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モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

大学入試改革で進む3つの教育産業界の変化予測

【追記2:コメントが誰でもできるように設定を変更しました】
はてなブログの設定を変更し、コメントを誰でも投稿できるようにしました。

【追記1:ご覧いただいている皆様へ】
本記事について、数名の教育分野に詳しい方からご指摘を頂戴したのですが、本稿は「ICTはあくまで脇役」という観点に立って記載されているものです。
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大学入試センター試験を廃止し、かねてより議論されていた「1点刻みの得点合否廃止」「テストの得点以外の評価軸」「英語の多方面評価」などを盛り込んだ大学入試改革について、中教審から下村文科大臣への答申が行われました。

 さて、この新方式の導入は平成32年度(2020年)とあります。つまり、現在の小学校6年生からになりますので、いま小学校で学んでいる全児童は新制度での大学受験に挑むことになります。そういう意味では、まもなく中高一貫校を受験する家庭にとっては、今回の受験は非常に重要な「選択」になります。

 とはいえ、国の方針となった以上はこれから様々な対策が進むでしょう。これに伴って、受験に関わる業界にどんな変化が起こるのか、私なりに予測をしてみました。当たるかどうかはわかりませんが、是非読者の方々からご意見をいただければ幸いです。
(追記:コメントができるように設定を変更しましたので、ぜひご意見を頂戴できますと幸いです)

 

1. 英語の「話す」「書く」力を評価する仕組みの確立

 今回の新方式では英語では「4技能(読む,聞く,書く,話す)」の習得が必要になります。従来のセンター試験ではリスニングとリーディングのみ。ライティング分野は簡単な文法や語順整序が出題される程度で、作文力などの英語の「アウトプット系」能力は一部大学の二次試験で出題される他は、ほとんど問われていません。スピーキングについてはほぼ皆無です。
 そのため、特に「話す」力を評価したり、教える先生側も正しい発音をしたりそれを評価する能力が必要になってきます。こうした動向を踏まえ、一時的に英会話業界や発音力にフォーカスした教材、学習方法が教員・生徒ともに脚光を浴びるものと予想します。また、ネイティブの英語教員の需要も一時的に高まるでしょう。特に日本語がある程度わかり、学校生活に溶け込みやすいタイプの方は引っ張りだこになるかも知れません。
 さらに、英語の4技能試験には民間の試験を活用する方針です。その例としてはTOEFLTOEIC SWが挙げられていますが、これらの試験ではコンピュータを多用します。必然的にその「練習環境」を学校に求める声が出てくるでしょうから、この英語対策が間接的に学校へのICT機器の導入に貢献したり、学校の近くに「テストセンター」的な施設が増えたりするかもしれません。タブレット向けの発音力評価ツールや、英作文支援ツールなども今後アツい分野でしょうね。発音力とリスニング対策は絶対に紙の教科書ではできないため、英語対策は文科省が掲げる”2020年までの一人1台のタブレット導入”の推進にあたっての武器になることは間違いないでしょう。個人的には、これでもう中学・高校は学校にタブレットを入れないという言い訳はできない段階になったと思っています。

2. 思考力・主体性・協働性を支援するツールの開発が進む

 今回の新制度では面接や小論文などを通して、ペーパーテスト以外にも様々な能力を多方面で評価することが目玉の一つになっています。しかし、こういう試験を実施することを求められる大学側の負担は相当なものでしょうし、大学の先生が必ずしもこうした評価が適切に行える人ばかりとも限りません。
 しかし、実はこうした人材評価を随分前から実施しているところがあります。それが「就職活動の採用試験」です。就活では、コンピューターによる基礎学力テスト(いわゆるSPI)からライ・スケールなどを取り入れた巧みな性格診断(紙の上に指定されたパーツのシールを貼り付けて絵を描かせて潜在的な心理状態を推測するツールもあります)、奇抜な質問が登場するエントリーシート、そしてグループワーク形式や少人数形式の面接など、様々な方式でその「ひととなり」を評価しています。もちろん、就職活動の「人物評価」と、大学入学試験での「学力評価」がそのまま同列に語れるわけではありませんが、従来型の筆記試験に「新たな学力(21世紀型学力と表現されることもあります)」である応用力・思考力・協働して課題を解決する力などを加え、それを現場に無理のない形で運用するために、受験における筆記試験以外の能力評価をある程度、第三者機関に外注したり、そのノウハウを民間から購入するといった動きが数年以内に顕在化するものと予想できます。
 また大学受験では少子化が進んでいるとはいえ、相当な数の受験生の対応が必要ですので、正面から全ての受験生対応をやっていたらとてもではありませんが人件費だけで相当なものになります。ここでもICTの活躍する余地が大いにあることでしょう。最初からCBT(コンピューターベーステスト)にしておけば、その採点や集計の手間はマークシートと比べても大幅に減ります。もっと言うと、一人一人に違う問題を出題することだって可能になるかもしれません。(現状のSPIがこのタイプです。勿論、公平性の面からこの方式が安易に大学受験に持ち込めるかは議論が必要でしょう)
 これをサポートするためにも、なりすまし受験を防ぐための生体認証技術や、国民総番号制とのリンク、ソフトウェア的に本人を特定でき、かつ安価な技術が今後一層、もてはやされることになるでしょう。Duolingo Test Center のように、身分証をまず登録し、常時カメラでテスト受講者をモニタリングするような方式がもしかしたら一般化するかもしれませんね。また、小論文評価の関連業界もより発展するでしょう。
 少なくともコンピューターや既存の仕組みで人の「人物像」や「性格」をある程度まで見抜く技術はすでにあるので、「そんなことできるはずがない」という段階ではないのは確かです。

3.PBL(プロジェクト型学習)/CBL(チャレンジ型学習)がより発展する

 今回の改革では「アクティブ・ラーニング」というキーワードが登場しています。これは、答えのない課題に対して様々な方法を使って解決策を考えるという学習手法で、こういう考え方は企業や社会に勤める社員にとっては日常的に取り組んでいることでもあります。
 実は企業が人物像評価に先のような手法を取り入れているのは他でもなく、解決策が未知である問題にどれだけ食いかかっていける精神を持っているかを、入社前にある程度の精度で判断したい考えがあるからです。ただ現状の受験では、暗記とその吐き出し編重となっており、答えのない問題に取り組むという経験自体が不足しがちです。未知に挑む姿勢は企業だけでなく学問や研究においても重要なことなので、従来通り「知識」はきちんと身につけつつ、プラスαでこういう力を伸ばせるのであれば「その方が良い」という人が大多数かと思います。
 こういう「解決策が未知である課題」に対して精度の高い答えを作り出すには、やはりICTの力が極めて有効です。実は私は、ほぼ同義であるCBL(チャレンジ型学習)を実践する国内外の学校および生徒が銀座のApple Storeに集まって行ったイベントでこんな質問をしたことがあります。この時の生徒たちはいずれもMaciPadを使っていたので
MaciPadがなかったら、CBLを進める上でどんな困難があったと思いますか?」と。すると、多くの生徒が「調べ物をするときにより時間がかかるようになる」「資料作りにものすごい時間がかかる」「多くの人を説得できるような発表がやりにくくなる」といったように、「調べる」「まとめる」「発表する」の各段階でICTが時間・効率・精度のいずれの面でも効果があると思える回答をしたのです。
 フューチャースクールや学びのイノベーション事業では、既存の「学力」の部分では導入の有無で大きな差異は生まれなかったと結論づけられていますが、一方で現時点では”学力”としてはあまり評価されていない「アクティブラーニング」や「21世紀型学力」の伸長という部分では相応の成果があったと報告されています。実際に私も複数の学校現場を見学してそれを感じています。

 もちろん、こうしたノウハウはジグソー法などの既存学習手法や、学級運営の中にも既に存在しています。よって、アナログの部分で得られている成果をさらに共有することも重要になってきます。さらにそこにICTという「武器」が加われば、生徒の活動はさらに進化・深化していくことでしょう。
 したがって、こうしたアクティブラーニングや反転授業、ICTの授業活用などの「ノウハウ」をすでに持っている学校や企業はより、世の中の注目を集めることになるでしょう。こうした実践をきちんとした報告冊子やアウトプットとして残せているところは、その分チャンスが増えることにもなりますし、新制度を先取りしていることにもなります。特に中学校・高等学校にとっては保護者にとってはそれが学校を選ぶにあたっての重要な「基準の一つ」に、数年以内にはなってくるでしょう。

