授業の中では電子黒板とプロジェクタが併用されていて、プロジェクタ側でKocriを使用。iPadの中の資料をAppleTVでプロジェクタに無線で飛ばし、アプリで白黒の反転や色の処理をしていると予測…。(まだアプリが一般リリースされていないため、このあたりの詳細は不明でした)

実は、黒板へのプロジェクタ投影はこうした白黒反転(黒字に白)を行うと劇的に見やすくなることが先生たちの間では「ワザ」の一つとして知られていて、ここに色のチョークで印をつけると、チョークの粉でプロジェクタの光で反射して非常に鮮やかに、見やすくなります。アナログとデジタルがうまく融合している例ですね。

 

そのほか、気になった授業やアイテムはたくさんあったのですが、今回は主だった部分として以上を紹介しました。

午後のパネルディスカッションの部分については、同イベントのモデレータを勤められた為田さんがブログにて紹介する準備をされているようですので、チェックされてみてはいかがでしょうか。

ict-in-education.hatenablog.com

 

また、総務省、元山さんのお話の様子は当方がTwtitterにて実況中継した内容がありますので、こちらをまとめたものをご紹介します。

総務省元山様の教育ICTに関するご講演まとめ - Togetterまとめ

togetter.com

 

WWDCビデオによるとiOS9で教育分野のiPad管理が大幅に改善されそうです

今日は先日米国で開催された「WWDC」ではiPadiPhoneを「運用・管理」するための新機能・機能向上が多数発表されました。本稿では当方がWWDCのビデオを視聴し、「教育分野でのiPad運用管理に寄与しそう」と感じた部分を紹介します。

事前にお断りしておきたいのは、この情報はWWDCの公式サイトで閲覧できるビデオの情報をもとに作成しており、実際のリリースまでの間にこれらが一部変更されたり、機能としては存在しても日本では利用できない可能性、そしてMDMやアプリ側の設定に依存する内容はiOS9を導入してもすぐには利用できない可能性があるという点です。
また、ビデオは全編英語なので、当方の英語力不足で一部誤訳や解釈の相違が含まれる可能性もあります。以下の情報をビジネスシーンなどで活用したい場合には必ず原典にあたるようにしてください。
ビデオは以下のリンクから見ることができます。

What's New in Managing Apple Devices - WWDC 2015 - Videos - Apple Developer

1. MDMから遠隔でアプリをインストールする場合でもApple ID が不要になる

これまではiPad上にAppleIDを設定せずにアプリを配布するには、Apple Configuratorを使ってUSB経由で導入する方法しかありませんでした。MDMからアプリを配信する場合は、MDMから各iPadに対し「App Storeから指定されたアプリをダウンロードしてください〜」的な指示を遠隔で出しています。App Storeからアプリを落とす=Apple IDが必須であり、さらにiPad上でApp Storeを表示しておかないといけない(機能制限を使えばApp Storeを隠すことができるが、この状態だと先のダウンロード命令が通らない)という制約条件がありました。

しかし、iOS9からはApple ID に対してではなく「デバイス」に対してアプリを割り当てることが可能になります。Apple IDを事前に設定しておく必要はありません。これで、多くの学校がiPad導入時に悩む「生徒の人数分だけApple IDを取得する」という苦行から解放されることが期待されます。(ただし、ビデオを見る限りアプリ側でも対応が必要っぽいので、教育系アプリをリリースしている企業の方は要チェックです)

ちなみに、現行のApple IDで管理しているiPadから、この”デバイス”管理方式への移行も可能とのこと。その際、ユーザーが作成したアプリ内のデータが消えたり、アプリを再インストールしなくても良いそうです。不要になった有料アプリのライセンスを回収して他のデバイスに再割り当てすることも、今まで通り可能とされています。

さらに嬉しいのが、”AppStore”アイコンを隠した状態でも、遠隔でアプリをインストールすることが可能になるとアナウンスされていることです。多くの小中学校では生徒が勝手にアプリを追加することがないようAppStoreのアイコンを非表示にしていると思います。このため、アプリを遠隔配信するには、MDMから一時的に「App Store」制限を解除し、アプリを配った後に再びApp Storeを隠す、という手順が必要でした。
(もちろん、生徒を信頼して最初からAppStoreの制限をかけていない学校もあります)

この変更は、iPadの導入時の手間を減らすだけでなく、現場の要望に応じたタイムリーなアプリ導入をより行いやすくするなど、今回最も嬉しい改善点ではないでしょうか。

2. MDMから一斉にiOSの最新版へのアップデートを指示できるようになる

iOSのアップデート管理は管理者にとって悩みの種ですが、iOS9からMDM経由でその制御ができるようになるようです。といっても、すでに数百台レベルでiPadを導入しているような学校にとっては、それらが一斉に最新版のiOSにアップデートしに行くとWiFiインフラに負荷が集中するので、現実的にどれだけ役立つ機能かは未知数…。
現実的には、管理者が対象端末をどこか一箇所に集めて、WiFiへの負荷や状況を確認しながらMDM経由でアップデートの指示をだす、という使い方になるでしょう。でも、MDMがこの機能に対応してくれれば、使い勝手が向上するのは間違いないですね。
個人的には「iOSのアップデートを抑止するオプション」を早く実装してくれるとありがたいのですが、ビデオを見る限りではそういった機能には言及されていません。

3.「パスコード」「壁紙」「機器名称」などの変更を制限可能になる

よく小学校などで「学校のiPadに生徒が勝手にパスワードを設定して他の生徒や先生が使えなくなって困る」というトラブルを聞くのですが、それを防止する手段がついに提供されました。また、iPadの名称をせっかく出席番号・学籍番号に揃えても、ユーザーがあっさり変更できてしまうという問題も、今回解消されます。

