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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

2020年の抱負:教育用コンピュータ「一人一台」の実現に向けて

 2020年が明けました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 今年はいろいろと決意をしている部分があり、2015年以来となる「昨年の振り返りと今年の抱負」について書いてみたいと思います。

 タイトルの通り、今年の抱負は”教育用コンピュータ「一人一台」の実現に向けて”、組織人・個人としてできる限りの支援を行うことを掲げたいと思います。

 

筆者は、2020年1月1日現在、組織人・個人として以下のような活動をしています。

株式会社Z会の「経営戦略部 事業企画課」という部署にて主に新規系事業を担当する管理職として従事しており、その業務として中央省庁と一緒に働かせていただいている(経済産業省「未来の教室」実証事業文部科学省「Edu-Portニッポン」等)

※昨年より担当させていただいてる業務

経済産業省「未来の教室」実証事業 

文部科学省「Edu-Portニッポン」公認プロジェクト

 

一般社団法人iOSコンソーシアム代表理事として、学習者中心を軸とする「教育のICTによる拡張」を目指し、主に全国の教職員を支援する活動をさせていただいている

「一人一台」に成功している先進校の取り組みの普及促進活動

近畿大学附属高等学校 乾 武司教諭による「一人一台」の目的と効果を啓蒙する活動の一環として、講演の模様をYouTubeライブ配信アーカイブ配信)

 

(主に教職員の方向けに毎月テーマを変えた「月例勉強会」を開催し、先端を走る方を講師に招き最新動向や事例を共有、昨年は静岡、札幌、広島への出張開催も実現)

※こうした活動は2015年の6月から行っていましたが、2019年4月からは所属会社の承認を得て、iOSコンソーシアムを「教育特化型の組織」として再編成し、当方がその代表理事に就任する形で運営をしています

 

個人として、本ブログを通じた情報発信や課題解説・解決策提案

(昨年は「プログラミング教育」によく用いられているWebのプログラミング学習環境”Scratch 3.0”がIEをサポートブラウザから外したことに端を発する学校のブラウザ問題について3回に分けて記事を執筆しました)

また、昨年暮れにはこのようなアンケートを企画、個人として実施し、結果を本ブログで公表しました。

 

 

このように、当方は公私ともに「教育とICT」というキーワードで動いており、その基本的な行動原理は以下のスライドに示す考え方で進めています。

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野本の行動原理

 本ブログ(特に先に示したIE縛り問題に関する記事)では幾度となく「相互理解」が重要になるという言葉を使っていますが、教育とICTという領域は、教育者とITエンジニアという、かなり異なる言語を話す人たちが協働しなければ成立しない領域です。当方はKDDIでの8年間の勤務で主にITエンジニアとして、そして現職のZ会で2年半強の勤務を通じて教育の領域で活動する企業人として、また、両親がそれぞれ大学と公立中学校で教鞭をとっている元に育った個人として、異なる文化の間のインターフェースとなり、「教育者」と「ITエンジニア」のよき通訳として動くことを目指してきました。上記で示してきた昨年の活動は、その一部です。

 

 そんな中、今年はいよいよ、国家施策としての「義務教育課程における教育用コンピュータ一人一台の配備」が動き出します。筆者の今年の抱負は、この動きに対し、これまで従事してきた公私様々な活動の知見を投じて支援をしていくこと、言い換えれば、この動きを進めるにあたって課題を抱える自治体の教育委員会や私立学校をできる限り支援していきたい(具体的には外部アドバイザーのような形で、既存の教育現場が一人一台を実現する上で発生した様々な課題とその解決策を、これから動き出す学校設置者に継承し、よりよい学習者中心の学びの拡張を実現する)と考えています。

 

www.mext.go.jp

 この中で特に重要なのが上から二つ目のリンク(GIGAスクール構想の実現パッケージ :https://www.mext.go.jp/content/20191223-mxt_jogai02-000003329_002.pdf)で、文部科学省だけでなくインフラ面で総務省が、ソフトウェア面で経済産業省がそれぞれ補正予算を計上し、この動きをバックアップしているということです。令和5年度までに小1〜中3の義務教育課程には公立・私立を問わず「一人一台」が実現できる工程表が引かれ、かなり多額の補助金がこの実現のために投入されます。

