EverLearning!

モチベーションワークス株式会社 および 一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉 による、ICT機器を活用した学習の動向をレポートするブログ。ここでの投稿内容は、所属組織を代表するものではなく、あくまで個人としての情報発信となります。

【予告】iPad Pro 2018(12.9)を購入したので近日中にレビューを書きます

今年もiPad Proの新機種が発表されました。

当方も実機を購入したので、お馴染みの教育観点のレビューを近日中に書きますよ、の予告POSTです。

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とりあえず近くにあったiPadをいろいろ重ねてみたの図。
下からiPad Pro 12.9(初代), iPad Pro 12.9(今回の新モデル), iPad Pro 10.5, iPad Pro 9.7, iPad mini4。

 

このブログ、例年「iPad Pro」が発表されたり、発売されると急激にアクセスが増えます。

おそらく、家庭内稟議を通す必要がある方々が購入する最もらしい理由を探してWebを彷徨っているのだと思われ、今年も例に漏れず以下の通り。(縦軸は加工して消してます)

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新機種発表の10/31に急激に伸び、発売が近づくに連れてアクセスがジリジリ伸びています。

 

ということで、家庭内稟議や自分稟議を通す上で最も正当性が高い「教育的な使い方」について、出来るだけ早期にレビュー記事を書いてUPしようと思います。

乞うご期待。

 

「未来の教室」実証事業 キックオフイベントレポート

【記事をご覧のご関係者の皆様へ】
本記事で使用されている写真類は株式会社Z会のスタッフが撮影したものですが、今回の実証事業の公共性を鑑み、特に著作権は主張いたしませんので必要であれば適宜コピーしてご利用ください。一方、掲載された写真に不具合がある、記事の内容に問題や齟齬がある場合は、記事のコメント欄にご記載いただくか、Facebookメッセージ / Twitterのダイレクトメッセージなどでご連絡をいただければ迅速に対応致します。

 

 2018年7月26日、経済産業省にて500名超の関係者・報道陣、そして一般傍聴者を集めて行われた標題のイベント。筆者はこの事業に採択された「実証事業者」の立場で参加してきました。会場では実際に予算を割り当てられて実証事業を進めていく企業・組織や、これから事業化に向けて検討を進めていく企業・組織による「ワーキンググループ」の結成などが発表され、幼児から社会人まで様々な形で「教育」に関わるキープレーヤーが一堂に会する、大々的なイベントでした。

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キックオフイベント内で行われたパネルディスカッションの様子


 会場に集った多種多様な「教育」に関わる人たちのお話は非常に面白く、ワクワクの連続でした。そこで今回の記事では、自社(筆者の所属するZ会)の実証での取り組みや宣伝はひとまず置いといて(笑)、 

  • 「未来の教室」実証事業って何さ?
  • どんな企業や組織が参画しているの?
  • 今回のイベント、どの辺が面白かったの?

 

あたりを筆者個人の目線で書いてみようと思います。なにせ3時間超に及ぶイベントでしたので少々長いですが、是非お付き合いください。

 なお、キックオフイベントは動画でアーカイブされており、以下から視聴できますが、3時間以上と大変長いので、こちらの記事を読むとその概要が掴めると思います。

※閲覧にはFacebookのアカウントが必要です。
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Apple Pencil に最適なノートApp「Notability」の神アップデートの感動を共有したい

 本ブログでも度々紹介している、iPad Pro / 第六世代 iPad と組み合わせて使うときに便利な「手書きメモ/ノートアプリ」。その中でも、筆者が定番として常時利用している「Notability」がこの度、メジャーアップデートをしてバージョン8.0になりました。

Notability

Notability

  • Ginger Labs
  • 仕事効率化
  • ¥1,200

  このアップデートがかなり「神アップデート」でして、正直「感動」レベルでした。自分の中ではこれで名実ともに「現時点での最強ノートアプリ」が揺るぎないものになりました。

 ということで、今日はその感動をお伝えすべく、記事を書いて見ます。ぼちぼち WWDC ですし、新型 iPad Pro も出るかもしれないみたいな噂もあるので、その有効活用法として是非ともご検討くださいまし。