この制限を適用すると「設定」アイコンの中から「パスコード」や「壁紙」の項目そのものが消える仕様になっています(冒頭のビデオの19:30前後にそのデモがあります) ので、パスコードの場合は事前に設定してある場合はそれが変更不可に、逆に未設定の場合はパスコード設定を追加することが不可能、ということになります。

なお、今回は新しい制限機能が色々と増えており、画面上からは「Appの自動アップデート」(要監視モード)といった気になるワードもあります。もしここからアプリのVerUPを制御できるようになると嬉しいのですが、詳細はビデオでは言及されていないので実際にチェックしてみるしかなさそうです。

4.VPPやDEPのシミュレーターが利用できるようになる

これは主に開発者向けのツールとなるようです。VPPは、教育機関が有償アプリのライセンスを購入する際に20本以上まとめ買いすると(アプリのよっては)半額になるという「Volume Purchase Program」の略です。VPPを使うと、MDMから遠隔でユーザーが気づかないうちにアプリをインストールする「サイレントインストール」が使えたり、ライセンスが不要になった時には利用権利を回収することでアプリが勝手に消える、といった制御面での利点があります。また、DEP(Device Enrollment Program)はiPadの事前設定作業を自動化するサービスです。

VPPもDEPも、これまで事前検証する手段が非常に限られていたので、実際に導入してみたら想定通りに動作しなかったり、様々な制約条件があって苦しんだベンダーの方も多いと思います。このシミュレーターである程度の事前検証ができることが期待されます。特にDEPについては、日本国内では本校執筆時点でまだAppleKDDIから購入したiPad/iPhoneでしか利用できないという制約条件があるため、シミュレーターで動作イメージを事前にチェックできるようになるのはありがたいですね。

5. Apple Configurator2によるキッティングの効率化

AppleConfiguratorが初のメジャーバージョンアップを果たしました。主な機能強化点は以下の通り。

・複数のMacApple ConfiguratorによるiPadの分散管理と設定情報の共有
→ 従来はMacごとに管理しているデバイスのデータベースを持っており、これがMacの全体をバックアップしない限り他のMacに移行することができなかった(言い換えれば、母艦のMacのバックアップを取らずに故障していたらThe ENDだった)のが、内部に端末のデータベースを持つのをやめることで、Mac A で管理していたiPad  をMac Bでの管理に移行するなど、柔軟な運用が可能になります。これにより複数のMacで設定を共存することも可能となり、分散管理が可能になります。

・オフラインで利用可能に
→ 従来は起動時にインターネットに接続していないと強制終了されてしまう仕様だったのですが、今回のバージョンからオフライン利用ができるようになりました。

・管理下のiPadに対して「タグ」をつけて管理
→ 例えば「4年生のiPad」といったように分類を行っておけば、そのタグがついたiPadだけん対して設定変更操作を行うといったことも可能。カートなどを使って大量のiPadを管理している学校には嬉しい機能かも。

・アプリのアップデートをAppleConfigurator単独で実施可能に
→ 今まではConfigurator経由でアプリを入れる時には、iTunesなどを使ってMaciPad用のアプリを事前にダウンロードしておき、それをConfiguratorに登録してiPadに配るという操作が必要で、アプリのVerUPの時も同様の手順が必要だったのですが、今回からはiTunesに依存することなくアップデートが可能になるようです。

DEPとの連携も可能に
→ 詳細は実際に使ってみないとわからないのですが、「Automated Enrollment」という名称で、従来の設定アシスタントを使う代わりにApple ConfiguratorからDEP対象のiPadに指示を出すことが可能となるようです。もともと全てが無線で完結するのがDEPのメリットであるわけですが、Apple Configurator2を使うことでこのあたりの手順がどのように効率化されるのか、要検証ですね。

・「BluePrint」よばれるテンプレートを保存し、一斉に適用可能に
→ 従来のApple Confguratorでは1パターンしか保持できなかった設定内容を複数保持することが可能になります。端末の名称、導入するアプリ(VPPにも対応)、構成プロファイル、前述の「タグ」などを1つのテンプレートとして登録し、対象のデバイスに一気に適用することができます。1校で複数のポリシー管理を行っている場合に便利そうですね。
コマンドラインスクリプトによる設定自動化にも対応
→ ビデオでは口頭で言及されているだけですが、BluePrintよりもさらに自由度の高い自動キッティングワークフローがデザインできるような機能を備えるようです

上記の新機能の一部は、冒頭のビデオの36:10あたりからデモで見ることができますので、Apple Configuratorを普段から使っているベンダーの方や管理者の方は、一度見ておいて損はないかなと思います。

 

以上、WWDCのビデオ内容をもとに気になったiOS9とiPad関連の機能強化を紹介しました。


β版のiOS9とApple Configurator2 はデベロッパーサイトで入手できるとのことですが、サイト内にある一般公開前のアプリやiOSの仕様について言及することは規約で禁止されているので、気になる方はiDEPに登録して実際に試して見るしかありません。
また、β版はどんどんマイナーバージョンアップをしていくのが通例で、最初のバージョンでは不具合が潜んでいたり、いつも間にか機能のアップデートがあったりすることもしばしば。

最終的には、秋にリリースされるパブリックβ版や正式版で検証をすることが重要になりそうですね。

α × iPad × Google Photos

αアンバサダーとしての記事2本目は、前回予告した「Google Photos」との組み合わせで「今の所これがベストかなー」という機器の使い方+αについて紹介します。

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α7s, 1/200, F4.5, ISO100, FE2.8/35

