EverLearning!

EduOps研究所 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。

学校で「一人1台」環境で1年以上学んだ児童生徒170名に実態を聞いてみた

 本日は、独自に収集したアンケートの結果を紹介しながらこのブログらしい「学習者中心」の目線で教育におけるICT機器の活用について考えてみたいと思います。

 このブログでは過去、一貫して「学習者」の立場で自分専用の端末のメリットを(資格試験や情報のインプットなどの具体的なシーンを挙げながら)紹介してきました。そんな中、今年の後半に入ってから、急速に国が「一人1台の教育用端末を義務教育で当たり前の環境にする」べく、動き出しました。

 特に12月13日に発表された「GIGAスクール構想」では2200億円という巨額の補正予算が組まれ、この補正予算は2019年度の補正予算ということもあり仕組みさえ整えばすぐにでも執行可能というスピード感で動き始めました。こうした報道や急速な動きに、当方の周囲の教育ICTを推進すべく活動している多くの方達は、まさに千載一遇のチャンスとばかりに大いに盛り上がっております。

www.mext.go.jp


 ただ、その中で気になっていたのが、学習者に配布される端末の仕様やその予算、そしてその端末の通信環境を支えるネットワークやソフトなどの話は盛り上がっているものの、「その一人一台環境で学んだ経験のある学習者の声があまり意識されずに、大人たちの都合で議論がなされている」という印象が強いことです。

 学習者中心で物事を考えていくには、特に私立学校などで先行している一人一台の環境の先行事例から大いに学ぶ必要があります。もちろん私立と公立ではかけられる予算が根本的に違いますので全てを同列に語ることはできないわけですが、そうは言っても同様の環境を構築していくにあたって、児童生徒の生の声は非常に有益であることは疑いがありません。

とはいえ、これまでこうした声がなかなか集まってこなかったのは
・率直すぎる意見は学校のイメージに(特に私立学校では生徒募集にも)影響する
・一人一台を実現している学校の情報が断片的で、それを網羅的に知る人が少ない
・一見上手くいっている個々の学校にもそれぞれ課題があることが見えてしまう
など、いろんな理由があって表に出てこなかったのであろう、と考えました。

 そこで今回は
・学校名、個人名、学年など個人の特定に繋がる情報は一切問わない
・個々の回答内容を表に出さず分析データのみを利用する
・上記を条件に、当方が直接つながりのある「一人1台」を実現している学校の先生を
 経由してアンケートを実施していただく
・アンケート自体は1年以上、一人一台の環境を利用していて、現在中学生以上の方を
 対象として限定(これらの条件を満たす生徒を学校の先生を通じて抽出)
・1校あたりの回答上限数を10名までとしてできるだけ特定の学校のバイヤスを排除
・回答者が中1〜最大でも大学生程度ということを意識して質問を簡素化
という手法を用いて、どこまで回答が集まるかをやってみました。基本的にはFacebookの個人的なつながり(といっても学校の先生の友人が300名はいる)を通してヒアリングをし、費用は一切かけず、とはいえ学校の先生を間に介することによってできるだけノイズを排除する工夫をしてみました。

 その結果、表題の通り171名の回答を得ることができました。中には一人が複数回回答している可能性もあり、有効回答は160くらいになるかもしれませんが、いち個人として取れる「学校・学校種・学年横断」のデータとしてはまずまずの分量だと思います。

 もちろん、質問紙の書き方、サンプル数、何よりもサンプルの選び方など、この調査結果はまったくもってアカデミックな分析に耐えるものではありません。
 
しかも、当方の個人的なFacebookでのつながりをベースに進めているので、ものすごく偏りのあるサンプルからの回答になっているとは思います。そういう意味では、このアンケート結果は論文などの引用や参照に耐えるものではないですし、本当は「こういう質問もしておくべきである」などの基本を抑えていないです(逆に言えば、最低年齢が中1であることを考慮してかなりライトな質問量に抑えている)。