  • そもそも Notability ってなにさ?
  • 新機能1. 2つのノートを並べて表示できるようになった
  • 新機能2. 手書き文字も「検索」できるようになった
  • 新機能3.  手書き文字をテキスト変換できるようになった

 

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新型 iPad は教育用タブレットの新基準になる

 時々、強烈な新製品が、従来の基準を一気に引き上げるということがITの世界ではおきます。日本時間 2018年3月28日、米シカゴで開催された Appleスペシャルイベントで、それが起きました。このブログで幾度となくその価値を伝えてきた「iPad Pro」、その専売特許だったApple Pencil」が、ついに「Pro」の垣根を超えてベーシックモデルでも使えるようになったのです。

 ということで、この記事を読みに来た方で、これまで iPad Pro と Apple Pencil に興味はあったけど、価格がネックでなかなか踏み切れなかった人に最初に結論を言っておきます。Apple Pencil を使ってみたかった方は、今回の新型 iPad は、「買ってよし!」です。実際に私も触ってみてからこの記事を書いてますが、これは廉価版ではなく「iPadの新基準」です。

 で、その「価格」の優位性について。従来は最低でも 69,800円 する iPad Pro ( 10.5インチ 64GBモデルの WiFi 版 ) と Apple Pencil を購入しなければできなかった「手書き」の利便性が、最も安価な 37,800円 ( 新型の 9.7インチ 32GBモデルの WiFi 版 )に Apple Pencil の組み合わせでも享受できるようになりました。その価格差は実に 32,000 円1世代前の 9.7インチの iPad Pro ( 2016年発売モデル ) であれば 69,800 円よりもう少し安かったでしょうが、今回はそれを大幅に下回る価格で、しかもその 2016年 発売の iPad Pro を上回るCPUを備えた端末が、37,800 円で購入できてしまうようになりました。 

 今回の新型 iPad の発表プレゼンテーションでは、最もクリエイティブなツールである Apple Pencil をすべての方にお届けする、というメッセージがありました。下記のビデオの19:50あたりから、その説明が登場します。

 

 私の感覚としては、Apple Pencil を組み合わせた iPad がもたらす体験は、まさに「紙と鉛筆」そのものといっても過言ではなく、場合によってはデジタルの利点が組み合わさり、紙を超える使い勝手を実現するようなシーンも少なくありません。

 Apple Pencil は「クリエイティブ」な用途を強く意識した訴求をしてきたのですが、このブログは教育が中心のブログということもあって、クリエイティブ路線よりも「日常的に使う学びのツール」としての利点を強く訴求してきました。

 私自身は iPad Pro と Apple Pencil を2015年後半に発売された初代 12.9インチモデルから使っています。iPad Pro 歴は早2年半近くになりますが、常に「学習者」として iPad Pro で学んでみた結果をレポートしてきました。その結果として言えることは、Apple Pencil を組み合わせた iPad Pro は、学習用のタブレットとして考えた時には、完全に通常の iPad とは別の製品であり、別次元の使い勝手であり、その使い方も根本的に違う、ということです。

 特に、教育という観点では「手書き」は学びの一つの手段として非常に重要で、私自身も資格試験対策や思考の整理、日常的なメモなどに iPad Pro をほぼ毎日つかっています。

 

 特に「試験勉強用」としておすすめなアプリ「Liquid Text」を紹介したエントリーはNewsPicsにも取り上げられ、過去最大の閲覧数になりました。

 

 が、そうは言っても、iPad Pro + Apple Pencil の組み合わせだと、80,600 円 (税込だと87,000円以上 ) という価格のハードルはなかなかに高く、購入にあたって躊躇する人も多かったと思います。が、それが、従来の最も安い第五世代 iPad と同じ価格で、Apple Pencil が使えるようになったのですから、これで心理的なハードルは一気に下がったと言えるでしょう。

 

 で、実際に新型の iPadApple Pencil を組み合わせて使ってみた印象は、率直に言って「必要十分」でした。一般的な学習用途であれば、今回の 9.7インチ iPad で充分です。CPUの性能も向上し、日常のアプリもサクサク動作しますし、一方でARなどパワフルさが求められる用途にも対応できるレベルが担保されています。iPad の新たなスタンダードモデルと断言して良いでしょう。

 