旅行で携行する複数のカメラ画像を、一箇所にまとめる

6/13−14の週末を利用して金沢に夫婦で旅行に行ってきました。今回の旅行ではα7s、α6000(SONYからの借り物)、QX1、コンデジ(TX7)と合計4台+それぞれのiPhoneを持って出かけました。

私はα7sとQX1を、妻がα6000とTX7を持ち歩くことにしたのですが、こうなると画像が各カメラやiPhoneに分散するという問題が起きます。しかし1泊2日の旅行にわざわざPCを持っていくのは面倒。そこで…
・直ぐにFacebookSNSにアップしたい場合は「スマートフォン転送」
・全写真はSDカードリーダー経由でiPadに集約、ホテルや自宅からGoogle PhotosにUP
という工程を踏みました。
(本当はiPhoneでSDカードリーダーが使えればもっと手軽なのですが、現時点では使えません)
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Google Photosに集約された4台のカメラ+iPhoneの写真たち

オリジナルの写真はiPad内に残るので、カードの容量が厳しくなったら消しても大丈夫。Google PhotosにUPすることで(圧縮されるとはいえ)1600万画素相当の写真がクラウド上にバックアップされ、あらゆるデバイスで時系列に沿って見ることができるので便利です。関連する写真を勝手にグループ化してくれたり、画像解析を通じて写真を検索できる機能も(たまにボケかましてくれますが)意外と使える印象です。
さらに、記事中の写真は全てGoogle Photosからダウンロードしてきたものを使っていますが、上記のどこかの過程でExif情報を消す仕様のようで、webに掲載するには好都合です。(困るシーンもありそうですが…)
何と言っても、1600万画素相当で良いなら容量制限が無いのがGoogle Photosの革新的なところ。プロユースは厳しいでしょうが、趣味的に少し写真を撮る人であればこれで充分かなという印象です。

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α7s, 1/60, F2.8, ISO3200, FE2.8/35

上の写真はスマートフォン転送」を使い、無線経由でiPhoneiPadなどに画像を転送したもので、最近のαにはだいたいこの機能は搭載されています。
転送したらスマホからSNSなどに投稿ができるのですが、カメラとスマホWiFiで接続->専用アプリ起動->転送->SNSに投稿 という流れが必要で、意外と面倒。私は200万画素相当に圧縮したものを転送して使いますが、フルサイズの画像転送はけっこう時間がかかり、iPadなどにメモリカード経由でバックアップする方が早い。なので、今回の旅行では食事の後にFacebookに数回投稿するくらいにしか使いませんでした。ただ、ケーブルやアダプタを持ってくるのを忘れた時にも使える手段なので、知っておいて損は無いです。
iPadセルラーモデルであれば、取り込んだらすぐSNSGoogle Photosにバックアップをすることもできるので、この方法を始めるとセルラー接続可能なタブレットが欲しくなるかもしれません(笑 

α6000のポテンシャルに迫る

今回の旅行では
・α6000は一眼初心者でも使えるのか
・夜景の撮影能力の差はどんなものか
という点も試してみようと思いました。

1点めの「初心者でも使えるのか」という点は、全く問題無しでした。使い方の説明をしたのは1−2分くらい。基本はフルオートで、ズームと半押し、全押しだけ教えて、あとはファインダーを覗きながら脇をしめるとブレにくくなるよ、くらいしか伝えてません。それで、結構バシバシと、なかなかいい感じの写真を撮ってます。

2点めはα7sが現状、夜景最強カメラっぽいので、そのポテンシャルにα6000がどのくらい迫るのかなーと見てみようと思いました。
で、選んだ被写体がこちら。

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左: α7s, 1/30, F4.5, ISO25600, 4.5−5.6/75−300(AマウントアダプタLA-EA4経由)
右: α7s, 1/30, F4.5, ISO51200, 4.5−5.6/75−300(同上)

尾山神社のステンドグラス ライトアップの様子を撮り比べてみました。いずれもカメラ任せのオートで、α7sではISOだけ変えて2枚撮影。ISO51200にするとさすがにちょっとノイズが目立ちますが、α350時代に使っていた安価で決して明るいとは言えない、かつ手ぶれ補正もついていないレンズを使い、中望遠域で手持ちでここまで撮れるのはやっぱ凄いですね。近い将来出そう(?)なα7sIIでボディ内5軸手ぶれ補正がついたら、さらに最強な夜景カメラになりそうな気がします。

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α6000, 1/10, F4.5, ISO3200, 3.5−5.6/16−50(キットレンズ) 妻撮影

一方こちらは妻が撮った写真。画角の違いはあれど、シャッタースピード1/10でもほとんどブレてないのはレンズ内手振れ補正の効果?欲をいえばキリはありませんが、カメラ任せでかなり綺麗に撮れていてびっくり、かつEXIFを見て以外とシャッタースピードが遅いのを知り二度びっくりという印象です。キットレンズ含めα6000はミラーレス一眼の入門機としてかなりポテンシャル高い感じがしました

 

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α6000, 1/160, F5.0, ISO400, 3.5−5.6/16−50(キットレンズ) 妻撮影

こちらもフルオート。コンデジでは出ない絵に妻も一眼のポテンシャルを感じていた様子でした。個人的にはキットレンズがもーちょっとマクロ撮影できるようになればいいなー。


ここが良くなればさらにGood

今回使ってみて、α6000には総じて満足したのですが、不満もあります。一番大きいのは、タッチパネルではないこと。今回携行していた数年前に発売されたコンデジ(TX7)やiPhoneは画面内をタッチすればその場所に露出やピントが合うようになっていますが、意外とこういう携帯性の高いカメラで当たり前にできることがミラーレス一眼で出来ない点は不満が残ります。
ただ、スマホとαを連携させる「スマートリモコン」というカメラ向けアプリを追加することで、上記の「タッチした場所にAF/AEを合わせる」ことはできるには出来ます。