 特にコンピュータやインフラについては国庫からの半額補助、従来より措置されている地方交付金を組み合わせることでなんと整備に必要な金額のうち最大8割(地方交付金が利用できない自治体もあるのであくまで”最大”)が支援される形となり、特に財源不足で教育用コンピューターとそれを支えるインフラを整備できなかった自治体(公立学校)にとっては千載一遇のチャンスとも言えます。(そして意外と見逃されていますが、私立学校にも119億円の補助金予算枠があります)

 また、省庁のみなさんは「インフラについては令和元年〜令和2年の間のワンチャンス」とも言っています。この好機を逃さないよう、前職でインフラエンジニアとしての業務経験(特に私立学校を中心にSEとしてICT環境の導入サポートをしていた経験)と現職で教育分野の言語をある程度理解しているという強みを生かして、学校が理解しやすい形でICT化のメリットの浸透、超えるべき課題の共有、デメリットに対するワークアラウンドなどを教育機関と同じ目線で提供できればと考えています。ここには、2018年度に取得した「教育情報化コーディネーター2級」(日本に200人程度の認定者がいる、教育のICT化に対して一定のスキルを保有することを証明する資格。基礎的知識を問うCBT、他国の事例などを踏まえ出題される記述式試験、仮想自治体の課題解決のための模擬提案書作成、その内容を説明するビデオを撮影し、口頭試問による面接合格が必要で、一般的に「ICT支援員」の指導育成ができるレベルとされている)の知見も動員し、現場との相互理解を大事に協働していきたいと思っています。

 ということで、GIGAスクール構想」の発表を受けて「どうやってこの流れをつかもうか…」「課題は盛り沢山だけどこれを前向きに捉えて進みたい」という教育委員会の方、私立学校の方、ぜひ当方に連絡をいただければと思います。また、Z会iOSコンソーシアム、あるいは当方個人を通じて趣旨に賛同いただき、ご一緒いただける企業・組織団体の方とも是非連携をできればと思います。

 当方一人ではできることには限界がありますが、Z会、およびiOSコンソーシアムという「組織」も動かしつつ、今年は一つでも多くの教育機関が「一人一台」を「学習者中心」での価値づくりを目指して実現できるよう、全リソースを投下していきたいと思っています。といっても、抱えられる案件には限度がありますので、できるだけ早く、そして強い達成志向を持っていらっしゃる自治体・私学の先生たちと一緒に戦いたいと思いますので、ぜひ「ご一緒したい!」という方がいましたら、当方までご連絡ください。なお、GIGAスクール構想は義務教育課程までが明確なサポート対象ですが、高等学校以上については主にBYODを中心とした設計になると見ておりまして、学校向けBYODの導入についてもご支援ができればと考えています。

 ご参考までに、当方の技術面での強みはiOSiPad)とその周辺ソリューション(フィルタリング、MDM、各種コンテンツ、これらの導入支援および保守運用)になりますが、公私を通してWindowsChromeBookMacBookなど各種端末を日常的に使い分けており、複数OSが交錯する領域についてもぜひやってみたいと思っています。加えて、進化の早いIT業界であれば必ずどこかで「未知の課題」に直面するので、そこについては決して「知っているフリ」をすることなく、課題を丁寧に検証することを通じて私自身も常に「学び続ける」ということを宣言したい(これがある意味今年のもうひとつの抱負)と思います。

 連絡手段ですが、Facebookをやっていらっしゃる方は、Facebookで「野本竜哉」を検索していただき、メッセンジャーからメッセージをいただくのが最も早いです。Facebookをやっていらっしゃらない方は、当方あてにメールをいただければと思います。メールアドレスは:i.found.it.in.the.river70【あっと〕gmail.com です。

 

 最後に、あくまで「一人一台」の教育用コンピュータとインフラ整備は、「学習者中心」の教育的価値を実現するための手段でしかありません。導入や整備を目的とするつもりはありませんし、導入をするのであればなぜ多大な労力と知恵を投入してこれを実現するのかという「目的(大義)」がとても大事だと思っています。そこには「どのような教育を提供したいか」「生徒児童にどのように育ってほしいか」というビジョンがあり、それを「ICTでどのように補強するか」「ICTでいかに加速するか」という観点が必要不可欠です。