 加えて、今回のモデルは教育分野向けの特別オファーも用意されているようで、教育機関が購入する場合はさらに2000円程度の値引きが受けられるようです。今後、学校などで導入される iPad は、おそらくこのモデルが基準になってきますので、そうなれば Apple Pencil もセットで導入を検討する学校も出てくることでしょう。そうなれば、その学校の生徒たちは、新世代のノートを常に携え、日々学ぶことができるようになります。先生にとっても、強力な武器になることでしょう。おそらく、今回の新型 iPadApple Pencil を職場が導入してくれら、コピー機の利用頻度は激減、かなりの勢いでペーパーレス化が進むはずです。だって、ほぼ「紙」として使えますからね。

 加えて、iPad 版のOfficeとも言える「Pages」「Numbers」「Keynote」もついにApple Pencil による手書き注釈機能が追加されました。すでに共同編集機能も実現していますので、クラス内でグループがそれぞれの iPad から1枚のワークシートに手書きの成果物をまとめる、ということも可能になるでしょう。そのようなアプリが無料で使えるのも、注目に値します。

 ほかにも、今回の発表では学校や先生向けの教育ツールがたくさん発表されています。一部はまだベータだったり、今後の提供予定とされていますので、これらについてはまた機会を見て本ブログでも紹介したいと思います。

 

 ところで、今回の「スペシャルイベント」では、自分としては iPad の発表と並んで、もうひとつ大きな「事件」がありました。それが、自身の勤め先でもあるZ会が、「プログラミング教育を推進するパートナー企業」という形で紹介されたことです。

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※画像は米Webメディア THE VERGE から引用

https://syllabus.vox-cdn.com/uploads/photo/image/27016/DSCF7209_2500_resized.JPG

 

 実際に当方の職場では Swift Playgrounds を用いてアルゴリズムを学ぶ講習会をやっていたり、MacBook と X code を使ってアプリ開発を体験するセミナーをやったり、それを東京都の高校生や私立中高とタイアップして実施したりといった活動をやってきたのです。


 そうした活動が米Appleの耳にも入ったのか、こうしてティム・クックCEOのKeynoteにおけるスライドという形で紹介されたことは大変、誇らしく思います。

 

 引き続き、教育をICTでどのように拡張していくか。このテーマについて、考えていきたいと思います。

育児中のiPhoneユーザーに便利なApple Watchの使い方4つ

 先日のiPad Proを用いた試験勉強の記事はNewsPicsやはてなブログ/ブックマーク などで広く取り上げられ、本ブログ開始以来最大となる1日5万アクセスを記録しました。やはりApple製品の購入検討にあたり、背中を押して欲しかった人が一定数いるんだなぁ、ということを感じずにはいられません。

it-education.hatenablog.com

 

 ということで、今回は iPad Pro と同様にApple製品として気になっている人が多いであろう「Apple Watch」について書いてみます。ただ製品のレビューを書いても面白くないので、iPad Pro が「試験勉強」を掛け合わせたのに対し、Apple Watchは「育児」を掛け合わせてみようと思います。

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 当方には執筆時点でまもなく1歳になる子供がいます。が、当初は父親も育児参画の時代だ!とか張り切っておきながら、結局想定していたことの3割もできておらず妻にはゴメンナサイし続けている日々なので、正直言って育児に関係する記事を書いて良いのやら、というところもあります。

 が、できない・慣れないながら育児をしている中で、Apple Watchに助けられたことが何度かあります。日々、育児に奮闘されている方から見ると正直言って「浅い!」とお叱りを受ける部分もあろうかと思いますが、せっかくなので育児中に気づいたApple Watchの意外な便利さについて記録を残しておきたいと思います。紹介する機能の多くは標準アプリでできますが、一部の機能は「本来の使い道」ではないものも含んでおります。

 なお、当方は初代のApple Watchからのユーザーで、昨年秋に2台目となるApple Watch Serise 3 (セルラーモデル)を買い足しました。2本とも現役で使っています。(なぜ2本なのかは後述)

www.apple.com

 

目次

  • 常時、身につけていることの価値
  • 水中モードの意外な活用方法
  • iPhone探索機能を応用する
  • 睡眠記録が活動記録になる

  

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試験勉強に iPad Pro が最強だった件 - iPad Pro 活用方法記事第三弾-