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スマートリモコン内臓版のスクリーンショット@iPhone

が、が…。実はカメラに最初から内臓されている「スマートリモコン内臓版」というアプリがあるのですが…。なぜか、このバージョンでは、タッチAFが出来ない! これは非常にもったいないです。新機種のα6000も、状況は同じでした。タッチAFを使えるようにするには、カメラ内のブラウザ経由でSONYのサイトにアクセスし、「スマートリモコン」というアプリをダウンロードしインストールする必要があります。WiFiのパスワードをカメラ本体のダイヤルを操作して入力する段階ですでに面倒で、敷居が高く感じます。このアプリは最初からプリセットしておいてくれれば…と正直思います。

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QX1, 1/80, F5.6, ISO1600, 3.5−5.6/16−50(キットレンズ)

ただ、スマートリモコンってすごくいいアプリで、例えばこーゆー低い目線で、床にカメラを置いてスマホからリモートシャッターが切れるのが最大の魅力です。集合写真を撮るときに三脚にカメラをセットしてスマホからアングルを確認しつつシャッターが切れるのも魅力。なので、最近のαを持っている方は是非、この「アプリ」を一手間かけてでも導入してみてほしいです。iPhoneでもAndroidでも使えます。

ちなみに上記の写真は別の日に猫カフェでレンズスタイルカメラQX1を使って撮影しました。QX1は速写性の面で、スマホWiFiで接続 -> アプリを起動 -> 撮影 という手間があり旅行ではあまり出番がありませんでしたが、普段から「一眼品質のカメラを携帯する」という習慣を可能にするサイズが魅力。いつも仕事のバッグに入れてます。

最後にこれは個人的な要望なのですが、スマホ側の専用アプリ「PlayMemories Mobile」について、個人的にはせっかくスマホ連携するのであれば、カメラの高機能化に伴うUIの複雑さを補うようなアプローチもアリではないか、と個人的には思っています。

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こちらは前回の日記で紹介した、MacやPCからαのカメラをリモートで操作する「Remote Camera Control」というアプリのスクリーンショットです。ライブビュー機能は持っていませんが、USB経由で接続されたαの多くの設定をここから制御できます。各種設定がPC上から変更でき、インターバル撮影(数秒おきにX枚撮影する)も行えます。

個人的にはこれのスマホ版+既存のライブビューができるPlayMemories Mobileを合わせたようなアプリがあると撮影体験がだいぶ変わる気がしています。有線接続でもいいので、タッチパネルでF値シャッタースピード、露出補正などを瞬時に設定でき、手元のスマホの大画面で設定値を一覧できる。もちろんフォーカスポイントや露出はスマホ側でタッチした場所に合わせられる。これでカメラ側のファインダーやディスプレイ内には余計な情報を表示しなくてよくなります。VAIOXperiaにこうした機能を搭載してくれれば、カメラという内製デバイスを持たない他のスマホメーカー(Appleも含む)との大きな差別化要素になると思うのですが、如何でしょう?>SONYさん

※ついでに、PlayMemories Mobileアプリとスマホの連携について、もう少しライブビューの描画のスムーズだったり、接続が安定するといいなーと思います。オリンパスさんのオリンパスAirは割ともう少しスムーズな動きをしていたので。

 

ということで、今回はGoogle Photosとの連携、夜景性能の比較、改善要望について書いてみました。

 

次回はたぶん最終回で、いよいよ本ブログとしてメインである「教育分野」、公開授業でα6000を使ってみた様子をレポートしようと思います。

 

教育ICTの最前線レポートを支える デジタルカメラα

2015/5/30より ソニーデジタルカメラ「α」の"アンバサダー"として1ヶ月弱活動をすることになりました。数回ほどこのBlogにも記事をPOSTしてみたいと思います。

αアンバサダーのハッシュタグからこのブログに到達した方のために簡単に自己紹介をしておくと、当方は
・教育をICTの活用により、更に良くするための個人的な活動を行っている
・全国各地で行われている教室や教育現場でのICT活用の様子を記録・伝達するための
 ツールとしてαを使っている
・教育系イベントや公開授業をTwitterで実況中継し即日Togetterに纏める

という活動をしています。そのため、当方はいわゆる”写真家”クラスタの人間ではなく、短時間でより品質の高いレポートを作る課題解決ツールとしてαが現状ベストの選択肢であると考え、使っています。よって他のアンバサダーさんよりは「ユースケース」に関する記事が多くなると思われます。

まず、実際にどんな実況中継を行っているかの一例ですが、こんなのです。

このイベントは全国の小学〜大学までの先生が、ICTによって授業や活動の質を高めたり、今まで出来なかった事を実現している様子などを広く伝えてきたものです。年に数回開催されていて、今年の4/26は200名の会場が早期に満席になる程注目を集めるイベントとなりました。

で、このイベントで使ったのが以下の組み合わせです。
Apple - MacBook (12" Retina)

α7S | デジタル一眼カメラα(アルファ) | ソニー

Remote Camera Control  | ソニー

やりたい事は「αで撮った写真を使いなれたMacから説明文を加えて瞬時にTwitterする」ということ。これ簡単なようで結構難しいのですが、それを可能にしたのが最後に紹介している「Remote Camera Control」というPC/Mac用ソフトでした。このソフト、USB接続されたαなどのソニーデジタルカメラに対して
・PC側からシャッターを切る
・PC側からF値/シャッタースピードなどを制御する
・αで撮られた写真は自動的にPCに転送されてくる
ということが出来る素敵ツールです。これを駆使することで、
 スライドを撮影->内容を120文字くらいで纏める -> Twitterにスライドと一緒に投稿
という流れが非常にスムーズに行えます。それをひたすら繰り返したのが先のリンク先のTogetterです(一部、同じハッシュタグの他の人のTweetも混ざってます)