 少なくとも、当方の現所属は教育用コンピュータとインフラ整備のどちらも生業としている会社ではなく、端末やインフラ機器の販売を通じて利益や売り上げを挙げたいとは全く思っていません。あくまで当方は、多少なりとも教育の言語を理解するICTのエンジニアに近い立場で双方を通訳し、相互理解を促進する立場を志向しています。ICTで何ができるか、どのように教育が拡張できるかを具体性を持って組織と関係する企業が認識し、同じ目的を共有し、様々な課題解決に向けて協働できる状況を目指したいと思っていますので、ICTに対する苦手意識がある方でも、遠慮なくお声がけください。当方は高校3年生の時からICTを「学習者」の立場で活用してきて、学習者目線でこの領域の課題や利点を見つめてきた人間ですので、きっとお力になれると思います。

 

 ということで、本年もよろしくお願いいたします。

学校で「一人1台」環境で1年以上学んだ児童生徒170名に実態を聞いてみた

 本日は、独自に収集したアンケートの結果を紹介しながらこのブログらしい「学習者中心」の目線で教育におけるICT機器の活用について考えてみたいと思います。

 このブログでは過去、一貫して「学習者」の立場で自分専用の端末のメリットを(資格試験や情報のインプットなどの具体的なシーンを挙げながら)紹介してきました。そんな中、今年の後半に入ってから、急速に国が「一人1台の教育用端末を義務教育で当たり前の環境にする」べく、動き出しました。

 特に12月13日に発表された「GIGAスクール構想」では2200億円という巨額の補正予算が組まれ、この補正予算は2019年度の補正予算ということもあり仕組みさえ整えばすぐにでも執行可能というスピード感で動き始めました。こうした報道や急速な動きに、当方の周囲の教育ICTを推進すべく活動している多くの方達は、まさに千載一遇のチャンスとばかりに大いに盛り上がっております。

www.mext.go.jp


 ただ、その中で気になっていたのが、学習者に配布される端末の仕様やその予算、そしてその端末の通信環境を支えるネットワークやソフトなどの話は盛り上がっているものの、「その一人一台環境で学んだ経験のある学習者の声があまり意識されずに、大人たちの都合で議論がなされている」という印象が強いことです。

 学習者中心で物事を考えていくには、特に私立学校などで先行している一人一台の環境の先行事例から大いに学ぶ必要があります。もちろん私立と公立ではかけられる予算が根本的に違いますので全てを同列に語ることはできないわけですが、そうは言っても同様の環境を構築していくにあたって、児童生徒の生の声は非常に有益であることは疑いがありません。

とはいえ、これまでこうした声がなかなか集まってこなかったのは
・率直すぎる意見は学校のイメージに(特に私立学校では生徒募集にも)影響する
・一人一台を実現している学校の情報が断片的で、それを網羅的に知る人が少ない
・一見上手くいっている個々の学校にもそれぞれ課題があることが見えてしまう
など、いろんな理由があって表に出てこなかったのであろう、と考えました。

 そこで今回は
・学校名、個人名、学年など個人の特定に繋がる情報は一切問わない
・個々の回答内容を表に出さず分析データのみを利用する
・上記を条件に、当方が直接つながりのある「一人1台」を実現している学校の先生を
 経由してアンケートを実施していただく
・アンケート自体は1年以上、一人一台の環境を利用していて、現在中学生以上の方を
 対象として限定(これらの条件を満たす生徒を学校の先生を通じて抽出)
・1校あたりの回答上限数を10名までとしてできるだけ特定の学校のバイヤスを排除
・回答者が中1〜最大でも大学生程度ということを意識して質問を簡素化
という手法を用いて、どこまで回答が集まるかをやってみました。基本的にはFacebookの個人的なつながり(といっても学校の先生の友人が300名はいる)を通してヒアリングをし、費用は一切かけず、とはいえ学校の先生を間に介することによってできるだけノイズを排除する工夫をしてみました。

 その結果、表題の通り171名の回答を得ることができました。中には一人が複数回回答している可能性もあり、有効回答は160くらいになるかもしれませんが、いち個人として取れる「学校・学校種・学年横断」のデータとしてはまずまずの分量だと思います。