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。前回のエントリーでも宣言した通り、今年は出来るだけブログを頻繁に更新していこうと思います。(今年の目標宣言)

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 さて、今回の記事は、毎回好評をいただいている「iPad Pro」に関するものです。実は、このブログは最近、記事を更新していない間にも勝手にアクセス数が増え続けておりまして、1日500View、月間に15000Viewを恒常的に超えるようになりました。その最大のアクセスが、GoogleやYahooから「iPad Pro 使い方」とか「iPad Pro 活用方法」といったオーガニック検索でここにたどり着く方でして、過去2回のiPad Proの活用方法記事がこれらの検索キーワードで日本のApple 公式サイトの次にヒットするようになってしまいました。おそらく日本におけるiPad Proの販売にそれなりに貢献していると思うのでAppleは当方に何らかのインセンティブをくれるべき。

最初の記事

it-education.hatenablog.com

2本目の記事

it-education.hatenablog.com

 

 しかも、ボーナスの時期やAppleによるiPadの価格改定が行われるとにわかにアクセス数が増えます。今年もAppleの初売り の開催日である1/2に急にアクセス数が増えました。

ふふふ。訪問者のみなさん。わかっているんですよ。

皆さん、購入にあたって、背中を押して欲しいんですよね?

家庭内稟議を通すための、もっともらしい理由が欲しいんですよね?

決して安くない買い物をするにあたって、自分が納得したいのですよね??

 

オーケー分かりました。ということで3本目のiPad Pro記事として今回は「試験勉強」に特化した内容をご紹介しましょう。しかも、前回までの記事からさらに1段、自身の経験をもとに掘り下げた内容です。

 ただ、私は社会人なので試験勉強といっても技術系資格の勉強について書きます。が、内容によってはTOEICなどの英語学習は勿論、学校の試験勉強にも使えるかもしれません。どうせiPadを買うなら、普通のものよりProが良い、という方(場合によっては、中高生や大学生の方)、ぜひ参考にしてください。

 

目次

  • 今回、(再)チャレンジした技術系試験とは
  • iPad Pro × 学習 を考えている人なら是非入れたい「Liquid Text」
  • WebページやPDFから「学びのログ」を集約する
  • 本気で学ぶなら12.9インチを買うべし

 

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企業として教育分野に働きかけて得た5つの反省点 -KDDI退職にあたっての振り返り-

 突然ですが、2017年430日を以って、KDDIを退職する事になりました。本エントリーはKDDI所属として書く最後の記事という事になります。

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 今後については追って報告しようと思いますが、”KDDIの野本”として、教育をICTで拡張するためのチャレンジはここで一旦終了となります。そこで、良い機会なので会社を通して教育分野に対して動いてきた事を踏まえ、書ける範囲でこれまでの”振り返り”をしてみようと思っています。あくまで本記事は「私個人の考え方」にすぎませんが、企業目線で教育分野の”ICT化の推進”を考え、動く中で自身の課題と感じた反省点を5つにまとめました。同じように企業としてこの分野に挑む方や、参入を検討している方に何らかの形で参考になれば幸いです。

 なお、本エントリーはそれなりに長いです。また、いわゆる「退職エントリー」ではなく、いくら読み進めても「KDDIの何が不満で辞めたのか」とか、そういう内容は一切出てきません。あらかじめご容赦ください(笑)。

 

今回、強い自戒の意味で書き残しておきたい「5つの反省点」は、以下の通りです。

1. 自身の教育×ICT分野における”軸”が明確ではなかった

2. 教育を”事業”として成り立たせるための勉強が足りなかった

3. フロー情報に惑わされすぎた

4. ”ICT”が教育を変えると誤解していた

5. ”教育”そのものの理解が圧倒的に不足していた

 

順番に記載していきます。

 

1. 自身の教育×ICT分野における”軸”が明確ではなかった

 私が「教育×ICT」に強い関心を持ったのは、自身が大学受験(特に数学IIIC)の学習で非常に苦労する中、浪人中に触れた「海外の動く数学解説動画」で理解できなかった数学の疑問が一瞬で氷解した経験からです。なぜこれを学校では使わないのか。こうしたツールがある事で救われる人はたくさんいるのではないか。そうした思いから、教育の可能性をICTで”拡張”したい、と考えるようになりました。この想いから、大学・大学院では情報工学の立場から教育へのアプローチを考える活動を続け、卒業後はKDDIICT側の立場から教育をどうしていくかを考え続けていきました。