なお、カメラとしてα7Sをわざわざ選んでいる理由は
・薄暗い会場でスライドを撮影する際に(今の所)α7Sが最も綺麗に写る
・サイレントシャッター機能が使える
・コンパクトなので登壇者に対する威圧感(?)が少ない
などです。レンズは色乗りが良いという意味で35mm f2.8 の ツァイス単焦点を使いました。あとTwitterにまとめるのが目的なので画素数はそんなに要らない、むしろMAX解像度で撮影しても1200万画素のα7Sは最近のデジカメと比較してもストレージを圧迫しないという意味で結構、ありがたい存在だったりします。

ということで、机のある会場だと、上記のRemote Camera Control を使う方法が最も早く、かつ正確に講演の内容をリアルタイムに近い形で残せます。が、難しいのが机がない時で、当然Macが使えません。私のユースケースでは公開授業のように、教室にお邪魔して授業を邪魔しないように気を使いながら、生徒児童がICT機器を活用している様子を撮影させてもらう場合がこれに該当します。
そこで活躍するのが、レンズスタイルカメラ+スマートフォンの組み合わせです。これについては過去記事をご参照ください。

全国のよく訓練されたSONY党員の中でも、公開授業の記録と発信のためにレンズスタイルカメラを使う人間はそうそう居ないと思いますが、これらの組み合わせは撮影の機動力と即時の記録を両立するツールとして(個人的には)今の所最強です。実況Tweetを繰り返すうちにフリック入力は電車の中で女子高生に二度見されるくらい早くなりました(笑)  さすがにキーボードの入力速度には負けますが。

これらのレンズスタイルカメラは、スマホとの間は「PlayMemories Mobile」というアプリを通じてカメラとWiFiで通信し、カメラの捉えた絵を飛ばす仕様になっています。レンズスタイルカメラには液晶モニタが付いておらず、スマホに映像を飛ばすことで「ファインダー」代わりに使えます。また、撮った写真はその場で縮小されたものがスマホに無線転送されてくるといった機能も持ってます。しかし、先のiTeachersのような大きなイベントや、大規模な展示会ではWiFiがあちこちに飛んでいるため、電波の混雑の影響か、画像の転送が非常に遅くなったり、途中でカメラとの接続が切れたり、スマホへの撮影画像の転送に失敗するといったトラブルによく遭遇します。本末転倒な気もしますが、本音を言うと有線で高速・安定した通信ができるバージョンが欲しいなぁ。

ちなみに、レンズスタイルカメラを購入しなくても、α7Sなど最近のαシリーズには「アプリ」と呼ばれる追加機能をダウンロード可能で、「スマートリモコン」というアプリを入れることでレンズスタイルカメラと同等の使い方ができます。
が、私が敢えてレンズスタイルカメラを使っているのは
・公開授業では見学者が非常に多く、人の合間を縫って撮影が必要
・一方で(許可は得ているものの)生徒児童の顔がハッキリ写り込むのはNG
・そのため中望遠域を多用する
という制約条件があり、カメラを片手持ちにしてアングルフリーに撮影できるレンズスタイルカメラの方が利便性が高いのです。例えば以下のような写真を撮るには、レンズスタイルカメラだとやりやすいです。
(写真は同志社中学校iPad×Skypeを使った"英語のスピーキング"練習の授業風景)

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※上記の公開授業の詳細は過去記事を御覧ください。


なお、今回はαアンバサダープログラムに参加し、ソニーさんから最新のコンパクトミラーレス一眼「α6000」という機種を1ヶ月ほどお借りする機会に恵まれました。手持ちのα7Sよりもコンパクト、かつAPS−Cサイズのセンサーを搭載するほか、オートフォーカスが極めて高速という特徴を持ったカメラです。
早速昨日、友人の結婚パーティーがあったので使ってみましたが、コンパクトさに似合わぬ連写・速写・AF性能を持つことが実感できました。特に公開授業の機会があれば、QX1やQX100と比較をしてどの程度の使いやすさなのか、スマホと組み合わせた実況中継にも耐えられるのか、などを検証する用途で使ってみようと思います。

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また、ちょうどタイミングよくGoogleからGoogle Photos」が発表されましたSONYさんにはちょっと申し訳ないのですが、ちょっと使ってみた限りでは本家のPlayMemoriesというアプリよりもGoogle Photosの方がだいぶ使い勝手が良い感じなので、次回はこちらとの組み合わせでどんな利便性が得られるかを記事にしてみようと思います。

開発者の論理、運用(利用)者の論理

このブログは教育関連の話題を扱うブログですが、今日はちょっと教育に限定しない話題を書いてみたいと思います。組織内で、システムを開発(または導入)する側と、それを利用する側の話です。
たぶん、すごくあたり前のことが書いてあるだけなので、そんなに気負わず読んでみてください。あー、あるある、くらいの気持ちになっていただければそれで充分です。

基本的に多くの組織内では仕組みやシステムを「作る」もしくは「導入する」担当と、それを「使う」もしくは「運用する」担当に分かれていると思います。当方は社会人まだ7年目ではありますが、これまでに両方の立場を経験させていただきました。その中で、立場が変わるとモノの見え方が変わるということを「社内システム」を例に挙げて話をしたいと思います。

 