 もちろん、質問紙の書き方、サンプル数、何よりもサンプルの選び方など、この調査結果はまったくもってアカデミックな分析に耐えるものではありません。
 
しかも、当方の個人的なFacebookでのつながりをベースに進めているので、ものすごく偏りのあるサンプルからの回答になっているとは思います。そういう意味では、このアンケート結果は論文などの引用や参照に耐えるものではないですし、本当は「こういう質問もしておくべきである」などの基本を抑えていないです(逆に言えば、最低年齢が中1であることを考慮してかなりライトな質問量に抑えている)。

 ただ、得られた情報は非常に示唆に富んだものです。少なくとも、回答者の年齢から大人たちがイメージするよりもずっと回答者のリテラシーも内容も深いもので、大人たちの決めた杓子定規によって一人一台の環境でもその機器の可能性を「大人が課した制約のせいで」十分に引き出せていない現実が浮かび上がってきました。
(もちろん、いかにも中二病っぽい回答も散見されますが、その辺りから生徒があまり忖度せずに素直に答えてくれていることも見えると思いますので、それはそれでよしとします)

 とはいえ、先に申し上げたようにこのアンケートは手法もサンプルもかなり乱暴なものであり、鵜呑みにすることは推奨しません。ただ、こうした傾向が本当に一部のものであるのか、ということをぜひ研究者の方や今後「一人一台」を進めていこうとしている事業者の方々が意識して、より広範囲で正確性を担保した調査を「学習者」を対象として実施するきっかけになればと思っています。

※なので「なんでこういう質問してよ」といった要望に対して当方の答えは基本的に「より良い調査ができるのであれば、ぜひ貴殿がそれをやってください」になります

 

 このアンケートにあたり、ご支援をいただきました先生方、そして回答いただきました170名の生徒の皆さまに心から御礼を申し上げるとともに、ここにアンケートの結果を公開させていただきます。

 なお、Google Formsを使ったアンケートの分析共有機能を使っているので、回答内容についてはすべて原文ママです。
 また、選択肢については長くて画面表示しきれないものがありますが、それについてはグラフのバーの部分などをポイントすることで選択肢の全体がみられますので、参考にしてください。

 最も重要なのは、「自分専用端末があることのメリット」と「デメリット」に関する自由記述回答の内容かと思います。

docs.google.com

 

 

アンケートの回答についての筆者の所感

・当方のつながりだと(ブログの過去記事をみてもわかるように)どうしてもiPadシンパな方が多いため、端末の利用者サンプルが異様にiOSに偏っている
 ※ただし、できる限りChromeBookWindowsの一人一台環境の学校や、そうした
  学校との接点を持っている人へのアプローチは試みました
・全体として回答者が高校生に偏っているが、別の質問を見てもわかるように、一人一台環境の利用年数が1-2年、2-3年、3年以上で意外と均等になっていることから、回答者の利用経験は中学校時代も比較的多い
・170名の回答者のうち、約8割が「端末を壊さず1年以上使っている」
 ※自然故障は5%くらい、画面割れ修理経験者は11%程度
   →個人的には、思っていたよりも「少ない」印象
・もっとも端末を活用している授業1位が英語というのは想像通りだとしても
 第二位が国語というのはちょっと意外であった
 (そして総合的な学習の時間での利用率は思ったよりも少ない)
・一人一台環境のユーザーの8割がメリットとして「ちょっとしたことがすぐ調べられる」を挙げている
視力への影響を挙げている生徒が3割いる
困ったことの自由回答で圧倒的多数なのが「フィルタリングが強すぎて調べ物に支障がある」 → これは非常に由々しき課題
・先生端末と生徒端末のWebフィルタリングのレベルが異なると、先生がお手本として
 指示したサイトをいざ授業で生徒に見せようとしてもブロックされることがある
  →フィルタレベルは生徒と先生で揃えるべき?
iPadだとできることの制限があるという人も少なくなく、本当はやはりMacBookやPCなど自由度の高い端末が欲しいという本音が見える
・学校のインフラ(特にWiFi)が貧弱で問題になっているという声もかなり多い