 ただ、実際に仕事で教育分野に携わる事になってからも、”教育”という広い領域のどこにアプローチするかが、明確にならないままでした。ひと口に教育といっても、学校で言えば幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、社会人学校までありますし、学校の設立母体で言えば国立・公立、私立、株式会社立といろいろあります。さらには学校以外にも塾や家庭教師・家庭学習の領域もあれば、そもそも教える内容が学習指導要領の範疇か、それ以外の領域か、と非常に細分化できます。その中で、自身がどこのどの課題に対して働きかけるかが、ハッキリと絞り込めないままでいたのです。

 ある時は貧困対策が気になり、ある時は公立学校・教育委員会へのアピールに傾倒したり、ある時は個人向け事業を検討したりして、”教育をICTで拡張する”という当初の目標だけは持ちながらも、各種領域をフラフラとして「どの部分をICTにより”拡張”させ、課題の解決につなげるのか」が曖昧なままだったのです。

 これは、KDDIが教育分野から見ればニュートラルな立ち位置に居たことも遠因かもしれません(会社が悪いわけではなく、会社の立ち位置に甘えていた自分が悪い)。様々な業界・領域の方と接点が持てるメリットは非常に大きかったのですが、結果として課題を絞り込み、そこにコミットする勇気や、何かを取ることで何かを捨てたり敵に回す覚悟を持てず、八方美人的な振る舞いに終始した私の心の弱さの表れだったと反省しています。

 

2. 教育を”事業”として成り立たせるための勉強が足りなかった

 企業として教育分野にアプローチするには、それを通じてお金を稼げる事、そして利益が出てそれを源泉に次のアクションに繋げていく事が不可欠になります。いくら教育分野に対する情熱があっても、その活動が組織の掲げる目標(売上・利益・顧客接点・顧客数・継続率などのKPI)に貢献出来ないならば、それはボランティア活動とか個人の時間でやってください、という話になるのは当然のことです。

 一方で、教育分野ではボランタリー精神で個人の時間が費やされることで動く仕組みが随所にあったり、本来なら有償であるべき品質の高いサービスが無償もしくは圧倒的なディスカウント価格で提供されたりするケースが多いのです。しかも教育現場もそうした”支援”に慣れている所があります。特にICT関係は、SEなどの技術力が必要なケースが多い一方で、技術力やノウハウ、保守運用といった無形のものにもお金が必要なことは中々理解されていません。利益が殆ど出ないにも関わらず「買ったのだからサービスしてもらって当然」という言われ方をする事も少なくないのです。

 ただ、自治体・学校・医療・介護といったアナログの割合が多い業界は、ICT化の市場がまだ残っている領域です。IT企業にとってはまさに「フロンティア」なのですが、今までの企業の営業スタイル(いわゆる一般的なBtoBの商習慣)が通用しにくく、ICT化が進んでいないゆえに机上調査で出てくる情報も限定的、さらにそれぞれの領域に独特の文化があって、それに触れるには実際に現場の人と接点や交遊範囲を持たないと難しい、といった高い参入障壁もあります。参入しても、当然その領域で長く活躍している既存のプレーヤーが強く、安売りによって売上は多少上がっても利益が付いてこない可能性が高い。利益が上がらなければ人もモノも投資できないため、継続的な事業活動が出来ない。結局、大抵の企業は「技術料対価をきちんと払ってくれる=利益が出しやすい」業界を優先する。おそらく、教育分野に参入を試みても撤退する企業が多い一つの理由は、ここにあるのだと思います。

 しかも、これらの残された領域はいずれも一度導入した仕組みが途中で無くなると影響が極めて大きいと言えます。しかし、教育分野では「実証実験」と称して一時的にICT環境が整備され、それをマスコミが取材し情報だけは拡散されたものの、事業が継続できる仕組みが確立できず、後に機材が撤収され生徒児童も教職員も困惑する、ということが全国の各所で起きています。(その事実は殆ど報道されたり、大きく指摘されることもないように感じています…。)