 以上が3つのポイントになります。まもなく中学受験で中高一貫校を選ぶご家庭は、各学校で「英語」「アクティブラーニング」「ICT」の導入状況や予定を確認するほうが良いかもしれませんね。


 なお、個人的に心配していることとして、公立中学校・高等学校でのICT活用の遅れがあります。私立の中高一貫校は先行してタブレットの導入などが始まりました。小学校ではいくつかの研究指定の公立小学校や教育大学付属の学校、自治体レベルの取り組みで動きが始まっています。しかし、公立中学校・高等学校、特に中学校については全国でも極めて事例が少ないのが気になっています。この辺りは、早急にテコ入れが必要になるでしょう…。

 以上、今回の報道を受けて個人的に考えたことをまとめてみました。何かの参考になれば幸いです。

ICTによる教材共有を成功させる3つの視点

今日は「教員間のICTを用いた教材の共有」について考えてみます。

ICTによる教材の情報共有手段としてCONTETを活用していく方針は文科省の中間方針でも示された通りです。CONTETは国立教育政策研究所が、同組織が開発しているNetCommonsを活用した教材共有プラットフォームとして立ち上げた同サイトです。


教育情報共有ポータルサイト


「情報共有」は企業にとっても永遠のテーマです。そこで今日は、企業などで取り組まれている情報共有の事例や、自身の過去の失敗をもとに、「情報共有」が成功するために必要な要素を3つのポイントを示してみます。
 実は、上記のCONTETは民間企業の人間は見ることができません。そのため、私は現状がどうなのかを知らずにこの記事は書いています。ですので、もし認識誤認や間違いがあれば、ぜひ閲覧権限のある先生から情報をいただきたいです。なお、以下では「教材・副教材・素材・プリント類」をひとまとめに「情報」と表現します。また、情報共有サイトは原則無料で利用できる前提としていますので、あらかじめご了承ください。

 

1. 情報を発信する側に明確なメリットがある

 情報共有プラットフォームの大前提はこれです。情報が集まっていれば、「利用する側」には大きなメリットがあります。欲しかったもの、作るには時間がかかるものがそこにあると知れば、校務や雑務で時間が取れない教員には非常にありがたいでしょう。
 一方で、情報提供側のメリット、正確には「情報を共有しても良いと”事前に”考えられるメリットがデメリットを上回ること」はどうでしょうか。これを明確にするのが鍵ですが、結構難しい。
 例えば、情報公開により「外部から感謝される」「有名になる」「認められる」といったメリットがありえます。有益な情報であればあるほど、その可能性は高まります。でもこれらは共有する前にはわかりません。逆に、人目に触れることで情報の欠陥や間違いを指摘されたり、場合によっては炎上するような「デメリット」の方が、共有の経験したことの無い人には非常に強く感じられます。そのため、公開に足るものを作り、自信をもって共有するという”一線を越える”のには、非常に勇気や手間・時間が必要なのです。
 自身から情報を発信、共有が出来る人は、実はほんの一握りしかいません。その経験がない人には、下手に情報を展開すると「誰かから指摘される「直せと言われる」「面倒なことが増える」と思うものです。「ただでさえ忙しいのに、そんなことやってられないよ」というのが偽らざる気持ちでしょう。この「大多数の人」を動かすには、事前にわかりやすいメリットを提示できることが重要です。
  このわかりやすいメリットの例として、表彰があります。提供された情報を様々な角度で評価するのです。が、往々にして情報提供の経験のない人は「そんなすごい情報、提供できないよ」と思っており、一線を越える勇気にはなりにくい(むしろ負担に感じる)でしょう。そこを動かす最大の力は、職場の同僚による承認や推薦です。多くの方が経験していると思いますが、周りが「すごい」と思っていることは、自分には当たり前のことの中に潜んでいることが多いものです。これを管理職など、ある程度立場のある人が行ってあげることが、一線を越える勇気につながるケースは多いのです。
 ただし注意すべきことは、情報の提供するよう圧力をかけてはいけないということです。これが起きると、仕方なく投稿された質の低い情報が溢れ、利用者は優れた情報を探しにくくなり、離れていってしまうでしょう。両者にとって不幸です。提供者からこういう動きが出てきたら、注意が必要と言えるでしょう。

2. 情報をプッシュできる

 どんなに優れた情報でも、その存在が知られていなければ、ないものと同じです。わかりやすい例を言えば、企業のホームページがまさにこれです。素晴らしい製品、技術を持っている企業はたくさんありますが、その多くは知られていません。何か事件やすごいニュースなどがなければ、わざわざブラウザから検索して、サイトを見に行ったりしませんよね?利用者が能動的に情報を「プル」して初めて入手できるものなので、これをやるには目的意識が必要です。大多数の忙しい教員にとって、わざわざ時間を作って情報提供サイトにアクセスし、なんらかのキーワードを入力し、表示された候補を上から見ていく…なんてこと、日常的にはとてもじゃないですが、できないでしょう。 
 そこで「プッシュ型」の情報提供です。FaceBookTwitter、古くはRSSやメルマガ配信などは、勝手に自分のところに新着の情報が(ある程度カスタマイズされた形で)届くというところが、普及のポイントになりました。情報共有サイトにおいては、投稿された情報の中から、その教員の属性に近い情報(小中高、学年、教科、職位、地域、その時期に取り扱うことが多い単元に関わる情報など…)、かつ一定の基準を満たしたものが投稿されたら、自動的に通知されるような機能はおそらく必須です。これをトリガーにサイトに誘導することができれば、かなりの活気が出ることでしょう。同様に、情報に対してコメントや「いいね!」的なフィードバックがつけられ、それに対するリアクションも通知されるような機能もあると良いでしょう。
 人が処理できる情報量には限度がありますので、このあたりの情報推薦アルゴリズムをきちんと作り込むことが重要です。Facebookの標準ニュースフィードも、様々な工夫をしてその人に合った情報が上の方に来るように工夫されています。こうした民間のノウハウは、きちんと情報共有基盤にも反映してほしいものです。
 ただし、この手法はまず「最初の一回、サイトにアクセスしてもらう」という大前提が必要です。優れた情報共有の基盤があることを知ってもらい、そこにアクセスしてもらえなければ、プッシュもプルもありません。 そして当然ながら「役立つ情報が無い」のも論外です。立ち上げ段階で「目玉」となる情報が存在しないと、最初のアクセスが最後、プッシュ配信の登録もしてもらえないままサヨナラになってしまいます。このあたりは、CONTETならば運営する国立教育政策研究所 ならびにその支持者、その他民間の基盤であればその運営企業の、最初の頑張りどころということになると思います。

 

3. 管理が行き届いている

 最後がこれです。いろんな企業の方にヒアリングをすると、少なくない企業でSNSや情報共有基盤が提供されてはいますが、大多数は「あまり使われていない」という回答です。その理由を聞いてみると、大半は以下のようなものです。
 ・特定の空気を読めない人が場を荒らしている(本人にその自覚がなさそう)
 ・少数のヘビーユーザーが「内輪」な雰囲気を作り出しており、入りづらい
 ・たんなる宣伝・自慢の場になっている
 ・役立つ情報がない、または多すぎて探せない
最後の一つは上記の1. 2. の段階で失敗している場合に良くあることなのですが、それ以外の理由については、いずれも「管理」がきちんとされていない、もしくは明確な利用規定が存在していない場合に発生しうる問題です。
 何を隠そう、私自身もFacebookで教育関連のグループをひとつ運営していますが、率直に言ってこの「管理」がうまくできていません。管理が行き届いているように見せるには
 ・なるべく定期的に役立つ情報を配信する(多すぎると鬱陶しいので匙加減が重要)
 ・投稿された情報やコメントには管理人が必ずフィードバックを返す
 ・同一投稿者の多重投稿、誹謗中傷や不適切な情報には厳正に対処する
 ・運営ルールを明確に示す
 ・特定少数の人たちだけに向けた情報を投稿しない(内輪グループにしない)
といった工夫が必要です。つまり、相応に「管理の時間と手間」がかかるので、それを「維持」するために必要な時間や人を予め確保したり、不足する場合は速やかにそれを拡充することが重要なのです。当方の運営グループが参加人数の割に過疎化しているのはこれが要因なのです。(分かってるならなんとかしろよ、って話ですよね。すみません)