 ただ、得られた情報は非常に示唆に富んだものです。少なくとも、回答者の年齢から大人たちがイメージするよりもずっと回答者のリテラシーも内容も深いもので、大人たちの決めた杓子定規によって一人一台の環境でもその機器の可能性を「大人が課した制約のせいで」十分に引き出せていない現実が浮かび上がってきました。
(もちろん、いかにも中二病っぽい回答も散見されますが、その辺りから生徒があまり忖度せずに素直に答えてくれていることも見えると思いますので、それはそれでよしとします)

 とはいえ、先に申し上げたようにこのアンケートは手法もサンプルもかなり乱暴なものであり、鵜呑みにすることは推奨しません。ただ、こうした傾向が本当に一部のものであるのか、ということをぜひ研究者の方や今後「一人一台」を進めていこうとしている事業者の方々が意識して、より広範囲で正確性を担保した調査を「学習者」を対象として実施するきっかけになればと思っています。

※なので「なんでこういう質問してよ」といった要望に対して当方の答えは基本的に「より良い調査ができるのであれば、ぜひ貴殿がそれをやってください」になります

 

 このアンケートにあたり、ご支援をいただきました先生方、そして回答いただきました170名の生徒の皆さまに心から御礼を申し上げるとともに、ここにアンケートの結果を公開させていただきます。

 なお、Google Formsを使ったアンケートの分析共有機能を使っているので、回答内容についてはすべて原文ママです。
 また、選択肢については長くて画面表示しきれないものがありますが、それについてはグラフのバーの部分などをポイントすることで選択肢の全体がみられますので、参考にしてください。

 最も重要なのは、「自分専用端末があることのメリット」と「デメリット」に関する自由記述回答の内容かと思います。

docs.google.com

 

 

アンケートの回答についての筆者の所感

・当方のつながりだと(ブログの過去記事をみてもわかるように)どうしてもiPadシンパな方が多いため、端末の利用者サンプルが異様にiOSに偏っている
 ※ただし、できる限りChromeBookWindowsの一人一台環境の学校や、そうした
  学校との接点を持っている人へのアプローチは試みました
・全体として回答者が高校生に偏っているが、別の質問を見てもわかるように、一人一台環境の利用年数が1-2年、2-3年、3年以上で意外と均等になっていることから、回答者の利用経験は中学校時代も比較的多い
・170名の回答者のうち、約8割が「端末を壊さず1年以上使っている」
 ※自然故障は5%くらい、画面割れ修理経験者は11%程度
   →個人的には、思っていたよりも「少ない」印象
・もっとも端末を活用している授業1位が英語というのは想像通りだとしても
 第二位が国語というのはちょっと意外であった
 (そして総合的な学習の時間での利用率は思ったよりも少ない)
・一人一台環境のユーザーの8割がメリットとして「ちょっとしたことがすぐ調べられる」を挙げている
視力への影響を挙げている生徒が3割いる
困ったことの自由回答で圧倒的多数なのが「フィルタリングが強すぎて調べ物に支障がある」 → これは非常に由々しき課題
・先生端末と生徒端末のWebフィルタリングのレベルが異なると、先生がお手本として
 指示したサイトをいざ授業で生徒に見せようとしてもブロックされることがある
  →フィルタレベルは生徒と先生で揃えるべき?
iPadだとできることの制限があるという人も少なくなく、本当はやはりMacBookやPCなど自由度の高い端末が欲しいという本音が見える
・学校のインフラ(特にWiFi)が貧弱で問題になっているという声もかなり多い

 あとは、この結果をもとにどのように感じて、どのように動くか、はそれぞれの関係者の皆様次第だと思います。もちろん、この結果を参考にするかも、しないかも、皆様の選択に委ねられています。

 願わくは、一人一台の学習用端末の整備が、どのような形であれ、これからの未来を担う子供たちの目線で「ちゃんと役立つもの」になる、ということに尽きます。筆者は教育の究極の目的は「自分たちの世代よりも次の世代をすげぇ奴らにする」だと思っているので、そのためにも大人たちが余計な制限をかけて端末が文鎮化するような事態ができるだけなくせると良いなと思っています。

重要な真理:端末は、配布した最初の1ヶ月の活用状況でその後数年間の命運が別れます。初動で思ったよりも活用されず、あとからリカバリーに成功した学校はほとんどありません。ソースは当方がこれまでいろいろ聞き取りをしてきた学校の意見で、明文化された論文や情報源などはありません