 そうした課題を認識し、打ち破ることが重要なのですが、当方の場合はそれを認識していながら、「継続的に利益を確保しながら現場に貢献し続けられる”ビジネスモデル”」が構築できなかったのです。言い換えれば、制約条件を踏まえた上でビジネスモデルを立案できるだけの勉強が足りなかった。せっかく、教育分野に仕事として関われる機会をいただきながら、1.で述べた”軸”が明確でなかったことも一因となり、課題に対する解決策を熟考できなかったのが二つ目の反省点です。

 

3. フロー情報に惑わされすぎた

 教育業界に関わっていると、FacebookTwitterなどのSNSで日々流れてくる業界の情報(フロー情報、参考:https://www.idia.jp/report/stock-and-flow-information/)がどうしても気になってきます。業界の著名人や、強いポリシーで教育×ICTを推進し実践されている先生方、それを同じくらい強い想いで支えている企業や自治体・学者の方、場合によっては中央省庁の方などの声も入ってきます。それ自体は私が人脈に恵まれたこともあり、ありがたいことなのですが、問題はそうした方々の発言内容と、発言者の「立場」や「実践内容」・「経験の長さ」といったステータスが分離できず、「誰の発言か」によって自身の解釈が多少なりとも振り回されることがあったことです。

 具体的には、学習指導要領の改訂であったり、プログラミングや道徳、英語の義務教育への取り入れであったり、部活動や校務のあり方であったり、通学や学校周辺の安全性であったりと、教育を取り巻く話題は幅広く、時にセンセーショナルに取り上げられます。そうした情報に対する意見が誰の発言かを見てしまう部分が少なからずありました。それ自体はある程度仕方ないのかもしれませんが、悪い事に自身の「人に影響されやすい性格」も相まって、いつのまにかそうした「発言力がある人」「業界の重鎮」と言われる人や、統計データなどを用いて「もっともらしく主張をしている」人の論に流されてしまっていました。

 常々、私は「人と論を分けて考える」ことを意識しようとしているつもりです(人間として微妙な人でも、その人の特定の論や意見が正しい時には支持する、逆も然り)。特に教育のステークホルダーとしては教職員などの教育従事者だけでなく、保護者の目線、そして何よりも学習者(児童生徒学生)の目線、そして2.でも述べた「売上・利益などの経済的な目線」などを包含しバランス良く考えるべきで、だからこそ「教育に詳しくない普通の人」が一見微妙に見える発言をしていても、その中には重要な示唆が多く含まれると考えています。

 しかし、どうしても発言の多い「教育に携わる業界人」の情報が周囲に多くなってくると、それらの声に影響されてしまいます。更に言えば、そうした業界人の中には○○/△△派といったような、複数の思想の系統が並存し、それぞれが独自の実践や試行錯誤に立脚した強い想いで主張が飛び交っています。本来、自身の主義主張や想いが明確になっていれば、そうした意見の自身に合う部分とそうでない部分を見極めた上で検討ができるのですが、それがない自分は、それぞれの主張の中庸を取り、誰とも対立しないように無難な意見に落ち着かせようとしていました。本来ならば、本や過去の研究・論文などの「ストック情報」を丁寧に読み解き、事実と感情を切り離し、教育を多方面から立体的に考えることが必要だったのです。

 原因は明確で、1.の”軸”がきちんと定まっていないこと、そして進むべき道とも言える2.のビジネスモデルが固まっていないこと、そして後述の4,5も影響したのだと思っています。これが3つ目の反省点です。

 

4. ICT”が教育を変えると誤解していた

 よくiPadが学校・授業・教育を変える」とか「ICTによる教育イノベーション」とか、そういった表現がメディアの見出しに踊っています。何を隠そう、私自身もブログや一部のwebメディアに寄稿するにあたり、そうした”ICT万能論”風の論調に加勢し、業界を扇動しようとしていた部分があったことを素直に認め、反省しています。これが4つ目の反省点です。ちなみに、この事に気づいて以来、私はwebメディアに記事を寄稿することを原則やめ、主に「自身が学習者の立場でICTを活用した実践報告」や「ICTの導入を技術的にサポートする人のための情報発信」に絞って発信をするようにしました。