社会人1年目、私は社内システムを「使う」、いわゆるユーザーとしての仕事を経験します。

そこで日々感じていたのは
・なぜ使う側の立場をここまで考えていないシステムなのか
・何でもかんでも備考欄で吸収するのはいかがなものか
・この手作業でやる所をシステム化すればもっと人件費が浮くのに
・1分1秒が惜しいのに、なぜこんなトロいシステムを使うのか
・業務手順の変更や改善をなぜきちんと作り手は説明してくれないのか
といった不満でした。

大学〜大学院で一つの研究室内システムを作り上げた経験もあったので、「ちょっと手を加えれば直せそう」と見える部分は沢山目に付きました。そこでいくつかは「具体的にこうしてはどうか」と提案をしたこともありますが、ちょっとした仕様変更(文字を入力する枠を追加したり、条件フラグをひとつ増やすなど)だけでウン十万円かかる、などと言われて玉砕し続けました。
とはいえ、ただで引き下がるのは嫌だったので、ExcelVBAなど使えるものを活用して効率化ツールを作るなど、工夫や提案を続けてみました。そうしていたらある時、社内システムの開発プロジェクトに関わる機会に恵まれました。

そこで、今までとは正反対の立場を経験します。

システムの開発や改修は、ヒト・モノ・カネ・時間との戦いでした。限られたリソースの中で結果を出さなければなりません。しかも、ユーザーに要望を聞くと、とても消化しきれないほど大量の意見が出るし、最初に聞いた時に出てこなかった要望が、締め切りをだいぶ過ぎた後に出てくる(しかも重要で絶対に実装しないといけなかったりする)ということもよくありました。
こうした事情から全ての希望を満たすことはまずできないという現実に直面します。よって「割り切り」をするわけですが、その時に真っ先に削られる候補に挙がるのが「システム内であったら便利だけど、別の方法でカバーできるよね」という機能です。

例えば、画面内にひとつ入力枠を追加してほしいというケース。Excelや紙であれば枠を書くだけでOKなので「簡単でしょ?」と思われがちです。しかし、システムとなると、枠を増やすためにはデータベースやそのテーブル構造をまず理解し、どこに変更を加えれば良いかを把握し、その変更による影響がありそうな部分(特に他のシステムと連携する部分)を特定し、試験環境で動かしてみて大丈夫か、では本番の環境に導入したらどうか…などかなりの部分の精査が必要になります。こうした検証や試験に加え、仕様書の書き換えや、新機能の説明会とその資料の作成するなど、相当な手間がかかります。このあたりは実際に経験してみて、なるほどこれは「ウン十万円」というコストは適正だったんだな、と納得したのを覚えています。(ちなみに、この話は”内製開発”、つまり業者に発注せず自分で作る、という経験を元に書いています。もし外注していたらたぶん桁が違う数字になっていたでしょう…) 

結局、ここにかける時間と手間をかけるのであれば、現場には数秒間の負担や手間になってしまうものの、「申し訳ないですけどExcelで…」とか「備考欄に手入力で追記してください…」というのが費用対効果という意味で現実的な答えになるわけです。

細かい例を挙げるとキリがないのですが、開発をやってみた結果、過去の自分の持っていた不満について自分自身で回答すると、以下のようになってしまいます。

・なぜ使う側の立場をここまで考えていないシステムなのか
 -> ヒアリングを重ねても、システムを毎日使っている人と同等に詳しくなるのは難しいです…。

・何でもかんでも備考欄で吸収するのはいかがなものか
・この手作業でやる所をシステム化すればもっと人件費が浮くのに
 -> 上記の例の通り。システムを使う人の人件費が浮いても、作る側や展開する側の人件費がそれを上回ってしまうと「やらないほうがベター」なんです…。勿論コスト以外に人命や安全などもっと重視するものがある場合は、この限りではありません。

・1分1秒が惜しいのに、なぜこんなトロいシステムを使うのか
 -> システムの動作速度はいろんな要因で決まるため、全体的なパフォーマンスの向上はかなり難易度が高くコストに見合わないケースが多いです…。これについてもコスト以外の重要要因がある場合はこの限りではありません。

・業務手順の変更や改善をなぜきちんと作り手は説明してくれないのか
 -> すみません本当はもっとちゃんと説明したいんです。でも人や時間が足りないというのが本音です。説明文書や資料はきちんと作っているので、最低限そちらをみていただければ…。

 

とはいえ、双方言い争っても何の解決にもならないので、それぞれ持てる手段で歩み寄るためにも対話は絶対に必要です。どうしても利用者にカバーしてもらわないといけない場合は、そのほうが全体を見た場合に効率的であることを理解してもらえるよう、きちんと説明することは最低限必要でしょう。

一方で両方の立場を経験してみて重要だと感じたのは、システムを「使う側」の人間も、こうした「作る側」や「導入する側」の事情を理解するように努めることです。開発や提供をする側に文句や愚痴ばかり言ったり、費用対効果が低い機能改善を強く求めてばかりいると、開発/導入を行う側はどうしてもその人を避けたくなってしまうものです。

実はこの話は、システムに限ったことではなく、仕事をする上でのあらゆる面で重要なことだと私は考えています。異なる立場同士で話をする時には、相手の事情をまず理解しようと考える。不満に思っていることが実現できないのには、なんらかの理由や制約条件があると考えて、事情を聞いてみる。実はこれができる人は意外と少ないので、大抵の場合は「この人は自分を理解してくれそうだ」と見てくれて、腹を割って話してくれます。すごくあたり前の話ではありますが、改めて、自戒も込めて書き残しておきます。


最後に、一応教育についての話題を扱うブログとして、自分が大事にしている言葉を示して終わりにします。
 

学びの多くは相互理解から。争いの多くは相互不理解から。

 