ということで、CONTETにしても、それ以外の民間の情報共有基盤にしても、こうした3つの要素を併せ持つことが非常に重要だと思っています。このあたりの事情は企業では「ごく当たり前」のことなのですが、それでも器だけ作って結局使われない、というケースは多くの企業が経験しているものと思います。

 教育の情報化、ICT化が叫ばれてもう随分とたちますが、重要なのはこのあたりの民間のノウハウをいかに「盗むか」です。いい情報があれば自然と人が集まるなんていうのは幻想です。そして情報は集めることが目的ではなく、それを活用してさらに磨いてもらうことが目的でなければいけません。このあたりを意識してうまく進められるかどうか。日々、情報を「発信」する側の人間の一人として、注意深く見守っていきたいと思います。

1台のスマホのテザリングで教室内40台のタブレットを通信させる方法

 Facebook上でちょっと聞いてみたら、思ったよりも需要がありそうだったので書いてみることにします。

 LTE対応以降のスマホタブレットは、1台あたり5〜10台までの機器でインターネット回線を「共有」できます(テザリング)。どこにでも持ち運んで、その場がWiFiホットスポットのようになるので非常に便利ですよね。個人で使う分には、同時接続がiPhoneの場合5台まで。普通はこれで充分でしょう。

 ただ、学校の場合はちょっと事情が違います。タブレット導入で非常に悩ましいのが、インターネット通信手段をどうするかという問題。学校内に広くWiFiを敷設するには相当なコストがかかります。「まず使ってみようかな」という時に、手近な通信回線として自分が持っているスマホに注目する人は多いでしょう。そこで問題になるのが先ほどのテザリング接続の上限数。
 もし、クラスの生徒40人が全員使うとなると、とてもではないですが足りません。他の先生のスマホを借りてくるわけにもいかないでしょう。そこで、今回紹介する道具が使えるかもしれません。

 

・用意するべきものは、WiFiアクセスポイントと「コンバーター

 一般的なWiFiアクセスポイントは、少なくとも10台以上、よい製品だと50台まで接続できるものもあります。AppleAirMacシリーズはその代表例で、小型なAirMac Express(実売約10000円くらい)でも最大50台が接続できます。普通はこういう無線APから先は、有線のブロードバンドなり光回線を繋ぐわけですが、今回紹介するのは無線APから先を「スマホテザリング」にしてしまうという方法です。
 つまり、WiFiのAPで教室内のタブレットの無線をいったんまとめて、その先をスマホテザリング回線で通信させる、という方法です。有線接続をテザリングの無線接続に変えるために「コンバーター」が必要になります。ということで、実際に機器を構成してやってみました。参考にしたのは、こちらのサイトの記事です。

 ニケのお買い物ブログ: iPhoneのテザリングで有線LANに接続する方法

 ちょうど、Amazonでこのサイトで紹介されているプラネックスの「MZK-MF300N」が中古品で安く出回っていた(1500円だった)ので、自宅にあるAirMac TimeCupsuleと組み合わせてやってみました。注意点としては、AirMacの「WAN」の端子と、コンバータのイーサネット端子をつなぐということと、最初の設定をする際にはコンバータとPCを直接LANケーブルでつないでIPアドレスの登録などを行うという点でしょうか。

 で、自宅内にあるPCやWiFiタブレットスマホなどありとあらゆるものをAirMacにまず接続し、その先をiPhoneテザリング回線経由で通信するように設定してみました。結果的に、10台以上の機器が確かに同時接続され、かつ同時通信できることを確認しました。

 もちろん、同時に使っている人が多くなると、一台ずつの速度はかなり下がりますが、あまり同時に大容量の通信(例えば、動画を見るとか)を行わないのであれば、その場所の携帯電話の電波の強さにもよりますが、思ったよりもなんとかなります。


・注意すべきこと

 まず無線APとコンバータを使うために、必ず「電源」が必要ということです。コンバータは初代「ちびファイ」のようにUSB電源で動くものもありますが、無線APで50台規模で接続できるものはまずまちがいなく電源が必要です。ですので、モバイル環境では残念ながらこの技は使えません。
 また、iPhoneIPアドレスを調べる必要があるため、通信をするスマホが変わると設定変更が必要という問題もあります。たとえば、40台のiPadをある教室でA先生がスマホテザリング経由で使った後、次の授業でB先生が自分のスマホ経由の通信しようと思った時には、コンバータにB先生のスマホSSIDIPアドレスを設定してあげないといけません。このあたりが、共用のタブレットを使いまわそうとする時に不便になりそうです。

 そして、40台のタブレットの通信が1台に集中するため、通信量がかなりの多さになるという点にも注意が必要です。一般的な7GB制限はもちろん、最近では月額料金を抑えるために格安のSIMを使う人もいるかと思いますが、1GBくらいはあっという間に使い切ってしまう可能性があります。特に、WiFiに接続しているとアプリやOSの自動更新/アップデートが走り出すことがありますので、容量の大きいアプリなどの更新が重なると最悪です。このあたりは、MDMなりである程度規制したほうがいいでしょう。


・どういうときに使うのがよい?

 正直、この方式を学校での「常用形態」とするのはかなり、ハードルが高いです。特に個人のスマホを使うのであれば、容量制限の問題や先生ごとに設定を変える必要があり、かなり厳しい。学校がこの用途専用にスマホなりWiFiルータを契約して、40台のiPadに常時ひも付けて使うのであれば「アリ」かもしれません。この方法だと、WiFiの新規敷設も不要、セルラータブレットも不要で、とりあえずインターネット通信が可能なタブレット導入が実現できます。つまり、お試し的にタブレットを導入するのにはぴったりです。運良く、どこかからWiFiタブレットを「借りる」ことができたとしたら、この方法でまずネットワークを構成して使ってみるのがBestでしょう。
 むしろこの方法は、一時的な通信回線が必要なとき(課外授業や修学旅行などの出先でみんなが通信できる場所を構築したい時)の技として知っておいて損はないかな、と思っています。※ただし電源がある場所に限る
 AirMacは10000円程度、コンバータは3000−5000円程度ですし、無線APは自宅などで使っているものを代用する手もあります。あんまりコストもかからず、維持費も最小限でいけます。


※この方法、12/20(土)には大阪で行われる「eスクール ステップアップ・キャンプ」というイベントにブース出展をする機会があるのですが、その時に会場で実際にやってみる予定です。興味がある方は是非、見に来てみてください。

1年前に示されたICT導入の懸念はどこまで解決した?

昨年の夏、当方はSNSの人脈を通じて学校の先生へのアンケート調査を実施しました。
有効回答が97件も集まり、大半はGoogleサイトのアンケートページから回答頂いたもののでした。
その時のアンケート結果はこちらから閲覧できます。


「学校の先生へのアンケート」結果について


今回の記事では、このアンケートの自由解答欄の記述で示された様々な懸念やご意見を1年少々たった現時点で改めて振り返りたいと思います。

自由回答の質問は以下のようなもの。
「(ICT化について)教育のICT化について不安があれば自由に記入してください。」

ここについては、かなり多くの方が自由回答をお寄せくださいました。
幾つかに分類しながら、現時点での当方の知見からコメントをしてみたいと思います。

 

【業務負荷に関する不安の声】
・ICTが苦手な教員の世話が増えそう。
・先生方の不安を解消するための支援で忙しくなりそうです。
・導入者の負担が校務として増えても、通常の学校活動の中でまったく優遇がない。結局、じゃあ誰がやるか、そのための他の部分での負担軽減がないと誰も導入に前向きにならない。
・得意ではない教職員に対してのフォロー体制を確立できないと、なかなか進展がないと思います。