 正直に言って、ICTのインフラやタブレットなどのデバイス、その上で動作するアプリは「名脇役」ではあれど、「人」の介在が全くないところで勝手に浸透するものではありません。学校であれば教職員、自宅であれば保護者、塾であれば講師、toC向け学習アプリならば「一緒に学ぶ友人」や「おすすめしてくれる信頼できる人」など、教育とその周辺価値を動かしているのは実質的に「人」だからです。もちろん、友人や大人の介在を最小限にして独力で走れる学習者も中にはいますが、それは全体から見たらほんの一握りの人であり、真に浸透させて教育分野に山積する”課題”を具体的に解決させたいのであれば、”人の力”なしには成し得ないと私は考えます。

 一方で、人の力だけで課題を乗り切ろうとすれば、それは多くの場合「根性論」的なものに帰結し”労働搾取”のような方向性になってしまいかねません。よって、人の力でより良い教育を追い求めることと、ICTで教育の課題解決を追い求めることは、両輪として進めていくべきことと考えています。(結果、私は後者の「ICTで教育の課題解決を追い求めている人」にフォーカスし、その人に役立つ情報で自身が出せるものに絞って記事を書くようにしました。この点だけは、自身の中で絞り込みができました。)

 ちなみに、私は”ICTが”教育を変えるわけではないことを、学生時代の塾講師のアルバイトで一度認識しています。しかし、企業の中で生きているうちに、どこかでICT中心マインドに戻ってしまい、締め切りに追われてきちんとした考察をしないまま脱稿した記事で「ICT万能論」の拡散に加担し、さらにそうした論調を教育関係の方に言ってしまって反感を買っていた部分も多々あったと猛省しています。

 正直に言うと、ICTによる「イノベーション」とか「パラダイムシフト」といった言葉って、なんだかカッコいいし、体裁の良さそうな見せ方をするにはとても都合の良い言葉なんです。なので文字数に制限のある原稿やプレゼンを作ろうとすると、どうしてもこうした耳障りの良い用語を使ってしまうことが多々ありました。でも、それを一歩引いた目で見直して、それがどのように教育の関係者に解釈されるものなのか、大した実体もないものを言葉で不必要に大きく見せようとしているのではないか、そのための出汁としてICTのメリットだけを過大に誇張していたのではないか、それにより一旦は人や仕事や案件を動かすことができても、その先の最も重要な「持続性」という部分に貢献できない状況を自ら作り出していたのではないかこうした反省がだんだんと、強くなっていきました。この点は、次の5.に挙げる課題に真摯に向き合うことで、解決に向かわせたいと思います。

 

5. ”教育”そのものの理解が圧倒的に不足していた

 最後にして最も大きな課題がこれです。教育は、自身が児童生徒・学生である期間を大抵の人が経験していることもあり、ある意味「1億総評論家」になりうる領域とも言えます。自身も、冒頭に述べた通り浪人時代に触れたICTの可能性が行動の原動力になった他、小学校1年生の時にアメリカから帰国した際の日米の教育習慣やクラスメートの雰囲気の違いで少なからず”嫌な思い”もしています。そうした直接経験がその後の教育観点の基準になっている部分が多分にあります。

 だからといって、自身の経験・体験がすべてのケースに適用できるわけでは、当然、ありません。私が”既存の教育”の内容を理解していたか、学校教育に関する法規や意思決定構造や、中央省庁やその諮問機関がどのような検討をし、複数の施策や検討体の議論と方向性がどう結びついているか、それらの文献や情報・それを取り巻く議論にどの程度触れたのかというと、間違いなく自身は”勉強不足”でしたし、時には”誤解”もありました。しかも、私は教育学部の出身でもありませんし、教育実習の経験も教職課程の受講歴もありません。教育の現場に関わった経験はせいぜい、3年間の塾講師経験くらいで、それを”教育経験”と称してみても、現場で実践を日々積まれている方から見ればゼロに毛が生えた程度のものにすぎません。