 あとは、この結果をもとにどのように感じて、どのように動くか、はそれぞれの関係者の皆様次第だと思います。もちろん、この結果を参考にするかも、しないかも、皆様の選択に委ねられています。

 願わくは、一人一台の学習用端末の整備が、どのような形であれ、これからの未来を担う子供たちの目線で「ちゃんと役立つもの」になる、ということに尽きます。筆者は教育の究極の目的は「自分たちの世代よりも次の世代をすげぇ奴らにする」だと思っているので、そのためにも大人たちが余計な制限をかけて端末が文鎮化するような事態ができるだけなくせると良いなと思っています。

重要な真理:端末は、配布した最初の1ヶ月の活用状況でその後数年間の命運が別れます。初動で思ったよりも活用されず、あとからリカバリーに成功した学校はほとんどありません。ソースは当方がこれまでいろいろ聞き取りをしてきた学校の意見で、明文化された論文や情報源などはありません

ベトナム出張トラブルで試された情報リテラシーと英語

 久しぶりの更新は、仕事でベトナムに出張に行く際、人生で5本の指に入る冷や汗をかいた経験について書いてみたいと思います。先に概要を書くと、一連のトラブル対応で「ああ、英語やICTを身近に使えるようになっておいて良かった」と心から思ったという「個人の経験とそれに基づいて感じた個人の主観」を書いた記事になります。

 このブログは教育系(特にTech系)の話題を扱うブログで、筆者が所属する組織を代表するものではなく、個人としての考えを綴っている場所です。特に今回の記事はあくまで個人の主観であり意見であり、その内容を全体化したいとか絶対に正しいとかそういうことを言うつもりはなく、単に個人が直面した事実から個人が思ったことを書いただけ、エビデンスとか言われても…という性質であることは最初にお断りしておきます。

 

  • 出発日の無茶なスケジュール
  • 保安ゲートがくぐれない
  • お客様、そのサイトは…
  • ロスタイム
  • さいごに

 

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学校におけるIE縛り問題の構造的問題と解決策を考える(後編)

 今回の3部作の後編、いわゆる「解決策を示す」パートだけ、ずいぶん執筆が遅れてしまいました。実は何度か書こうと思って途中で挫折したのですが、悩みに悩んでようやくこれなら国の方針や世の中の傾向、そして自身のITの感覚的に”解決策”として有効と思われる内容がまとまったので、書いてみたいと思います。

 3部作の前編、中編の内容はそれぞれ以下を参照ください。とはいえ、いずれも7000文字を超える分量なので、時間のない方のためにそれぞれのサマリーも書いておきました。

【前編】

it-education.hatenablog.com前編のサマリー
 ・学校における「IE縛り」問題の発端はScratch3.0などのプログラミング教育環境が動作しなくなったこと
 ・IE縛りがあるのは、学校のPC教室などのコンピュータが想定外の使われ方をされないように防ぐことと、「動作することを保証する」ために導入ベンダーが事前に「検証」(=実際に使うアプリやシステムを動かしてみて動作に問題がないかを確認する作業)をできるだけ限定したいため
   →検証には技術者が必要で、検証が増える=その分コストが高くなる
 ・さらにブラウザを増やすことは環境が変わる→質問が増える につながる、パソコンが苦手な人に対して問題が起きたときに電話やメールなどで業者が現場の先生をサポートするための手間が、ブラウザが増えることでより複雑になるといった「サポートコスト」が高くなる要因に
 ・しかし、入札などにより長期間(例えば5年契約など)をしていると、その契約期間の途中で追加検証やサポート範囲の拡張などの追加の費用計上がやりにくくなる(∵長期契約を条件にとにかく「できるだけ安く」しているから)
   →入札は基本的に「前回よりも安く」の力学が働き、その中でサポートは軽視されがちになる

 