・使いこなせるようになれば便利だし、作業の効率化、準備の軽減などにつながるとは思うが、使いこなせるまでが大変。1つの教材を作るのに1時間、2時間と平気で立ってしまう。余計に仕事量(時間)増えてしまう、というのが不安。
・ICT化により情報の共通、教材の共通化が図れるが、他の負担が増えることは間違いない。
・導入に関しては教育委員会等が中心となると思われるが、活用に関する研修や設備の維持などの面では各学校にお任せということが多くなると思う。 そうなると、担当になった職員の負担が増え、導入するメリットが薄れてしまうといったことも考えられる。特に、設備の維持は予算が絡むので更新されなければ古いICT機器がそのまま使われ、生徒が新しい機器に触れるということは皆無に近くなる(初期導入は行うが更新が滞る) 導入するためのマスタープランをしっかり作成する必要があるのではないか(維持・更新などの予算なども含めて)  
・ICT化が成績管理とか、生徒の個人情報管理についてはすすみつつあるが、結局、担当の分掌の教員に作業負荷がふえるだけの傾向があると思う。ハード面は充実してほしいが、操作などについての研修費用やら、サーバ管理などの人的費用などもこみでのICT化であってほしい。

→ こうした「導入に伴う業務負荷」については、初期導入フェーズ(構築・初期研修)活用・運用フェーズに分かれると思います。問題は後者で、売上が出る”導入フェーズ”については企業や導入推進側も一生懸命ですが、その先の「活用・運用フェーズ」について事前に考えきれていないケースがあると聞きます。いわゆる「ICT導入のシャドウコスト」問題です。
最後のコメントにもあるように「活用(運用)については現場にお任せ」というのはままある話で、使い方や利便性がしっかりとついてこなければ、使われなくなり、「無駄な投資」になってしまうリスクがあります。電子黒板が一部でこうなった過去からしっかりと学び、現場に丸投げではなく企業や教育委員会などの導入推進側が、初期導入時にある程度「アフターフォローコスト」をきちんと計算しておくことも重要でしょう。(最も、この辺りが一番協議によって”削られがち”でもありますが…)
この問題については、ある程度の導入事例の経験値だけでなく活用・運用の経験値もたまってきていると思いますので、あとはそれをいかに「共有」するかがポイントになりますね。問題は、継続的な「苦手な先生へのフォロー体制」をどうするか。ICT支援員のコスト捻出が厳しい自治体も多いなか、これを低コストで確実に”維持可能”な仕組みにするためには、情報共有だけでなく”情報活用”の力が現場にも求められるかもしれません。


【導入しないこと自体が不安であるという声】
・導入しないと淘汰されます。
・私立学校に勤務しています。周辺の学校のICT化が進み、自分たちだけが遅れてしまうのでは、と不安です。

→これについてはこの1年間で、私立を中心にさらに顕在化しているように感じます。私立学校は文字通り少子化の中で生き残りをかけた「差別化」が進んでいますので、ICT以外の特色がうまく出せているところはまだしも、そうでないところは一つの武器としてICTやタブレットなどの導入がここ1−2年で多々出てきそうだと感じます。

【教員のスキル・異動に対する不安の声】
・教員のICT活用スキルが低すぎる。
・多くの教員がICT機器を使いこなせるかが不安である。
・アナログ媒体の「置き換え」としてデジタル機器を設置し、「アナログでできたことができない(やりにくい・慣れない)」という理由でICT導入を避けたがる教員が予想以上に多いこと。 「慣れ」をどう壊していくか。
・自分がICTを活用することにたいする周りの妨害。
・講師を招いての研修会が必要である。 

・変化に対応しづらい教員は、まだたくさんいます。宝の持ち腐れにならないようにどうするかが大切になると思います。 ipadには、可能性を感じます。
・情報機器に詳しい人が転勤すると滞ってしまう場合が多いです。 学校に情報機器活用を円滑に推進していただける支援員さんがいてほしいと思います。 機材の初期導入の費用より、通信費をどうするのかなどの維持費の捻出に困る現状があります。 ICT化により子どもの支援の幅は確実にひろがると思いますが、教員の仕事量が減るとはあまり思えないです。それは各自の意識の問題でもあるからです。
・各学校・各自治体事にバラバラのものが入ってきたときに、異動によって今までのノウハウが使えなくなってしまう可能性がないだろうか。 プロジェクタと実物投影機と大型テレビと…というあたりならば問題は無いが、タブレットやパソコンが入ってくると、今まで作ってきた教材データが流用できなくなる可能性はないだろうか。

→教員のスキルについては、個人的には児童生徒に協力してもらうことである程度は追いつけるのでは、と最近の事例を見ていて感じます。色々と制限を課すと、児童の知的好奇心が悪い方向に行ってしまいがちですが、逆にそうしたスキルや知識・応用力がある生徒に運用や活用の一部を委任することでうまく回る事例は沢山あります。
一方で気になるのは「妨害」や「導入を避けたがる」という一文。これは、反対派の教員はハッキリとは言わないケースが多いのですが「今までのスキル・やり方が通用しなくなる」ことや「授業の主導権を握れなくなる」ことに対する抵抗感、もっというと「最終的にICTによって教員という職業が不要になるのでは」という誤解が根っこにあるような気がしています。実際には、教員に求められる役割が「一方通行に話す人」から「学びの水先案内人」に変わる部分はあるでしょうが、個人的には教員が不要になることは絶対にない( ∵ もしそうであればとっくにeラーニングが世の中を席巻しているはず) と思っています。こうした誤解を解く地道な活動も必要ですね。(特にICTで紙や鉛筆、黒板とチョークが置き換わるという誤解は、未だに多いですから…)
人事異動でICT推進の流れが切れてしまう問題については、淡路市教育委員会のように、異動しても先生に機材がついて回る「エバンジェリスト方式」も登場してきましたので、こうしたノウハウがうまく共有されていけば解決に向かうかもしれません。

 

【導入そのものの弊害を不安視する声】
・授業中、学生がICT機器(特にPCやタブレット端末)を本来の目的以外のために用いて授業に集中しなくなることを懸念しています。
・私の勤務する特別支援学校ではどこでも同様かと思いますが、子どもたちが障害があるが故の合理的配慮の一つとして様々な支援機器や人的支援が必要です。したがって、ハイテクな支援機器が導入されていくことは、障害のある子供たちにとっては人として輝いて生きることができるための権利であると考えます。不安といえば、ネット活用にあたって、悪意のあるサイトやサービスに引っかからないかということでしょう。
・急速に進むと導入したけど使わないという負の連鎖に陥る。
・現場で本当に使える教育のICT化が行われるかどうか。
タブレットのアプリなどが、教員がアレンジして使うことができないほど、過剰に「完成」していると、教材から柔軟性と弾力性を奪うことになると思い、その点について不安を感じています。 アプリ等を活用し、教員が教材を編集できるような可能性を示したり、有意義な実践事例を示すような支援(啓蒙?)があるといいのかもしれません。
・年齢による利用形態の差をきちんと考えねばならないと思う。 紙の辞書や地図帳を利用できること、それも単にスキル以上のものが要求されると思うし、コミュニケーション能力や情報の批判的学習能力のない小さな子どもに、いきなりのブログやSNS利用は、交通ルールを知らない子ども一人で大通りに出すようなものとも言える。 著作権名誉毀損なぞ法的な枠組みに対する理解も必要でしょう。

→目的外利用の不安は常につきまといます。公開授業やメディア報道では良い面しか出てこないのですが、現場の事例を聞いていくと大なり小なりの課題はあるようです。このあたりは学年や年齢に応じた適切(この匙加減が難しい)なコントロールが必要だとは思います。
ちなみに、高校生レベルではある程度、自由にアプリの追加などを許容するほうがリテラシー醸成が進むということと、変な使い方をすれば「バレる」とか「使うのを中止せざるを得ない」といった抑止力をうまく理解してもらうことの2点で、大抵の問題は解決しているように感じます。
また、ICT導入の「目的」や「理念」が中途半端だと悲惨なことになる、という指摘は賛成派・反対派ともに非常に多く見受けられます。もちろん、導入前から完璧な理念は作れませんので走りながら考えることも重要ですが、考えた結果はキチンと残していく、それを共有する仕組みが重要かなと思います。

 