 そのくせ、両親が教育関係者で、幼少期からこの分野の話を聞いて育ってきたこと、自身でも教育とICTという領域に対して長く主体的に考えてきたこともあり「この分野には一定の経験値がある」というプライドが先行してしまいました。そうした私がブログやwebの記事で、さも「教育をわかっている風」に文言を並び立てる様子は、この業界に長く真剣に取り組まれている方にとっては非常に不快に写ったことと思います。事実厳しい指摘も何度も頂きました。この点は本当に猛省しています。申し訳有りません。

 この状況を打破すべく四苦八苦していたわけですが、最後まで私を悩ませたのが「絶対的な時間の不足」でした。といってもそれは自身が原因なのですが…。それは、これまで記載してきた通り、注力分野とそこへのアプローチ手段が曖昧であり、広い分野の情報を無理にインプットしようとしたという失敗に尽きます。”教育とICT”を標榜する様々なセミナーやイベントに足を運んだり、中途半端にいろんな文献や情報を仕入れて耳年増のようになったり、それらの情報が消化不良になってアウトプットが全て中途半端になっていたり、という状況でした。

 結果、準備や計画が明らかに不足している中で見切りで動こうとし、自身の教育の知見そのものが足りないこと、そして課題やビジネスモデルが絞れていないが故に解決に向けた時間が足りないことから、物事が動かせずに終わっていった例は枚挙にいとまがありません。よく言われる”走りながら考える”を意識したこともあるのですが、それは少なくとも走る方向と手段が決まっていて、それを推進するために出てきた種々の課題に対して使う言葉であって、私のように何も決まっていないのにとりあえず走る時に意識するものではありません。時にその無謀なランニングに他の人を巻き込んでしまい、結果としてその人の期待を裏切ったり、がっかりさせるケースを積み重ねてしまいました。

 ただ、これだけの反省点を抱えながらも、私は教育の分野から離脱することは当面、考えていません。教育という領域を通して社会に横たわる多くの課題を一つでも解決・改善したいというのが私の人生の至上命題だと本気で思っていますので、まだまだ足りませんが、これからも”教育”を理解するための努力を重ねていきます。自身が学ぶことをやめたら教育という業界に関わっている人間としては実質的に死んでいるのと同じだと考えていますので、5.が私にとっての1番の重要課題でです。

 

 

ということで、5つの反省点について書いてみました。

 多くの方が口を揃えておっしゃることではありますが、ICT化されずに残っている領域には、それなりの理由があり、そこに挑むのであれば充分な計画と準備、そしてその領域の勉強が必要であることは、本当にその通りです。同じことは、ICT化の次の段階として考えられるIoTAIの導入でも言えるかもしれません。

 

 以上が私の約8年間のKDDIでの社会人生活を通じて学んだ反省点です。多くの反省は残ったのですが、後悔はしていません。こうした経験をさせてくれたKDDIには本当に感謝していますし、KDDIという会社は、今までもこれからも、私の大好きな会社であり続けることは間違いないと思います。というのも、今回の退職は個人や家庭の事情によるもので、KDDIが嫌になったわけでも、KDDIとして動くことが嫌になったわけでもないからです。

 KDDIは私にとって最初から最後まで「いい会社」でした。当方のように2浪して決して有名・有力とも言えない大学出身者をきちんと受け入れてくれたこと、配属直後の若手の意見を立場のある方がきちんと聞いてくれたこと、その結果として若手のうちから課題に働きかける機会を与えてくれたこと、学歴ではなく人と仕事を見てくれたこと、故にこんな自分でも管理職登用のチャンスを与えてくれて、実際に登用してくれたこと、など。社員の皆さんも総じて物腰が柔らかい「いい人」が多くて、手堅いけれどチャレンジする風土があり、ベンチャー企業に対する理解もある、などなど。いろんな意味で、良い会社でした。
(あと完全に余談ですが、毎朝本社ビルの1Fで掃除をしながら一人一人に気持ちの良い挨拶をしてくれるおばちゃんは本気でレスペクトしてます)

 

 次のステップでも、教育には関わり続けます。が、嬉しい事にこの1月に第一子に恵まれ、家庭での役割もより重要になりました。そうした事情から、仕事を通して1-5の反省点に向き合い、家庭では家庭としての役割もしっかりとつとめながら、前に進むべく、心機一転、頑張っていきたいと思います。

 

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。そして、KDDIを通じてお世話になったすべての方に、この場を借りて御礼申し上げます。