【中編】

it-education.hatenablog.com

中編のサマリー
 ・「学校におけるIE縛り」より実は民間企業の方が縛りがキツい
 ・個人のIT環境(コンシューマIT)の方が企業のIT環境(エンタープライズIT)より実はだいぶ進んでいることが多い(∵OSやブラウザのVerUPの障壁が少ないから)
 ・企業も学校も、特定のOSやブラウザのバージョンが上がることで、今動作しているアプリやシステムの動作に影響が出る可能性がある  
 ・そのため、導入時にあらかじめ「このバージョン、このブラウザであれば動作」と動作保証範囲を業者から決めうちされる(∵動作の”保証”には検証が必要)
 ・IEを作ったMicroSoft自身も「もうIEは使わないで」と呼びかけているものの、様々な事情で置き換えはIT専任者がいる企業でも進んでいない、況や学校をや
 ・それ以外にも、学校現場そのものが「今までと操作や見た目が変わるのが嫌」と変化を拒む傾向があり、変わった内容の通達や研修などが見えないコストや壁になってなかなか新しい環境が浸透していかない

ということで、いよいよ後編の「解決策編」に行きたいと思います。なお、ここで提案する解決策はいずれも筆者の「個人としての意見」であり、所属している組織を代表する意見でも、それらの組織の方向性を示すものでもありません。文責はすべて筆者個人にあります。

 

目次

  • 6月に相次いで発表された国の方針を確認する
  • ・短期的な対処法「既存契約の見直しの検討」
  • ・根本的な対処法「学習用端末の分離」
  • ・BYODをどう活かすのが近道なのか
  •  この解決策を進めるための課題

 

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学校におけるIE縛り問題の構造的問題と解決策を考える(中編)

 前回の記事から2週間くらい間が空いてしまいました。その間に、一つ、今回のIE問題の火付け役となった渋谷区について、一つ解決策が示されましたので共有しておきます。

www.s-kenpo.jp

 渋谷区の区議である鈴木けんぽうさんのブログによると、今回はローカルに環境を展開できるScratch 3.0 のデスクトップ版を利用可能にしたようです。これにより、取り急ぎ「Scratch3.0」が動作する環境は確保されました。ただ、今回の記事で扱っている「IE縛りの脱却」は進展しておらず、そちらについては引き続き働きかける、ということになっているようです。

 

 さて、中編の今回は、主に教職員や学校・教育委員会の方などを想定読者として「一般の民間企業におけるIE依存状況」がどうなっているかを紹介しようと思います。すでに民間企業に勤めている方にとっては「そんなこと知っとるわ」という内容ばかりかと思いますが、意外と教育関係者の方から見ると「企業は企業で深刻な状況じゃん…」と「あ、これって、学校の”校務”で使ってるPCでも似た状況かも…」と気づける部分があるかと思います。ただ、学校でもICT環境を整備拡大していく以上、時差があるものの民間企業と同じような問題がいつかは表面化しますので、その時に参考になると思います。

 

  • 実は民間企業のほうがIE依存度が高い
  • 一方で、MicroSoft 自身が IE脱却 を急いでほしい、と言っている
  • コンシューマITとエンタープライズITの大きな違い
  • そんな企業も悩んでいる「2025年の崖」問題
  • 実は最大の敵は「ユーザー」である現場?!

 

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学校におけるIE縛り問題の構造的問題と解決策を考える(前編)

 昨今、各所で話題になった「学校のブラウザがIEであることでプログラミング学習が充分にできない」という課題に端を発した論争。この件について、各所の記事や筆者の周辺から集めてきた情報をもとに、解決策を考えてみたいと思います。
 ただ、各所からものすごく有意義な情報が当方宛に寄せられたこともあり、ものすごーく長い記事になってしまいました。ということで、前中後編の三部作として記事を出していきたいと思っています。

 前編の今回は、IE問題の発端や経緯、学校のコンピューター教室の実態、サポートコストと入札の関係などに触れていきます。中編では、民間企業でも発生しているIE依存の実態と2025年の崖の話などを絡めて、いかに企業が対応しようとしているか、あたりから今後の対応のヒントを考えます。後編では、具体的に考えられる対策案に触れてみたいと思います。

 ということで前編の本記事では、本件の火付け役にもなったScratch 3.0の話からスタートしたいと思います。

www.nikkei.com

 Scratchは無料で使え、ブラウザーがあれば動作する(アプリのインストールをしなくても使えるし、学校に導入されている端末がWindowsiPadMacChromeBookなどOSを問わず使える)という特性と、教育機関での活用を想定して開発されているということ、ビジュアルプログラミングを採用していることで小学生でも扱いやすいことなどから、支持が広がっているプログラミング学習環境です。このScratchは2019年の早々にメジャーバージョンアップして「3.0」となりました。このアップデートが行われた月の後半に、こんな記事がネット界隈を騒がせます。

togetter.com

 