【予算に関する不安の声】
・現場の意見、要望や既に学校単独予算や自費で導入、研究している財産を無視しての機器選択やソフト面の選択。 今までが、何回主張しても分かりました。で…現実は違う。 新しいネットワークに教育の概念が無い縦割り行政。
・国の政策として推進すべき。予算によって整備状況が違うのはおかしい
・不安と言うよりも、愚痴になりますが、いつも予算が少なく中途半端な設備が導入されます。結果として教員も生徒も便利さを実感できにくくなっている現状があります。
・ICT化により予算が機器にもっていかれ、教員の給与が減るのではないかという不安があります。

→ これは非常に難しい問題で、自治体も教育ICTは進めるべきと理解しつつも、その承認を得るための「理由付け」に非常に苦しんでいるという現状もあります。特に教育ICTの導入の「効果」を測定する基準がはっきりしていないと、他に顕在化している課題を解決する方向に予算が奪われるケースが多々。さすがにICT化で教員の給与が減るという話は公立学校では無いと思いますが、予算についての統一基準が無いことは地域格差に繋がりかねない、一方で強制力のあるガイドラインなどを作ると地域ごとの特色が出せなくなるという痛し痒しの部分もあり、当方としてはここにまだ答えを見いだせていません。

【そのほか】
大学入試制度が、知識重視型から変わらなければ、国数理社英の教員のICT化が進まないという根本的な問題に不安があります。 ただ、教育のICT化によって、教員による教え方の上手い下手のバラツキが是正されることを強く期待しています。

→ これは学習指導要領の改訂が今後どのように進むかに期待したいところです。教務力のバラツキは、うまく進めないとかえって拡大しかねないので、そこをどうするか。

 

授業の効率化、高度化は重要だが、その意味が人によって異なること。 デジタル教材やデジタルドリル等によって、工夫がなくなる、生徒が一人で勝手に勉強できる、等のことを「効率化」と捉え、それを有難がって導入しようとして賛成する人、反対する人。本来の授業の高度化、不要な手間の効率化と捉えて賛成する人、反対する人、が出てくる。 この場合、全く逆の意見を持ちながら、同じ「賛成派」などと捉えられてしまう可能性がある。 この、誤解がある状態で賛成、反対の議論をするのは大変不安がある。 

→ 教育における「効率化」が果たして本当に正義か?というと、そうでもないことがあると思います。非効率でも、一つの問題を前にして数時間頭を悩ませることも時には必要ですし、高等教育になればなるほど「自己解決力」を養うためにも、こうした思考訓練・試行錯誤は必要です。むしろ「効率化」されるべきは、自分自身で考えたり思い悩んでもなかなか解決しない事や、従来の手法では絶対にできないことに対して向けられるべきであり、そこにICTが入っていくことが望ましいと思います。例えば、語学であれば「スピーキング力やライティング力を測定する」ということは先生ひとりでは相当厳しいですが、ICTによってある程度は機械に判定させる技術も登場しています。効率化すべきところと、そうでないところは、きちんと見極めるべきですね。

 

教員の技術の差というよりは、意識・意欲の差によって、生徒のICT活用能力やメディア・リテラシーに大きな差が出てしまうこと。これは、「塾」や「予備校」では埋められず、しかもコストがペイすることがないと(私は)予想するために、民間企業が参入して「ICT塾」を開校することはないから、その差を生徒個人や保護者が埋めることはたいへん難しくなる。生徒個人の問題であると同時に、じつは、情報弱者のような「弱体化した市民」を生産することになるのではないかと危惧している。それは、日本の弱体化につながるだろう。

情報格差の問題は、学校よりもむしろ地域や親の中で深刻になっていると思います。しかもこの格差は遺伝する傾向があると考えています。ICT活用塾のようなものを民間が開設することがコスト的にペイしないかどうかは別としても、企業がCSR活動の一環として行っている情報リテラシー教育をもっと発展させて、地域や自治体との連携を進めることで何かできることがあるかもしれない、とも思ったりします。

ということで、まだまだ1年前の多くの「不安」については明確に回答できない問題は多いものの、確実に言えることは「ノウハウは溜まっている」ということです。
これをどう共有するか。アクセスしやすい場所に置くか。しかもノウハウは多すぎたら見てもらえないし、少なすぎたら役に立たない。この辺りを「どう整理するか」も重要なテーマです。

そろそろ、こうしたICTの情報共有を官民学が一体となって推進できるようなDBなり、ポータルが欲しいところなのですが、いいところ、ないですかね…。

【特別寄稿】広尾学園ICTカンファレンス2014レポート 午後編 by 神谷さん

本日は特別寄稿として、フリーランスライターである神谷 加代さんから当ブログにご寄稿をいただいた記事をご紹介します。当方が業務の都合上、午後の部に出られなかったのですが、その部分を見事に補完してくれている記事です。
 -> 神谷さん、ありがとうございます!
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広尾学園ICTカンファレンス2014にて、野本さんと一緒になりましたフリーランスライターの神谷です。午前の部しか参加できなかった野本さんに代わり、午後の部の模様を寄稿します。(写真はすべて、広尾学園の金子先生よりご提供頂きました)

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(午後は3部構成・①生徒パネルディスカッション、②情報共有、③教職員パネルディスカッション×質疑応答)

①生徒パネルディスカッション

生徒はこの日通常授業だったのですが、中学生と高校生それぞれ2名ずつ、昼休みの間に会場へ駆けつけてくれました。モデレーターは医進・サイエンスコースの木村健太先生。生徒にはiPadを学校で使って良かったこと、困っていることは?」と尋ねられました。

中学生女子)良かったことは、写真の共有が簡単にできること。困っていることは、鞄が重いこと。教科書とiPadを持って通学するのは大変なのでデジタル教科書を使って欲しい。

中学生男子)演劇部に所属しているが、演技を録画し、スクリーンを覗きながらみんなで意見交換できるのが良い。またGoogleのグループメールやクラスのサイト(*広尾学園ではGoogle Apps for Educationを利用)を使い、係や委員会活動などの連絡がスムーズに行えるのも良い。アプリやフィルタリングの制限が多くて困る。

続いて「生徒からみて、“こんなことができればいいのに”と思っていることは?」という質問が投げかけられました。

中学生女子)ednity (学校専用SNSサービス・株式会社Ednity)を使っているが、内容が更新されても通知がこないのでメールで知らせてほしい。

中学生男子)もっと自由に使えるようにしてほしい。アプリのインストールは自由にやりたい。

木村先生の話では、ednityの話に限らず、そもそもメールチェック自体をしない生徒もいるとのこと。そのため現場では、クラスのサイトを更新した時は、書き込んで終わりにするのではなく口頭でも伝えるなど、コミュニケーションも工夫していると話されていました。

次に登場したのは、高校生の2人。同じく「デバイスを使って良かったところ、困っているところは?」という質問がされました。

高校生女子)分からないことがあった時にすぐに調べられるのが良い。分かるまでのサイクルが早くなったと感じる。困っていることは、自宅にWi-Fi環境がないこと。自宅では家のPCを使っている。

高校生男子)(*インターナショナルコースに在籍)インターではグループで取り組むプレゼンの宿題が多く、Google スライドなどを使い、自宅から同時にアクセスして共同作業が出来るのが良い。困っていることは、ついついYouTubeを見てしまうこと。家での使い方を考える必要がある。

分からないことがすぐに調べられるのはICTのメリットでありますが、生徒にはもちろん、ウェブに書いてあることがすべて正しいとは限らないと、現場の先生は伝えています。「調べたことをもとに、あなたはどう考えましたか?」という問いかけを大事にしていると木村先生。一方で、ウェブで調べることを通して、生徒は教科書や辞書に載っている情報がいかに精査されたものであるかにも気づくといいます。生徒が情報の質について考える場面が生まれているようです。

広尾学園では、中学生に対してのフィルタリングやアプリの規制は厳しいようですが、高校生に対しては緩和しています。これについては、目的意識を持たせやすい高校生とその成長段階にある中学生の発達年齢を考慮しているとのこと。パネルディスカッションに登壇した高校生も「中学生の頃に比べて自律精神が芽生えていると思う。iPadは学習のための端末だと認識している」と話していました。

 