今後も様々な立場の方とお話しをし、知らないことを補うため自らも学ぶ、ということを続けていきたいと思います。

 

※ちなみに、今回のエントリーはあくまで組織内に閉じた話をしています。これがモノの売買など「組織外」が絡む話になるとだいぶ事情が変わってくる部分がありますが、その辺は要望があればまた書きます。

清教学園が挑む「eポートフォリオ」の活用と「学びのステークホルダーに対するコミュニティ作り」

先日、大阪府河内長野市にある私立の中高一貫校「清教学園中・高等学校」を訪問してきました。同校は全国の私立中高一貫校で唯一、文部科学省の「高大接続」「高校教育の質の確保・向上」「大学入試改革」の調査研究の委託先に選定されています。しかも”グローバル時代や教育の多様化を見据えた「大学受験」だけに縛られない人間教育を目指す”という方針も掲げており、それを実現する仕組みのひとつとして「e-ポートフォリオ」というシステムが運用されている点に筆者は注目しました。このシステムを授業に積極活用している、同校の特任教諭 田邊 則彦先生と、同システムを開発した 株式会社NSDの川畑 雅哉様にお話を伺いました。

(田邊先生にはご厚意により高校3年生の授業も見せていただきました)

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左:清教学園 特任教諭 田邊 則彦先生、右: NSD 川畑 雅哉様

eポートフォリオは、生徒の学習履歴や成果物を集約し、中高6年間の学びの「ポートフォリオ※」を形成するために導入されています。webベースのシステムで、PC、タブレットスマートフォンなどOS/デバイスを問わず閲覧することが可能で、生徒や教員だけでなく保護者も閲覧や利用が可能となっています。

ポートフォリオ:画家・写真家・デザイナーなどが自分の作品などを集約してまとめ、自身を知ってもらうために利用するものを指します。ここでは自身の学習成果物が「作品」として集約されているという意味合いになります。

一般的なLMSと大きく異なることは、単なる「課題の出題・提出」といった「蓄積」の要素だけではないことです。”自己評価”、”相互評価”、”教員による評価”といった「多面的評価」を実現するプラットフォームとしても機能しているのがポイントで、システム上に提出された課題や作品に対して教員やクラスメートがコメントをつけ合い、そこでディスカッションすることを通じてさらなる改善を押し進める「学びのPDCA」を加速するための仕掛けが用意されています。
(相互評価を実施するかしないかは教員が課題ごとに選択できる)

田邊先生は、このポートフォリオとここに集約される様々な作品に対する評価を「進路先が求める人物像にマッチするよう、学習成果物を適切に組み合わせ、自身の”軸”に合わせたストーリーを構築する材料にしてほしい」とお話されていたのが印象的でした。
現在進められている大学入試改革では、各大学が明確に「アドミッションポリシー」を制定することが求められているほか、いわゆる「知識の再生」だけに依存しない大学入試における選抜方法として「面接」や「小論文」などの活用も挙げられています。そうした動きを先取りして生徒達が準備できるような「ポートフォリオ化」を今の段階から進めている、と見ることができるでしょう。
実際にこのe-ポートフォリオを活用している授業を見学することができたので、その模様をお伝えしていきます。
※写真掲載には学校および生徒から事前に許諾を得ております

一人1台のiMacがある情報科教室

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今回授業を見学した教室は一見、理科室のような大きめな白い机が並んでいるだけの情報科教室。しかし、机上に見える枠のような部分をあけてハンドルを引き出すと、なんとiMacが登場。このiMacを使って、今回は2時間連続の授業を使い、「卒業論文」を「iBooks Author」を活用して「iBooks形式」に変換し、手元の「iPad」で確認しながら作品として仕上げていく活動を行っていました。国公立大学の前期試験直前でこういった授業は珍しいなと思っていたのですが、このクラスは当初から推薦により大学進学が確定しているコースの生徒とのこと。

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授業はまずQuipperを使ったアイスブレイクからスタート。Quipperは日本人が英国で立ちあげた教育系ベンチャー企業で、主に学習のプラットフォームを提供している会社です。田邊先生はQuipper社と連携しながら同システムを独自にカスタマイズやバグフィクスした上で生徒に提供しているそうです。当方が知る限り、学校としてQuipperを使っているのは日本ではここだけではないでしょうか?

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アイスブレイクの後、本題のiBooks作成作業に移行。こちらが冒頭の「eポートフォリオ」の画面。ここには、生徒達が卒業の要件として制作した40000字規模の「卒業論文」が格納されていました。ちなみに、生徒は論文の書き方(いわゆるアカデミックライティング)を高校2年の頃から約1年かけてしっかり学んでいるとの事で、iBooksにリデザインする中で「引用はどう表現するのか」といった質問が生徒より出ていました。また、iBooks Author特有の表現に戸惑う生徒の様子を見て、「出典にはハイパーリンクなどを使ってジャンプさせるのも手」「Wordから図表がうまくコピペできない場合はスクリーンショットを活用しても良い」といった指示も飛び交っていました。

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写真のようにwebなどから素材をうまく持ってきて見栄えのするデザインに変更するなど工夫をしている生徒も見られました。

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ちなみに、章立てやセクションの関連性などiBooks独特の仕組みなどについては特に先生から指示や説明はありませんでしたが、理解が早い生徒が他の生徒に共有しながら習得していく様子が見られました。普段からこうした生徒同士の学び合いや問題解決を行うよう指導しているということで、授業中生徒達は座席を離れて様々な場所で情報交換をしながら作業を進めていました。