この報道が一つの引き金になり、様々な関連記事が登場しました。

medium.com

takeyamasaaki.hatenablog.com(元教員の方で、現在プログラミング教育のNPOで働かれている方の記事です)

 

 要は、標準ブラウザがIEで、しかもわざわざIE以外を使えないように細工してあるのは困る、Scratchをちゃんと使っていくためにも「Google Chromeを学校のPCに導入せよ!」という論調が急速に盛り上がりました。
 そして、2019年3月11日には、ついに中央省庁3省も関連する産学連携コンソーシアムから、学校の教育用コンピュータにモダンブラウザを導入していくべし、という発表も出ました。

miraino-manabi.jp


 が、この話って思ったよりも単純ではないです。というか、「やりなさい」で済むのであれば、たぶん遥か昔に対応が終わっている可能性すらあるのです。

 ということで、「学校のコンピュータはなぜIEしか使えないようになっているのか」という背景の部分、そしてその背景が生み出されている構造的な課題について考えてみたいと思います。

 なお、記載している内容はある程度経験に基づく内容ですが、当然推測も混じっていますし、筆者の知識が古いままでアップデートされていない部分もあるかもしれません。ただ、今回の3部作記事は目的が「いろんな視点から学校のコンピューター環境を考える」、そして「解決に近づける」ことにあるので、間違いや古い内容があればどんどん指摘して欲しいですし、その指摘を元に「解決」に向けて論をすすめられれば良いと思っています。(筆者の知識が古くてヘボい、ということを明らかにしてもこの問題は1mmも進まないですので)

  • 学校のコンピューター室のPCの現状について
  • なぜ学校のコンピューターはIE縛りなのか?
  •  モダンブラウザ導入にあたっての黒船「Scratch 3.0」
  • もっと重要な観点が「サポートコスト」に潜んでいる
  • この問題をより根深くする、入札・調達の文化
  • 大切なのは関係者の「相互理解」と「協力体制の構築」

 

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手持ち機材のみで遠隔から講師とやりとりできる講義環境を構築した話

 先日、ひょんな事から自社(Z会)で開催する報告会を遠隔地から見てもらい、遠隔視聴者からコメントをいただく、という課題を解決する必要に迫られました。昨今、Web会議システムも結構進化しているし、意外と簡単に実現できるんじゃね…?と思っていたら、これが思ったよりも大変。

 色々と試行錯誤をしてみて、なんとか実現させたのですが、
・これって、インフルの回復期で(割と元気だけど)学校に来られない生徒の授業参画
不登校や入院など、何らかの理由で教室に行くことが難しい生徒のフォロー
・交通費や時間などの都合で行きたいけど行けない研修の遠隔地からの参加
みたいに、教育分野では需要が多そうな話。

 一応、教育現場のICT環境のアドバイザーとして一定のスキルを持っていることの証左である「ITCE 教育情報化コーディネーター 2級」の保持者として、ベンダーに無駄に高い遠隔授業システムを売りつけられることは回避してほしいのでどこかの現場で役立つかもしれないので、実現方法を記録に残してみることにしました。

今回の要件としては

 1. セミナーの様子を遠隔地の人に配信したい(遠隔の人は2-3名程度)
 2. 遠隔の参加者との双方向のコミュニケーションができるようにしたい
 3. 細かいスライドが見えるよう光学ズームができるカメラを使用したい
 4. できるだけ今ある機材を使い、追加のコストはかけたくない
 5. 配信映像+遠隔者とのやり取り(音声・チャット等)も記録として残したい
 6. 商用利用ではないので映像のクオリティは100点満点でなくてもよい

というものです。

ということで、具体的に実現方法をみていきましょう。

 

  • 意外にもWebカメラとして使えるものが少ない市販ビデオカメラ
  • 発想の転換:パソコンでデジカメの遠隔操作をするアプリが使えるんじゃ?
  • 具体的に今回やった手順

 

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