②情報共有

続いては、「情報共有」の時間が設けられ、3人の先生が登壇されました。1人目はICT化の現場指揮官である教務開発統括部長・金子暁先生です。

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金子先生がお話のポイントは、下記の3点。

 ①広尾学園のこれまでの歩み

 ②どのような考えでICT化を進めているか

 ③これからの方向性について

創立96年の歴史を誇る広尾学園は、もともと女子校でしたが、生徒数が激減し学校経営の危機に陥った経緯があります。そこから“変わらなければいけない”という意識を強く持ち、2007年に共学校化、進学校化を断行しました。普通の学校になってしまったら生徒は来ないかもしれないという危機感から、「次に目指す教育は何か?」を考え続け、辿り着いた答えのひとつに“ICT化”があったといいます。

ICT化の取り組みついては、2014年9月8日にNHK総合クローズアップ現代』の番組内で放送された広尾学園の様子が紹介されました。「学びを変える? ~デジタル授業革命~」(http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3547.html) と題したこの回では、ICTを活用して自分が興味をもった微生物を追求していく医進・サイエンスコースの生徒の姿が取り上げられました。金子先生は、「日本の教育がこれまでに積み重ねてきた良い部分にICTを繋げるような使い方をしていきたい」といいます。今後の方向性については、教育の内容と質をさらに高め、プログラミング教育などを中心に、「活用から創造、活用プラス創造」のフェーズに入っていきたいと述べられていました。

 

続いて、医進・サイエンスコースの木村先生が登壇。医進・サイエンスコースでは今年度からiPadを辞めてChromeBookを導入し注目が集まりました。

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木村先生は開口一番、iPadが悪かったからChromeBookに変更したわけではない」と述べ、医進・サイエンスコースにおいては、高校生といえども本格的な研究活動を行っているため、タブレットよりもPCの方が使いやすいと説明がありました。

医進・サイエンスコースは、校内に研究施設を構え、高校1年生から英語の学術論文を読んだり、論文を書いたり、その研究内容を学会で発表するような活動を行っています。研究テーマも「世界で誰も知らないこと」を条件にし、教員も答えの知らない研究に生徒は取り組んでいます。このような研究活動においては、知識の端っこを知る情報収集を多くするわけですが、その際にICTの活用は欠かせないといいます。一方で「知識を教えているつもりはない」と木村先生。研究の世界では、知識はひっくり返る可能性があるため、あくまでも問題解決に辿り着くアプローチを大切にしているようです。

研究活動を円滑に行うために、現場ではさまざまな工夫がされています。まずは、研究活動の時間をできるだけ確保するために、数学は「EDUPA」(http://edupa.org/)を使って反転授業を取り入れているとのこと(下記写真)。

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加えて、Googleのサービスはかなり重宝している様子。Google カレンダーやTo doリストを用いて研究の進捗状況をチェックしたり、Google DriveGoogle Docsを使って、同時に書き込みをして進めることもあるそうです。「学校内の時間や面と向かってできることにこだわってしまうと研究自体が進まない」、そう話す木村先生の姿からは、ICTのメリットを多いに生かして研究活動に没頭させたい、そんな意気込みが伝わってきました。

肝心のChromebookについては、「教員にとってはキッティングが楽で、管理コンソールがウェブベースなのも使いやすい」(木村先生)ようです。MDMを導入しなくても、MDM的な管理ができのるのもメリットではないかといいます。ただし「ChromeBookの利用は、ネット環境が悪いところでは難しいだろう」と指摘もありました。

 

「情報共有」の最後はインターナショナルコースのMr.マクルアー。外国人教員中心のインターナショナルコース。そこでのICT活用について報告されました。

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Mr.マクルアーからは、午前中に公開された中学1年生の「English Reading Class」という科目について説明がありました。この授業では、生徒同士が互いのエッセイに目を通して意見を交わし合うPeer Review(ピアレビュー)が行われましたが、その過程で使われた剽窃防止ソフト「Turnitin」(ターンイットイン http://turnitin.com/ja/について紹介されました。

Turnitinは、生徒が英語で書いたエッセイに対し、どのくらい“コピペ”した文章があるのかを自動的に検出してくれるソフト。インターナショナルコースでは、エッセイを書く時にウェブで調べても良いとしていますが、きちんと文章を書くことや自分の言葉でまとめることを徹底しており、このようなソフトを使ってチェックしています。Turnitinではコピペした文章のパーセンテージだけでなく、どのサイトの文章をコピペしたのかまで分かるようになっています。

Turnitinには、匿名で友達のエッセイにコメントを残すフィードバック機能だけでなく、生徒が書いたエッセイの内容が、きちんと相手に伝わったかを学習できる機能もあります。手順としては、先生が、生徒の書いたエッセイをもとに質問を作り、それを違う生徒に渡します。渡された生徒は、エッセイを読んでその質問に答えるわけですが、この時、きちんとした文章でエッセイが書かれていなければ、友達は答えを書くことができません。伝わる文章になっているかを、友達の返答をみて判断するという考え方で、Turnitinではこの一連のプロセスがサイト内で出来るようになっています。

 

③教職員パネルディスカッション×質疑応答

最後は、公開授業を担当した先生が前に出て、会場からの質問に答えてくれました。主な質問を紹介します。

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Q1. 「ICT化を反対する教員に対してはどのように対応したのか?」

広尾学園では、いきなり本科に大規模導入したわけではなく、インターナショナルコースや医進・サイエンスコースで小規模な導入からスタートしたため反対意見は少なかった。使い方においても、最初から授業で活用するのではなく、まずは辞書や分からないことを調べるためのツールとしてスタートした。その後、連絡ツールやクラスのサイトへと広げていった。徐々に活用の幅を広げていったことが、反対する教員を巻き込めた要因ではないか。

Q2.  「ICT化をすれば教員の役割も変わると思うが、実際の授業はどのように変わるのか?」

従来の知識伝達型の授業スタイルに、生徒が自ら調べる時間が増えたイメージ。教員の言ったことに対して、Wikipediaなどで生徒が調べ「先生、違います」と言われてしまう場面ができる。ただし、そう述べた生徒は主体性があると評価して、そこからさらに学びを追求できるような展開が大切になってくるだろう。一方で、知識伝達型の授業を見直すようになった。生徒が自分で知識を体得できるプロセスを用意するようになった。

Q3.  成績評価はどうしているのか?

社会科の場合だが、iPadでできる一問一答の小テストを用意しており、その点数は平常点に反映させている。授業態度もリアルタイムアンサーチェックアプリの「PingPong」を使って、デジタルデータとしてログをとり評価につなげている。

 

・・・とこのような感じで、その後も質疑応答が続いたのですが、あいにく私も次の予定があり、ここで退席。最後まで居ることができませんでした。

iPadの導入も4年目に入った広尾学園。現場ではChromeBookも導入されるなど、それぞれのコース、目的に応じて活用している姿がとても印象的でした。今後、この環境から何が生まれてくるのか、その動向を追いかけていきたいと思います。
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神谷さんの寄稿部分は以上です。

ChromeBookの導入理由の部分は本当に納得することしきりで、まとまった文章の作成についてはキーボードがある方が便利ですし、キーボード入力に慣れることは高校生〜大学生くらいにとっては重要なことです。(個人的には小〜中学生くらいであれば自分にあった文字入力ができることのほうが、入力の方法にこだわることよりも大事だと思っています)
また、すべてをwebベースで管理できるChromeBookWiFiなどの通信環境さえ整っていれば、手がかからないICT機器として大いに期待できるものと言えます。

個人的にこのレポートを読んで、近畿大学附属高等学校の乾先生がおっしゃっていた「本当の理想は、1 to 1 ではなく、 1 to 2だ」という言葉を思い出しました。
いわゆるiPadなどのICT機器を一人1台の生徒に持ってもらう「1to1」にとどまらず、2台目のデバイスとしてMacなどの”ノート型コンピュータ”を状況に応じて使い分けることが理想の世界という意味合いです。
一人1台ですら多くの学校や自治体が望んでも叶わない世界です。なので2台なんてとても無理!と思ってしまいそうですが、なんでもタブレット1台で満たそうとして周辺機器をゴテゴテと付け足すくらいなら、ChromeBookのような比較的安価で管理が楽なデバイスを2台目として導入する方がコスト対効果に見合っているのではないか、とも思います。そういう意味でも、広尾学園の取り組みは非常に先見の明がある動きとも言えるかもしれません。