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実際にiPad上でiBooksから出力した作品をプレビューし、完成イメージを確認している様子です。完成作品は.pdfと.ibooks、およびiBooks Authorで編集可能なファイルの.iba の各種形式でeポートフォリオ上に格納し、授業は終了となりました。

成果物に対する相互評価と「学びのコミュニティ」化

この後は、eポートフォリオ上で教員が作品に対してコメントをつけたり、場合によっては生徒に公開して「相互評価」を行うという流れになります。冒頭に述べた通りeポートフォリオwebブラウザベースのシステムなので生徒手持ちのスマートフォンでも閲覧ができます。このため、授業の中だけで使うのではなく、適宜授業外で先生やクラスメートからつけられたコメントを確認したり返信したりすることができます。なんとなく教育SNSに近い形に見えますが、田邊先生は教育SNSはもっと日々の相談や話題などの一般的な用途について使うシーンを想定しており、eポートフォリオは”学習成果物”を通し地域社会や保護者、教員などの「学習者を取り巻く全てのステークホルダーに対するコミュニティに育てていきたい」という考え方をされています。
(逆に、小学校から中学校に上がる時の不安などを生徒や先生・保護者や先生などが会話するような機会は教育SNSに任せる方が良い、とシーン別で利用イメージを明確に分けていらっしゃいました)

株式会社NSDと田邊先生の連携により生まれたeポートフォリオ

授業後には株式会社NSDの川畑様にも詳しくお話を伺うことができました。
このプロジェクトには2011年ごろから関わり始め、ほぼゼロから現在のeポートフォリオを作り上げてきたそうです。2011年から2年程度、海外で使われている近いコンセプトの商品を研究したり、田邊先生の授業サポートなどに関わっていく中でシステムとして必要な要件を集約したり、日本特有の学習評価の考え方などに触れていきます。ベースとなるシステムは2013年に作られ、同年に清教学園に田邊先生が着任してから約2年間、同校が推進しているルーブリック(※2)の活用も踏まえながら進化を続けていき、現在の形になったとのこと。ただ、現時点ではまだプロトタイプという位置付けで、2015年度の早い段階での製品化にむけて活動中とのことでした。
(※2:熊本大学のホームページからの引用「ルーブリック(Rubric)とは、レベルの目安を数段階に分けて記述して、達成度を判断する基準を示すものである。学習結果のパフォーマンスレベルの目安を数段階に分けて記述して、学習の達成度を判断する基準を示す教育評価法として盛んに用いられるようになった。これまでの評価法は客観テストによるものが主流を占めていたが、知識・理解はそれで判断できたとしても、いわゆるパフォーマンス系(思考・判断、スキルなど)の評価は難しい。ポートフォリオ評価などでルーブリックを用いて予め「評価軸」を示しておき、「何が評価されることがらなのか」についての情報を共有するねらいもある。」 http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/opencourses/pf/2Block/05/05-2_text.html )

また、田邊先生からはアダプティブラーニングの仕組みと連携して、e-ポートフォリオの中に診断機能的なものが入ってくるともっと面白くなる。システム側から学習状況に対していろんなサジェッションが出てくると面白いよね」というコメントもあり、各方面で始まりつつある「学習ログ分析」や「教育のビッグデータ解析」とも連携できると、とても面白そうです。実際に、株式会社NSDもこの部分については非常に期待しているとのことでした。

eポートフォリオの抱える課題

最後に、お二方にお話を伺う中で三つほど顕在化した課題についても記載しておきたいと思います。
1点目は「校務支援システム」の連携です。一般的にこれらは機密性の高い情報を扱うためにネットワーク的に分離された場所に置いてあるケースが大半ですが、eポートフォリオwebブラウザで外部からアクセスできます(eポートフォリオで扱うのはいわゆる”成績”や”評定”よりも前段階の参考情報という位置づけ。もちろん、IDとパスワードによる個々の認証はきちんと行い、情報管理も含めて生徒には学んでもらう意図があります)。
とはいえ、こうしたe-ポートフォリオが扱う情報が適切な形でセキュリティを保ったまま、校務支援システムと連携できると何かと利便性が高いでしょう。このあたりは、e-ポートフォリオが製品版として登場する際には是非とも検討されてほしいですね。

 

2点目は「多面的評価」に対する教員への負担感をどうするかという問題。田邊先生も川畑様もこの点は非常に気にされていて、従来やっている手法+αでなるべく負担感がない(場合によっては現状の先生が個々に手で管理しているものと比較して手間が減る)ように見えるような仕掛け作りを考えているとのことでした。

最後の3点目は、こうしたシステムが広く整備されていく前提として学校内の学習環境(ハード・ソフト・インフラ)の整備が進む必要があるという点。そういう意味では学校そのものにネットワークがなくても使えるセルラータブレット端末や、生徒が個人で持っているスマートフォンを教育にうまく活用すると良いのでは、というコメントが田邊先生よりありました。(当方がKDDIの人間ということを気遣ってのことかもしれませんが、実験的にセルラー端末を導入して検証を行うという事例もいくつか出てきており、当方もその可能性を感じ始めているところなので、このあたりは何かできることがあればなぁと”個人的には”思っています)

 

以上、清教学園の取材レポートでした。

授業だけに注目すると「iMacを使ってiBooksで卒論を加工している」という見え方になってしまうかもしれませんが、実際にはe-ポートフォリオを使った「授業の前後」にその価値があるという点が、今回の取材での一番の気づきでした。「学校の中」に閉じたICTの活用ではその真価は活かしきれない部分がありますので、田邊先生のおっしゃっていた「学習者と取り巻くすべての学びのステークホルダーに対するコミュニティ作り」というコメントには大いに賛同するところです。

今後の清教学園の動きが楽しみですね。