広尾学園 公開授業2014 レポート

今年も広尾学園の公開授業に訪問して来ました。公開授業の模様をフォトレポートします。(掲載している写真は原則すべて、昨日紹介したQX1で撮影しています)f:id:nomotatsu:20141014065923j:plain

広尾学園中学・高等学校(この写真のみ、α7sで撮影)

レポート本編に入る前に一つ、触れておきたいことがあります。

実は今回の公開授業は、直前まで開催されるかどうかが危ぶまれていました。他でもない、台風19号の影響です。

前日の段階では影響の見極めが難しく、最終的に当日の朝6時の段階で同校の休校基準である「警報の発令があるか否か」で実施の判定を行う事となりました。結果的に警報は朝の段階で解除されており、予定通り公開授業は開催されました。最終実施判断が当日朝になったこともあり、遠方から参加予定だった一部の参加者や、そもそも飛行機が飛ばなかったり、安全性の懸念があったりと、様々な理由で参加を断念する方もいらっしゃったそうです。
が、それでも生徒に対する休校基準で公開授業を行うか否かを判断した同校の対応は、個人的には正しいと思っています。(公開授業は確かに外部のお客様に向けたものではありますが、あくまで授業は生徒のために行い、その学ぶ機会の確保を最優先に行うべきものであるべきだと私は考えます。)

 

さて本編です。広尾学園の公開授業で毎回楽しみにしているのは「進化」と「新奇」で、ある程度ICTの活用が定着し、成熟して来ている同校こその「変化」があります。今回は特に「Google Apps」と「ロイロノートスクール」が広く浸透していたことが特筆される変化です。

今回の公開授業では新たにGoogleChromeBook(クロームブック)を活用しているシーンを医進・サイエンスコースの「研究発表」の授業で見る事が出来ました。
ChromeBookについては以下をご覧頂くと分かりやすいと思います。

Chromebook入門:まだ知らない人のためのChromebook(2014年7月更新版) (1/2) - @IT

f:id:nomotatsu:20141014235810j:plainこの「研究」は同コースの特徴的なカリキュラムで、未知の分野に狙いを定め、それぞれの生徒が査読を通った学術論文(英語)を紐解きながら判明した事を、自分たちなりの言葉で他の生徒(全く異なるテーマの研究をしており、他の人の研究内容について詳しい知識を持っている訳ではない)に分かりやすく伝達、質疑応答までこなすという「学会スタイル」をかなり前から貫いています。で、この生徒が投影しているスライドが…

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プレゼンを聴講している生徒の手元にも資料として表示されていました。左側の端末が、ASUSの”ChromeBook”です。ChromeBookは見た目は普通のノートパソコンですが、その殆どの操作を「ブラウザ」を通して行うという特徴を持っています(そのため、インターネット接続環境があることが完全に前提になっています) 。本体にはほとんどソフトも入っていなければ、ハードもOSも必要最低限の構成で、そのかわり非常に安価という”クラウド時代の端末”と言って良いでしょう。勿論、この端末をこうした一人1台に近い形で導入している学校はまだ殆ど有りません。広尾学園では一人一人がGoogleのアカウントを持っており、学習データはGoogle Driveというクラウド上のストレージに蓄積するというスタイルをとっています。ちなみに右側の生徒はMacBookを使っていますが、Google Drive上のデータはブラウザがあればOSや端末を選ばず閲覧できます。そのため、この生徒の画面にもまったく同じスライドが表示されていました。

Google Driveの活用は医進・サイエンスコースに限らず、今回の公開授業では随所で見る事が出来ました。その一つがこちらの「中学校本科」の理科実験の授業。こちらは、一人1台のiPad導入が順次進み、今年からは1-3年生が全員iPadを携えて学んでいます。
f:id:nomotatsu:20141014235618j:plain実験の最初のインストラクション(今回は銅粉を加熱して酸化銅を作り、その質量変化を見るというもの)では、いきなり「実験の手順書(プロトコル)」がGoogle サイト(Googleのサービスを利用して構築されたWebサイト)に掲載されいるので各自で取得せよ、というところから始まりました。続いて、実験中に見られた質量の変化は「Google スプレッドシート(Excelとほぼ同等)」に記載してその場で各班でグラフ化します。つまりおかしな実験結果が出ると一目でまわりの班に分かってしまうことになります…。さらには実験の化学反応の様子を”動画にとってGoogle Drive上にUPする”という指示も…。まさにGoogle Apps(Google各種webアプリの総称)を総動員していると言えます。

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こちらが実験の手順書を表示しているiPad。よく見ると、ブラウザ(Safari)上にファイルが表示されているのが分かります。

f:id:nomotatsu:20141015000026j:plainこちらは、インターナショナルコースの授業風景。インターナショナルコースは以前からiPadではなくMacBookを一人1台つかっています。こちらでは近日中に開催される「ディベート」に向けて3人一組でプレゼンの資料を作成しているのですが、よーく見ていると、3人は話し合いをしながら、同時に同じファイルに加筆修正を行っています。これはGoogle Docs上の「共同編集」という機能を使って実現しており、作業はすべて「ブラウザ」の上で行っているのです。(ちなみに、ディベート当日の発表はパワポでも、Keynoteでも、Preziでも、勿論Googleスライドでも、どんなツールを使っても良いと先生からは指示が出ていました。夫々の使い方はここまでの指導で一通り伝えているので、自分たちに合ったスタイルを選びなさい、と言う事のようです)

 

続いて、もうひとつの変化が「ロイロノートスクール」がかなり授業(特に中学校本科)に深く浸透しているということでした。今回は全12の公開授業のうち、実に4つのクラスでロイロノートを活用している様子が見られました。
ロイロノートスクールについては、こちらの公式サイトが最も分かりやすいと思います。

授業支援アプリ『ロイロノート スクール』 iPad、Windows、Android対応で21世紀型教育が始まる

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ロイロノートは非常にシンプルな操作で使える「プレゼンアプリ」で、ロイロノートスクールはその学校向けバージョンなのですが、この日はプレゼンに限らず様々な用途を見せて頂きました。特徴的だったのが、英語科:鹿内教諭 のこちらの授業。鹿内教諭の授業では冒頭に「英検の面接対策」として、面接官の質問を想定して生徒達がその回答を英作文するという演習を行っているのですが、それをロイロノートスクールを通して行っていました。

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こちらが、今回のお題。ペットボトルは今後も一般的であり得るか否か。勿論、YES/NOを含め、いろんな回答が考えられます。ロイロノートスクールの良い所は、こうした問題を先生の端末から生徒の手元のiPadに一斉に配信することが出来ることです。
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この通り、生徒の手元に同じデータが飛んできました。これを見ながら、生徒は自分なりの答えを作文します。この作文した結果は、逆に「先生に送る」ことが可能で…

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生徒が送信した回答をこのようにずらっと一覧で並べて表示する事が出来ます。(個人情報はマスク処理をしています)
いわゆる電子黒板に実装されている機能を、iPadと普通のプロジェクタや画面で実現してしまう機能を持っていると言えます。で、今回はチェック印を付けた4名の回答をピックアップし…

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このように、4等分して夫々の回答を比較検討するようなことも出来ます。
このあと、一人ずつの作文内容に対して「ここはこう言う表現/単語に改めた方がいいね」といった、個別文法/作文指導を行っていました。

ちなみに、ロイロノートスクールには…

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このように、先生の話に集中させたい時には強制的に「画面ロック」をしてしまうことが可能な機能も実装されています。

さて、今回はGoogle Appsとロイロノートスクールの2点に着目してお伝えしましたが、両社に共通する事は「クラウドベースのアプリを活用している事」であり、これは必然的に「インターネット接続が前提である事」も意味しています。広尾学園は全館にWiFiが張り巡らされており、生徒達は日々、ごく当たり前に「教室からネットに繋がる」という生活を送っています。(生徒達が使っているiPadWiFi版であり、携帯電話ネットワークにつながるセルラーモデルを使っている人は確認出来なかった)

言い換えれば、これらのアプリはひとたびネットに繋がらなくなると使えなくなる、とも言えます。そのため、WiFiの環境をきちんと維持することは日々の授業の中に置いても非常に重要とも言えます。(今回の公開授業でも一部でWiFiのトラブルがあったそうですが、公開授業のように外部から多数のお客さんが来る時にこうした事象が発生するのは何も珍しい事ではなく、WiFiを使っている以上、ある意味仕方ない事とも言えます)

ただ、同校の授業の良い所は、こうしたICT機器は必ずしも「無いと授業が成立しない」というものではなく、必要に応じてアナログとデジタルを使い分けているという点に有ります。つまり、紙の置き換えとしてICTがある訳ではなく、紙でできない事をICTが補完する”+α”として使われているのであり、仮にiPadGoogle Appsが何らかのトラブルで使えなかったとしても「今日は残念だったね」である意味、授業はきちんと進められる、とも言えます。その証拠に…

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こちらの理科の授業では、この日まさに日本を席巻していた台風19号を題材として授業を展開していたのですが、こういうiPadを活用している傍ら、画面の奥の方ではアナログのプリントを使って天気図を手書きしている人がいたり…

f:id:nomotatsu:20141015010416j:plainこのようにホワイトボードに模式図(赤が低気圧、青が高気圧と思われる)を作成したりと、アナログがきちんと併存していることが分かります。
同校では兼ねてより「状況に応じて最適な物を使い分ける」という指導を行っているので、それがiPadMacBookChromeBook、そしてアナログの紙と鉛筆、ホワイトボードとペン、といったツール類の「使い分け」を自分たちで考えて行う、という方向に帰結していると言えます。

年々進化や変化を続ける広尾学園。また来年には、どんな姿が見られるのか、楽しみです。
※今年は午後のカンファレンスには都合により参加できなかったため、午前の公開授業のレポートのみとなります。すみません。

レンズスタイルカメラ「ILCE-QX1」を購入しました(簡易レビュー)

先日、ソニーのα7sというカメラを購入したのですが、それに引き続き「QX1」というカメラを購入しました。

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これはレンズではなくカメラです(笑)。先端部分のレンズは交換が可能で、望遠レンズや高画質の単焦点レンズなど、状況に合ったものを装着できる「レンズ交換式ミラーレスカメラ」ですが、先日ご紹介したQX100と同様、液晶モニタが付いていない(スマートフォンの画面を借りて撮影する)という特徴を持っています。この商品、発表された時から「これは是非とも購入しよう」と考えていました。理由は単純で「これほどICTを使った学校の授業風景取材に適したカメラは無い」と考えたからです。
(本ブログにQX1の検索で辿り着いた人の為に補足しておくと、当方は学校でのICT活用を推進する為に電子書籍やレポートを多数執筆しており、公開授業や講演会の模様を撮影し投稿する際にレンズスタイルカメラをかれこれ1年くらい愛用しています)

公開授業では主にタブレット等を活用している生徒さんの様子を後方から顔が写り込まないように撮影します。たとえばこんな感じ。(※こうした写真撮影は勿論許可を取得して行っています)

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こうした写真は教室の後方からズームを使って撮影しますが、もの凄い人数が集まる公開授業だと手を高い所に伸ばし、かなり上方から撮影をするケースがあります。そうした時に一眼レフカメラだとどうしても撮影がしにくい。QXシリーズは、片手でカメラを持ち、もう片方の手でスマホの画面でフレーミングを確認しながら撮影できるので非常に便利なのです。かつ、直ぐにスマホにリサイズされた画像が飛んでくるので、そのままTwitterにほぼリアルタイム投稿して「公開授業実況中継」なんて事もしたりします。スマホのカメラがいくら進化したといっても、こうしたシーンだとどうしてもズームやフレーミングがしにくいので、QXの「カメラと画面が分離出来る」という特徴が極めて便利に使えるわけです。

今回は16-50mm(QX1に装着すると24-75mm相当)のレンズが附属しているセットモデルを購入しました。
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こちらの写真は昨年から愛用しているQX100との比較。手前がQX100、奥がQX1です。少々、QX1の方がレンズのぶんだけ大きいですが、レンズを外すと殆どサイズは同じ。どんなレンズを装着するかで大きくサイズや重さが変わってきます。

QX100も非常に活躍してくれたカメラだったのですが、ズームした時の接写能力が弱かったり、もうちょっと遠くまでズームしたい時に一声足りなかったり、暗い場所での撮影が少々苦手だったりと、惜しい部分が色々とありました。そこで、今回のQX1で目的のシーン(公開授業ならばズームが出来てコンパクトなレンズを、講演会などの記録ならば固定焦点で明るいレンズを、等)にあったレンズを装着し、撮ったその場でどんどんスマホに転送、SNS等にシェアして記録を残すということをやってみようと思っています。
QX100の画質もかなり素晴らしいものですが、QX1はさらに大型のAPS-Cサイズのセンサーを搭載しているだけあって、画質は素晴らしいものがあります。特に被写体の前後がふわっとボケてくれるのがいいですね。(α7sのようなフルサイズカメラだと更にこのボケ味が素晴らしくなりますが、QXシリーズの良い所はそのコンパクトさ故に常時携帯できることにあります)

ただ、ひとつQX1にはQX100と比べて(自分の用途では)致命的と言える欠点がありました。それは、iPhoneと組み合わせたときのWiFi接続時の振る舞いです。

QX100とQX1ではWiFiスマホと接続する際の仕様が変わっているようで、QX100ではできていた「スマホ<->カメラ と スマホ<-> ネット接続の両立」が、QX1では出来なくなっているようなのです。
殆どのスマホは、4Gなどの携帯電話ネットワークよりもWiFiを優先的に接続しに行きます。携帯電話の電波が良い場所でも、過去に接続したことのあるWiFiがある場所ではそちらに接続して、通信はWiFi経由で行おうとします。(街中で混み合っているWiFiスポットに接続すると急に速度が落ちるのはこのため)
QXシリーズはスマホWiFiで接続して撮影を行うのですが、QXシリーズのカメラには当然、インターネット接続機能はありません。しかしスマホから見るとWiFiに繋がっている=そっちで通信をしようとするので、QX1がiPhoneに接続されている間、iPhoneはインターネット接続が出来ない事になります。

ところがQX100ではiPhoneと接続しても「WiFi接続中」とは認識されず、4Gのネット接続とカメラのコントロールが同時並行で行えていました。そのため撮影して、すぐにTwitterに投稿(当然インターネット接続が必要)し、また次の撮影に戻る、というのがシームレスに行えていたのですが、QX1だと投稿したい時にいったんWiFi接続を切断しないといけない。このワンステップが非常に不便です…。ちなみにAndroidだと、撮影用のPlay Memories MobileというアプリからTwitterなどの別アプリに切り替えた時に、自動でカメラとのWiFi接続を切断してくれます。これはiPhoneではなく、Xperiaを買えというソニーの策略なんでしょうか(笑)

ただ、QXシリーズは一端カメラとのWiFi接続を切ると、再接続するまでに時間がかかるケースがあります。この事象はiPhoneAndroidも共通。これで撮りたいシーンを逃してしまっては、カメラとして致命的な問題点です…。今の所、未解決なのですが、もし、設定方法などが分かる方がいらっしゃったらTwitter(@tatsunomo)でもFacebook(野本竜哉)でも、教えて頂ければと思います。
※ちなみにα7sをスマホ側からコントロールする「スマートリモコン」を使った場合でも同じ問題が発生したので、最近のソニーの機種ではデフォルトの設定がこうなっているようです。あくまでカメラ側がルータとして振舞う動作になっているようで、iPhone側でWiFi設定画面からIPアドレスなどを見てみると、QX100とQX1ではDNSアドレスの記載などに差異がありました。手動でいくつか設定変更を試みた限りでは、ダメでした…)

ちなみに、明日(10/14(火))はICTを活用した教育で非常に有名になった私立の「広尾学園」で公開授業があります。このブログでも何度となく紹介してきましたが、今回も訪問予定です。台風の影響が無ければ、予定通り実施される…はず。
その際、このQX1をうまく使ってみようと思います。(上記の課題を考えると、今回はサブ機のAndroidを持ち出さないとダメそうです)